ありそうでない…とも絶対いえないようなお話
俺の名前はケンジ。
ブラック…というよりダーク?な会社を辞めてから長い長い夏休み中だ。
一人住まいのアパートの一室で、今日もノーパソでネットしながらごろごろしている。
しかし、そんな俺に危機が訪れた。
お金が無い!
この数ヶ月の夏休みですっかり貯金がなくなってしまった。
正直、親に言えない。しかし働く気も湧かない。
だってグータラ生活楽なんだもん。毎日毎日だらだらするのは心にやさしい。
ストレス感じないし。いいことずくめ。
だが…
お金が無い!
いや、少しはあるんだけどさ。貯金が結構減ってるのよ。もうね、このままだと一月もたないかもって位減ってる。どうしようか…
…とりあえずエアコン消すか。
ぷちっ…
うむ、暑いけど仕方ない。お金のためだもの。
そうだ、これからは窓を開けよう。
ここは二階だし、安全だろ。
がらっ!
!!
お互い見つめあう二人。
誰と? って…
…そりゃ、あれだよ。言わせんなよ。恥ずかしいだろ。
おっと、おまっ! 勝手に入ってくんな!
答えはそう、にゃんこだ。女の子だと思った? え、思って無いって?
失礼しました。
ん、このにゃんこは尻尾にリボンなんかつけてんのか。
なかなかオシャレさんだな。おいでおいで…
おや、素直に寄って来た。女の子もコイツみたいによって来ればいいのにな。
にゃんこを抱っこする俺。
お、雌だ。
「ふしゃああああ!!!」
ばりばりばりっ!!
「いててててっ!」
引っ掻かれた。恥ずかしがる猫ってのも珍しい。
大きさからすると子猫…ってほどちっちゃくないし親猫…ってほどおっきくもない。
中高生って感じだろうか?
まあいい。さ、ネットの続きでもみよう。
猫はきまぐれ。すぐに出て行くさ。
…そう思っていた時期が俺にもありました。
ぜんっぜん出ていかねー。
挙句に俺がグータラしてると猫ぱんちしてくるし。
やめろよ。地味に痛いんだよ。
遊んで欲しいのか?
そう思って抱っこする…
んん? お前どっかで会ったっけ?
なんとなく見たことがあるような…
そう思ってにゃんこを眺めてると…
「ふにゃっ!」
怒られた…
ホントになんなのこの仔。
俺にどうしてほしいの?
うなだれる俺、部屋を漁るにゃんこ。
あー、なんかハラ減ってきた。
よっしゃ! こんなときはメシ食うしかねぇ。
俺はレンジでご飯を温め、いただきますしようとする。
…と、にゃんこがちゃっかり隣にいるではないか!
ちょ、おまえ、これは俺んだ! あげないぞ!
って! ああーっ! やめろおおお!!
…食われた。にゃんこって猫舌なんじゃねーのかよ。もりもり食ってんぞ。
と、思ったら半分残しやがった。もうね、わけわかめ。
しかも残ったのこっちに薦めてくるし。それ元は俺のだからな!
そんなこんなでさんざん振り回した挙句、帰っていくにゃんこ。
もう疲れた。二度と来んなよ。
しかし、翌日もそのまた翌日もヤツは襲撃してきた。
あるときは雑誌を読み、
またあるときはネットを俺と一緒にながめ、
そのまたあるときは肌色の多い雑誌を攻撃し、
そのまたまたあるときはドラマのDVDを催促してきやがる。
いつも俺がグータラしてるとなぜか怒るし、暑いからって裸でいるとチラチラ俺の方見てるし。
しかも目が合うとさっと目を背けるし。 見たいのか見たくないのかどっちなの?
オマエが半分俺のメシ食うから、俺、痩せちゃったんだけど。
ほんとこのにゃんこなんなの?
まあかわいいからいいけどよ…
結局そうやって一月ほどにゃんこと一緒に遊んでいたんだが、俺は姉の7回忌で実家に帰ることになった。
まあ、お金ないし、ついでに無心するかと思い実家に帰ると早速親に怒られた。
「アンタも自分の姉の墓参りくらい毎年しなさい! ほら、挨拶してきな!」
実は俺には姉がいた。交通事故で7年前に18歳で亡くなったのだ。
「姉ちゃんが死んでもう7年か…」
その姉に不義理を詫びようと仏壇に向かい合うと、
「あれ、これって…」
どっかで見たようなリボンが置いてある。どこで見たんだっけ?
ああ、あのにゃんこだ。こんな偶然あるんだなぁと感心してると、親に呼ばれてそのまま法要の手伝いやら親戚の相手やらで一日が過ぎていった。
その晩、俺は実家の自分の部屋で久しぶりに寝ていると、疲れもあったのだろう、すぐに熟睡した。
「おかえり、けんちゃん」
その声に俺が反応するとなんと姉ちゃんが俺を呼んでいる。
久しぶりに会った姉ちゃんはねこみみを生やし、リボンをつけた尻尾をゆらゆらとゆらしている。
ああ、これは夢だ…と俺が理解すると、
「この一月楽しかったよ。グータラしてたらダメ。がんばれ、けんちゃん…」
そう言って姉ちゃんは消えていった…
「姉ちゃん!」
ハッと目が覚めると枕が濡れている。どうやら泣いていたらしい。
「ごめん、姉ちゃん…」
俺はそうつぶやいた…
その後…
法事が終わったので、俺はアパートに戻ったんだが、
あのにゃんこには二度と会うことはなかった。
そして…
二週間後、俺は就職を決めた。