9 キャンプ
壁||ω・)ジィ・・・・
壁|≡ヾ(*゜▽゜)ノ 働きたくないでござるぅ
[壁])≡サッ!!
さて、あれからは何事も無く無事に清流に到着した訳だが。
地図を見ながら戻っている時にソル豆と言う植物を見つけて、それを採るために迂回したので遅くなってしまった。
どうやら、その植物から塩が取れるらしい。自分のなんちゃってサバイバル知識が、『塩大事! 理由は知らんけど!』と訴えてきて、そのまま衝動的に採取に向かってしまった。
今考えると、夜の森を移動するのとか危なそうだし、明日の昼間に取りに行けば良かったんじゃないかと後悔している。
まぁ、日が傾く前に戻れたので良しとしよう。
「あれ? 今思ったけど食べなくても、ギフトで栄養とかもどうにかなるんじゃないか?」
極端な話、食べなくても大丈夫だから女神様は、『食べたい時に食べれる様に』って言い回しだったのか?
わざわざ迂回してソル豆採らなくってもよかった? ……うん、持ち運びには困らないし、無いよりは有った方が良いよな。
それに、食事が必要ないとしても、食事はちゃんとしたい。そうなったら調味料大事。だから、よし! 結果的によし!
そんな一人問答をしながら、昨日一晩を過ごした木の窪みの横。午後と夕暮れの隙間の陽が柔らかく降り注ぐ木漏れ日の場所へ。
その場所の地面を、魔法を使い平らにしていく。ある程度均した後、簡単な形の椅子とテーブルを作る。自然をそのまま使った、優しい雰囲気のガゼボみたいになったな。
「ついでに、中がゴツゴツしていた、木の窪みもやっちゃうか」
魔法でボールチェアみたいな感じをイメージして変化させ、中に溜まっていた腐葉土を取り除く。
細かい部分も少し手を加え、作業が大体終わったら少し離れて全体を見渡す。サクッと作った割には、予想より良い感じだな。
「これで今夜は気持ちいい睡眠が取れそうだ」
次は今日食べる物を用意しよう。とりあえず、川の方へと移動するか。移動と言っても近くだけど。
今日食べるモノは何にしよう? 野菜は調理する器具がないから、素焼きかサラダか?
一応ファングラビットもあるけど、解体を今からするのも面倒くさいからヤダ。そう、面倒くさいからだ。
「うーん。料理なんて簡単なのしかやった事無いし、道具も無いから今日はジャガイモと果物だけにしよう。果物は梨も捨てがたいけど、やっぱりミカンだな」
今日食べる分のジャガイモを三つとミカンを四つ、〈無限収納〉から取り出す。
用意した土の付いたジャガイモを川で洗って。さて、このジャガイモに簡単なひと手間を加えよう。
まずは近くの森から乾燥した枯れ木を拾い、川辺の平らな所に集めてっと。
ある程度集めたら小さい木から順に置いていき、魔法で小さい火をイメージしてつける。それから徐々に大きな木を追加していく。
暫く火の様子を見ながら木を追加したり、空気を送ったりして何とか焚火に出来た。
「焚火なんて初めてだけれど、上手くいって良かった」
そう言えば、女神様の説明の時に、小さな火を灯したりするのはアビリティだって言ってたけど、アビリティは持ってないな。まぁ、魔法でつけれたからいいか。
焚火を見ながらのんびりと、採取していた包み焼きに適した葉っぱにジャガイモを包む。
そして! 焚火の中にポイッ! これは家族とキャンプに行った時に、父が教えてくれた料理だ。……料理だ! 父が母にそう言ってた!
