目覚め ミーナ
目が醒めると、私はベッドに横になっていた。体を起こし周りを見渡すが部屋には誰もいない。私がさっきまで着ていたローブはベットの隣に軽く掛けてあった。
小さく生活感の溢れる部屋はシーンとしている。窓の外、少し遠いところからだろうか。太鼓や鈴の音が聞こえてくる。
状況が飲み込めずきょとんとしていると、寝相が悪かったのだろうか、服がはだけていることに気づく。細く長い黒い尻尾がベッドの上に艶やかに垂れている。
「ここは?」
ぎしっ、
部屋の扉の前に人が立つ音がする。私は急いで尻尾をしまうとローブを被った。
扉が開くと、外からは男の人間が入ってきた。背の高さは私と同じくらいか…
「あっ、起きてたんだ。大丈夫?」
男の子は私の方を見て話しかけてくる。
段々記憶が戻ってくる、街に着いた私は、お父さんを探している最中に迷ってしまい、この人間にぶつかり、そのあと道に倒れたのだ。
それじゃ、この人間が私を助けてくれたのだろうか…
「あなたが、助けてくれたの…?ありがとう…」
最後の一音が小声になる。一応、礼を言う。助けてくれたのは本当なのだ。それでも相手が人間だと考えるだけで背中に悪寒が走り、声が詰まった。
「これ、スープあっためたんだけどいるかな?」
人間がスープを差し出す。私はそれを無視して扉の方へ立つ。早くお父さんのところへ…
「大丈夫です。急いでいるので。」
そう言って歩き出そうとする。人間の困った顔が私の目に映る。
一歩目を踏み出す。残った足で二歩目を踏み出そうしたその時
グラッ
世界が回る。上が下に下が上に。自分の足に自分の足が絡まる。目の前に床が迫ってきて、顔が地面に…
当たらなかった。
無様に顔を床にぶつけるはずだった私の下にはさっきまで隣にいた人間が挟まっていた。横には投げ捨てられたスープとお皿が転がっている。
「大丈夫?」
自分は下敷きになりながらも私の方を見ていう。
「いきなり歩いたらダメだよ。まだ少しゆっくりしてなきゃ。」
そう言うと人間は立ち上がり私の手を取って、立ち上がらせてくれる。
人間の手はなんだかとても…暖かい…
「自己紹介もまだなのに歩き出すなんて!君はせっかちだね…僕の名前はリーク。えーと、今はもう…無職…だね。君は?」
そう言って人間は笑いながら自己紹介をした。
「ミーナ…」
小さい声で答えが口から漏れる。人間なんかに大切な名前を教えることになるとは思いもしなかったのに…
なんだか心の中がぐるぐるして今すぐこの場を離れたかった。
「急いでるので…」
そう言って歩き出そうとするが、ふらつき人間に寄りかかってしまう。
人間は困ったような顔をして、
「そんな体じゃ、今は歩けないよ…うんーーー…困ったな…でも何かよっぽど急いでるんだよね。」
人間は私を支えながら何か悩んでいる…
私は動くことができなかった。
「あ!そうだ!僕がこうやって支えながらついていくよ。本当は寝てて欲しいんだけどな…」
名案が浮かんだとばかりに私の顔を笑顔で覗き込む…
驚いて声が出ない。人間なのに…
「どう…かな?」
答えを促されてとっさに頷いてしまう。
私はもう彼と目を合わせることができない。
「えーと、それで、どこに行きたいの?」
リークは問うが、別の言葉がついて出てしまう。
「なんで…なんで私なんて助けるの?」
リークはまた困ったような顔をした。
「困っている人は助けたくなっちゃうんだよ。昔からの癖っていうか、教えっていうか……あっ、えっと、それでどこへ?」
私は俯いてしまう。
「中央広場に…」
小声で、ボソッと言った。けどリークはちゃんと聞いてくれて
「わかったよ。僕の方に寄りかかってね。ほらいこう。」
そう言うと、私の手を引っ張って歩き出した。
小さな部屋の扉から二人並んで外に出る…