説明会
トラックに轢かれたこと無いけど多分凄く痛いと思います。
想像するだけでゾッとしますよね…
想像しないようにしましょう。
「一度終わってしまった人生はやり直せません」
「しかし、新たに始める事はできます」
「そう…私ならね」
目の前には金髪の女性がまるでOLかのように服を着こなしカウンター越しにドヤ顔を決めこちらの様子を伺っていた。
「分かったからまずは状況を説明してくれ」
「あら…あなたまだ分からないの?」
まるで自分だけが今のこの状況を理解しているかのような素振りで前に立つ青年に問いかけた。
「死んだのよ?」
女神の一言ただそれだけで状況は理解出来た。
「…まじか」
「まじよ」
この空間に来るほんの数分前俺はコンビニで買い物をしていて
その帰りに道路の真ん中に怯えて丸まっていた一匹の猫を助けた…そこまでは覚えているが以降は覚えていない。
「猫を助けるが故に周りの状況を見なさ過ぎよ」
「あなたはトラックに轢かれ即死、猫も残念ながら」
女神は以降の状況を説明し始め一冊の「神谷 新一」と書かれた本を取り出した。
「それって俺の…」
「これはあなたが死んだ理由が書かれた本よ」
「死んだ理由?だって俺はトラックに」
「それは…」
女神が話の途中で真剣な表情で割り込んできた。
「悪性の死か良性の死か」
「悪性?良性??」
あまり聞き慣れない言葉に首を傾げると女神は淡々と説明を始めた。
「そう、悪性は前世あるいは現世にて良い行いをしなかった者に与えられる性質よ」
「良性はその逆ね」
「その性質により死を迎えた者の次の一生が決まるわ」
「悪性は生まれ変わると辛く長い人生が始まる…その一生で悪しき事をしなかったと判断された場合、次の人生は良性として生まれ変わる」
「その逆も有りうると言う事ね」
「希に悪性のまま悪性になる者も居るわ」
「要はこの本を見て性質を知っとかないと今後の手続きが出来ないってこと!」
女神の話はそこで終わった。
この空間には声以外の音は聞こえないがあまり心地の良い静寂ではなかった。
「ちなみにあなたの死の理由は…」
女神が本を開きパラパラとページを探し始めた。
「猫を助けたが不注意によりトラックに轢かれた事による死亡」
「はぁ…なんで死んだのに安心してるんだろう俺」
「ちなみに何だけど猫の方は前世は悪性だったようだけども…その後が無いわね…生きてたのかしら?」
「まぁ生きてるならそれでいいんじゃないかな?」
「そうね!」
女神はニッコリと笑顔を見せた。
「さぁ!そうと決まれば手続きの開始よ!」
女神が指を鳴らすと目の前に椅子と机と大量の書類が召喚された。
「な、なんだこれ」
「私たちの間で必要な手続きよ?」
「神様と言っても私は受付みたいな存在だし?」
女神はちゃんと書類が揃っているか確認を始めた。
「お前ほんとに女神か?」
座ってと言われ椅子に腰を掛け一枚の書類に目を置いた。
一神会入会登録申請書一
「なにこれ」
「さぁさぁ!まずはこの神会入会登録を…」
「ちょっと待った!なんだのその怪しい宗教団体みたいなやつ!」
「し、失礼ね!これは良性から良性に生まれ変わった真良の者にしか案内を許されていない特別な物なんだからね!しかも!今なら入会特典で…」
「ますます怪しく聞こえるは!!!」
まるでマルチ商法かのような誘い文句でぐいっとこちらに顔を近づけてきた。
その目は獲物を逃さない獣の目をしてるのに気づいているのは一人だけかもしれない。
「まずは入会してもらわないと手続きが進まないから早く!」
半ば強引に登録をされ晴れて神会の会員に…。
その後、大量の書類を読んでは署名、読んでは署名を繰り返しその数二十回。
「おつかれさま!」
「あぁ…う、腕が死ぬ…」
あ、もう死んでるんだっけ。
「登録申請書に個人情報保護の同意書に転生後の保険等の案内に神会規則の遵守誓約書に…」
女神が二十枚にも及ぶ書類に目を通し漏れが無いか確認を済ませそれらを一纏めにした。
「とりあえずはOKね!あと最後に」
「まだあんのかよ…」
ついため息が出てしまったが女神さまはそんな事にはお構いなしに一枚の紙を取り出し机に出して見せた。
「これだけ選んでちょうだい!」
その出された紙には
一転生方法の選択一
つよくてにゅーげーむ
はじめから
だけが書かれており「なにこれ?」と、あまりにもありきたりで当然のような疑問の言葉を発してしまった。
「見ての通り!転生の仕方を選ぶのよ!」
「その内容を聞いてるんだよ!」
女神が全く同じの質問をするもんだから思わず突っ込まざるをえなかった。
