来るつもりはなかったんだけどとうとう来てしまったよアキバに、青い目をしたメイドさんも公共の道路を闊歩してるし東京ってやだな
長谷ちゃんに見舞いのプリンを置いて僕らは寮を出た。
花井部長と並んでビルが立ち並ぶ通りを歩く。
「ところで2人はこれからどうするの?」
「秋葉原にでも行こうかと思ってます」
「お。それなら、marusanに行かない?」
「あの。marusanてサブカルチャーの本ばっかり出してる出版社ですよね。さっき断りのメールを入れてた」
「そうだよ。生意気にも本社は秋葉原にあるんだよね」
「さっき打ち合わせ断るって言ってましたけど」
「うん。かわいそうだからちょっと寄ってこうかと思って。もしよかったらどう?」
「嬉しいんですけど、部長と marusanってどんな関係なんですか?」
「来年そこに入社するんだ、わたし」
「え⁈ ガトリングコミッティーには『大手出版社から奇跡の内定』って書いてありましたけど」
「ああ。大手の方が滑り止め。もしかして、『零細出版社なんて』っていう先入観持ってる?」
「い、いえ、そんな訳じゃないんですけど」
ユウリは慎重に言葉を選んで会話してる。花井部長に嫌われたくないんだな。
「ふふ。ユウリちゃんの心配も分かるよ。現実給与面は最悪。でもそれは現時点での話。仕事するからには倒産阻止どころか『異端文化の担い手』完全復活を目指して頑張るよ。それにmarusanならわたしのやりたいことをどんどん具体化できるちょうどいい規模」
「やっぱり部長ってすごいんですね」
5分ほどで秋葉原に着いた。
「うわ。ほんとに近いんですね」
僕が感動してるとユウリが茶々を入れる。
「ほら、ヒロオ。メイドさんがビラを配ってるよ」
見ると明るい紺のメイド服を着、ブルーのカラーコンタクトを装着した女の子(? 年齢不詳)が、修学旅行風の中学生とスマホで撮影していた。
「確かにかわいいもんね。興味あるでしょお〜」
「無いとは言い切れない」
「あ。ヒロオくん。それならちょうどいいよ。marusanの入ってるビルの2階がメイド喫茶だから後で行く?」
「え」
「行きます‼︎」
僕がもじもじしている間にユウリが即答した。