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栞と花びら  作者: Incenses
2/2

すき?きらい?



『なんのために』って考え始めると

終わりが果てしなくなったりします。

ずっと考えていると、

心が苦しくなったりします。


素直になることって、すごく難しいです。

素顔を隠すことって、大変だったりします。


それが思春期ならより一層!

好き、嫌いにとても敏感な時期なのです。


もじもじしてるこの子らを見て

イラッとする人もいるかもしれませんが

こういう形の恋もあるんだってことで

ながーい目で見てやってください。

私になにができるんだろう。

私のために自分を犠牲にするこの人に。

やめて欲しい訳じゃない。

ただ、心が苦しくて。

ありがとうが、言えなくて。





4月9日。

授業という授業はなく、HRに

自己紹介を順番にしていくだけの時間。

入学式ではみんなの前であいさつしたのなら

自己紹介くらいわけないだろう。

そんな風に考える人がいるだろう。


しかし、この鷺草大知(さぎくさだいち)という男、

緊張には滅法弱いのである。

みんなの前に立てるか、立ちたくない。

みんなの前でしゃべれるか、

1on1ですら声が震える時がある。

そんなマシュマロハートに入学式総代表は

やはり適性ミスを疑わざるを得ない。


おれの出席番号は10番。

順番ならすぐにまわってくるのだ。

なにを話すか考えていたが…

まぁ入学式の話でもするか。


「次の人~」

担任の朽覇葵(くちばあおい)先生は

制服を着ていればバレないレベルの

童顔(失礼か)に、150センチの壁を

突破するのに苦労したんだろうなぁ。

今も160どころか155もあるか疑問がある身長。

そしてなんともおっとりしているのだ。

時の流れを緩めることを可能にしてるのか?

と問いてみたくなるほどに。


そんなほわほわボイスで

次の…おれの登場を促した。

ええい、ままよ!


「出席番号10番の鷺草大知です。

入学式であいさつさせていただきました。

よろしくお願いします。」


我ながら無難すぎる気もしたが、

噛まずに言えたし拍手ももらえたし

まあ良しとしようか。

う…みんながおれを見てやがる。無理だ。

さっさと教壇なんか降りよう。

おれにはまだ早すぎる。


ふう…ま、終わってみればもう大丈夫だ。

過去は変えようがない。変わりようがない。

次の人たちの話を聞く余裕が生まれる。

次は…あいつか。


「出席番号11番。裂園隼(さきぞのはやぶさ)です。

さっき自慢してた野郎と同じ中学校です。

後でお仕置きしとくんで許してやってください。」


あいつ笑いとってやがる!

しかもおれをネタにしやがって!

…って問い詰められる雰囲気じゃねぇなくそ。


そう。今壇上にいる裂園隼は

整った顔立ちに茶色かかった長めな髪、

長い脚に細い体、要するにモテ男だ。

あいつは同じ中学校で、

友達…といってもなかなかコアな(notBL)

繋がりのある俗に言う「親友」である。

本人にそんなこといったら

笑いの種にされるのが目に見えているので

口が裂けても言わない、口が避けているのだ。


隼とは成績では常に競っていたが

新入生テストでは少し勝っていたようだ。


そうだよ。あいつが選ばれればよかったのに。

なんでよりによっておれが

あんなに緊張する大役をさせられたのか。

全く、この世は無情理だ。




HRを終え、帰宅の指示がでる。と、


「うしっ帰ろうぜ相棒!」


後ろから陽気な声が飛んでくる。

隼はしばしばおれを妙な愛称で呼ぶ。

最近のブームは相棒なんだとか。


「てめー覚えてろよっ!」

「はっはっ!まあいいじゃないか!」


で、こいつにはいかなるツッコミも

通用しないのである。

大抵はこのように受け流されるのがオチだ。

が、笑いの種にされたとなると

冗談気味でも攻めておかねばなるまい。


「ふぅ…んで?悩み事の方はどうなんだ?」


んでこっちが言おうとすることを予測し

その前方を塞ぐ。そのために

こっちが答えなければならない質問を

ぶつけてくる。口げんかでこいつには

勝てないんだろうな。


おれは入学式のあいさつをしてから

なんかもやもやした気分に陥っている。

あんなに緊張した報酬が

もやのかかった達成感じゃあ割に合わない。


というわけで、マシュマロのおれが心の底から

信頼している数少ない友達

(友達が少ないわけではない。決して。)