「これ、明確な違いとかあるのか?」
「つよくてにゅーげーむを選ぶとちょっと強くなって別の世界へ転移するわ!」
「はじめからを選ぶと同じ世界で一から人生を始めるわ!」
漂うモブ臭を嗅ぎながら女神の説明を聞いた。
「ちなみに強さは上の人達が決めるから勘弁ね!」
「なんだよその仕組みは!!」
「あと、入会特典も付いてくるからつよくて(ryをお勧めするわよ!!」
女神は目をキラキラさせながら転移する方をしきりに案内してきた。
「お前...もしかして期間限定キャンペーンみたいなのあるだろ」
その言葉に女神は一瞬体が固まった。
「ま、まさか...そんな訳...な、ないわよ?ホホホ」
図星だったようで全く視線を合わせようとしなかった。
おまけに下手くそな口笛まで披露してくれた。
「お前なぁ、俺の新たな人生なんだから少しは真剣に考えてくれよなぁ」
「豪華な特典なんて言われたら仕方ないでしょ!!」
お前、今、さらっと、本音が出たよな。
「はぁ...仕方ないなぁ死んでしまったけどこの体でまだまだ生きてみたいし、その異世界ってのも
気なるしいっちょ転移してみるかな!」
その言葉を聞いて女神はパァっと明るい表情に戻りギュッと手を握ってきた。
「ありがとう!その言葉が欲しかったの!」
紙には「つよくてにゅーげーむ」に丸がされており決定の印が押されていた。
「くぅぅ!これで期間限定の装備が手に入るわ!」
「一応聞くが俺にもちゃんと還元してくれんだろうなぁ?」
「大丈夫よ!あなたにもちゃーんと用意するわ!」
ウキウキの女神は全ての書類は纏め指を鳴らした、すると書類一式は光の粉となって消えていった。
「これで手続きは終了よ!もうすぐ上からの結果が来ると思うからちょっと待ってね!」
「今までにないテンションの上がりようだな...」
そうこうしてるうちに少し大きめの箱が上から降ってきた。
「なんだこれ?」
「きたきた!」
女神は箱を開けガサゴソと何かを取り出した。
「これはあなたに必要な物よ」
一枚のカードらしき物を授かった。
―プロフカード―
名前:カミヤシンイチ
職業:人間
ステータス:全体的に普通よりちょっと強い位だから割愛
「適当過ぎない?」
「向こうの世界の身分証みたいな物らしいから大事にね!」
女神は箱から次々と物を取り出す。
「これは私のやつね、これもこれも」
「おい、お前の物しか無いんじゃないか?」
「まさかぁ!ほら!これはあなたのよ!」
女神は一本の剣を取り出した。
その剣は鞘は白く縁は金色で施されていて鍔は翼を思わせるかのような施しがしており、
柄は淡い青と白の線状の模様が交差しており、柄頭には控えめに狼のエンブレムがはめ込んでいた。
「なんか見た目が完全に聖剣っぽくて強そう...」
剣を手に取りずっしりとした重量感を体感した。
「おも...これ使えんのかぁ?」
「今はまだ現世だからねぇ、あっちに行ったら適正でもつくんじゃなーい?」
箱を漁りながらそれとなく答えた女神にため息が出てしまった。
「さ!いよいよ転移ね!今は強さとかは実感できないけど”あっち”に行ったらわかるかもね!」
「武器だけしかもらって無いの凄く心配なんだけど...」
「それは私に言われてもねぇ...ともあれ始めるわよ!」
「うい~」
「これ持って!」
女神の手には一枚の小さめの紙が握られておりそれを直接手渡され事前に用意されていた魔法陣の中へと入る。
「さぁ唱えなさい!」
「唱える?」
「ダイレクト・テレポーテーション!」
「え...なにそれダサい」
とてもありきたりな詠唱で拍子が抜けてしまったのかつい言葉が出てしまった。
「いいから!唱えなさい!」
「だ...だいれくと。てれぽーてーしょん」
恥ずかしがりながらも唱えた詠唱はちゃんと効力を発揮し魔法が発動してくれた。
魔法陣が白くまぶしく光はじめ頭上には幾重にも重なった複雑な魔法陣は現れた。
「あーちなみに私の名前はスクルト覚えてね!」
「今更言うなs...」
最後の言葉を発する前に魔法が完全に発動し一瞬にして一人の男性が消えた。
「女神の加護がありますように...」
女神スクルトは静かに彼の無事を祈った。
「神会入会して頂きありがとうございます!」
「いや、名前怪しすぎかよ」
「私たちは善良な者により良い人生を送って頂くために作られました!」
「…」
「入会特典で転生後、聖書が送られます!さらに!一年分の食料や生活必需品!さらにさらに!」
「もういいよ」
次回、「転生後の世界」