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セクハラに対して鬼神の如く対処する彼女を評価すべきかどうか僕は判断しかねていたけど、当の本人たちが日常のように事を収束させるのが結構衝撃だな、僕は

長谷ちゃんは『タイシとシナリ』の概要と執筆状況を話してくれた。


「モチーフはもちろん、大徹さんの掛け軸。銃剣を持った肖像画。武士、だもんね。本物の」

「長谷ちゃんは僕の話、信じて下さるんですか?」

「信じるも何も、事実だよね? ヒロオくんとユウリちゃんを見ていてわたしは分かったの。それに、わたしが信じようが信じまいが、大徹さんが戦った事実、そして2人が大徹さんを手助けしてくれた事実は厳然たる史実となって残ったんだもん」


花井部長が微笑んで全員に語る。


「事実って言ってそれでも文句いう人間がいたらわたしがぶっ飛ばしてあげるよ。だってそうでしょ? 今こうしてこの四畳半でみんなで話しているこの瞬間だって、『史実』として残るんだから」

「部長。わたし、ようやくラストが決まりました」

「お。そう?」

「はい。ヒロオくんとユウリちゃんは、タイシとシナリっていうわたしの理想の少年少女そのまんまです。だから、この2人が下した決断、そして実行したこと、2人だったらこうするだろう、ってことを考えて、『タイシとシナリ』のラストを書き上げます。ありがとう、ヒロオくん、ユウリちゃん」


僕とユウリが照れ笑いをしていると、壁が、ドン、と大きな音を立てた。続いて野太い声がする。


「おい、長谷‼︎ 早く昼飯持ってこいよ‼︎」

「あ、丘藻オカモ先輩。すみません今持って行きます」

「長谷ちゃん、オカモの奴今でも飯作れなんて言ってるの?」

「え、はい。オカモ先輩とモリリョウ先輩とシマシ先輩がこの間から合宿してて。すごくお腹が空くみたいで。わたしいつも多めにおかず作ってるので別に構わないんです」

「そういう問題じゃないよ、長谷ちゃん」


僕らは状況を掴みかね、たまらず質問した。


「ちょちょ、ここって女子寮じゃないんですか?」

「そんな余裕うちの大学にないから。男女ごちゃまぜでぶちこんでるんだよ」

「長谷ちゃん、平気なんですか?」

「え? 別に平気だよ〜。他にも女子いるし。あ、でも夜中に男子に忍び込まれそうになって親御さんが訴訟起こして出てったから今はわたし1人かー」


びっくり。

花井部長が隣の部屋に乗り込んで行った様子が聞こえてきて、更にびっくり。


『オカモー、テメー‼︎』

『わ‼︎ 花井・・・さん』

『てめーら内定取れたのかよ』

『全滅だから対策に合宿張ってるんだよ』

『ゲーム合宿のどこが対策なんだよ‼︎』


ガシャン、と何かが床に叩きつけられた音がする。ゲームに罪はない。


『花井・・・さん、やっていいことと悪いことがあるぞ‼︎』

『うるせー、後輩にセクハラするてめーらの風評のせいでただでさえ低い内定率が更に下がるんだよ‼︎ 他の学生の迷惑も考えろ‼︎』

『女だと思って優しくしてりゃつけあがりやがって。花井・・・さん、こうしてやる‼︎』

『どうするってんだ‼︎』


さすがに僕は心配になった。そして長谷ちゃんに申し出た。


「あの、助けに行った方がいいですよね?」

「え? オカモ先輩を?」


長谷ちゃんの意味不明の反応を聞いた後、規則的な破壊音が聞こえてきた。

そしてフィルインも混じる。


『オカモー‼︎』

『やめてくれ‼︎ 花井・・・さん』

『モリリョウ‼︎』

『くそー‼︎ 花井・・・さん』

『シマシー‼︎』

『殺してやる‼︎ 花井・・・さん』


打撃音と破壊音が治った。


「甲斐性なしどもが〜」


息も上がらずに戻ってきた花井部長にユウリが駆け寄って訊いた。


「あの、大丈夫ですか⁈」

「え? うん、就職活動続けられるぐらいには手加減しといたから大丈夫だよ」


僕は。

セクハラ男子3人がどんな過酷な状況に陥っても、『さん』付で呼ばれ続けた花井部長が心底恐ろしかった。




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