に相談したというのが現状だ。


「続行中だよ。よくなるどころか

時間経っちゃってより一層濃くなった感じ。」


素直に打ち明けると珍しく神妙な面持ち。

…しまった、心配させてしまったか。

こいつにはあまりこんな顔させたくないんだが。


「むむう…恋だな。」

「ぶっとばすぞてめぇ!」


ちょっとでも変なこと考えた

おれがバカだったよチクショウ。

項目追加だ。こいつの神妙顔は要注意。




大知の通学路はバスと電車。

中学校が同じなので隼もか、というと少し違う。

隼はバスに乗るよりもおれが電車に乗る駅の

一つ向こうの駅へ行くほうがよほど効率がいい。


「じゃあな相棒!」

「ああ!また明日!」


そんな親友と別れ、1人バスを待つ。

隼がいなくなると途端熱が飛んでいき

頭は冷静そのものになる。


と、ふと横を見ると見覚えのある制服。

顎先程の長さの真っ黒でさらさらな髪を

耳の上につけられた髪飾りが強調している。

おれの肩くらいの身長の女の子が

小説を黙読していた。


この人もバスなのか。

権世高校の人がこのバスを使うとなると

同じ地域に住んでいるのかもしれない。


なぜこんなにこの人に興味を持ったかというと、

この人に見覚えがあったからだ。

今日のHRの自己紹介で見たような気がする。

ということは同じクラスなのだろう。

名前は…ごめんなさい。


結局声をかける気にはならず、

特に気にかけずにバスに同乗する。

あの人は本が大好きなようだ。まだ読んでる。


おれが降りるのは乗って3つ目のバス停。

今1つ目のバス停に止まった。

すると例の女の人は降りる…のだが。


なにかがその人の脇を抜け、ヒラリと舞い降りた。


「…栞かな?」


独特な形状の厚紙を拾う。

…あ、いけね。あの人行っちゃった。

おそらくクラスは同じなので明日返せばよい…が。

女の子の持ち物を預かって大丈夫だろうか。

まずい、緊張してきた。

と、とりあえず昨日もらったばかりの

生徒手帳にでも挟んでおくか!

いや、別にやましい気持ちがあるわけでもないし

そこまで意識する問題ではないのだが。

…くそ、鼓動うるさい!




翌日。

いつもより早く学校に着いてしまった。

そっと机の中に入れられれば良いのだが

あいにく名前がわからない。

あの人が来るまで待つより他はないようだ。


おれが8時前に鍵を開けて、

次の人はだいたい5分くらい後。

その後ポツポツと来始め、

39人収容の教室は3分の2くらいが埋まる。

…と、どうやら来たようだ。


先ほど隼に栞を返すのを頼んだところ

「おまえが行けよ。」とニヤニヤ顔で言われた。

こいつはこの世の定説を知らない。

緊張に弱いやつの9割9分は人見知りだ。


座席表を見て名前を確認すると、驚いた。

彼女の名前はなんと栞。菊里栞(きくさとしおり)なのだ。

なんと声をかければよいのだ。

栞が栞を落としましたよ、ってか?

スーパー無理な話だ。


ま、でも返さなきゃしょうがないしな。

行くしかない。勇気を振り絞って、いざ!


「き、菊里さん!」

「っ!!」


………………!?

