13 大会本戦 準決勝と敗者復活の男 4967
ガップが倒れた原因は秘奥だった。
無茶な動きをした反動が来たのだ。
ケイが医務室に連れ行き、しばらくして目覚めたガップ自身の口からケイに説明があった。
「秘奥使うと、直後に血糖値や酸素飽和度が低下して貧血状態になって、それを補うため手足の血管が収縮、心拍数上昇、呼吸が乱れて、脳に酸素や糖分が来るように多少時間を置かないと回復しないんだよ。その上でさらに筋肉痛とかにもなるしね」
「準決勝や決勝は明日だよ。大丈夫なの?」
「まあ、ね。戸籍上の親父とやるまでは秘奥は使わないさ」
「また使う気なの?」
「休養が取れるから使ったまでさ。じゃなかったら他で何とかしてるさ」
「手がなかったんだよね。そんなので大丈夫なの?」
「任せろって。放屁拳のすべてを見せたわけじゃないよ。『龍の息吹』の高弟は強いって思い知らされたから今日は使わなかった技を見せてあげるよ。だから今までと同じ技でも使い方で手加減してたって分かってくれると思うよ」
「手加減って……」
「まあ、明日の試合を見てなよ」
そう言って一緒にホテルへと戻り、さっさと飯にして一人就寝するガップ。
ケイはしぶしぶ従った。
翌朝、ガップは早朝に起きて、ホテルの周りを駆けて調整を行う。
一種の筋肉痛になっていたため身体を動かして血行を巡らせて回復を図った。
昨日は戻って汗を流さなかったためホテルへ戻って汗を流すガップ。
ガップが食堂へ行くと、初めてケイが腹を抱えていない姿を目撃する。
「ケイ、大丈夫?」
「ん? そういうガップの方こそ大丈夫なの?」
言葉が足りずに何のことを心配しているのかは気づかれなかったガップ。
「大丈夫だけど、じゃあ飯にしようか」
「そっか。じゃあ行こっか」
ガップは食事中、走っているときに思いついた「へっちゃらだよ、オナラだけに」ということを言えずに後悔していた。
食事を楽しんだ後、ホテルの従業員がケイにメッセージを持ってきた。
「家族からだって?」
「うん……」
「何だって?」
「な、なんでもないよ。そうだ、このジュースでも飲んで待ってて。ちょっと部屋に戻ってるから」
「ああ……。何だったんだろ。あ、これ間接チューだ」
本戦の準決勝と決勝の当日の朝であった。
会場は昨日より女性客が減っていた。昨日の試合で見目の良い人物がいなくなったためだろうか。
代わりにガタイの良い若い子が多く見られた。
武術に興味があるのだろう。憧れだけで自分はやっていないという者も多く、やせていたり、逆に太っていたりという人物もよく見かける。番狂わせがあったから観客が減るんじゃないかと言うガップの予想は裏切られたことになった。
路地裏では賭けをしているようだった。だから人が減らないのだろう。
親子連れとかは単なるお祭り気分なのかも知れない。
ガップは先に来てくれと言う大会関係者の指示に従い、武台へと一人向かう。
演出の説明がされ、頷くガップ。
審判が始まりを告げる。会場の電灯が落とされる。
『さあ、お待たせいたしました。
今日行われるのは準決勝と決勝です。
今大会のベスト4の紹介です。まずは『龍の息吹』で唯一残った優勝候補、最後の一人。仲木 龍太選手!』
仲木に照明が当たる。ガップたちが昨日シリアゴと呼んでいた者だ。
『続きまして今大会のダークホース。優勝候補を次々破った実力は本物。観戦には防毒マスクが必須のこの男。楢 月賦選手!』
ガップにも照明が当てられる。
『一昨日の予選における敗者復活で見事勝ち上がった、また昨日も優勝候補を撃破する金星を挙げる『龍の息吹』の流れを汲む 熱鬼昇神拳の馬淵 紅葉選手!』
照明が当たったのは昨日の一回戦の坊主頭だった。ガップはあれが馬淵だったと初めて知った。頭を剃っていて気づかなったのだ。一昨日、会場から本戦出場選手が離されていた理由なのかも知れない。
『最後に紹介するのは招待選手の最後の男。空手家の佐伯 聖選手!』
空手家に照明が当たり、会場全体にも照明が灯る。
『仲木選手と楢選手には次の試合までお戻りください。そして残った二名!
