目覚め リーク
不思議な女の子に出会ってしまった。多分遠くから来たのだろう。倒れた体を抱き上げ、すぐそこにある自分の家まで運ぶため持ち上げたその体からは、不自然なほどに重さを感じなかった。
先ほどの目を思い出す。僕を拒絶した、その綺麗で覗いていると、どこまでも深みに沈んでいきそうな瞳を僕は忘れることができなかった。
とりあえず、部屋に一つしかないベッドに寝かせると、苦しそうにしていたローブを脱がせ横に掛けた。ローブを外すと綺麗なピンク色の少し長めの髪が軽やかにベットに流れかかった。頬は薄っすらとピンクに染まり、白い肌がとても綺麗なそんな可愛い女の子だった。ただそんな髪や顔にも疲れがにじみ出て、煤で汚れていた。
彼女の顔を見ていると、今朝、友達と作ったスープが残っているのを思い出しす。確か隣の部屋の鍋に入れてある。隣の部屋に住んでいるのは、僕と同じ貧学生で学校の同級生でもあり、同じく遠くの村から来たということで入学初日から意気投合した、リンだった。リンは料理が上手でいつもご飯は一緒に作っていた。基本僕は洗い物やお皿の準備が仕事だったけど…
一旦自分の部屋から出る。町の方から調子外れな笛の音が聞こえてくる。そう言えばリンは今日は衛士の仕事で朝早くから、ご飯を作るとすぐに出て行っちゃったんだっけ。
コンコン
誰もいないはずである部屋だが一応ノックする。ドアノブを捻ると鍵はかかってはいなかった。不用心だとは思ったがそもそも僕らには取られるものすらないことを思い出し、少し苦笑いをする。
「お邪魔しましす。」
そう言って、部屋に入る。部屋の間取りが僕の部屋と一緒なのでどこに何があるかはだいたい把握できていた。入ってすぐ横のキッチンに鍋が置いてある。開けてみると今朝の残りのスープがあと一人分くらい残っている。マッチを擦って火をつける。湿気っていたのか、数本をを擦ってやっと火をつけることができた。
ふと視界の端に一つのケースが目にとまった。
火をおこす簡易魔法の補助道具だ。これさえあれば '少しでも' 魔法の使える人は火を簡単に扱うことができる。
だが、僕にとってそれはため息を促す品でしかなかった。
魔法検定の日を思い出す。入学初日…
意気揚々と村から出てきた僕は勇者学校で初めてのクラス分けテストを受けていた。剣技、知識。その二つは村のみんなや父親のお陰で何とか良い点数を取ることができたが、最終試験……魔法試験で躓いてしまった。僕は生まれてこのかた魔法なんて使ったことも、教えてもらったこともなかったのだ。一度、村長に魔法を教えてくれとせがんだこともあった。何故かその時は曖昧な笑顔で誤魔化されてしまったが理由はこのときわかった。魔法適性検査で、僕は0点という最低点を叩き出してしまったんだ。魔法以外の成績は良かったが、クラスは最下位レベルに振り分けられた。そこからは剣技と知識磨いてどうにか成績を上げたが、どうしても魔法という存在が僕の足を引っ張った。あの時少しでも魔法が使えれば、今頃は仕事につけていたかもしれない…
グツグツ…グツグツ…
そんなことを考えていると、中のスープが温まり、煮え立った音が聞こえて来る。キッチン台の下からおたまと皿を出すと、それを盛りつける。
火を止めて外に出る。冷めないうちに彼女のところへ戻ろうと、取っ手をひく。
ドアを開けると、女の子がローブを着て起き上がっていた。
「あっ、起きてたんだ。大丈夫?」
声をかけるが、足元はふらついておりとても大丈夫な状態ではなかった。
「あなたが、助けてくれたの…ありがとう。」
驚いた。最初にあったときはいきなり手を弾かれたので、何故か相当嫌われているのではないかと思っていた。
「これ、スープあっためたんだけどいるかな?」
そう言って、スープを差し出すと急いでいるんです、と断られた。僕の差し出したスープは行き場所が無くなり、
僕の手の中に困ったように留まっている。
そんな僕に目もくれず彼女は歩き出すが、案の定こけてしまう。不安定だと思って見ていた事もあってか、滑り込んで彼女のクッションになることはできた。
とりあえず、自己紹介がまだなことに気づいた。自分の名前を告げると、ちゃんと自己紹介仕返してくれた。
ミーナ
それが彼女の名前。しかし、彼女は
おぼつかない足取りで歩こうとして、ふらつき、寄りかかってくる。
こういうときは止めても聞いてもらえないんだろう。
「そんな体じゃ、今は歩けないよ…でも、何かよっぽど急いでるんだね。分かったよ。ぼくが付いて行くよ。そしたらまだ歩けるでしょ。」
返事はない。
「どこへ行きたいの?」
そう言うと、彼女は困惑したように僕の顔を見ながら問う。
「なんで…なんで私なんて助けるの?」
僕は父親のことを思い出しながら答える。
「困っている人は助けたくなっちゃうんだよ。そういうものだよ…あっ、えっと、それでどこへ?」
最後は少し、恥ずかしくなりまたどこへ行きたいのか聞いてしまった。
彼女は俯いたまま、小声で言う。
「中央広場に…」
今日も、中央広場では凱旋パレードからのお祭り騒ぎなはずだ。内容もある程度は聞いている。あんまり近づきたいものではなかったが彼女の意思は曲がりそうには無かった。
とりあえず、僕は中央広場に向かって、今にも倒れてしまいそうな女の子を支えたまま歩き出した。