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放屁拳  作者: 山目 広介
6/20

06 大会予選二日目午後 秘技と奥義 5047


『勝者 楢 月賦 選手 ぷしゅー』


 武台を降りるガップの下にケイが掛けよると声を掛ける。


「まさかヒップアタックが決め技なんて初めて見たよー!」


 かなりの大興奮である。


「馬淵ほどの速度があるわけでもないし、さっさと倒そうと思ってね」

「何やっていたの? 口開いたり、なんか苦しそうにしてたり」

「口開いたのは、簡単にいうと口からオナラをしたんだよ」

「えっ……」


 ケイがちょっと引く。


「ああ、腸内のガスを逆流させて口から吐いたんだ」

「そ、そうなんだー」

「次のは、無音で臭いオナラをして離れた。そこへ向こうから飛び込んだんだ」

「うわ~悲惨」

「最後のヒップアタックもあの状態でオナラをして直接異臭で倒したんだよ。鮫島は蹴りが得意だからかヒップアタックなんて想像もしてなかったみたいで簡単に当たってこっちが驚くくらいだったよ」

「無念だったろうねー。確かにあのとき後ろ回し蹴りでも警戒したのかガードが上がったもん。それがあんな最後とは……」


 ケイは思った以上に引き気味だ。


「今回はオナラと聞いて思い浮かべるクサイという攻撃だったんだね」

「うん、だから言ったろ、我慢すれば耐えられるって」

「他の技よりも、ってだけじゃない?」

「確かに(にお)いって他と違って直接脳へと繋がっているから刺激は強いはずだしね。痛みを我慢するのとどちらがいいかはそれぞれだとは思うけど」


 今までと違い、あんまり芳しくないケイの評価。


「報告に行こうか」

「そうだねー」


 そして受付で待ちに待ったことを聞かされる二人。


「次の対戦の勝者が本戦へ出場できます」

「おお、やっとか」

「でも相手もヤバイよー。優勝候補だよ」

「えっ、シードじゃなかった?」

「今朝のは優勝候補筆頭だよー。こっちのは巨漢で強いんだよ」

「よろしいでしょうか。次の会場は第二会場です。ご健闘をお祈りいたします」

「いやー、どうもどうも」

「別に応援してるわけじゃないと思うからね」

「でも嬉しいだろ、普通」

「そうかも知れないけど、ね。私も応援してるんだから」

「ありがと。じゃあ第二会場ってところへ行きますか」

「なんかテキトーに流されたー」






 次の第二会場へと二人していく。

 対戦相手はもう来ていた。朽木(くちき) 一馬(かずま)という名前らしい。

 先の熊太より余程クマみたいな体格だった。

 巨漢と言われるだけはあった。

 先ほどのように相手に力を出させずに勝つ、というのが良いのだが注目されているだろう優勝候補にあの勝ち方はちょっと不味いかも知れない。

 最初から一気に本気で倒しに行くべきだろう、そのような考えをガップがしていた。


 武台に呼ばれる。


『……それではっ、始めっ! コホー』


 この試合も両者の気の充溢から始まる。

 朽木は向かい合うと実物以上に大きく見える気になるガップ。

 速攻を狙うため、だが耐えられて持久戦になってもいいように準備をする。

 つまり空気を喰らい始めるガップ。

 空気を肺ではなく、胃へと送り込む。圧縮しそれを腸へと送り出す。原料だ、オナラの。何も腸内で発生するガスだけがオナラの原料というわけではない。そうじゃないといくら何でもあんなにオナラがいつまでも出続けるわけがない。空気ならば周りから試合中にも取り込める。

 ただし、前の試合のように異臭で攻撃する場合にはそうはいかないけども。


 そして気が充溢していく。溜め込まれていき、ついには限界を迎える。

 気が爆発する。


 ぼふっ!


 ガップは瞬歩法で一気に間合いを詰める。

 朽木は近づくガップへと正拳を打つ。

 巨漢から打ち下ろされる正拳。充分に脅威となる、必殺とも言える攻撃。

 続連弾の派生技、連弾掌で捌くガップ。それによって体を崩し、懐へと潜り込む。

 鳩尾(みぞおち)、胸骨の下端のさらに下。水月とも言われる人体の急所。

 『龍の息吹』の呼吸という部分を重要視するため、当然横隔膜への打撃など急所でもある。

 腹式呼吸で重要な役割を果たす横隔膜。そこへと繋がる鳩尾への攻撃。


 体を崩し、前のめりとなっている朽木。

 それを担ぐように掌を滑らせ当てるガップ。

 腰を落とし、下から上へ、縦の攻撃。自重による慣性によって重ければ重いほど威力が増す、対巨漢用の放屁拳の技。


昇天放屁衝(打ち上げロケット)


 ブゥゥウウウウウウウウウウウ!!!!!!!!!


