一章③
あなた様は旅行などしますでしょうか?
私は好きですよ。旅行。
旅に出ると世界の美しさに気付けるのです。
嗚呼、こんなにも世界は美しいのに。って。
豊穣祭の三日前となった。
今日から二日間かけて街へ向かう。
「強くなった」なんて言えるのだろうか。
稽古では父親にまだまだあしらわれる一方だ。
三ヶ月前よりはマシなのだろうが、強くなったという実感はない。
やはり実力を測るには、実践あってこそなのだろうか。
実践経験などない。俺に出来るのだろうか。
不安はある。
けれど、街へ行かなくてはならない。
どんなに自分が無力だろうと、やらなければならない事はやってくる。
扉をノックする音がする。
「サン、準備出来た?」
サーラが扉から顔を出す。
渦巻く不安から決意へと変わる。
今日はいつも使っている模擬刀ではなく、刃のある剣を装備する。
力を貸してくれ。
剣に祈りを込める。
「準備万端だ。行こうか」
外に出ると馬車が止まっている。
豪勢では無いものの、村に馬車が来る事はほとんどない。
俺も見たのはこれが初めてだ。
「凄いね」
身長差があるためか、迫力がある。
「すっごーい」
横のサーラは目を輝かせている。
そりゃそうだろう。馬車の大きさは自分の倍はある。
子どもの頃の巨大生物や建物はロマンが詰まっている。
「ほら、行くぞ」
各父親が御者台に座る。
幌のある荷台には大量の作物が積まれている。
これを街で換金して税を納めるのだ。
俺達は荷台で荷物と共に運ばれるようだ。
「それじゃあ、出発進行~」
荷台に飛び乗ったサーラは声を張り上げて拳をかかげる。
いつも以上にテンションが高い。
気持ちはわかるけれど。
これから無事に街に着ける事を願うばかりだ。