名前を呼ぶと菊里さんは後ろに飛び退いた後、

顔を抑えて廊下に飛び出して行ってしまった。

おれが泣きそうなのは、言うまでもないだろう。


「あ~りゃりゃ。相棒フられちったか。」


隼がすっと現れ肩をすくめて嫌味ったらしく言う。


「…だからおまえが行けって…」

「ま、次の恋を探せ、な?」

「違えよバカ野郎…」


歯切れが悪いせいで本当にフられたかのようだ。

もう隼に反論する気力も萎えてしまった。

せめて栞だけでも机に置いておこう。

…これで意図をくみ取ってくらればいいな。


***********************

「き、菊里さん!」

「…っ!」


呼吸が一瞬止まったかと思って

気がついたら廊下を全力疾走していた。

しまった。せっかく鷺草くんが

声をかけてくれたのにまたやってしまった。

私、菊里栞は人と話すのがとても苦手なのです。

どうしよう…。教室にはしばらく帰れない。


そうだ!あの人に相談しよう!

あの人なら話を聞いてくれると思う!

忙しくなければいいんだけど…。




「なるほど…あんた相変わらずね。」

「あぅ…どうしよう?」


やっぱりこの人は話を聞いてくれた。

ちょっと恐い時もあるけどとても優しい人。


「ま、いいわ。私に任せなさい!

全く…あの男ついに栞に手を出したのね…。」


口元だけで笑い、目をギラギラさせながら

そう呟いたのが聞こえた。

こ、恐いのは時々なんです。本当に。

…なにをするつもりなんだろう。

恐くて聞けないや。


それにしても、今の言い方だと

この人は鷺草くんを知ってる…?


☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆


昼食時間、なんの気なしに携帯を見ると

メール1件の文字が。見てみると、

入学式で共にあいさつした鬼道愛理(きどうあいり)さんからだ。


『昼食後11組前に来なさい。』


なんだろう。あの人が用事とは珍しいな。

メールの文面が手厳しいのは

いつも通りだからスルーするとして、

なにか困ってるのかな?

なら早めに行ったほうがいいな。


「悪い!ちょっと用事できた!」


同席していた隼にそう告げ、

早足で教室を出る。

なにか後ろでおれをネタに

隼が笑いをとってた気もするが、

今はそれどころではない。

なにが待っているんだろう。と

恐る恐る早足で向かってみると…




「待ってたわよ。」


いつもより迫力3割増しの鬼道さんが

仁王立ちしてた。

眉間にシワを寄せ、攻撃態勢に入っている

トラのようにこちらを睨んで来る。

…とりあえず困っているわけではないようだ。


「な、なんでしょう…?」


低姿勢で入るも


「なんでしょうじゃないわよ!」


失敗。怒鳴られてしまった。

しかしまじで原因がわからないな。

おれがなにかしたから呼ばれたに

決まっているわけだが…はて?


困っているとおれに

鬼道さんはおれの喉元に指をあてながら

顔を寄せて言い放つ。

てか近くでみるとやはり可愛いなこの人。


「あんた私の親友に手をだしたらしいじゃない!」

「はい?」

「間抜けな返事しないの!

だから男は嫌いなのよ!