 朽木が打ち上げられる。

 ガップの攻撃はまだ止まない。まだ朽木に意志があるとその眼に力があったからだ。

 落ちてくる朽木へと拳を伸ばす。


「貫通放屁衝」


 バフンッ!!!!


 吹き飛ばさないようにした攻撃。

 さらに技を重ねるガップ。


「放屁拳・秘技 放屁振動破」


 ブリブリブリブリブリブリブリブリブリブリ!!!


 オナラの音を、その振動を伝えて内部破壊を起こす技。

 朽木の体のあちこちから出血が起こる。


 そして飛退くガップ。その手からも流血があった。反響によって接触面から自身の技が跳ね返ってきたのだ。


 膝を衝いていた朽木が立ち上がり、呼吸を整え始める。

 横隔膜を痛打し、『龍の息吹』のための呼気がすべて吐き出されて攻撃どころではなくなったのだ。

 またダメージを回復しなければ動けなかったのは言うまでもない。


 ガップは追撃もせずに、こちらも呼吸を整える。せず、ではなく出来ない、が正しかった。

 空気を喰らって再充填を開始する。


 気が充溢されて解き放たれる。


 朽木が動く。だがガップは動けない。自身の技の後遺症だ。

 それだけで必殺となる攻撃を朽木が放ち、それを受けて弾け飛ぶガップ。

 それを追い、また正拳を撃つ朽木。飛ばされるガップ。それが繰り返される。


 しかし急に朽木が片膝を衝く。

 未だにダメージが残っているのだ。

 無理やり体を動かしていたにすぎない。


 再び立ち上がり、呼吸を整え出す朽木。ガップはそもそも呼吸をずっと整えようとしている。


 ガップは思う、いくら何でも耐久力がありすぎる。

 再度、気が充溢し、解放される。


 攻める朽木。正拳を打ち下ろす。今度はちゃんと動き、ガップはそれを掌を添えて受ける!


「放屁連弾掌」


 ブッ!


 拳に手を当てて、理解する。体温が高い、と。熱鬼昇神拳の馬淵と同じく体温を上げているのだ。

 馬淵ほどではない。しかし、そのために耐久力が激増しているに違いなかった。

 速度も巨漢にしてはあるほうだ。ダメージを受けた身体なのに。

 もともとが『龍の息吹』の技だったのだから、その高弟が使えてもおかしくはない。

 向こうがその技に特化しただけなのだから。


 朽木は連撃を放つ。それを連弾掌で捌くガップ。

 先ほどの攻撃で普通に捌くには攻撃が強すぎることが分かっていた。

 放屁拳を用いなければ、捌くことも難しい。


 攻撃ができないガップ。このままでは終わるんじゃないかと会場の観客に囁かれる評価だった。

 しかし、攻撃を止め、離れて、また片膝を衝く朽木。きついのは朽木だった。


 ガップが凌ぐだけでも朽木には辛かった。攻勢に出なければ倒れてしまうほどに。

 三度呼吸を整え始める。


 そして再開される攻撃。

 そこで朽木が一歩引いて蹴りを放つ。

 回し蹴り。

 しかし普通ではない。縦回転だった。

 体を傾け、上から打ち下ろされる回し蹴り。

 ガップは逃げられない。


「放屁金剛壁」


 ブゥウウウウウ!!!!!


 腕を交差してクロスガードで受けるガップ。

 脚が引かれたところへ、下からの打ち上げ。アッパーだ。

 強打の後の硬直でもなんとかガードを下げて受け止めるが、今度はガップが吹き飛ぶ。


 巨漢からの打ち下ろしを繰り返すことによって下からの攻撃を意識的に忘れ去られたところにその攻撃。

 だが上からの攻撃は地面によって逃げ場がないために、挟まれて力が相手へ伝わるが、打ち上げでは空中へと吹き飛んで充分な威力とは言えない。


 朽木にも追撃をするだけの力もなかった。


 またしても呼吸を整える両者。

 気が充溢し、炸裂する。


 今度はガップも瞬歩法で駆ける。

 朽木の打ち下ろし。捌く、連弾掌で。

 そして前方脚、膝の、腿の上に片手で乗る。体は丸めて。


杭墜放屁撃(パイルドライバー)


 ボォッ!


 巨漢退治は足から崩すのは基本中の基本、とばかりに足を狙うガップ。

 しかし、脚は折れず、その場で片手倒立。もはや的。その脇腹へ朽木のストレートが放たれる。

 吹き飛ぶガップ。


 またしても追撃はしない。朽木は片足で立ち、脚が震えている。

 今の攻撃で負傷したのだろう。


 ガップも立ち上がるも、呼吸と整える。


 繰り返される気の充溢と解放。


 両者が中央へ行き、朽木の打ち下ろし。ガップの捌き。

 懐へ入るガップ。


「放屁透内掌」


 ボフゥウウウウウウウ!!


