04 大会予選二日目正午 対 熱鬼昇神拳 5472
ガシィイイイイイイイイイ!!!!!
中央へ飛び込むもガップの攻撃の前に杷木の攻撃が届く。
右回し蹴り。防ぐだけのガップ。
杷木の連打。相手の間合いであってガップの間合いではない距離。
杷木の攻撃は届き、ガップの攻撃は届かない。
ガップは強引に攻撃を掻い潜って相手の懐に飛び込む。自身の距離。
だが、攻撃を仕掛ける前に離れて回り込もうとする杷木。
その前に飛び込むも蹴りでまたも迎撃されるガップ。
攻撃できない。間合いの差。
絶対的有利を失わない距離で攻めてくる杷木。
強者と言われる所以だろう。
相手に当てれなければ、攻撃の強い弱いも関係なくなる。
ガップの放屁剛力拳は威力はあっても手が届くことが前提だ。
これでは宝の持ち腐れ。
ぷっぷっぷっぷっ。
放屁瞬歩法を使い出す。
右に左に駆け回り、武台の上を所狭しと奔走する。
しかし待ち構える方が移動が少ない分有利となる。
そして攻撃は杷木の方が先に当たる。
一方的ではなくなったが、それでもガップの攻撃が通じていないことには変わらない。
しかも動き回る分消耗は激しくなる。
このままじり貧になる。そんな予測を跳ね除ける攻撃が決まる。
ガッ!
杷木の正拳突きを肘で迎撃したのだ。
拳法家だ、拳は鍛えてある。
それでも元から固い肘とぶつかり合えば、打ち負けもする。
杷木が慎重になり、ガップの攻撃が当たる、いや、捌かれることが多くなった。
鯨井の時もガップは相手の攻撃を受ける腕を破壊して破っている。
近寄れないなら、その迎撃自体を打ち落とせば良い。簡単な発想だ。
そして間が出来る。
ガップは空気を喰らい、呼吸を整える。
優勢になったガップだったが、それでも消耗を強いられたことは否めない。
それに捌きだ。牛田ほど巧みではないが、ガップの攻撃が通じていない。
杷木は未だにガップの連打を許してはいないのだ。
剛力拳はタメがいる。その前の崩しが出来ていないから。続連弾も連打が出来なければ放てない。
瞬歩法も接近のために使っている。
放屁拳はオナラの力を利用している。同時には使用できない。
瞬歩法で飛び込み、空中で剛力拳を放つ、ということもできるだろう。だがそれでは足が地面をしっかり支えてないため力が半減する。
牛田は剛力拳を一度は耐えたのだ。その牛田と杷木は同格だという情報をケイから伝わっている。そんな半端な攻撃では通じないと考えるべきことだった。
ならば崩す。それしかガップには手がなかった。
気の充溢が頂点に達しようという時、再び中央へと両者が集う。
ガシィイイイイイイイイイ!!!!!
杷木の右回し蹴りが炸裂。左肘で受けるガップ。
「うぉおおおおおおおお」
声を張り上げ、殴り掛かるガップ。
またしても捌く杷木。
だが先ほどとは少しだけ違った。
何かに杷木が気に取られていた。集中力を欠いている。
時折、後ろを気にしたりしているのだ。
そして決定的な隙を見せる杷木。
杷木は左回し蹴りを放った。ガップはそれを潜り抜け死角に入った。その瞬間自らの脚で杷木はガップから目を離したのだ。
何故か後ろに攻撃する杷木。左フックを後ろへと放つ。
当然そこには誰もいない。
そこへガップの攻撃が無防備な杷木の左わき腹へと放たれる。
「放屁剛力拳」
ぶぅうううううううううううう!!!!!!!!!
ズドドドンン!!!
弾き飛ばされた杷木はそれでも何とか武台の上から落ちずに身を残していた。
だが膝は突き、脇腹を押さえるその姿はかなりのダメージがある証左だった。
膝に手を突いて立ち上がる杷木。
膝が笑っている。しかし気合を入れると震えが止まる。
まだ闘うつもりだった。
ゆっくりと呼吸を整えだす杷木。
それに呼応してガップも呼吸を整える。
三度、気が充溢されていく。
高まった気が爆発し、杷木とガップ、二名が中央で激突する。
「「うぉおおおおおおおおおおお」」
ガシィイイイイイイイイイ!!!!!