あの子は純粋なの!汚れ切ってる男なんかに

染められていい子じゃないの!」

「ちょっとまって鬼道さん!とりあえず顔近い!」

「………へ?きゃぁぁぁぁ!!!」

「ぐはっ!?」


鬼道さんはやっと気づき、

とっさに手が出てしまったらしいのだが、

その型がなんというか…掌底に近いものだった。

それをみぞおちにくらい苦しんでいるととどめは

「なに考えてんの!?やっぱり変態じゃない!」

である。

もちろん呼吸が困難なので

反論のはの字も出てこないわけだが。


おれは呼吸が、鬼道さんは気持ちが

落ち着いたところで一旦状況を整理することに。

どうやら今朝の菊里さん騒動の話のようだった。


「あんたが栞に手を出したって聞いたときは

殴ってでも止めなきゃって思って…」


と反省の色を見せる鬼道さんは

こちらの事情を察してくれたようだ。


「栞が泣きそうな顔できたのよ。

鷺草くんが声かけてくれたのに

私ひどいことしちゃったーって!」

「そうだったのか…嫌われたと思った。」

「あの子はそんなことしないわよ。」

「そうか…2人は仲良いんだね。」

「そうね、高校一緒に選ぶくらい。」

「なるほど。」

「最近も時々私のところにくるのよ?ほら。」

「…ん?」


振り返ってみるとそこには

壁から右目だけをのぞかせた菊里さんの顔が。

目があったせいか、菊里さんは隠れてしまった。


「あの子に悪気はないと思うわ。許してあげて。」

「…あの子に、ね。」

「なによ。私にだってもちろんないわよ?」

「…だといいけどね。」

「怒るわよ。」


なんて談笑しているとやはり菊里さんが

覗いてくるようだ。


ま、もうここにいる理由もないしな。

そろそろお暇しようか。


「んじゃね鬼道さん。」

「うん!今度手を出したら覚えてなさい!」

「今回も出してないって…」


なんてやりとりの後教室へもどる。

途中で菊里さんとすれ違ったが、

どスルーされてしまったので軽傷。




「なーるほどね。そんなことがあったのか。」

一部始終を話すと隼は怪しい笑い顔で言う。

…なにを企んでやがる?

おそらくなにか良からぬことを考えているだろう。




帰り道。バス停で待っていると

後から菊里さんが歩いて来た。

おれを見つけるとすごく戸惑った様子。

すぐ眉を八の字にして俯いてしまった。

数瞬の間。そして、


「あ…あの…。菊里栞、です…。」


自己紹介をしてくれた。

これは…拒絶ではないととってもいいよな?


「あ、鷺草大知です!今朝はごめんなさい!」

「あっ!ち、違うんです!あれは

私がびっくりしちゃったので…その…

うぅ…ごめんなさい…。」


謝罪をすると慌ててそれを否定。

そして目に水滴をためながら、

すぼまってしまう語尾を精一杯

広げながら謝罪を返してくれる。


「そ、それに…この栞、大切にしてるんです。

だから帰ってこれがないって気づいた時

すごく寂しくて。その…

拾っていて下さってありがとうございます。」


昨日拾った栞を胸に抱きしめ、

さらに謝罪を重ねてくれる。

そうか、それはいいことをした。

緊張をしたかいがあったってものだ。


「いやいや!偶然拾っただけですし

あんまり気にしないで下さい!」


鬼道さんの話によるとこの人も

そうとうな緊張しいなんだそうで、

とくに対人は苦手中の苦手なんだとか。

いやぁ、勝手ながら親近感を覚えますなぁ!

気持ちが痛いほどわかりますよ菊里さん!

…まぁここでお友達になりましょう!って

言えないっていうのがおれ(たち)だよな。


「ぁ…あの…えぇと…」

「はい、なんでしょう?」


とか思ったら。


「も…もしよければ…お友達に…あの……。」


うおっ先手を取られた!

もじもじ一生懸命気持ちを言葉に

してくださる。…可愛い。すごい可愛い。


「先に言われました。

こちらこそよろしくお願いします。」


素直に気持ちを告げた。

この場面でおれが菊里さんなら

こう言われるととてつもなく安心するからだ。


「あぅ…よろしくお願いします。」


勇気を振り返って言葉にしてくれた代償、

顔が真っ赤になってしまう。

こうして、権世高校2人目の友達ができた。

2人目の友達は、他人とは思えないほどの

親近感を持ってリストに割り込んだ。




クラスでは腹の探り合いのため

休み時間だというのに教室は静かだった。

おれと隼の会話に入ってくる人たちが

ちらほらいるくらいだった。

そんな4月11日、学校が始まって

3日目の昼食時間。

なかなか良い出来事が起きた。


「鷺草くんいる?…あ、いた。ねぇ!」


鬼道さんが訪問。

昨日のお礼もしたいしちょうど良かった。


「はーい!なに?」


駆け寄ると鬼道さんは


「私いつも食堂で食べてるんだけど

今日は栞も一緒なの。

鷺草くんも一緒にどうかしら?」


なんとおれを昼食に誘ってくれたのだ!

ぜひご一緒したい!…ところなのだが

1つ問題がある。隼をどうしようか。

元々一緒に食べる約束をしていたのは

(いや、していないけど)隼だし、

かといって男嫌いの鬼道さんが

誘いに来てくれるなんてそうないだろう。

…ん?


