ナナシ
今日、押し入れの布団が妙に膨らんでいたので捲ると中にナナシがいた。
子供の背丈程度の黄色い生き物は、大きな丸い目でこちらを見つめてくる。
こちらも驚いてしばらく見つめ返していたが、観念したのかナナシは気まずそうに押し入れから出てきた。
いつの間に入り込まれたのだろうか。気づけば無くなっていた漫画やスナック菓子が畳んだ布団の上に散らばっている。
シーツが菓子の油で汚れていたのでナナシを叱りつけると、しょんぼりとうなだれた。
頭と胴の境目のない、まさに寸胴といった体にネコのようにぴんと立った耳。表情はあまりなく常に一文字に結んだ口。
気づくと人の家に勝手にあがりこみ、お菓子を食べたりゲームで遊んだりするだけという、つくづく謎の生き物だ。
家主がいない時を狙って忍び込み好き勝手やっていくのが常だが、布団の居心地があまりに良くて油断してしまったのだろう。
あんまりうな垂れていてかわいそうなので、一緒に布団をコインランドリーに運ぶことで許してやることにする。
ランドリーでごうんごうんと布団が回っている間、時間が随分とあったので近くのファミレスでお茶をする。
私はコーヒーを注文すると、ナナシがメニューのクリームメロンソーダとアップルパイを指さすので、少し呆れつつもご馳走する。
ナナシが口元をべたべたにしながら食べるので、拭ってやる度にお母さんの気分になった。
コインランドリーで綺麗になった布団を受け取って帰ると、ナナシがそのまま家までついて来た。
夕飯を食べていく、と聞くとこくりと頷く。
今晩のカレーは甘口に変更された。