冬の女王とダイエット大作戦!?
今日は季節の変わり目の日。
冬の女王が塔の外にでて、春の女王が中に入る。
たったそれだけのことでした。
「お疲れー。
交代に来たわよ!」
春の女王が塔の扉を叩きますが、返事がありません。
試しに扉を押してみると、キィと音を立てて簡単に開きました。
「ちょっと、何して … …」
彼女は言葉の途中で口をぽっかりと開け、驚きに目を丸くしました。
それもそのはず。
そこには変わり果てた冬の女王の姿があったからです。
「ちょっと、なにそれ。
だ、大丈夫 … …ぶふっ。」
笑いをこらえながら、春の女王は問いかけます。
「見ないでよぉ……。」
冬の女王はくぐもった声で答えました。
彼女はめきめきと音を立てながら起き上がると、
「ぶふぅ」
と苦しそうに息をつき、
「何もすることがなくて食べすぎちゃって……。
こんなんじゃ外に出れないわ」
悲しそうな顔で言いました。
「いや、つーかそもそも扉くぐれんのか?
それで」
「失礼ね、そこまでじゃないわよ」
冬の女王は手下の雪だるまに体を押されながら、扉の方へ歩いていきます。
彼女が扉を潜ろうとすると、めきっという音がしました。
「まじでか……」
「そんな……」
春の女王が言ったとおり、冬の女王は太りすぎて外へ出ることができなくなっていました。
「ちょ、これどうすんだよ。
交代できないじゃんか!」
「私に言われても……」
こうなったら手段は一つしかありません。
「ダイエットだ!」
こうして、冬の女王のダイエットが始まったのです。
/*****/
まず春の女王が、ダイエットの作戦を考えました。
「要は食べるから太るんだよ。
一日のカロリーを500キロカロリー以内に抑えるぞ」
「えいえいおー!」
冬の女王も乗り気です。
朝食はバナナ一本、昼は豆腐のハンバーグ、夜は湯豆腐という低カロリーな食事です。
「痩せないわねぇ……。」
「ほんとだな。
何で痩せないんだよ」
かれこれ一ヶ月も低カロリーな食事をしているのに、一向に痩せる気配がありません。
むしろ一回り大きくなった気すらしていました。
「なんか余計なもん食べてないだろうな」
「そ、そんなことないわよー」
二人で首をかしげます。
なにか隠してるのではないかと、春の女王は塔をすみずみまで調べました。
ベットの中、本棚の後ろ、トイレまで……。
しかし、ポテチの袋やコーラの缶といったようなものは見つかりませんでした。
「うーん。」
しばらく悩んでいた春の女王でしたが、ふとなにかを見つけ拾いあげました。
「これは……!?」
彼女は拾い上げたものをポケットにしまうと、にやりと口元をゆがめました。
その日の夜。
「ばれてないわね。」
冬の女王はこっそりと塔の窓を開けると、外へ向かって手招きをします。
するとなんと!
雪だるまたちが食べ物を持って入ってくるではありませんか。
ピザ、コーラ、ポテトチップス、ラーメン……。
ところ狭しと、見るだけでも胸焼けしそうなメニューが並びます。
「いっただきまーす!」
「待ったぁ!!」
バーン!
そこへ、何処に隠れていたのか、春の女王がドアを蹴破ってあらわれました。
「ああ!?」
春の女王の手下である妖精たちが、料理を外へ運び出していきます。
「そんな……。」
がっくりと膝を突いてうなだれている冬の女王をみて、春の女王はつぶやきました。
「これは援軍が必要ね。」
/*****/
次の日、春の女王ではなく、別の女性が冬の女王の下を訪れました。
「あらー、本当におでぶちゃんになっちゃったのね。」
「……夏の女王。」
冬の女王は、嫌そうな顔で彼女を迎え入れます。
「ねー、どうやったらそんなに太れるの?
