2 存在の自己説明
今気が付いたけど、やべぇよぉ…。
やらかしたぁ…。
「なんでこの人間、何をしても起きないのかな。……まさか、私の意識制限に不備があった? もしもそれが原因だったらどうしよう……グスンッ。――しくしくしくしく」
何処からか誰かがすすり泣く声が、かすかに聞こえてきた。それが気になって目を開く。それから体を起こそうとした時に違和感に気付いた。
見た事も無い場所だった。なんて形容したらいいのか分からない、不思議な場所。
だけどすぐに、場所の違和感よりも、体の違和感の方に引っ張られた。ひどく頭が痛い様な、体が痛い様な、それなのに体の感覚が感じられない……。
「グスっ……、やっと起きたかな。良かった……グスン。それじゃあ、説明するからちゃんと……グスッ、聞いてね?」
体の違和感に戸惑っていると、どこからともなく声が聞こえてきた。それに、物凄く泣いた後の幼い女性的な鼻声に聞こえるんだけど。
え? なにこれ? 何があったのか全然わからないのに、物凄い罪悪感が……。
その鼻声の人が何か言ってるみたいだけど、動揺して上手く聞き取れないまま流してしまっている。
そもそも、これどういう状況なんだ? 俺のせいでこんな状況になったの? 声だけ聞こえてくるけど、この声が鼻声なのも俺関係あるの?
「グスッ……ちゃんと聞いてって言ってるのに。――しくしくしくしく……」
えー、これは俺が関係しているの濃厚ですね!
はい、なぜに? どゆこと? どゆ状況?
落ち着け、俺! こんな時は羊を数えれば……って、これじゃ寝てしまうわ! いや、実際は流石に俺でも、羊数えたくらいじゃ眠れないけどね!
とりあえず、何故か子供を泣かせた後の様な罪悪感がすごいから、声の人? を慰めてから話を聞こう。
「えーっと、すいません。大丈夫ですか? まだ状況がうまく把握出来ていないのですが……」
何が何だかわからない状況で、上手な掛ける言葉が思いつかなかった。
いや、だってさ。起きたらこうなってたのに、『俺のどこどこが悪かったです』なんて分かんないから言えなくない?
これはあくまで持論だが、こういう何に対してなのか分からない時は、まずは会話をすべきだと思う。まぁ、ある程度の仲で、相手が何に対してそうなっているのか、予測出来ているのなら先に謝るのもアリだとは思うが。
ちなみに、相手と話して自分の悪い所が多少でも理解出来たら、誠意を込めて謝る。相手も然り。一方的にならず、相手と自分の落とし所を二人で探す。お互いに対等でいたいのならなおさらだ。
そのまま、ズルズルお互いに謝らないとか、片方だけが謝るとかはやめといた方が良い、……と俺は思う。
まぁ、そんな理由でこんな中途半端な言葉になってしまったが、鼻声の女性? は状況の説明を始めてくれた。
それによると
一つ 自分は死んだ。
二つ 元の世界の輪廻には戻れません。
三つ 特別に別の世界に転生させます。
まぁ、とりあえず……状況説明少なすぎじゃない!? しかも、鼻声で愚図りながらだから、聞くのに根気がいったし、やたらと一生懸命偉そうな感じを出してくる。
あと、鼻声になった明確な理由は、はぐらかされた。――が、なんとなく『話を聞いて欲しかった』と言うのは分かった。なので、その事に対して謝罪はもうしている。
まぁ、愚図りはまだ治まってはいないが。
そんな事も間に挟みつつ話を聞いていたら、一方的に話されて、最終的にそのまま強制的に転生されそうになった。話し始めて三分位だったから、危なかった。
なんとか引き延ばし、宥めながら、どうにかもっと説明してもらわないと。
「グスッ……。こんなのマニュアルに無かったのに」
鼻声の女性が少し拗ねた様にぶつぶつ言っているが、今は情報を整理して考えをまとめよう。
まず、俺が死んだって事だが、その記憶が無い。その為、死んだ事に対する現実味が全くわかない。
声は聞こえるし、白に近い様な不思議な色は認識しているから、視覚と聴覚はあるのだろう。
その二つある内の、視覚の方で自分の体を確認しようとしてるんだけど、どこに視線を向けても体が見当たらない。体を動かそうと意識しても、すり抜ける様な不思議な感じがする。
それに理由は分からないが、考えている内に自分が死んだ事を、なんとなく理解してしまった。
はぁ、残りの二つ目と三つ目は俺じゃわからんし、とりあえず、鼻声の女性の言っている事を信じるしかないか。
「とりあえず、自分が死んだ事は信じられませんが、理解はしました。ただ、何点か確認したい事があります」
そう問いかけると、まだ鼻声の幼い様な女性の声は、面倒くさそうに返答してきた。
「……めんd。……情報開示のぉ、権限がぁ、そなたにはぁ、ないぃ……」
うん、絶対面倒くさいって言いそうになったよな。
うん、絶対適当にお茶を濁したい感じだ。
うん、これ相手を信じちゃいけないパターンだな。
なので、権限など構わず、質問をする事にしよう。
「まず、原因てなんですか? それは自分の行動によるものですか?」
「ちょ!? 権限無いって説明聞いてたかな!?」
焦った感じで返答が聞こえてきたが、構わずに続ける。
