再起
恐る、恐る僕はガルダを自分の胸に刺した。体に痛みは流れず、それどころか傷が気にならなくもなる。自分の記憶が整理され、そこにいろいろな情報が流れ込んでくる。頭は冴え、冷静な考えが頭を支配する。
『どうだ?すっとしたろ。記憶を司っているとこんなこともできるんだよ。じゃあ、これからどうする?』
僕はガルダの質問に答える。
「ミーナを助ける。それ以上もそれ以下もないよ。」
先ほどまで唸っていたリーク君の声がやんだ。少し不審に思い扉に近ずく。
コンコン、
拳を握り扉を叩く。
「リーク君入るよ?」
私は一言付け加え、リーク君を閉じ込めている部屋の扉の取っ手を回す。
「少し落ち着いたのかい?」
そう言いながら入ると、目の前の光景に唖然とする。
「誰もいない?」
さっきリーク君を閉じ込めた部屋はまるで何事もなかったかのように空っぽだった。
ガタッ、
そう思ったのも束の間、扉の陰から何かが転がり出てくる。
リーク君だ。
「ごめんなさい、ネールさん。僕は彼女を助けに行かないといけないんだ。」
そう言うと、彼は持っていた紫色に光るものを僕に振りかざした。
『良かったのか?記憶。』
ユングを追う道中、ガルダが話しかけてくる。日は完全に沈んでいるが、月が道を静かに照らす。星々もそれに呼応するかのように、それぞれが輝いていた。僕はその道をただ、走る。
『おいおい、無視かよ。急いでるのは分かるさ。お前さんの気持ちだって読もうと思ったら読めるんだぞ。察してやってるんだ、話したら楽になるだろ。』
僕はガルダを一瞥すると、口を開く。
「もう、あの村に僕の記憶は必要ないんだよ。ネールさんの言ってることも、一つの村を預かり、命を任せられている立場として正しいんだと思うよ。だから僕はもう、この村に関わっちゃいけないんだ。ミーナを助けたら村全員からも僕の記憶は消すよ。」
そう告げると、ガルダは悲しそうに紫色を光らせた。
僕は、前を向きただ、走る。
村から少し入った開けた湖畔、普段は静かなその水面に、今晩は赤々とした火が揺れていた。
僕はその火を見つけ歩調を落とし、足を潜める。ユングの本陣だ。
彼方此方に松明を灯し、陣はどんちゃん騒ぎだった。その中心にはユングの姿もある。彼女は少しつまらなそうにグラスを弄んでいた。
目視で探すが、ミーナの姿は見当たらない。ただ奥に、テントが一つ建てられているのが分かる。
『まぁ、いるならあそこだろうな。どうする?正面から行くか、裏から回るか。』
僕は一度深呼吸してから答える。
「裏から回る。ミーナの救助が先決だよ。」
そう言うと、ガルダは少し嬉しそうに輝いた。
『おー、良かった、良かった。そこが見えなくなるまで頭に血が登ってたら、止める役に回らなくちゃいけなかったからねー。』
僕は湖畔に沿ってぐるーと陣を迂回するよう回る。松明の隙間から常にユングが見える。
僕は遠くからでも、ユングを睨みつける。
今度は、今度こそは、絶対に、
「ミーナを助ける。」