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ガトリングという一個の親の本質を僕らは目の当たりにし、ただただその鬼気迫る凄まじさに圧倒されるしかなかった

「アメリカは自由の国であります。そして個人の尊厳というものを何よりも重んじる社会のはずでございまして。私の尊父と尊母とは北欧からの移民でありましたのでございますが、アメリカ合衆国の国柄と申しますか国風と申しますかそういうものに魅了されまして渡米というものをしてみたのでございました」


ミツキさんがこくっと1つ頷く。


「尊父・尊母ともクレバーな類の人々であったものでしたから、キャリアアップをしながら2人ながら民間企業のいわゆる管理職として懸命に働いたものでございました。私もその姿を見ながら養育されたものでしたから、自然と民間企業での仕事を嗜好しました。日本ではいうところの『勤め人』となったのでございます」

「その・・・ガトリング様は最初はサラリーマンでいらしたのですか?」

「はい、そうでございます。私はいわゆる日本的な伝統である『脱サラ』というものを敢行しましてマフィアになったのでございました」

「どういうご事情がおありだったのですか?」

「それがこの魔法少女ギガのタトゥーと関わる話なのでございます。実のところを申しますと私には息女がおりました」

「お嬢様が、ですか」

「そうでございます。実父である私が申すのも憚られるとは思うのではありますが、非常な利発な女子で、容姿も甚だ愛くるしい息女でありました。ただ、ええとこれは日本語訳が少し難しいのですが・・・」


ガトリングはおもむろにスーツの内ポケットから日本製の電子辞書を取り出して何やら検索し始めた。


「おお。ありました。息女は『膠原病こうげんびょう』だったのでございました」

「『膠原病』、ですか」

「はい。関節症など症状は様々ございますのでありますが、息女の場合は免疫力の低下を伴っており、あまり長くは生きられないだろうと医師からは言われていたのでございました。ではありましたのですが、息女は日常の生活もなんとかこなし、本人の強い希望もあったものでございましたので、一般の公立小学校に入学いたしました」

「そうだったのですか・・・」

「やや身長が低いことと体育の授業にほとんど参加できないことからいじめられることは事実としてありました。私も配偶者も正義感が強いことと息女をなんとか守ろうという意識もあったものでございますから学校側とも相談しながら、いじめを行う生徒たちともディスカッションを重ねました。私たちは実父・実母としての責任を果たしているものと満足してしまっておったのかもしれません。息女が10歳の時のことでした。決定的な出来事が起こったのでございました」


ガトリングが冷水のグラスを握る手の筋がピクピクと盛り上がるのをその場の全員が視認した。グラスを握り割らん程の力が込められているのが分かった。

ミツキさんが、柔かな言葉をかける。


「ガトリング様、お辛ければ途中でおよしになってもよろしいのですよ」


ミツキさんの言葉にガトリングの筋肉のこわばりが消えた。


「いえ。続けます。冷静さを保ちまして息女に発生しました事実のみをごく淡々とお話しします。

息女は、殺されたのでございました」

「え?」

「学校で、です。息女が救急搬送されたという連絡を学校から受けまして病院に駆けつけましたところ、息女は既に心肺停止の状態でございまして蘇生の可能性はもはやないと医師から告げられたのでありました」

「お亡くなりになったのですか・・・」

「はい。私と配偶者とは涙が流れるままにしておいた状態のまま原因究明を行なおうという努力をいたしましたのでありました。目撃情報を収集いたしましたが、その日息女が誰かから殴打されたり打撃を受けたりという情報を得ることができませんでした。その代わり、有力な情報として珍奇な話を息女と仲良くしてくれた数少ない女子生徒から聞くことができました。それはこういうものでした」


ガトリングは一口冷水を飲んだ。


「息女が男女5人の生徒と立ち話をしていたというのでございます。そして生徒たちが激笑いというのでございましょうか、大きな声を出して笑ったのだそうでございます。その瞬間に息女の髪の毛が逆立った、と目撃者は証言いたしました」

「髪の毛が、逆立ったんですか?」

「はい。私はこれは比喩表現ではないと考えたのでありました。実際に息女の髪の毛が中空に向けてピン、と総毛立ったと」

「そんなことがあるんでしょうか」


ガトリングが再び冷静さを失いつつある口調になって反応する。


「紛れもない事実と私は考えるものでございます‼︎ 現実としてその直後に息女がふうっと倒れたと女子生徒は証言しておりまして、これらのことを持って私はこう断定するものでございます。

『息女は、言葉だけで殺された』、と‼︎」


一同、静粛。そのままガトリングの言葉を待つ。


「言葉だけで人間を殺すという物理的現象が生じるとした場合でございますが、この世のものとは思えない罵りを投げつけるのでない限りこのようなことは起こりえないものであろうと私は推測いたすものであります。死ぬほどに汚い言葉だったのか、死ぬほどに猥雑な言葉だったのか、あるいは死ぬほどに冷酷な言葉だったのか」


ガトリングの、今度はこめかみの血管が破裂しそうなぐらいに浮き上がってきたのを、全員が視認した。


「ディスカッションなど・・・実父の『責任』などという生ちょろいものではなくして、一個の生物の親として息女を守るという『義務』を果たさなかったことを・・・それこそ、いじめを行う輩どもを殺してでも義務を果たすべきであったということを、私は後悔に後悔を重ねて今日まで生きて参ったのでございました‼︎」


ドン、とガトリングは両拳でテーブルを叩きつけた。

彼は、悪鬼の顔となっていた。



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