「次に、死んだ事ともう戻れない事は納得はできませんが、実際に現実離れした状態になっている以上、仕方ないとして。転生させるとは、どういうことですか? そもそも、あなたは? よく漫画や小説に登場する、神様みたいな存在ですか?」
「……はぁ、よかろう。ちゃんとした説明をしてやろう」
よし! 説明してもらえるようだ。もう少しなぁなぁに説明を濁されると思ったけど、案外すんなり聞けそうだ。
なんだか雰囲気では面倒くさそうにしてるけど、この声の人は良い人そう。まぁ、人かどうかは分からないけど。
なら、一応気になってたから伝えておこう。おそらく、言ってもそこまで理不尽に怒る人じゃなさそうだし。
「あ、無理に偉そうな感じをださなくても、大丈夫ですよ」
「……無理してないし、もともとだし、素で話してたし。……でも、まぁ、君がそう言うなら、君が親しみやすい言葉遣いをするとしようかな」
予想通り怒りはしなかったが、いじけた様な感じで答えた後、諦めたのか、それとも気が変わったのかはわからないが、詳しく説明を始めてくれた。
愚図付きもいつの間にか治まっていて、だいぶ聞き取りやすくなっている。
「まず初めに、私は君達人間が神と呼んでいるモノの基になったものかな。君達の感覚では神に近いんだけど、そこまで全知全能でもないかな。そんな存在が大勢集まって、管理しているのが世界。そんな存在の中で、この世界の輪廻を管理しているのが、この私。ちなみに! 存在の中では、かなり権限が高いかな! それと、名称とかの人間にとっての名前に当たる物はないかな」
おぉ、一気に情報が増えた!
つまり、神様のモデルになった人? 達がいて、その人たちが集まって各部署毎に担当し、会社運営の様な事をしていると。そして、その会社が管理運用しているのが、世界という事だろうか。ほほぉ……割と人の会社と似てる?
あー、あれかな。イメージ的に日本の八百万の神々が近い表現なのか。
「なるほど。とりあえず、そのしゃべり方のほうが自然で似合ってますね!」
思う所は多々あれど、まず最初に思った事を口にしたら、『え?』という表情をした女性が居た。
目の前に急に、けれど、ずっとそこにいた様に。
「いやいや! 結構唐突な現実離れの事話したのに説明の後の第一声が割とどうでもいい事なのかな!?」
目の前で、しかも、一息でそんな事を言っている女性。
シルバーブロンド? って、言うのかな? 白に近い様な金色。
長さは胸元より長めで、緩い感じでパーマがかかっている。全体的に天使の輪が出来るくらい輝いているし、サラサラでふわふわしてそう。
女性の髪形の正式名称なんて分からないから、見たままを説明すると。そのサラサラな髪の右側のこめかみの辺りを少しだけ三つ編みにして、残りはうなじの左側あたりから緩いサイドテイルで、左肩から前の方に掛け流している。
うなじがドキッとするような、大人でガーリーな感じ。
「ふふーん! 実際にふわふわかな! まぁ、私くらいになるとどうしても、存在としての大人っぽさがあふれちゃうのかな!」
身体の方は比較対象が無いから、身長などの数値は分からない。けど、モデルさんみたいにスリムなのに、それでいて女性の柔らかさや雰囲気を感じさせるメリハリのある体。
服装は、よく神話とかで女神さまが着ているキトンの様な物。キトンの様な物と言っても、真っ白なロングワンピースの様な物を緩い感じで着こなし、落ち着いた色合いの大判のストールを上に羽織っている。
たまに見える肌が温かい日の光で輝いているかの様な、優しい美しさを感じさせてドキッとする。
「なになに? 私のあふれ出る魅力にもうメロメロだって? それは仕方のないことかな! うん!」
顔立ちは目をずっと閉じているからハッキリとは言えないが、小顔にキリっとした少し釣り目気味の目元。
すこし小さめの整った鼻筋で、全体的に少し冷たい感じの美人さんって印象。
だけど、ほんのり薄紅色の柔らかそうで瑞々しい唇が、優しげに緩やかな弧を描いているから、きつそうな感じは全くしない。
全体的に冷たい感じの物凄い美人のお姉さんが、とても穏やかに優しく微笑んでいる感じ。
「私は大人だからかな! ちゃんと大切な所は厳しいけど、普段は優しいかな! 余裕がある落ち着いた大人だから! ふふっ」
さっきから勝手に俺の心の中を読むの止めてくれません? それと、心の中で思った事に対して、普通に会話をしようとしないで下さい。
それに、話の内容が微妙に合っていません。
「あれ? 声に出さなくても相手に伝わる方が、効率がいいと思うけど? まぁ、君がそれは嫌だって言うなら、そうしない様にしてあげようかな。私は余裕のある優しい大人の女性だから! あと、どの辺の内容がずれてたかな? 私の溢れ出す偉大さを褒め称えてたんじゃなかったのかな?」
もう話の内容はそれで構いません。それよりも心の中を読まれるのは流石に嫌なので、出来るのであればしないで欲しいです。
まぁ、ここまで会話をしたり、観察したりして思った事は……。
「……騙された。声が幼い感じだったから、イメージでは物凄い子供を想像してた。ロリだと思ってたし」
これ詐欺でしょう!