 両手を重ね、突き出すガップ。

 だが朽木の体へは届かず、その腕によって阻まれる。速度の落ちているガップの攻撃は防がれた。

 そして打ち下ろされる拳。

 上からの攻撃なのに地面に弾かれ打ち上げられるガップ。転がり、その勢いを用いて立ち上がる。


 幾度、繰り返すのか。呼吸を整え、気が充溢し、激突する両者。


 朽木の打ち下ろしから始まって、それを捌くガップ。

 そして懐へ潜り込むガップの攻撃。


「放屁拳・奥義 放屁脱糞打(だっぷんだー)!!」


 ブリィイイイイイッ!!!


 またしても朽木の腕がガップの攻撃の前へと防ぐ形をとる。


 ボキィイイイイイ!!!


 嫌な音が響き渡り、朽木の腕が捻じ曲がる。

 朽木は防いだ。だがしかし、その腕ごと拳を朽木の体へと食い込ませ、そして吹き飛ばした。


 場外に出た朽木。

 何とか立ち上がる。だが吐血。

 片腕は折れ、片足も痛め、それでも武台へと向かおうとする。

 脚を引きずって武台へ向かう朽木。

 崩れ落ちる朽木。

 それでも顔を上げて、武台を睨む。

 無事な腕を持ち上げ、身体を引きずって武台へと手を掛け、血で滑り、そして動かなくなる……


『勝者 楢 月賦 選手!! コホー』






『……待ちなさい。コホー』


 武台から降りようとしたガップは足を止める。ちなみに右手で股間、左手でお尻を押さえるような恰好だ。

 声を掛けたのは審判だった。あのマスクはこれを見越していたのだろうか、と思うガップ。


「なんですか?」

『アレを片付けていきなさい。コホー』


 審判が指し示す物は今の激闘の末、その試合でのガップの出した物だった。

 放屁脱糞打とはつまりはオナラと共にう〇こをすることによって放たれる技だった。




「えっ! 普通失禁したりしても会場側が片付けませんか?」

『アレは君の意志でした物なのだろう? ならば君が責任を持って片付けなさい。コホー』

「ああ、はい……」


 正論を言われて仕方がなく頷くガップ。


「あの~、ちょっとだけ外れてもいいですかね?」

『ふむ。お尻を拭くのと、着替えかね。コホー』

「はい、そうです。まあ、お尻は、ケツの埃も皆取れるという、拭かなくても良い方法があるにはありますが……」

『却下だ。コホー』

「あ、やっぱり」


 ケツの埃も皆取れる、つまりはオナラをしてう〇こを弾き飛ばすというものだったんだが、当然のごとく審判に断られる。


『そこのトイレを使いなさい。着替えはどうするんだね。コホー』

「ああ、あそこで笑い転げてる人物に頼もうかと」

『分かった。トイレに掃除道具が揃っているからそれで掃除をしなさい。コホー。もう今日はこの会場で試合はないから。終わったら受付に来なさい。確認するから。コホー』

「分かりました」

『それからっ!』


 審判が強い口調で更に言葉を続ける。


『次あの技を使ったら失格にするから。コホー』

「ですよねー。アハハ」


 奥義は禁止された。

 ケイのところへ行くガップ。


「ケイお願い。下着とズボン買ってきて」

「あははは、脱糞打だって、あははは、痛い、いたた、お腹が、ああ、鼻で呼吸しちゃった、もう(くさ)すぎー、あははは」


 鼻を抓んで臭がりながら、笑い転げていた。


「もうガップは私を笑い殺す気でしょー」

「そんなことはないんだけど」

「それでなんであんな攻撃を?」

「しぶとくてね。あれは奥義だから威力もすごいんだよ。オナラは気体だけど、う〇こは固体だからね。数百倍から千倍を超える質量を出すわけだから同じように威力も当然跳ね上がるんだ」

「だからいきなりう〇こしたんだー。ぷくくくく」


 また笑い出す、ケイ。


「まさか、ズボンを破って、さらに下着も破って、お尻丸出し、さらにフル〇ンになるんだもん。これが笑わずにいられますか。あはははは」

「もうケイ。下品だって。ちょっと聞いてる?」


 笑い声がけたたましく鳴り響く。


「ねぇ、聞いてる? それで下着とズボンを買ってきて欲しいんだけど」

「うん、わかったわかった。ここからだと5分ぐらいかかる距離だけど人混みがあるから10分ぐらい? 往復だと20分。購入や多めにみて30分待ってて」

「了解。サイズはМでいいよ。そこのトイレだから」

「うん、じゃあまたー」

次回 過去に何があったのか。「07 師匠の過去と優勝賞品」

オナラ「おれの出番は?」

作者「ないッ」

オナラ「……」

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