今度は杷木の右回し蹴りを掻い潜り、懐に辿り着いて正拳突きをそのガードの上から叩きつけるガップ。
瞬歩法で周りを駆けて、攻撃を仕掛けていく。
ガップは顔へ攻撃し、防ぐ杷木。そしてそのガードで出来た死角へ潜るガップ。
固まる杷木。
ガップは告げる。
「分身放屁熱」
続連弾で打撃の雨を降らせるガップ。 ぷっぷっぷっぷー。
ガードしていく杷木。だがその動きが時折止まる。それを見逃さずにガップは攻撃を身体へと叩き込む。
幾度も叩き込まれる拳。
その攻撃を防いだとき、両者の動きが止まる。
ガップが飛退き離れると、杷木はそのまま膝から頽れる。
『勝者 楢 月賦 選手! コーホー』
……。
審判を見ると気が抜けるガップだった。
一礼し、武台を降りる。
「今回も相手強かったね」
「杷木だっけ。強かったなぁ」
「ところでさ、なんで杷木は途中から何もない所を気にし始めたの? なんかしたんでしょ?」
「分身放屁熱って技だよ」
「えっ! 分身もできるの? あれちょっと待って。外から見てたけど分身はしてなかったよ」
「そりゃそうさ。錯覚させていただけだからね」
「どういうこと?」
「まずは報告しに行こうよ、説明は歩きながらでもできるしさ」
そう伝えて受付へ向けて歩み出すガップ。
「分かった。行きましょう。それでなんでなんで」
「今、季節は冬でしょ」
「うんうん」
「だから熱源があるとそこに何かがいると思ってしまうわけ。死角に敵が入ると尚更ね」
「その熱源は?」
「まき散らしていたでしょ。大量に」
「おなら?」
「そ。放屁拳なんだから当然」
「だから最初は捌かれていたけど、その次から動きがおかしくなったんだねー」
「そうそう。なかなか崩せなくて困ったよ」
「あんな騙し討ちみたいな技もあるんだね」
「自身強化だけじゃなく、相手を弱らせるのも兵法だからね」
「自分にされると嫌がるけどね」
「うるさいなぁ、聞こえない聞こえない。……それにいいだろ、そういう技なんだから」
「あはは、いじけないいじけない。でも夏場とか使えないんじゃない、それ」
「ああ、そうだね。そういうときはまた別の技を駆使するよ」
「教えてくれないんだ、けちぃー」
「また機会があれば教えるよ」
そして受付で報告し、また次へと向かう。
次回までは多少は時間がある。昼時だからだ。
「何か摘まんでかない?」
「じゃあ、あそこの肉まんは?」
「それでいこう。おじさん、二つちょうだい」
「あいよー二つ」
屋台に入って注文をするガップ。
「こっちは三つちょーだい」
「……」
「あいよー嬢ちゃんかわいいから一個おまけで四つだ」
「おお、ありがとうおっちゃん」
あれ、一人一個のつもりだったんだが……。ガップの考えとは違う発想の女性ケイ。
「……よく食べるね」
「あはは、昨日笑いすぎたからか腹筋が筋肉痛だからかお腹が減ってね。あげないよ」
「そっかぁ。盗らないから大丈夫だよ。試合があるからそんなに食べないから」
むしゃくしゃと口に肉まんを頬張りながら次の会場へと足を延ばす。
もぐもぐとケイが食べているため道中は静かだった。
静かにしたいときは何か与えればいいんだ。とケイの注意書きを更新しているガップ。
「次の相手は昨日のあのなんだっけ」
「……ごくん。馬淵でしょ『熱鬼昇神拳』の」
「そうそう、それそれ」
「同門の人も結構強かったじゃない。大丈夫そう?」
「さあ、どうかな。やってみなくちゃ分からないね」
「ええー、そんなんでホントに大丈夫?」
「これでも優勝するつもなんだけどね」
この言葉反応する人物がちょうど通りかかる。
「ほほぅ、この俺がいる目の前でそんな大言壮語が吐ける者がいるとは、な」
「誰?」
「『龍の息吹』の本部、今大会優勝候補の斉木 辰治だよ」
「優勝候補!? 本戦までシードじゃなかったの? なんでこんなところに!?」
「試合を見に来ただけだ。それでお前の名は?」
「楢 月賦」
「次の試合勝ったら、覚えておこう。まずは予選を勝ち抜くことだ。邪魔したな」
そのまま通りすぎていく優勝候補。
「強そうだったなぁ」
「そんな優勝候補よりも目の前の試合だよー」
「ん、そうだった」
「どうなの?」
「まあ崩さないと何とも言えないが、剛力拳何度も打ち込まないといけないだろうな」
「鯨井もそうだったしね」
そうこうしているうちに時間が過ぎ、試合が始まる。
『……始め! ゴーホー』
……。何も言うまい。ガッツは心中を閉ざす。
この試合も気の充溢から始まった。
高まり、破裂する。
ガッ!
打撃を受け、拳を返すガップ。
馬淵の下段蹴りを踏み込み、膝で受ける。
馬淵が体勢を立て直す前に、顔面へ突き。腕でガード。
一瞬の死角へ潜りボディに左フック。ヒットするも右回し打ちを頭部に受ける、もちろん額でだ。
ガップは闘いながら、こんなものなのかと訝しむ。
力が弱い。いや、一般的な者よりは強いがそれでも他の身体能力を強化してきた者の力や速度ではなかった。
警戒していた分、弱く感じていたガップ。
そして思い至る。まだ強化していないのだ、と。
弾けて距離を取る。いつもの呼吸の時間。
「そんなものかっ。鯨井との勝負を邪魔したお前の力は、こんなものじゃないはずだろうがぁあああああ」
叫び、更なる気が集まる。
そして噴火。
ガシィイイイイイイイイイ!!!!!