「えーと…ちょうどいいや!

友達を紹介させてくれない?

きっと仲良くなれると思うんだ!」


そうだ。どっちをとるか、ではなく

みんなで仲良く食べればいいじゃないか。

策士:鷺草の誕生である。


「男よね…ま、あんたの友達なら心配ないか

じゃあいまから食堂集合!

急がないと席なくなっちゃうわよ!」


そう言い残すとそそくさと行ってしまった。

さて、後は隼に話さなきゃだが…


「隼!昼飯なんだけど…」

「聞いてたよ、行こうぜ!」


さすがは我が友、わかってるな。




食堂は会堂の2倍くらいあるんじゃないか?

というほどの大きさだった。

この大きさで毎日満席なんだから

やはりすごいな権世高校。


配置はおれの左隣に隼、

対面に菊里さん、隼の対面に鬼道さん。

食べ始める前に自己紹介という話になった。


「おれは…必要ないかもだけど一応。

鷺草大知です。よろしくお願いします!」

「いや、よろしくだけじゃわからないわよ。

なにか1つでいいから言いなさいよ。」

「なにか1つ!?」


無茶を言いなさる…


「…えーと…好きな色は白です」

「そうじゃねえよ!」

「そうじゃないわよ!」


シンクロツッコミされた。

…だってわかんないんだもん。


「はぁ…もういいわ。

私は鬼道愛理。男嫌いです。よろしく。」


…おれのはだめで鬼道さんのはいいのか?


「おれは裂園隼。大知の相棒ですよろしく!」


こいつのもOKなのか?


「菊里栞です…えと…鷺草くんの…はうぅ…。」


顔を赤くしてらっしゃる菊里さんも

ノルマクリアなのか!?

…手厳しいな。


それぞれお弁当を広げながら談笑。

意外なことに鬼道さんと隼が

すごい打ち解けていた。

後にメールで聞いたところ

「あの人は栗栖(くるす)先生に似てる」だそうだ。

鬼道さんは栗栖先生のこと信頼してるし

言われれば似てなくもないのかもな。


主に話の中心は鬼道さんと隼で、

おれと菊里さんは相槌がほとんどだった。


それにしても、鬼道さんが

こんなに楽しそうな顔してるの

始めて見るな。

今日紹介できてよかったな。


そして気になることがもう1つ。

菊里さんは隼には

心を開いてるような気がする。

隼は人見知りからすると神みたいな存在だな。



こうやって見ていると考えることがある。

…おれって必要だろうか。


鬼道さんは頭も良く、冷静沈着。

重要な仕事となると

この人を欠いてはあり得ないだろう。

それに、ちゃんと人のことを考えられる。

口が厳しいので

それに気づく人は少ないかもだが。


菊里さんは可愛いし優しい。

需要ならどこへ行っても尽きないだろう。

人を傷つけることができないその性格は

知れば知るほど強力な引力を発動する。


隼は…説明はいらないだろう。

始まって1週間足らずでこれだけ

人に信頼させてしまうのは

こいつの空間支配が心地よいからだ。


…で、だ。

おれには、なにがあるんだ?

緊張しいってか?菊里さんで足りてる。

頭脳なら鬼道さん、安心なら隼がいる。

おれに…なにができる?

おれにしかできないこととかあるのか?


なるほど、こんなにも「存在意義」という言葉が

壁になることがあるんだな。

どうしようか。このまま考えてたら

首を吊ってしまいそうだ。


「…あの、さ、さ…鷺草、くん…?」


そーっと声をかけてくれたのは

菊里さんだった。やはり優しいなこの人。


「ん?なんでしょう?」

「なんでしょう?じゃないわよあんた。

あんな顔してたらそりゃ声かけるわよ。

なにか悩んでるの?男のくせに。」

「愛理っちゃん厳しーね。

男にも色々あるんだよー?