この武術大会で決勝に『龍の息吹』以外の選手は今まで上がったことがありません。しかぁし! この二人のどちらかがこれから行われる試合の勝者となって、その史上初の決勝進出者となります。その栄誉に向かって頑張っていただきたい』
武台に残った二名は向かい合う。
ガップはケイのところまで行き試合の観戦をする。
『それでは準決勝第一試合。構えてっ! 始めっ!』
「うぉぉおおおおおおお」
いきなり馬淵が吠え出す。
「いきなりだが初めから飛ばすぜっ! 40℃で一気に畳みかけてやるっ!」
馬淵の周りの大気が揺らぐ。
上昇気流が発生し、周りの空気を吸い込み始める。
馬淵の周りを風が渦巻く。
馬淵の体温で周囲の空気を温めてそれによって空気が熱気球のように上昇しているのだろう。
そして周りを空気が持ち上がれば、その空白へとさらに周囲から空気を呼び込む。
踏み込み攻撃を仕掛けようとしていた空手家のバランスがその風で僅かに揺らぐ。
その隙をその異常な速度で衝く馬淵。
「うぉぉおおおるぅラァァアアアア!!!」
空手家はそれらの攻撃を捌く。技術は空手家の方が上だろう。
しかし身体能力では遥かに上回る馬淵。突きや蹴りを放つ。放つ。
空手家も力が敵わないため、受けることは避け、流したりしている。
攻撃もカウンターを決められる速度ではない。
だから馬淵の攻撃の手足に合わせて打っているようだ。
馬淵もそれが嫌になったのだろう。
深く踏み込む。懐に入る。
空手家は反射であろうか。その顎へショートアッパー。
しかし至近距離で躱す馬淵。空手家の腹へとクリーンヒット。
空手家も腹筋を固めて跳び退く。
馬淵は味を占めたのか、懐で空手家の攻撃を誘って、それを回避。続く攻撃、と繰り返す。
空手家は懐に入られても先に手を出さずに待てば、馬淵はそのまま攻撃。
その隙に相打ち狙いをするも与えたダメージより受けた分が上回っていたのだろう。すぐに止めてしまう。空手家は耐久力が低かったようだった。
馬淵の方でも変化をみせる。
接近で攻撃させて、腹や脇など胴体ではなく、頭部へと回し蹴り。
突然の変化に対応が遅れる空手家。
ただでさえ速い馬淵を捉えるのに苦労して、さらに一瞬の判断まで要求される。
まぐれで防げても繰り返されれば、外れが多いことはすぐに露呈する。
空手家の劣勢でそのままかと思われた。
腹部に攻撃を貰い、反撃を許し、蹴りを腕で防いだ馬淵は違和感を覚える。
袖に空手家の足の指が掴まれていた。
空手家が足を降ろした時、そのまま腕を引かれる馬淵。
体勢が崩れた所へと空手家の回し蹴りが馬淵を襲う。
馬淵が無理やり引っこ抜こうとすれば、そのまま足を上げられてまたもバランスを崩し、追撃を喰らう。
空手家は器用にも足でまた袖を掴んで逃がさない。
馬淵は空手家の攻撃のタイミングを見計らって、腕を引く。空手家の足に掴まった袖も当然引かれる。
今度は空手家が体勢を崩し、馬淵がチャンス。覆い被さるように攻撃を仕掛ける。
しかし空手家は地面に手を突き、そのまま蹴りを続行。それがカウンターとなって吹き飛ぶ馬淵。
そのまま距離が開き、『龍の息吹』を始める馬淵。
空手家もその間に呼吸を整える。劣勢を跳ね除けてもダメージは抜けていないようだ。
その後は空手家の変則的な捕獲も馬淵に警戒される。
つまりは馬淵の優勢が動かずに勝敗は決まる。馬淵が決勝へと進むこととなった。
準決勝第二試合。
ガップvs仲木が始まる。
シリアゴ、もとい仲木は優勝候補と言われるだけあり手強いとガップが考える。ガップは攻めあぐねていた。
試合開始当初、ガップは放屁拳を最初から使用している。優勝候補と呼ばれる人物が皆強かったためだ。
瞬歩法における速度で攪乱しての攻めはガードの堅い仲木には効果がなく、攻撃時の隙に反撃を喰らう羽目となる。
頭部をきっちりガードする仲木の戦法は腹部を曝していることでもある。だから剛力拳を一度放つも、さすがの仲木も何度も喰らいたいとは思わなかったのか二度とは無防備に放つことは許さなかった。
ガップが仕方なく、ローキックを放つ。
即座に仲木は足を引く。
