反社とアニメが同列で出てくる状況ってなんだろうと考える間もなく僕はメイド喫茶に行くことになった、しかもあくまでも僕が主体的に行くという体にして
「部長〜、待ってたよ」
「社長、どうしたんですか。平日のコアタイムに」
違和感なく聞いていたけれども、marusanの村木社長と花井部長の会話がとてもおかしいことに僕らはすぐ気づいた。ユウリがつっこむ。
「あの、花井部長はここでも部長って呼ばれてるんですか?」
「ん? 彼女はうちの営業推進担当部長だけど?」
「ええっ?」
僕とユウリが同時に声を上げると花井部長が解説する。
「とりあえず正式入社するまでの間、平日の早朝・深夜と休日に勤務する特任部長っていう形で契約してるのよ」
「すごい・・・」
「すごくないよ。零細だから慢性的に人手不足なんで学生の分際のわたしがバイトで部長やってるだけでむしろ恥ずかしい話だよ。ねえ社長」
「弁解の言葉もない」
「で、社長、一体どうしたんですか」
「『マフィアとサブカルチャーの不適切な関係』って特集組んでたでしょ」
「ああ。ニューヨークのチンピラが魔法少女のタトゥーをしてるネット画像見つけて来て社長がでっち上げた特集ですね」
なんだそれ。
「あれ、マジだったんだ」
「はい?」
「だから、そのタトゥーをしてるのが、実はほんとにマフィアだったんだよ。ガラの悪いアニメファンって訳じゃなくって」
「どこの誰だったんですか」
「ニューヨークにあるスミザリーン組っていうマフィアのボスだったんだよ」
「どうして分かったんですか」
「ほら、これ」
『わたしはスミザリーンというファミリーの責任者でガトリングとゆー者です。貴社の刊行した『マフィアの愛したアニメ』に非常に困惑している。わたしはとてもハートブレイクしたので精神的回復をはかりたい。ついては先立つものが必要です。ご連絡くださいませ』
プリントアウトしたメールには所々おかしい部分があるけれども一応日本語で書かれている。
「なんですか、これ?」
「え。ガトリングってボスの脅迫状でしょ」
「脅迫状って、社長・・・警察には?」
「一応相談したんだけど、『民事不介入』で対応は難しいって。ただ、構成員10人の同名の組織がニューヨークにあってボスの名前も同名だとは教えてくれた」」
「民事不介入・・・まあ、確かに。文面だけ見たら『ファミリー』もいわゆる組織じゃなくって純粋なファミリーと読めますし、『先立つものが必要』って言っても金銭の要求と断定もできませんし。それより、ヒロオくん、ユウリちゃん。このボス、『ガトリング』だって」
「はい。ガットリング砲も開発者の名前からつけた名称ですから、ガトリングって人は、まあいるでしょうね」
「でも、偶然にも程があるよね」
「どうしよう、部長」
「どうしようって・・・社長はどうされたいんですか」
「どうするかを部長に相談したい。あ、すみません、若者お二人にお茶も出さずに」
「社長。お茶を出す気遣いがあるなら、『チェリッシュ』に連れてってください。そこで打ち合わせしましょう。ヒロオくんがメイド喫茶に行きたいそうなんですよ」
「え⁈ 僕というか、ユウリが・・・」
「人のせいにするな‼︎」
ユウリが大きな声を出すと花井部長が僕に諭すように囁きかけて来た。
「ヒロオくん。大徹さんと命がけで戦ったんでしょ? 男らしくはっきり言いなよ。武士らしくさあ」
「う・・・わかりました。僕はメイド喫茶に行ってみたいです」
「もっと具体的に‼︎」
「僕はメイド喫茶に行って、『お帰りなさいませ、ご主人様ぁ』って言ってもらいたいです‼︎」
言った後でユウリと花井部長が、『うん男らしい』、とわざとらしく褒め称えてくれた。ただ、社長はこんな風に呟いた。
「あ・・・ヒロオくんはそっち系か」
「そっち系って・・・」
「ヒロオくんの嗜好には合わないかもね」