11 わけの分からない単語が次から次へ飛んで来る
姉のテンは18歳、弟のセージは16歳。
ところがふたりともピピンと背丈がほとんど変わらず、顔立ちも子どものままである。
「君たちは、その……種族は人間、なんだよね?」
「うん、そーだよ」
「多分そうだと思います。うちの家系はどういうわけか、子どもの身体のまま大人になっちゃうんですよ」
「身体が子どものままだと、お子さん産む時、大変ですよね?」
インテリらしく、ヤンがそんな質問をぶつけてくる。
「うん。だからすごく小っちゃく産まれてくるの」
ド・シー王国に限らず、人間のお産は命がけだし、乳幼児の生存率も高いとは言えない。
よほど運が良くない限り、未熟児が育つのは難しいだろう。
作業をしていた三人は、サイに移住してきた人々だった。
ドワーフのエトーとハーフエルフのオルヴァ。
何とふたりは夫婦である。
歳が離れているように見えるが、ほぼ同い年。オルヴァは長命なエルフの影響を受けているようだ。
サイに来て、もう二十年以上になると言う。
今でも作業に没頭している若者はふたりの息子で、名前はトレヴォ。
若く見えるが、ピピンより年上だった。
「エルフとドワーフのハーフなんて、珍しいでしょ?」
その特異な外観で苦労したらしく、サイに移住してからは大分ストレスが減ったそうだ。
「種族は何て言うんだろうな――ドワールフかな」
「あら、エルワーフよ」
種族間対立の根はなかなか深いが、夫婦仲は良さそうな雰囲気だった。
「今作ってるのがハツデンショ、てヤツですか?」
ピピンは山小屋での、老夫婦の話を思い出した。
「違うよ、これはただの洗濯槽。回転棒を高速で動かせば自動脱水機能が付くと思って、改良中さ」
かなりピンと来ないが、見てるだけで洗濯が出来るアレなんだろう。
「発電所は、あれだよ」
セージが指差した方には、コテージとほぼ同規模の小屋の天井に、お椀の形をした鏡が突き刺さっていて、天を向いてゆっくり回転していた。
「あれは――何をする処なんですか?」
「セージの考えを纏めて、俺たちが設計して建てたんだ。空気から電気を作る装置だよ」
エトーが誇らしげに、腰に手を遣りながら応える。
「ニュートリノだよ、父さん」
声がして振り返ると、ずっと作業をしていたトレヴォが手を休めて、こちらを見ていた。
「一般人への説明はそれでもいいけど技術者たる者、正確な知識の元に扱うべきって、何度も――あれ? お客さま?」
トレヴォは驚いたようにしばらくピピンとヤンを見つめ、やがて人なつっこく微笑んだ。
“素粒子はすべての物質の元となるどこにでもある物質で、クオークとレプトンから成る無電荷のニュートリノは太陽から降り注ぎ、大地や人体を絶え間なく通り過ぎていく。それを集めて分解して電荷を帯びさせ発電させる装置を、セージは発明し、我々は創り出した……”
トレヴォの説明を聞いても、ピピンとヤンの頭上には、クエスチョンマークがいくつも突き刺さっていた。
生まれてこの方、見た事も聞いた事もない単語が、次から次へと飛び交っている。
「その目に見えないソリューシってヤツを、セージさんはどうして見つけたんですか?」
ヤンの疑問ももっともである。
「セージでいいですよ。そうですねえ……物心ついた時には、すでにイメージとしてありました。目を閉じると何故か、物質の成り立ちやら運動の仕組みやら、そんなモノが思い浮かんで来るんです」
「はあ……」
ピピンもヤンも、はにかみながら話すセージを、口をポカンと開けて見つめるばかりだ。
「エトーさんたちの技術があってこそ、ですよ。僕は大元の考えだけで、設計と建造は全部エトーさん一家の手になるモノなんです」
「いやあ、技術があっても材料がなければ、何も作れねえ。そういう意味では、テンはお手柄だよな」
「えへへー、おてがらぁ」
派手に片脚を挙げてクルッと回ったテンがまたも転びそうになり、慌てたオルヴァに支えられる。
「電気を通す蔓草だって、テンがビリビリ遊びをやってて見つけたヤツだし、いちばん凄かったのが、迷子になった山羊は帰って来たのに、今度はテンが迷子になっちまって、みんなで探して……」
エトーが話しながら、テンをちら、と見遣る。
テンは今度は、バッタでも見つけたのかしゃがみ込んで、ぴょんぴょん跳びながら何やら追っていた。
「結局、穴に落ちて泣いてたんだけどよ。そこの穴ぼこってのが、レ、レメア――」
「レアメタルだよ、父さん」
「そう、そのメタルの鉱脈でよ。あれで発電所造りが軌道に乗ったんだよな」
「なるほどぉ……」
確かに、奇跡を起こしまくる姉と、この世ならざるモノを創り出す天才の弟。
神様の妹とやらが言っていた、聖女と天才魔道士とは、ふたりの事に間違いあるまい。
しかし――
「お師さんとテンとセージで、いったいどうやって魔王に勝つんですか?」
「俺に訊くなよ、俺に」