「えーっと、ウィンドウから〈知識の泉〉。ジャガイモ包み焼きの焼き時間目安は、っと。ふむふむ、意外と掛かるな。タイマー設定しておくか」
あとは出来上がるのを待つだけなんだけど、その間なにしてよう。もうそろそろ暗くなってきそうだから、あまり遠くには行きたくないし、〈全知の地図〉で周辺をみて近くに村とか町とか無いか探してみるか。
はい、と言う事で探してみたら在りました。それも予想以上に簡単な方法で、結構大きめの都市が在ると判明しました。
なんとなく地図を眺めていたら、ウィンドウの下に周辺検索の項目。その項目の中で一番上にある、ここから近い都市をポチっとするという方法で見つけてしまった。
だけど、30キロとちょっとの距離か。地図だと近い様に見えるけど、歩いて行くとするなら結構時間かかるよな。
「見つける事自体は簡単だったけど、距離が遠いな。でも、この世界の情報も欲しいし、明日は早めに出発して都市の近くまで行ってみるか。それで外から少し様子を見てみよう」
さて、なんとなく予定が決まった所で、ジャガイモも出来上がる時間みたいだし食事にしよう。
丁度良い感じの木を使い、焚火の中からジャガイモを取り出す。ジャガイモのいい匂いが食欲を誘ってくるな。この熱々のジャガイモをテーブルに持っていって、少し冷めるのを待つか。
さてさて。採取した時の情報だと簡単にできそうだったし、冷めるまでの間に塩を準備しよう。〈スマートウィンドウ〉から〈知識の泉〉を開いて、『ソル豆、塩、作り方』で表示っと。
わざわざ迂回までして採ってきたソル豆。そのソル豆を焚火にあてて、軽く水分を飛ばしてっと。パサパサになったら指でグッと潰す。大きさの荒い塩みたいな欠片になるはず。おー、ホントに出来た。
指を使ってその欠片をさらに細かくしながら、程良く冷めたジャガイモに振りかけていく。うん、塩を振り掛けただけのジャガイモだが、凄くおいしそうだ。
「さて、料理と言うには簡単すぎるけど、この体になってから初めてのちゃんとした食事を頂きますか。あちちち。ふーふー。あーぁん。……んまいっ!」
あつあつホクホクで、味もしっかりしてるな。薄く振りかけてある塩がジャガイモ自体の甘さを、キュッと引き立てていて美味しい。
あと、今気付いたがこの体、味覚がかなり鋭い。以前の体と比べられないくらい敏感だと分かる位、野菜の繊細な味を感じる。
「最初に梨を食べた時に異常な程美味しく感じたのは、敏感になった味覚の所為でもあったのか?」
本当に久しく感じていなかった、美味しいという感覚。
そう言えば、前世では一人暮らしで食への執着も薄かったし、食事なんてコンビニで適当に済ませていたな。なんの色も感じない、ただの作業だった。
でも、自然の中から自分で採って、料理したとは言えないかもしれないが、自分で作ったモノを食べる。
それだけなのに、なんの色も無かった食事をすると言う作業が薄く色付いた様な気がする。
「ふー、お腹いっぱいだ。だけど、おかしい。ジャガイモ物凄く美味しかったし、三つじゃ少し足りないかと思たんだけど多いくらいだ。前世は大食漢では無かったけれど、この量なら少し物足りない位だったのに。食べられる量が明らかに少なくなってる」
真剣な顔でそんな事を呟きつつ、大きめのミカンをむく。ちなみに、ミカンの白いのは取らずにそのまま食べる派だ。
「はむっ。うん、美味しい。――ハッ! これがうわさに聞く「ベツバラ」と言うヤツなのか?」
前世の食への興味が薄かった自分の中で、ミカンは数少ない好物と言い切れるものだった。だが、ここまでの満腹感の時は、前世の自分であったなら食べようとしなかったと思う。
だけど今は、もう食べれないと思っていた満腹感が、食後のミカンを見てからスーっと消えていく。こんな感覚は今まで無かった。
その事について少し考えてしまったが、『まぁ、ミカンが美味しいから良いか』、と言う適当な結論に行き着いた。
今はゆっくりと味わいながら、ミカンを食べよう。
「みかんウマー」
居心地の良い場所で綺麗な景色を眺めながら、ぼーっと好物のミカンをもぐもぐしていると、何となく魔法やギフトを使った事を振り返った。
ギフトはまだまだ奥が深そうだが、今でもダメ人間になる位の便利機能満載。初めて使った魔法も、上手く攻撃魔法禁止制限を避ければホントに便利だ。
魔法を使った時の体から魔力が抜けていく感覚は、大袈裟に言うと献血の時の血が抜けていく感覚に近いかも。
魔力が血に似ている物だとしたら、知識にある魔力枯渇は貧血みたいなものか。
操作感はほんとそのままイメージ通りで、タイムラグもほぼ無く連続使用可能。おそらく、これはチートのお陰だろう。
他の比較対象が無いから、どの位すごいのかまだピンとは来ないけど。
あぁ、周囲への影響もイメージだったな。例えば、実際に使ったアースウォールも、周囲の土を集めて使ったり、土が無い所で魔力を土に変換して使う事も出来るみたいだ。
「もぐもぐもぐもぐもぐ。他の人と比べると規格外なんだろうなー。もぐもぐもぐもぐ。……その所為で面倒事に巻き込まれたりしないよな?」
