本より俺を愛せ!
糖度低めかなと思います。
「またここにいたのか・・・よく飽きないもんだな。」
私がいつものように書庫に篭っていると、呆れたような声が背後から聞こえてきました。
「どの本も、何度読み返してもとても面白いですわ。
飽きるなんてことはないですわよ。」
その声に、振り返りながら私はそう答えます。
私の顔を見るために彼が我が家にやってくると、決まって侍女が案内するのがこの書庫なので、少し呆れているようです。
私は本が大好きです。
本を読んでいて、食事を忘れてしまったり、寝るのを忘れて朝日が昇ってしまい幼い頃は侍女達を呆れさせることもしばしばでした。
そんな私の日課はもちろん、家にあるおじいさまがお創りになられた書庫に行くことです。
私が幼い頃に亡くなられたおじいさまも、とても本好きな方でした。
領地経営の傍ら、いつも目新しい本を手に入れては読み耽っていたようです。
そんなおじいさまが集められた本の数々が、このおじいさまの書庫には所狭しと並べられているのです。
私にとってこの書庫は宝の山でした。
毎日毎日読んでも読み飽きない、何度も何度も読み返したいほど面白い、そんな本の山。
そんな私も本ばかりを読んではいられない年頃になり、淑女教育もこなさなければなりません。
そして、そんな頃に私の婚約も決まりました。
我がリンデンバルム侯爵家は、割と長く続く古い侯爵家です。
何代か前には、王族の姫も降嫁戴いた由緒ある家柄らしいです。
領地は国の南に位置し、国境を守る要として要塞のようなお城が建って任されています。
領土は肥沃で、国庫も賄えるだけの生産力も持ち合わせ、国の南端ですが王都に負けないほどの、とても栄えた街並みが広がっています。
そんなリンデンバルム侯爵家の三女として生まれた私は、姉兄達と同じように政略結婚するんだろうとずっと思っていました。
長女のミリーナお姉さまは、第二王子妃。
次女のミルーラお姉さまは、シュテイン公爵夫人。
お兄様は第二王女殿下に降嫁戴いてます。
三人は早々に婚約も決まっていて、今では結婚も済まされているのに、なぜか私の婚約相手は決まらずに来ていました。
三女だから適当な家に嫁がせるつもりで探してるんだろうと思っていたら、決まったといわれた相手の名前を聞いて驚愕しかありませんでした。
「お前が嫁いで来たら、専用の書庫を作らないといけないな。
むしろお前の部屋の隣が書庫のほうがいいか?」
「わざわざ書庫を作ってくださるんですか?
うれしいです。」
私がにっこりと微笑むと、彼はそっぽを向いてしまいます。
「別にお前が喜ぶと思って作るわけじゃないからな!
お前が逃げ出さないようにするためだ!
お前は我が国の人質なんだからな!!」
少し顔を赤らめて言う彼に、私は頬が緩んでしまいます。
「はい、シェリアン殿下。
もちろんわかっておりますよ。
ですが、それでしたら今すぐ嫁がなくてもよろしいのですか?」
「無理やり嫁がせて、戦乱の種にするわけにいかんだろうが!
お前の準備が出来次第だ!
だが待たせすぎるなよ!!」
「はい、ですので来年の春にとお約束させていただきました。」
にっこりと私が笑顔を向ける相手、私の可愛い婚約者様。
シェリアン・ルーシェ・ファルガス王太子殿下。
我が領地が接している、御年12歳になられる隣国の王子様です。
私が17歳になりましたので、5歳年下。
友好関係の証に、我が国と隣国の間で結ばれた婚約と聞いていますが、実際のところはわかりません。
だってそれならば我が国の王女殿下か公爵家の令嬢のどなたかと結婚するのが一番好ましいと思うからです。
口調はとてもそっけなく話されますが、照れているだけだとわかっていますし、本当はとても優しいお方です。
年上の私でいいのかとも聞きましたが、私がいいのだと言ってくれましたので嫁ぐことを決めました。
私専用の書庫も作ってくださるらしいですしね。
-------------8年後--------------
「ミルフィア。」
「なんでしょうか、殿下?」
いつものように書庫で本を読んでいた私の背後から、彼が私に声をかけます。
「いい加減、本より俺に夢中になってくれてもいいんじゃないか?」
振り返った私の身体を逞しく育った身体でふわりと抱きしめ、少し節くれだった長い指が私の顎を持ち上げます。
まだ幼さが残っていた婚約者時代と違い、今ではすっかり大人の男性に育った殿下に抱きしめられると、何度経験しても緊張してしまいます。
「本にヤキモチですの?」
「妬いて悪いか?
お前はなにかというと、本・本・本・・・もっと俺に夢中になれ!」
そういうと、そのまま私の唇をご自分のそれで塞いでしまわれました。
「ん・・・はっ・・・でん・・・」
息が出来ないほど深い口付けに、さすがに息苦しくて殿下の胸を押して叩いて抗議しますが、びくともしません。
ぐったりした私の身体を支えて、殿下は耳元で囁きます。
「俺が狂おしいほどお前を愛しているくらい、お前も俺に狂ってくれてもいいだろう?
ずっとずっと手に入れたいと思って、手に入れたはずなのに、お前は俺より本が大事という態度。
いい加減腹が立つ。」
「ハァハァ・・・では罰でも与えますか?
それとも殿下以外何もいらなくなるくらい、もっと愛してくださいますか?」
「それは誘っているのか?
だったら、俺以外なにも考えられなくなるくらい溺れさせてやろう。」
そう言って殿下は私を抱き上げると、そのまま寝室へと向かいました。
そしてそのまま三日三晩私を愛してくださいました。
「俺を愛しているといえ。」
「愛していますわ殿下。あなただけを愛しております。」
散々私を愛しつくした後、私のその言葉に殿下は満足して政務に励まれます。
私は殿下より本が大事なんてことは一度も言った事はありません。
殿下も私も公務がございます。
それが忙しくて中々顔を合わせない日も度々あります。
そして殿下としばらく顔を合わせなくなると、私は寂しくなってきて書庫に篭り始めます。
すると殿下は決まって、今回のように私の愛を確かめるように私を愛して、私の心を満たしてくださるのです。
これは殿下のヤキモチのように見えて、優しさ。
だって私は、昔も今もずっと殿下を愛してやまないのですから・・・
本を読むのは今でももちろん好きですが、殿下以上に大事なことではないのです。
読んでいただきまして、ありがとうございます。