火器に面と向かうのはガットリング砲と対峙した戦場以来だよ、どうして僕もユウリもこの短期間にこんな状況に再度陥るんだろうまったく
客観的に考えれば、今の状況はコントだ。
手の甲に魔法少女のタトゥーを持つマフィア。
そのマフィアが丁寧すぎるために不自然な日本語で、自らの恥ずかしい嗜好を話している。
まるで冗談のような状況に笑いで反応する花井部長が正しいのかもしれなかった。
彼がそれを出すまでは。
「凍結」
日本語で言われ、思わず無反応でいたけれども、それを見て意訳できた。いや、むしろ英訳できた。
『フリーズ』
ガトリングはそう言いたかったのだ。彼の右手には一丁のコンパクトなリボルバーが握り込まれていた。銃口にはサイレンサーが装着されている。
「あ、銃⁈」
「本物⁈」
僕は非常に感心した。
メイド風さんたちが口々にこう言ったのだ。余程心に余裕がないとこんな表現方法での発言は出て来ない。けれどもガトリングはこう続けた。
「残念なことではありますが、これは本物なのでございます」
そして躊躇なく行動した。
ピシュ‼︎
半身のまま体を90度捻って発砲した。
レジ脇の花瓶が、ポン、と割れた。
この連動した動きを見てガトリングが冷徹で迷わずに他人に危害を加えることができる人物だということが嫌という程理解できた。
「私は犯罪のプロであります。本来でございましたら、このような検挙されます危険率の高い行動はとらないのが常でございます。ではありますが、私の根元に関わります魔法少女ギガのタトゥーを極めて物見遊山的に取り扱われたことは極めて遺憾でございまして、このような感情に任せた行動を取らざるを得なかったのでございます」
「見られて困るなら魔法少女ギガのタトゥーなんかしなけりゃいいじゃない」
花井部長だ。
「あ、ダメだ‼︎」
叫んで僕は彼女のセリフが終わるか終わらないかの内に彼女に飛びついて体をずらした。
ピシュ‼︎
彼女が立っていた背後の壁に弾痕が刻まれた。
「あなた様は甚だ美形の女性ではありますが、殊更に虫酸が走るのでございます」
僕らとメイド風さんとスタッフの他に男性客が3人いる。
全員、直立不動で顔が真っ白になっている。
パニックを起こすことすらできない。
錯乱を言い訳に許してくれるような相手ではないということを全員が思い知らされた。
ついに花井部長も黙ってしまった。
「あの、ガトリング様」
緊迫した空気をグニュっと温めるような声が響いた。
『ミツキさん?』
「ガトリング様はどうしてそのタトゥーをする決心をなさったのでございますか」
銃口を向けられたままなのに、まるでお構いなしに、ミツキさんはゆっくりと彼に歩み寄って行った。