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18 ピピン、電化生活を初体験する


「あはははー、家が消えちゃったぁ」

「いや姉さん、そこ笑うとこじゃないから」

 取りあえず無くなったものは、仕方がない。

 半年もすれば、家の残骸は堆肥となり、肥沃な土地に変身するだろう。


「んーと、これからどうします?」

「ねえねえ、ヤン、あの葡萄摘んで? オルヴァさんが好きなの」

 それは良い考えです、というセージの声に、ヤンは『それ、応えになってないでしょ』の言葉を、済んでの処で飲み込んだ。


 日も暮れたし、取りあえず晩ご飯を食べよう。

 エトーさんの家で御馳走になりに行こう。

 そのお土産とデザートのために、葡萄を摘んでおこうと、そういうわけである。


 ヤンが葡萄を摘んでいる間に、エトーが果樹林の道をこっちへやって来た。

「おう、テン、セージ。今、お前らを迎えに行こうと思ってたとこなんだ。客人たちの晩飯も作ってるから、みんなで一緒に食おうや」

 始めからそのつもりだったらしい――お願いする手間が省けた。


「家が消えちまったって?! そりゃ、どーいうこった?」

「いやそれが、姉さんが魔族を家に入れて、介抱しててですね……」

 話を聞いて、開いた口が塞がらないエトーであった。

「そりゃあ、家も消えるわ……魔族と関わるから、こんな事になるんだぞ」


「でもバブちゃんは、おともだちなんだよぉ」

 瞳をうるうるさせながら主張するテンの頭を、エトーが撫でてやる。

「はっはっは、テンは魔王とも友達だ、て言ってるからなあ」

 一瞬優しい笑顔を見せるが、エトーがセージの方を向き直った時には、真顔になっていた。

「で――これからどーすんだ? お前ら」






 エトー家の食卓はテン姉弟とピピン師弟が加わり、賑やかなものになった。

「それにしても……電気って、凄いですね……」

「うん。まるで昼みたいな明るさだ」

 ピピンとヤンは、エトー家の居間に取り付けられた電球に釘付けだった。


「原理を簡単に言うと、電気の通り道を少し邪魔して光エネルギーに変換するんだけど――二種類の原魔石の粒を入れてるんだ。モノは同じなんだけど、研磨の具合で電気抵抗を変えてある」

「サタンさんが『こりゃLEDぢゃねーか』って腰抜かしてましたよね」

 トレヴォとセージが愉快そうに、わけの分からない事を話している。


「同じように電気を熱エネルギーに変換すると、かまどや暖房にもなるんだ。今じゃ各家庭にひとつずつあるよ」

 聞けば湧き水もテンが何個も見つけたので、水路も各家庭に引けている。

「家に居ながら水が飲めて、温泉がすぐ近くにいくつもあって、燃料要らずの灯りやかまどがある――」

「これってまるで、天国ですね……」

 ピピンとヤンは、半ば呆然としながら顔を見合わせた。


 食卓に並んだ料理も、かなり豪華なものだと、ピピンには感じられた。

 山間の村なのでヤギのチーズを乗せた野草のサラダ、豆の炒め物が主な蛋白源なのだが、何とスープに、肉がかなりの量で入っている。

 葡萄のデザートも合わせると、お祭り並の食事だ。


「すごいご馳走ですな――ひょっとして、俺たちのために?」

「あら。これが普通なのよ、我が家では」

 オルヴァが事も無げに応える。

「村には冷凍庫がありますからね、肉の冷凍保存が出来るんですよ」

 数ヶ月は保存可能との事で、小分けにした肉を冷凍庫から取り出し解凍すれば、毎日でも肉が食べられる。


「ここは年寄りが多くてな。食いきれんのと電気を引いたお礼とやらで、俺たちに分けてくれるのよ。お蔭で毎日食わんと、追いつかん」

 フンでは考えられない、何とも贅沢な悩みだ。

「私は肉、あまり食べないから。エトーとトレヴォに頑張ってもらってるの」

 とオルヴァ。

 確かに肉をガツガツ食べるエルフは、想像しにくい。






「セージ」

 食事をしながら、ピピンが話し掛ける。

 セージはヤンと、テンの両隣に座って、食事の世話に忙しい。

 何しろテンと来たら、食事をしながら盛大に零しまくるのだ。

「何でしょう」

 セージはテンの汚れた口元をナプキンで拭き拭きしながら応えた。


「その――テンにも発電所を造るのって、可能かな?」


「お師さん、僕もまったく同じ事を考えてました」

 ヤンはテンに匙でスープを掬って、あーんさせていた。

 ピピンとヤンの視線が、同時にセージに向く。


「コホン」

 短い咳払いの後に、セージが居住まいを正す。

「理論的には製造可能です。ニュートリノは地上の至る所に、ほぼ等しく存在してるから、同じモノを造れば、テンでも発電は出来るでしょう」

「おっ、そうか!」

「そしたら――造り方さえ学べば、可能なんですね」


「規模が問題になると思います……テンの人口はどのくらいですか?」

「農地復興で増えてますからね。こないだ一万人を超えた、と聞きました」

 即答するヤンに、セージが顔を曇らせる。

「サイの500倍以上、ですね。つまりニュートリノを捕まえる容量の発電所スペース、それに必要なレアアイテム、各家庭に送電する電気(つる)――すべて500倍以上です。揃えられますか?」


「あ――」

 そう言ったきり言葉を詰まらせる、ピピンとヤン。

 特にレアアイテムに関しては、テンが偶然見つけて来たものがほとんどだった。

 原魔石に始まって不燃ガス、レアメタル、鏡紙、レンズ草、龍の髭、多量のミスリルにそれらを加工する技術などなど……製造に必要なレアアイテムをセージが列挙するにつれ、ピピンとヤンの表情が諦めに近い苦笑となっていった。

「それって、全部揃えるのに千年はかかるんじゃ無いか?」

「いや……不可能でしょう。多分ですけど、人類未発見のアイテムが混ざってます」


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