ガップはローキックを地面に叩きつけるようにして踏み込みながら回転し後ろ回し蹴りを仲木の頭部へ喰らわすもガードが崩れることもなく、バランスを崩すこともなかった。
仲木からの攻撃も、ガップが回避しカウンターで顔面を狙うがもう片方の腕で簡単に防がれる。
単発の攻撃しか仲木からはして来ない。
そしてガップからの攻撃が通じず。
仲木からの前進を食い止められず、ガップは次の手を探る。
ガップは仲木のガードを正面から剛力拳で突破を試みる。
仲木もさすがに反撃まで手が回らない。だが同じ個所に繰り返すようなダメージの蓄積は僅かにずらすようにしてガップの望むようにはさせない。
続連弾による攻撃も仲木の良い反撃の的になるだけのガップ。
ガップは通常の攻撃などでガードのない腹筋を崩せずに時間だけが過ぎていく。
分身熱などの技も攻撃を即座にしない仲木は意味をなさなかった。
仲木はあくまでも攻撃時の相手の隙に反撃をしている。反射で攻撃などをしてこない。
ガップの他の技、異常臭や破顔音など隙ができそうなときには退避して仕掛けて来ない用心深い仲木。
従って膠着した状態が続く。
呼吸のための時間を取るほど両者に然程のダメージもなく、ガップの崩しのための攻撃とその反撃、ガップの隙を仲木の単発の攻撃とガップの迎撃、ということの繰り返しでお互いに防ぎ合い効果がそれほどない。
ここでガップが後退して空気を喰らう。ガス欠の補給だろう。
これもガップが隙をワザとみせることで仲木を挑発している作戦だ。
だが仲木の攻撃を待って迎撃していたこれまでと違い、向かってきた仲木にガップも前進する。
「放屁突撃肘!」
ブゥウウウウウウ!!!
ガップは胸の前で右の拳を左の掌で押さえるようにして肘を突き出し、仲木の頭部を覆う両腕のガードの真ん中へと突撃する。
放屁拳の肘技、突進技だ。
仲木の両腕の隙間に捻じ込むように突き入れる。仲木も固く閉ざした門のように入れさせないと力を籠める。両者がせめぎ合う。
ブッブゥウウウーーー!!
ガップがオナラを追加し、加速する。
そして仲木のガードを抉じ開け、ついに顎へと肘が突き刺さる。
開いた腕をもう一度ガードに戻させないようそれぞれ手首を握りしめ放さないガップ。
だがそんな状態で攻撃は難しいように思うところ。
「放屁石頭突!」
ボッフゥウウウウウウ!!
その状態から仲木の顎へ追加の頭突きが決まる。膝を曲げた状態で両手は拘束しつつ、頭からダイブした形だ。
さらに右手を放して、剛力拳を顎へと叩き込む。左手は放さない。吹き飛ぶことが許されない。逃れられない仲木。慌てて解放された左腕で頭部のガードを固める。
だが追加で腹部へも剛力拳を喰らわすガップ。
そして拳を添えたまま。
「放屁拳・秘技 放屁振動破!!」
ブリブリブリブリブリブリブリブリブリ!!!!
それでも倒れない仲木。即座に反撃しようとするも逆に攻撃を喰らう。動きが鈍い。
故意に倒れて逃れようとする動きもガップに振り回されて巧く逃れることが叶わない。
仲木も『龍の息吹』の優勝候補。片手でも、待ちの姿勢からのその攻防だけならガップよりも上だった。時間が経ち、やや回復すれば仲木が優勢となってくる。
というよりガップの動きが鈍くなっている。秘技の反動だろう。
だがそれでも顎への強打の影響は拭えない。頭部を、脳を揺らされるのだ。
だからだろうか。今までならしなかった不用意な攻撃を行って、ガップへ懐へと潜り込まれる仲木。
ガップは反転して担ぐような体勢で拳を掲げる。
「昇天放屁衝!!」
ブゥホォオオオオオ!!!!
左手で殴り掛かってきた右腕を拘束したまま、打ち上げる。
右腕が拘束されているため吹き飛ぶことも出来ず、吹き飛ぶことで逃がせた力をその身で受け止める羽目になる。闘う意思はあるようだった。しかし膝が笑う。視線が泳ぐ。腕が上がらず構えられない。そしてふらつきながら、仲木はそのまま仰向けに頽れる。
審判が確認し、勝者を告げる。
これによってこの武術大会始まって以来の決勝進出者に『龍の息吹』の本家がいないという結果になった。
次回 秘奥を温存して試合中にガップのお腹に異変が起こる。キューゴロゴロゴロ
そして放たれる技。ブリブリブリブリブリ




