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メビウスの帯  作者: 一二四〇
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一章①

 あなた様は紙の本は好きですか?

 私は電子媒体より紙の本の方が好きです。

 なのに原稿用紙ではなく、このようにして書いているわけです。可笑しいですね。

 けれど、この物語は電子媒体でしか表せないようなものにしたいのです。

 紙では出来ないものに。

 それは五才の時だった。

 夢を見た。

 いや、夢では無かったのかもしれない。

 神を名乗る者と転生だとか話をしていた。

 転生――したのか。

 「していた」と言うべきか。

 急に頭が冴えてくる。

 冷めてもいるし、醒めてもいる。

 五才児の考え方、捉え方では無い。

 気持ち悪いな。いや、気分が悪いし気味が悪いか。

 こんな五才児がいるか。

 これまで普通だった。

 母から産まれ、普通の赤子として生きていた。

 しかし、今いるのは転生する前の記憶や考え方を持つ五才児。

 三つ子の魂百までって言うが、過ぎてるじゃないか。

 まだセーフなのか。けれど、自分の存在が――脳と身体がアンバランスなんだよな。

 子どものフリとか出来そうに無いのだけれど。

 転生人生最初で詰んだ。

 いや、元の世界の言語とは違うし、まだ分からない単語などある。それなら普通の子どもと変わらないかも。

 話す事が多くなった場合は詰むかもしれないが――

 父親は村の中では優れた剣士。母親は普通の女性だ。

 この世界では男は剣士や騎士などになる事が多い。魔物がいる世界なのだ。自分や家族を守る術が必要なのだろう。

 父親は男として、剣士として育てたがっているのがわかる。まあ、魔法のある世界なのだけれど、魔法の才能があるかどうかは生まれてすぐには分からないらしいからな。

 神様とやらに授かった魔法があるにしても、通常の魔法が使用出来るかは別だ。

 先ずは状況の整理だ。

 俺は誰だ?

 前世の名前は――分からないが、この世界での名前はサン。

 そう呼ばれていた。いや、そう呼ばれている。

 名前はサン。五才児。性別は男。剣士の父と普通の母がいる。

 とりあえず簡単な記憶整理出来たようだ。

「あ~。さんくん!」

 窓の外から幼い声がする。

 日光に照らされてキラキラと輝くオレンジ色の髪。幼い顔立ちに大きな目。ふわふわとした服に身を包んだ女の子。

 ――誰だ?

 たった今自分の事を思い出したばかりだぞ。

 新たな登場人物を出して良いタイミングじゃあないだろう。

 もう少し待ってくれ。頭が追いつかない。

「さんくん あっそびましょー」

 誰だ?誰だ?このふわふわオレンジ頭は誰だ?俺の知り合いだろう。名前だ。思い出せ。

「さんくん、どうしたの?」

 働かない頭を押さえて必死に思い出そうとしているが、思い出せない。

「さーらが なでなでしようか?」

 さーら……サーラ。

 ああ、思い出した。幼馴染のサーラ・カバラ。

 幼馴染といっても、村で歳の近い人間が俺とサーラってだけだが。

 コンコンと玄関扉から音がする。

 窓から見えたサーラの姿はない。サーラは窓の方から家を回って玄関の方へ来たようだ。

「サーラ、今開けるから待って」

 玄関扉を開けてサーラを迎え入れる。

「さんくん。遊びましょ」

 混乱からやっと回復した俺に、華やかで明るい笑顔を向けてきた。

 満面の笑みだ。

「ああ」

 俺はこの時には、既に惹かれていたのかもしれない。

 彼女の存在に。


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