渋すぎる経営の本質を僕らは目の当たりにした、この『カネカシ大学』の実態を聞いて、でもそんなことどうでもいいからもっとマシなランチを食べたかった
「とりあえずお昼食べよう」
僕らは朝イチの新幹線に飛び乗り、東京駅で慣れない人混みに巻き込まれたあと、田舎者の悲しさ、JRにすっと乗ればいいものをどういうわけか地下鉄に乗ってしまい、訳もわからず神保町で降りた。ついつい本屋をうろうろしてそれからスマホの画面を2人して覗き込んでああでもないこうでもないと罵り合いなながらようやくここまでたどり着いたのだ。正確な位置関係ははっきり認識できないけれど、どうもアキバの至近距離らしい。
そんな訳で腹が減ってより凶暴になりそうな状況だったのだ。そして、ユウリは既に凶暴化していた。
「ヒロオ‼︎」
「は、はいっ‼︎」
「これが、学食⁉︎」
「た、多分・・・」
「ふざけんな‼︎」
ユウリの怒りはもっともだ。
近年の大学の学食といえば、外界をはるかに凌ぐ豪華で贅沢でおしゃれな店が入り、コストパフォーマンスも民業圧迫ではではないかと思えるぐらいに学生に媚びた値段設定となっている。そして近隣部外者もその恩恵に預かっているという情報しか僕らは持ち合わせていなかった。
「確かに安いわよ? 安いけど、こんなの当たり前じゃない」
僕とユウリはベンダーで買ったカップラーメンをすすっている。とどめを刺すようにユウリが怒鳴った。
「定価なんだから‼︎」
粗末な事務用の折り畳み机が並べられたこの一角で数人の学生がやはりカップラーメンをすすっている。その内の男女2人が僕らのテーブルに近づいて来た。
「何、キミら学外の人?」
「は、はい」
「若いわねえ。もしかして高校生?」
「えーと。はい、そうです」
「あれか。オープンキャンパスか」
「まあ、そんなようなもんです」
「悪いことは言わないわ。絶対この大学に入っちゃダメよ」
「え?」
僕とユウリが同時に声を出す。
「どうしてですか?」
ユウリはつい反射で訊く。ちょっと化粧がきつめの女子学生が愚痴のように説明し始めた。
「あのね、意外にもここの文学部って偏差値高いの知ってた?」
「あ、そうなんですか」
「そう。わたしもそれに騙されて入ったのよ。ほら、高校生って受験をスポーツかなんかみたいに考えてさ、偏差値高い大学を強いチームみたいにランクづけしがちじゃない」
「一年生なんでまだ分かんないですけど」
「え? 高1なの? どうりで若い訳だわ。それはいいとして、わたしの受験の年って何人受けたと思う?」
想像がつかない。2人して、さあ? というジェスチャーをした。
「5人よ」
「え、ええっ⁉︎」
「その中に突然変異みたいに優秀な奴がいたのよ。そいつ、センター試験で九割五分の得点率だったから」
「え・・・東大医学部とか法学部のレベルですよね。どうしてまた」
「知らないわよ。とにかく分母が小さすぎるから1人そんな奴がいるとデータは異常値になるわよね。わたしも直前の志望者の偏差値データだけ見て人数まで考えが及ばなかったのよ」
「キミら、学生数何人だと思う?」
今度はややおじさんくさい男子学生が問いかけてきた。同じようにわからないというジェスチャーをした。
「200人だよ」
「一学年200人じゃ、少ないですね」
「違うよ、全学部全学年、大学院生まで入れて200人だよ」
「・・・そんなんで大学経営ってできるんですか?」
「だから経費削減して学食もこのザマさ。校舎だって、幼稚園が移転するときに格安で譲ってもらったのを改修してさ」
小学校ですらなかったのか。もはやどうでもいいので、ユウリが本題に迫った。
「あの、その超優秀な人ってなんて名前ですか?」
「花井ってのよ」
いきなりキター‼︎ 奇跡だ‼︎・・・っていうか、200人ならあっという間だったよね、別にこの人たちに聞かなくても。