電界の漣(途中)
藍色に近い夜空に、立ち並ぶ家の数々。
田舎といえば大きく語弊があるが、かといって都会的な見た目では少なくともない曖昧な町。
遠くには都会が、山が。少し高い所に行けば、海が見える。この遠景は、現実のそれと大差ない。
「現実のそれ」?
まるでここが現実じゃないような言い回しだが…その通り。
さっきまで述べた景色や物。
これらは全て…電脳だ。
2045年。
ITは目まぐるしい、というより極地とされた所を遥かに超越するほどに発展した。
人の脳から任意の記憶を読み書きできる装置、物体や生物をノーリスクで転送するテレポーター、「意思」のみでオンオフが切り替えられるスイッチなど。
「空想」はことごとくが「常識」になっていた。
そんな中、とあるメールが全世界宛に届く。
まぁ掻い摘んで言えば、メールに記載されたURLをPC環境で開けば電脳空間に行ける、とのこと。
一見馬鹿馬鹿しい話だったが、一部の人が実際にやった所、本当にその空間とやらに行ける事が分かった。
なんでも、衣食住可能かつ、病魔に襲われず、なおかつ平常時の現実に限りなく近いサイクルで回る世界…なんだとか。
しかし。
どれだけ優れた機械だろうと、高度な技術を用いたものは精密機械の域を出ない。よって、強い衝撃や想定外の信号などですぐ壊れてしまう。
…起こった。
人類どころか生物史でも稀に見る大災害が起きたのだ。
コンピューターは使い物にならなくなり、電子機器はショートなどで火災を産み、
ただの物質と化したデバイスは、崩れたり誤作動した時の余波で数多もの生き物の命を奪っていった。
ところが、運よくこの災害の中、断線や停電に見舞われずPCを起動でき、かつ数日前から差出人不明で全世界に送信されていたメールのリンクを起動して電脳空間に逃げ込めた人物は難を逃れたのだ。
「TDMフロッグ」。後に「電子の海」とも言われる仮想世界。
…それが、今いるこの世界である。
現実がその後どうなったのかは分からない。きっと文明は自立型のデバイスを残して退行しただろう。
現実に実体すら必要ないのに異常なく存在し続ける空間と、尽く災害で壊れたデバイス。
人の作ったデジタルは、自然の摂理に勝ったのか負けたのか、微妙な立場にいた…
「ただ単に行きたいから」それだけの理由で日が暮れるまで都会に行ってきた俺は、電車を降りて家への帰路に付こうとしていた。
自分が住んでいる静かな田舎寄りの場所と違って、都会は人がすごいわ街並みが複雑だわで、夜になるころには疲れてしまう。
ここに住んだのは正解だろう。慣れてないだけかもしれないが。
階段を降りて、自転車に乗る。そして、家へと向かって自転車を漕ぎ出す。
「相変わらず夜空は綺麗だな」俺は夜外に出て自転車に乗ってる間、毎回思う。
というか大体それぐらいしか運転中に考えることがないだけだが。
(ん?なんだあの子)