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14 姉弟の家に起きた尋常ならざる事件


 短い休息を終えた一行は、再びテンたちの家に向かって歩き始めた。

「おうち、もうすぐよぉ」

 スキップで駆け抜けようとしたテンが、一歩めで早くも蹴っつまずき、転びそうなところをヤンに抱き起こされる。

「ヤン、ナイスフォローです」

 セージに心から感謝される――確かにこれ以上、世界の重力公式を変えられては困るだろう。


「いや、だからこそ変化の振れ幅と法則を観察しつつ、不確定要素を盛り込んだ新たな公式を計算中なんですが……」

 またセージの話が始まりそうだったので、先を急ぐ事にする。


 道が折れ曲がった処で果樹林が疎らになり、姉弟の家が正面に見えてきた。

 赤いとんがり屋根をした、木造の瀟洒な平屋だが――様子が、おかしい。


「お師さん、アレって……」

「ああ……」

 家全体が、紫色の靄に包まれている。

 瘴気で、間違いない。


 いったい何があった?

 眼で姉弟に問うてみるが、セージは眉を下げて思いっ切り首を横に振る。

 テンは――

「げぇこ、げぇこ」

 いつの間にか地べたに手をつき、カエル跳び遊びをしている。

 訊くだけ無駄であった。






「俺が先に行く――みんなは後ろで待機してくれ」

 ピピンが男らしく、瘴気吹き飛ばし拳を放つべく、家へと向かった。

 間合いを一気に詰めてくれる相棒のキュウちゃんは居ないので、家に潜んでいるであろう魔獣だか魔族だかに見つからないよう、ソロリソロリと息を殺して、慎重に近付いていく。


 と、その時だった。

「あーーーーーーーっ、わっすれてたぁ」

 いきなりテンが立ち上がって叫んだので、残り三人の体毛総てが逆立った。


『しーーっ、しーーーっ』

 必死に静かにさせようとする三人をするり、と振り切って、今までの鈍くささが嘘のように、スタタタタターッと目にも止まらぬ速さで、瘴気立ち籠めるスイートホームへ駆けていく、テン。

「バブちゃーん」

 そして扉を開けたかと思うと、謎の言葉を吐きながら、何の躊躇いもなく中に入っていきバタン、と扉が閉まった。


『………………』

 あっという間の出来事に、言葉を失うピピン、ヤン、そしてセージ。

『――――なに、やってんのぉーーーっ!!』

 テンが瘴気の真っ只中に入って行っちゃった、という事の重大さに、少し経ってから気付いた。






 無事かどうか分からないテンの救出に、押っ取り刀で駆けつける三人。

「ちょっと、待ってろ……はぁーーーっ」

 そう言うや、入り口の前で正拳の構えを見せ、気合を込めるピピン。

 いずれにしろ家全体を覆っている瘴気を片付けない事には、中に入れない。


「とりゃあぁーーーーーーーっ!!!」

 扉に向かって、渾身の突き、一閃。

 ピピンの秘技『瘴気吹き飛ばし拳』だ。

 突いた扉はもちろんノーダメージだが、家に立ち籠めた瘴気が吹き飛ばされフッ、と霧散した。


「ピピンさん! 今の拳は何だったんですか? 瘴気が一気に消えるなんて……」

 瘴気吹き飛ばし拳を初めて見たセージがにわかに色めき立ったが、今はそれどころじゃ無い。

「その話は後だ。まずはテンが無事か、確かめよう」


 ピピンが扉を押すが、ビクともしない。

 マズいぞ、こりゃあ――ピピンが体当たりで開けようとする。

「いやこの扉、引くんですよ……普通、そーでしょ?」

「ああ、そっか……」

 多少気まずい思いをしながら、扉を普通に開けた、その時だった。


「ぎゃああっ」

 テンのものかどうかは分からないが、確かに女の子の悲鳴が聞こえた。

「テンッッ!! 大丈夫かっ!!!」

「姉さんの部屋は、こっちですっ」

 三人は急いで家に入り、簡素な間仕切りをくぐり抜けてテンの部屋に駆け込んで行った。


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