魔導師 ユング
「カリ………」
咄嗟に叫びそうになった僕の口をミーナが抑える。
「リーク落ち着いて。今出たらだめ。」
ミーナが僕の目を見つめる。ふぅ、と一回息を吐いた。深呼吸をして心を落ち着かせる。
「ごめん、ミーナ。もう落ち着いたよ。ありがとう。」
その視界の端でユングがカリナを殴るのが目に入る。体の中の血が沸騰してくるのが分かる。もう、ミーナの声も聞こえなかった。
気づいたら叫びながら走り出していた。
『はっ、お前さんはやるときゃやるんだな。しょうがねー。手伝ってやる。』
ガルダが光りながら話しかけてくる。今までで一番光ってるような気がした。
見張りについていた兵士が二人僕の前に立つ。片方の顔は見たことがあるような気がした。
「じゃまだぁぁぁあっぁぁー」
敵を避けることなどせず、そのままガルダで二人とも切りつける。ガルダを受けようと出した二人の剣を通り抜けそのまま二人の体を、まるで何もないかのようにガルダは通り抜ける。
剣が触れた瞬間に二人は意識を失って倒れる。
『はん、余裕だな。もうちょっとでも精神力が高いやつはいねーのかよ。』
ガルダは楽しそうに光っていたが、僕にはカリナとユングしか目に入っていなかった。
その後も止めに入ってくる兵士をことごとく切りつける意識を奪い、やっと本陣の中心にたどり着く。
「あはっ、君やっぱり来てくれたんだー。あのクソ悪魔だけじゃなくてもそんな悪魔に加担した君も私は絶対に許さないと決めてたんだ。後から村ごとってのも考えたんだけど、君から来てくれるとはー。やーやー、嬉しいねー。」
ユングが楽しそうにニタニタと笑う。その横で服は泥で汚れ髪は乱れたカリナが倒れていた。
「このお嬢ちゃんはね。あのクソ悪魔が君の大切な人だから。大事な人だから返してくださいってよ。笑っちゃうよねー。悪魔を返して?馬鹿なこと言わないでよ。」
下卑た笑いに怒りを通り越し、虫酸が走る。
「ごめんね、ごめんねリーク。ごめんね。」
カリナは涙を流して、謝る。
それを見てまたユングが笑う。
こんな奴が。こんな奴が本当に英雄なのか?
「僕は、お前だけは絶対に許さない。」
僕はそんなユングを睨む。
「ははっ、そうこなくっちゃここで殺してあげるよ。公開処刑だ。みんなは手を出さないでよー。これは僕の獲物なんだら。」
周りを兵士が囲む。ユングにそう言われては手を出すことはしてこないだろう。
「じゃあ、始めようか。」
ユングがそう言って手をかざしたと同時に手から鋭い冷気をまとった、氷柱が飛び出す
辛うじて横に飛び避けるが掠った足に痛みが走る。
「くっ…………」
「あーれ?許さないんじゃなかったの?こっちに向かってきなよー。」
そう言いながらユングは立て続けに氷柱を飛ばしてくる。
今は、僕は避けるの精一杯だ。
「おいおい、逃げてるんじゃどうにもならないよー。」
ユングが少し苛立ってくるのが分かる。最初に擦りはしたが、その後の攻撃は僕には当たっていない。
「あーっもう、ちょこまかとうざい。じゃあ、これで終わらしてあげる。」
さっきまで魔法を出していた右手にユングは左手を添える。
「はい、これでおしまいね。ファイヤ。」
ユングの手から大きな炎が生まれ全てを焼きつかさんと、僕の方に向かってくる。
だが…
僕は…
今度は避けない。
『これを待ってたのか?馬鹿だよなー。お前って。』
ガルダが問いかける。馬鹿げたものでも見ているかのような、それでいて少し嬉しそうな声だった。
「あぁ、そうだよ。僕にはこれしか勝てる方法が見つからなくてね。」
そう返して、僕はさっきまでとは違い炎に向かって…いいや、ユングに向かって直進する。
ユングからは炎が盾になって僕は見えない。また氷と違って跳ね返されることもない。ただ、熱いだけだ。
僕の体が炎に触れるのが分かる、一瞬にして高温に包まれる。体のあちこちが感覚の無くなるような痛みに襲われる。ガルダを盾にのように持ち、意識を失わないようにしてもらって駆け抜ける。
炎から出ると目の前には驚愕の表情を顔面に貼り付けたユングがいた。
「なっ、馬鹿な。なんでそんなところから。」
僕はそのままユングに体当たりをして地面に押さえつける。足で手を押さえ、喉にガルダの切っ先を突きつける。
「お前の負けだよ。ユング。」
そう言って、そのままガルダをユングに突きたてた。