あなたの先祖に豚でもいたのかしら」
「ぶひぃ。」
冬の女王が抗議の声を上げますが、夏の女王には届かなかったようです。
夏の女王は手下のヒマワリに指示を出し、てきぱきとモノを運び入れていきます。
やがて組みあがったそれは、おおきなおおきなランニングマシーンでした。
「なにこれ」
冬の女王がたずねます。
夏の女王は答えずに、荷物の中から鞭を取り出しました。
「きゃっ!?」
鞭が音を立てて、冬の女王の足元を叩きます。
「ほら、さっさと走るのよ、この豚がっ!」
「ひい。」
夏の女王は、別の意味で女王らしい口調で冬の女王を攻め立てます。
「ぜぇぜぇ。」
冬の女王は早くも疲れきった様子でしたが、夏の女王は許しません。
少しでも走るペースが落ちると、鞭が冬の女王を打ちました。
「ほーほっほっほ。
走れ、走るのよ!
走らない豚はただの豚、走る豚はよく訓練された豚なのよ!」
冬の女王が足をつくたび、きらりと水の粒が宙をまいます。
足元には汗だか涙だか分からないもので、黒くぬれていました。
ずるっ。
「きゃあっ」
冬の女王は自分の汗で滑って転んでしまいました。
彼女はそのまま勢いよく転がると、夏の女王を巻き込んで壁に激突しました。
「きゅう」
あわれ、夏の女王は冬の女王と壁にはさまれて死んでしまいました。
/*****/
「もう、しょうがないわね。」
腰に手を当て、あきれたように呟いた女性こそ、秋の女王でした。
彼女は冬の女王を痩せさせることはあきらめ、無理やりにでも塔の外へ引っぱり出すことにしました。
「さあ、引っぱるのよ!」
秋の女王は手下のマッチョたちを集めると、冬の女王を扉から無理やり引っぱり始めました。
「うんとこしょ、どっこいしょ。」
それでも冬の女王は抜けません。
秋の女王は次々と手下を呼び、大勢で引っぱりますが、扉がめきめきというだけで一向に抜ける気配はありませんでした。
「ええい、まどろっこしい。」
ついに冬の女王も最後尾に加わって、引っぱり始めます。
と、
すぽん!
音を立てて、冬の女王の靴が脱げました。
たまらないのは引っぱっていた男たちです。
彼らはたまらず後ろに転んでいきます。
ぷちっ。
当然というべきか、最後尾にいた秋の女王はマッチョたちに押しつぶされ死んでしまいました。
/*****/
その日の夜。
冬の女王は悲しみにくれていました。
「夏の女王も秋の女王も、わたしが殺したも同然だわ……。
もうわたしも死ぬしか!」
そう言うと、彼女は勢いよく駆け出し、壁に頭から激突しました。
ずしんっ!
と塔が震えます。
「もう!」
ずしんっ!
「死ぬしか!」
ずしんっ!
「ないじゃない!」
ずずんっ!
本棚の本が落ち、ろうそく台はひしゃげ、壁にはヒビが入っていきます。
しかし、彼女はぶつけたところこそ痛いものの、まだまだ生きていました。
「なんで死ねないのよ!!」
冬の女王は勢いよく助走をつけると、再度壁に突進していきます。
ずがんっ!
度重なる突進に耐えられなかったのか、ついに壁は崩れてしまいました。
「あーれー」
冬の女王は壁にぶつかった勢いそのままに、外へ転がり出るとそのまま丘を転がり落ちていきました……。
/*****/
一ヵ月後。
ようやく壊れた塔が直り、その記念式典がおこなわれようとしていました。
「やっぱり何事も程々が一番ね」
「そうだな」
冬の女王と春の女王が、塔の扉を挟んで向かい合うように立っていました。
太っていた面影はあるものの、ぽっちゃり程度に小さくなった冬の女王に、夏の女王がこっそりと問いかけます。
「なあ、どうやって痩せたんだ?
あたしにも教えろよ」
「ふふ、秘密よ」
春の女王は冬の女王から聞きだそうとしますが、冬の女王は最後まで答えませんでした。
「それじゃ、後はよろしくね」
冬の女王は春の女王と握手を交わすと、塔の中から外へ歩いて出ました。
入れ代わりに春の女王が塔の中へと入ります。
「これで冬は終わり」
「春のはじまりだな!」
こうして、国には遅い春が訪れたのでした。
このあと、この国には春と冬の二つの季節が交互に訪れることになります。
めでたし、めでたし。