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ミツキさんとガトリングのやり取りは激しくそして神聖なものであったよ、僕は感動すら覚えるよ

シュルっ、という音がし、カン・カ・カン、という音が床を転がった。


「あ、催涙弾⁈」


瞬間、ミツキさんが思いもよらない俊敏さで立ち上がり、催涙ガスを噴出している弾をヒールのある靴で外へ蹴り返した。そして返す動きで食器棚を力任せに引き動かしてガシャン、とドアに叩きつけ、店の出入り口を塞いだ。

一同、度肝を抜かれる。


「警察はまだ邪魔でございます」


そう言ってミツキさんは何事もなかったような淑やかな歩みでテーブルに再び着席した。


「さ、ガトリング様、どうぞ続きをお話しくださいませ」

「・・・貴女様は素晴らしい女性でございますことですね」

「いえ、わたしはメイドとしての職務に忠実なだけの女でございます」


外から警察がスピーカーで英語でガトリングに対し説得を始めたが、それはそのまま放っておく。


「配偶者は息女の死から立ち直れずに重篤なうつ病となり、私たちは離婚したのでございました。私は社会人としての空虚な責任などではなく、人間としての義務を果たすために脱サラしてマフィアとなりました。私は最短距離にて私自身の意向を通す組織を確保いたしますために、スミザリーンという既存のマフィア組織を破格の安値で買収いたしました。なぜ安かったかというと、直前の抗争で構成員が全員が死傷し、残ったボロボロの事務所と組織の名前だけを年老いたスミザリーン親分から購入できたからでございます」


外では警察以外の観衆の喧騒が聞こえ始める。確かに自分たちさえ安全地帯にいればごく刺激的なイベントとは言えるのだろう。


「翌日から早速構成員のスカウトを始めました。採用の条件はたった1つ。『いじめられっ子であること』」


ミツキさんが深く深く頷いた。


「10人の構成員全員が若く、そしていじめられっ子です。しかも並大抵のいじめではなく、ここにいる4人も生死に関わるようないじめの体験をしておるのでございます。そして、私が断言いたしますことには。本当に暴力のプロと呼べる人間は、暴力を振るう側ではなく、振るわれる側から生まれる、と」

「わたしが恐れという感覚を持たなくなったのも、今ガトリング様がおっしゃったことと同じと思います」

「貴女様の行動は暴力ではありませんですが、冷静さと躊躇がないと申します部分とはまさしくここにいるこの4人の子らと同類のものでありますと思料いたす次第です。そして、私たちは間違っているか正しいかという基準には特に配慮せずして、いじめに類する行為を行っておる組織・・・そのような組織は隙が生まれやすいのでございます・・・そういう企業や場合によっては学校、それこそ教師集団が腐敗した小学校というような組織をカモにして、サラリーマン時代の金融・商流といった知識を武器に、モチベーションを共にするいじめられっ子であるこの子らと活動して参ったのでございました。反社会的勢力でありますから、当然に銃も使いながら、我々の意向を社会の中で押し通してきたのでございます。そして、最後に大切なことを貴女様にお伝えします」

「はい」

「魔法少女ギガを観ることは、いじめられる息女の唯一心安らぐ時間だったのでございました。この日本のアニメは瞬間だけでも息女を苦しみから解放してくれたものでありましたのです。ですからマフィアとなった私は魔法少女ギガのタトゥーを右手の甲にいたしました。いくつかの反社会的交渉の中で最初このタトゥーを嘲笑した者が最後には死にたくないと私に懇願する顔。その表情の落差を見て、いじめを根絶する手応えを感じるような、私は冷酷で無慈悲な犯罪者なのでございます。貴女様」

「はい、ガトリング様」

「私は神の許しなどには全く興味のない人間でございますのです。ではありますが、できうればこの質問を貴女様にいたしたいのでございます」

「ガトリング様、何なりと」

「貴女様は、私を、お許しくださいますか?」


ミツキさんはガトリングの目の奥をまっすぐに見つめた。彼女は彼の目の深奥の満月を視認した。


「はい、ガトリング様。わたしはあなたを許します」


ガッ、と食器棚がズレて、2弾目の催涙弾が撃ち込まれた。


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