なんていうのか、こう――。
いかにもな感じの桐の箱の中に、これまたいかにもな感じのお値段がはちきれんばかりのお酒の様な、ものっすごい高価な装飾がされている瓶の中身がミカンジュース! みたいな。
ちょっとちがうか? まぁ、そんな感覚。
たぶん今の俺の表情を表現するなら、そんな見た目と予想が全然違う物を口に含んだ時の様な顔をしてるよ。
「今度はそっち!? というか、君失礼かな! 初対面の人によくそこまで正直に、驚愕の表情と感想を言えたものだね!?」
あ、今の俺身体が無いはずなのに、この人は俺の表情が分かるんだ。
それにしても、この世界の輪廻を管理している存在なのに、ツッコミは普通にしてくるんだなー。それになんか拗ねた様に言ってくるから、親近感が感じられるのか可愛く感じる。
あと、ちょっと思ったけどなんとなく、少し懐かしい感じがする様な。
「すみません。理由は無いんですが、女神様? と呼んでも良いでしょうか? とにかく、女神様に不思議と親近感を感じて、馴れ馴れしく話してしまいました」
声が幼く優しそうな女性の女神様だったからか、安心してしまったのかもしれない。
だが、相手が神様みたいな存在なのを思い出したので、くだけた口調を直して謝罪した。初対面の女性に、ましてや、神様みたいな存在の方に馴れ馴れしくするのは失礼だった。
それに、今更かもしれないけれど、女神様の不興を買って、不利な状況で転生の可能性もある。
「あぁ、親近感が湧くのは仕方ないかな。だって、今の私の容姿は君を構成する存在を参酌した物と、君の中の女性の神様のイメージを合わせた物だからね。つまり、今の私の存在の姿形や雰囲気、そして容姿に関しては、君にかなり近しい者になるかな。姿が見えた方が君が話やすいかなって思って」
ふぁ!?
「ふぁ!?」
おっと! びっくりしたから、そのまま思った事を口に出してしまった。
つまり、あの女神さまの容姿に、少なからず俺のデータに近いようなモノが含まれていると? ……うん、信じられない。
だって、正直どこから見ても絶世の美女って言われるくらいの美人だし、俺のどの部分の要素も感じられない。無理やり上げるとしたら、少し小さい鼻くらいか。
「ふふふ。驚いたかな? 君たち人間には計測出来ないモノなんだけどね。極端な例として、容姿や性格なんかは似てないのに、なんとなく一緒にいて居心地の良い人が居るでしょ? それはね、存在の姿形が近いからなんだよ。まぁ、私は姿なんて自由に変えられるけどね。それに、姿形が無くても困らないかな。でもって、そのまま参酌した存在の姿形に、肉体のイメージを映したのがこの容姿になるかなっ!」
女神様がドヤ顔してるのが少しイラッとするけど、懐かしい感じがしたのには納得した。
なんて言うのか、一緒にいる時の自然な感じというか、安心感みたいなのが、幼い頃に家族と一緒にいた時と同じ感じだ。一人じゃないんだっていう、安堵感にも近い。
「……近しい者……家族みたいな感じという事は、もし姉がまだ居たらこんな人だったんですか?」
女神様の姿に拘る必要は無いんだけど、なんとなく聞きたくなった。
「ん? ん〜。君の中の美化された女性の神様のイメージも合わされているから、同じとは言えないかな。まぁ、もし居たらこんな雰囲気の人間になってたはずだよ。性格は環境によって変わるから、わかんないけどね」
「お姉ちゃん……かぁ」
思わず口に出した言葉だけど、この言葉が俺の二度目の人生が変わった瞬間だった。
実は投稿日の指定を間違えてました。
本来であればある程度ストックを書き溜める為に、投稿を来年以降にしようと思っていたのですが…。
投稿予約をかなり間違えちゃった。(∀`*ゞ)テヘッ
…どうしようぅ。ストック全然ないよぉ。
本来であればある程度終盤まで書いて置いて、テンポ良く投稿する予定でした。
…ホントにどうしようぅ。
結果的には一話目を投稿してしまった以上、一旦不定期投稿で対応します。
今後の予定が纏まりましたら改めて、後書き等で投稿の方針を説明したいと考えています。
素人の私の作品でも目を通して頂いた方々にはご迷惑をお掛けしますが、ご容赦の程お願い申し上げます。
私もまだ少し混乱していますので次話に付きましては、明確な指定は致しかねますが近日中に投稿いたします。
最後に、急な投稿の中この作品を読んでくださった心優しい方々に感謝を。
紬 いと