そのあとも暫くは、魔法の事を考えたり、実際に都市に入る時は身分証は必要なんだろうかとか、色々思いながら十個目のミカンを食べ終えた。……好物だから仕方なかった。美味しかった。
「だいぶ暗くなってきたし、明日は都市にも行きたいし、そろそろ寝ておくかぁ」
魔法を使って焚火に水をかけ、火が完全に消えている事を確認してから窪みの中に入っていく。中に入ってから、もぞもぞと動いて寝心地の良い体制を探す。
「魔法で作り変えてから初めて窪みに入ったけど、中が綺麗で温かいし、フカフカになってる。それに微かに木の優しい匂いが……。予想以上に快適に寝れそうだ」
暖かく柔らかい感触とほのかな優しい匂い、そして適度な疲労感。素晴らしい快適な睡眠に入ろうと、まぶたを閉じる。
もぞもぞ。……もぞもぞもぞもぞ。
寝付けない! 気持ち悪い! なんか体がべたついてる様な気がする。それが気になって眠気はあるが眠れない。
「んー。仕方ない。川で洗い流してくるか」
前世では休みの日に予定がなければ温泉に行ったりするくらい、お風呂が好きだった。しかも、温泉に行った日でも、寝る前は必ずシャワーを浴びる習慣があった。
そんな習慣からかどうしても落ち着かず、一度川で水を浴びようと、もたもたと窪みから抜け出る。
眠気があるのに眠れない感覚がまとわりつき、ボーっとする頭をフラフラさせながら、よたよたとした足取りで川岸にたどり着く。
そして、服を脱ごうと七分丈位のズボンの紐を緩める。長く健康的な足があらわになり、スタイルの良さを見せつける。
「さすがに、こんな所で裸になるのは抵抗があるんだけど、しかたないかぁ。よいしょっと。ってか、初めて自分の裸見るのか。……」
若干の恥ずかしさを誤魔化す様に呟きながら、残りの衣服も脱ぎ目線を下に落とす。
薄暗い中でも分かる、滑らかな白のデコルテライン。そのラインから延びる胸は張りのある綺麗な形を形成し、柔らかさのせいか体の動きに合わせて蠱惑的な輝きを放っている。
その蠱惑的な胸は、手で持つと少し手から零れるくらいだ。それがどのくらいのサイズなのかは分からないが、以前触った時の柔らかさに加え、しっとりとした質感と少しのむず痒さ。
胸からさらに下へ向かい、キュッと整た艶のあるお腹周りから流れるようなくびれへ。そこから徐々に女性的な丸みを帯びたヒップラインへと、バランスのとれたシルエットを描いている。
初めて自分の身体を確認した時とは違い、さすがに今回は裸の身体に動揺するかと思ったが、やはり自分の身体だと思うとそうでもなかった。
何となく、男の時だったら恥ずかしくて直視できなかっただろうなぁ、と思いながら川に入っていく。
「うー、さっぱりして気持ちいいけど微妙に冷たい。温泉入りたい。せめてシャワーでもいい」
よし、もし明日都市に入れたとしたらお風呂があるかも確認しよう! あと、お金を稼ぐ方法とかも調べないといけないか。
「うん、充分さっぱりしたし、もう上がって寝よう。濡れた体は魔法をつか……。魔法を使って、即席の露天風呂作れたんじゃないか? ……いや、今日はもう寝よう」
まだ普段の生活で魔法を使うという事に馴染んでないため、魔法を使って露天風呂を作るという発想が全く出てこなかった。
そんな自分に落ち込みつつ、魔法で体を乾かす。そして服を着た後に、一応魔法で温水が出せるか確認して涙目だ。
ちなみに、小さく溜めた川の水を温かくするパターンもあっさり出来てしまった。
「……明日は都市に行かないで、温泉作ろうかなぁ」
お風呂の為に予定を変えようか真剣に考えつつ、再び窪みの中でもぞもぞと体制を整える。
今度はサッパリした所為か、柔らかさと暖かさと適度な疲労感に抗う事無く眠りへと落ちていく。
ビィー! ビィー!
〔この場所への明確な接近意思を持つ存在を検出〕
〔各種情報、及び、映像を表示しますか?〕
〔YES or NO〕
「う、ん。Zzz……」
ピコンッ!
〔接近数 四。 距離およそ三十キロ〕
〔到着予測時間 およそ七時間後〕
〔現在幼体のシックルボアと戦闘中〕
〔プライモーディアル 四〕
〔現状脅威度 極小〕
〔プライのみの冒険者パーティ〕
〔個別情報を展開しますか?〕
〔YES or NO〕
「うるさいなぁ。起きるまで静かに……し、て……」
〔通知音を無音に時間帯設定しました〕
「Zzz……」
仕事の時と休日の時の時間進行速度は、精神と○の部屋くらいの違いがあるんじゃないかと昔から思っています。
どうも、紬 いとです。
もう幾日で偉そうなジジィも走り回るほど忙しくなる「師走(12月)」ですが、今年はコロナの影響でどうなる事なんでしょう。
私は幸いな事に、自身も家族も近しい人も罹る事無く過ごせています。
自分は罹って無いと思っていても、予防対策やエチケット大事。
来年はコロナの治療薬が普及して、子供や高齢者、罹っていない方、罹ってしまった方、みんなが隣人を尊重し、気兼ねない社会に戻る事を願おうかなと思っています。
たぶん、年末位には上記の事を願おうと思っていた事を忘れてます。
さて、ここまで目を通して頂いた、心優しい皆様に感謝を。
紬 いと