勧誘
中庭の真ん中でたたずむ女性は
あまりにも大人びた顔をして
夕日の空を見上げていた
まるで、あの時を振り返るかのように…
『あのー!すいません!ちょっといいですか?』
黒木はその女性の視線を遮るかのように
目の前に飛び込んだ。
『お、おう!なんだ急に?』
春先は驚き後ずさっている様である。
俺も走って向かう
『悪りぃな春先、ちょっと話がある』
『お、おう!真也か?!』
『こいつの話を聞いてやってくれ』
『は、はぁ…分かったよ』
黒木を見るとそこには
おもちゃを買ってもらう前の
駄々をこねる子供のような瞳で
まじまじと春先を見つめていた。
『まずひとーつ!』
黒木は大きく深呼吸をして
続けた
『あなた、真也くんの事が好きですね?』
そのセリフを聞いた途端
俺の中の怒りセンサーが明らかに
頂点手前に反応し、考えるよりも先に
感情が言葉を発する。
『はぁ?何言ってんだお前?!真面目にやれ!
ったく、春先すまない。』
ふと春先の顔を見るとそこには
顔を手で覆い隠し耳を明らかに真っ赤に染めた
春先がいた
『えっ?え?な、なんで急にそんな事…私に聞くんだ!』
え?何このリアクション
『好きなんでしょう〜?ねぇ〜好きなんでしょ〜』
黒木は煽るように下から顔を覗き込む
『や、やめてくれ!そ、そ、そんな事はない!
だ、誰が真也を好きになる!ち、ち、違うぞ!
真也!私は別にす、す、す、好きじゃ、、ないぞ!』
何このやり取り
てかその顔で言われても
説得力皆無だぞ…
とりあえず俺は話を元に戻す
『それより、黒木今は勧誘だろ?』
『あ、そうでした!』
黒木は再び深呼吸をして彼女の顔をみる
春先は少し恥ずかしそうに
手を外す
少しまだ赤らめた頬があらわになる
『春先さん!私たちとバンドを組みましょ?』
『え?』
『春先、あの時声を掛けなかったが実は俺たちは
軽音部を作ろうとしてるんだ。』
『軽音部?真也が?』
驚いた表情を浮かべる春先
『あぁ、あくまで仮だが…
このバンドにはドラムが必要なんだよ!
だから俺からも頼む一緒にバンドをやってくれ』
春先は少し笑顔にも似た
表情を浮かべ何か懐かしむように
空を見上げた
『私の事は真也は知ってるはずだ』
『あぁ、でも今も続けているんだろ?』
『あれな、実は嘘なんだ』
『え?』
俺は驚きを隠せなかった
これは嘘をつかれたと言う怒りからなんだろうか?
『私もな、怖いんだ…』
震えるような声で続けた
『でもさ、真也ってもしかしたらギター続けてたりするのかなって、それを考えたらちょっと自分が情けなくなって』
いや、俺は続けてなんかない
俺はずっと逃げてる
彼女の目からは彼女らしからぬ震えた声と共に
涙が落ちる。
『だからさ、嘘ついちゃったよ』
そりゃ俺にだってその気持ちは十二分に分かる。
嘘なんてつける方が
もしかしたらよっぽど立派かもしれない…
自分から逃げ続け
理由を作って情けない自分と向き合わなかった
俺なんかよりよっぽど…
『じゃあ、お前もうドラムは…』
『やるよ!私はやる!』
涙をぬぐい彼女は続ける
『真也はあんな事があっても逃げなかった
今も軽音部をやろうとしている。
ここで引き下がったら、
自分が何なのか分からなくなる』
あぁそういう事なんだろうか?
仮なんていって保険作って
結局逃げてるだけの自分と違う所は…
『だからさ、入るよ!私にもう一度
ドラムをやらせてくれ!』
じっと見ていた黒木は
ゆっくりと口を開ける
『分かりました!入部承りましたよー!』
俺は考えることを辞め今までの空気を
裂くかのような口調で話し始める。
『なら、入部届けだな!』
黒木は即座に走って校舎へ戻る
『ちょっと待っててー』
中庭には俺と春先だけ
ここまで色々な事がありすぎて
少し気まずい
『お、おい、何でこんな所で1人でいたんだ?』
『あぁ、それはその、実は…』
強張った顔をして春先は言った
『実は、最近よく、スカート?とかワンピース?
とかって言う会話が女子の会話で多いんだよ』
まぁそりゃ女子高生の会話は大体そうだろう
『真也、お前スカートって何かわかるか?』
え?
『お前、スカート知らないのか?』
つい
驚愕した表情を浮かべてしまう…
『そうだよ!知らないと会話が出来ないんだ!』
『いや、今時、絶滅危惧種だろ
女子高生でスカート知らないなんて!』
だが、途端に思い出した
こいつは中二まで恐らく音楽詰めの毎日だ
家族も結構なパンクロッカーらしいし
そう言う系統の話はしなかったんだろう
『はぁ…それは服の事だお前が今下に履いてる』
『あぁ!このヒラヒラした奴か!これスカートって言うんだな!』
『ってか、それくらい話してる女子に聞けばいいだろ?』
『あ〜、いや〜それは〜』
少し笑いながら春先は言う
『な、何かああ言う場で聞くのはさ
女子としてどうかと言いますか…』
そう言う謙虚な所ははあるのにな…
すると校舎の窓から黒木が叫ぶ声がした
『蓮菜ちゃ〜ん!入部届けだよー!』
『分かったー!すぐ行く!』
そう言って春先は校舎へと駆け出す。
拝啓
2年前の俺、
お前は色々な事があって多分
相当悩んでいるんだと思う、恐らくこれから
もっと大きな事が降りかかってくると思う。
俺は現にまだ成長出来たと言えるような
状態じゃない、
けど精一杯生きろ。
お前が精一杯生きてくれれば
今の俺は少し変われる気がするよ