ガップの頬が弾ける。馬淵のスピードが一気に跳ね上がり、ガードが間に合わなかったのだ。
踏ん張るガップ。だが足払いに前方へと転ばされる。
膝を突き、手も床に突く。そこへ顔面に蹴り。転がるガップ。
これまでの試合で初めてまともにガップへと攻撃が入る。
速度もだ。相手が速くても拮抗はしていた速度。それが圧倒される。
回転しながら立ち上がるガップ。即座に瞬歩法で迎撃に移る。 ぷっぷっぷっぷっ。
だが、追いつかない。神速の馬淵。
殴られたときに反撃に出るガップ。 ぷひー
蹴られたら、その脚へ拳を叩きつける。 ブポッ
殴られたら殴り返す。 ぶーぶーぶー
明らかに速度で負けて、しかしその攻撃には必ず反撃に出るガップ。 ブボッ
気の充実のため呼吸を整えだす。
両者ともに息が荒い。
ガップは殴られすぎて。馬淵は、反撃も受けてはいるが、大半は自身の速度のために。
「この程度かぁあああ!! 小僧ぅおおおお!!」
「うぅぉおおおおおお!!」
間が、タメがいる剛力拳は当たらない。 ぷぅ~
だから続連弾で攻撃を受けたときに反撃で当てるガップ。 ブハッ
しかし馬淵は身体強化系で耐性も強化されている。 ばぁ~
攻撃のときには反撃が届く。とはいえ当てているガップに瞠目するべきだろう。 ボバッ
馬淵の攻撃は速い。 ぷす~
そのヒットアンドアウェイ。 ブッ
でも無理な体勢で放つガップには、馬淵に充分な打撃とは言えない。 ぶりっ
だが! ぷりっ
「……ぷっくはは」
「破顔放屁音」
「しまっ……!」
ズンッ!!
馬淵が唐突に噴出した隙にガップが剛力拳を放つ。真剣勝負の最中、変な音で集中力が乱されたのだ。
弾け飛び、膝を屈して苦悶の表情の馬淵。意外に痛みに弱いという弱点を曝け出す。
だがこれだけで立ち上がらないわけがない。身体能力が強化されているから。
「うぉおおおおおおおおお」
先ほどまでの神速が見る影もなくなる馬淵。それでもガップが闘った今までの選手よりも速い。
ガップも瞬歩法で迎撃するも普通の攻撃ではやはりダメージが与えられず、待ち構えることになる。
速度は変わっても構図は同じだった。
馬淵の攻撃、ガップの反撃。
でも変わった部分も存在する。
神速の時は空気の層を纏って大気を引き裂いていた馬淵。
だが今はそんな速度はなく、ガップが死角に入ると周りから囲まれる錯覚に苛まれる。
ガップの分身放屁熱が効果を現し始めた。
隙ができれば、剛力拳を当てられる。一回二回と。
いつの間にか馬淵の脚が止まり、ガップが動いて馬淵に近づき連打を浴びせる。
馬淵は最初とは逆に攻撃に対し防御は無視して反撃を叩き込む。
打撃の応酬。
そして馬淵が口を開く。
「小僧! やるじゃないか」
ガップを認める馬淵の言葉。
にかっと笑い、倒れる馬淵。
『勝者 楢 月賦 選手。 ゴーホー』
……。
武台を降り、ケイに肩を借りるガップ。
「強かったぁ」
「大丈夫? ボロボロだよ。報告は医療室に行ってからで良いって」
「ん。分かった」
「ホント、よく勝てたね。ボコボコにされたとき負けたーって思ったよ」
医務室へと歩きながら話をするガップとケイ。
「ところで、なぜ馬淵の動きが止まったのか、分からないんだけど」
「あれは破顔放屁音という技だよ」
「なぜ? どういう理屈?」
「真剣勝負中にオナラの音に力が抜けちゃったんだよ。つまり笑っちゃったんだ」
「うわぁ、私も昨日抱腹絶倒させられたから分かるー」
「ケイには何もしてないよ?」
「未だに腹筋が張ってるし、そりゃ馬淵も負けるわー」
「おーい。ケイにはやってないって」
「笑ったら負けという真剣勝負なんだね」
「そういえば、視界の端でボコボコにされながら見てたんだけど、めっちゃ笑ってたよね」
「おならっていろんな音がするんだねー」
目を逸らして誤魔化そうとするケイ。
「ありがとね」
「えっ! 何故にここで感謝なの?」
「あれだけ笑っていたから、周りにも笑いが感染して、最後に馬淵も笑っちゃったんだよ」
「えっ? 意外にも私の功労賞?」
「そうだね。周囲も笑っていたでしょ」
「……そうだっけ?」
「自分が笑ってて周りには目が行ってないのか……」
医務室に到着して治療を受ける。
それから受付へまた報告に行く。
「さすがに連戦で棄権とかの人もいるみたいだね」
「怪我しないことが一番なんだけど、そうはいかないしねー」
「何々。次の対戦相手は小木 熊太。また『龍の息吹』の人か」
「そうだねー。この人もさっきの牛田や杷木と同格だとされているから強いんじゃないかな」
次回 ガップがゲップをし、ヒップアタック。鼻に直接臭いを放つ。ブフッ