…あんな顔ってのは同感だけどな。」


2人も言葉の質は違えど

心配してくれている。

優しさに変わりはなかったのだ。


「おれそんなひどい顔してたのか?」

「うんにゃ、いつも通りのイケメンだったよ。」

「茶化さないの!ひどかったわよあんたの顔。」

「愛理…鷺草くんの顔は

そこまでひどくないよ。」

「…。」

「…あんたそれ天然?狙ってる?」

「ふぇ?…あああ!!!

ちちち違うの!鷺草くんはかっこいい…

じゃなくって!もう!愛理のバカぁ!」

「ははは…。」


うん、やっぱり楽しいなこれ。

もっと一緒に居たいな。

おれの「存在意義」、見つかるといいな。




昼食を終え、鬼道さんは

自分のクラスへ帰っていった。

隼も、友達に呼ばれて先に帰っていった。


隼が帰り際、菊里さんにウインクし、

菊里さんはそれを見て俯いてしまった。


やっぱり菊里さんみたいな人は

隼みたいな人に惹かれるんだろうか。

すげぇ仲良いもんなこの2人。隼かっこいいし。

この2人…もしかして…?

否、聞くのは無粋ってもんだな。やめとこう。



ほら、でかい2つの嵐がないとこんなにも

静かじゃないか。まさに台風一過じゃないか。

話すことができない2人なんて

残しちゃだめだろ絶対。


と、思うと菊里さんは

おっかなびっくりに質問をぶつけてきた。


「鷺草くんは…愛理のこと、どう思ってる?」


…なんて?

いや、聞こえてはいるんだけど

質問の意味がわからない。

答えが絞り込めない。


「どうって…?」


聞いてみた。すると


「…や、やっぱり鷺草くんは

愛理みたいな綺麗な人が…好きなのかなって。」


は??????????

まてまてまてまて。

頼むから少しだけ時間をちょうだい。

整理させてくれ。


「愛理みたいな綺麗な人が…」

あぁ、うん。愛理、もとい、鬼道さんは

むちゃくちゃ綺麗ですよね。


次だ…「好きなのかなって…」これだよ。

主語は?………………あ、おれ!?


なんて恐れ多いことを…

「なんて恐れ多いことを…」

「え?」

「あっ!」


しまった!

考えたことが口をついて出てきやがった!

普段は働かないくせに

こんなときだけ調子にのる口が疎ましい。


慌てて口を塞いでみるが…もう遅い。

繕いの言葉を並べるだけ不利になるのも

どうやら決まってしまっているらしいし。

ため息混じりになってしまうが一応返事。


「ま、言った通りだよ。

あの人はすごすぎて対象外。」


失礼な物言いになってしまったが

こちらの意図が伝わればとりあえずはいい。

…おれにはあの人を支えることはできない。

少なくともこの不安定なおれじゃ。

『存在意義』が見つかってないおれじゃ。

なんて考えながらお茶を一口含む…


「じゃあ…もし好きって言われたら?」

「ブッ!!」


口にしていたお茶を勢いよく吹き出してしまう。

唐突になんてこと言うんだこの人は!?


「絶対起こらないでしょそんなこと。」

なんて反論に

「もしもの話だよぅ…。」

と視線を下に落としてしまう。

まいった。答えなければならないらしい。


真剣に考えることにしたのだが、

いかんせん想像がつかないのである。

「好きよ。付き合って。」

絶対言わないのである。

オッズなら天変地異といい勝負だろう。


でも、菊里さんは話すだけで緊張する人で、

どれだけの緊張をもって質問を投げつけてきたか

肌がヒリヒリするほど伝わる。

答えなくては。ここは、男として。


最終的にだしたおれの答えは。


「…やっぱり恋愛対象としては見れないかな。」


天空から見下すような口調だ。

我ながら摂政にでもなったつもりかと

小一時間問い詰めたいくらいだ。

ところが、菊里さんは


「うん…そっか。ありがとう。」


と静かに答えてくれたその顔は

僅かに笑みを帯びているように見えた。

そこ、糾弾するところだと思うぞ。

親友の女性としての価値を否定されたのだ。

普通に怒っていいところだぞ。




2人で教室に戻ると菊里さんは

すぐさま隼のところへ駆け寄る。

なにやらコソコソ話しているようだ。


…いや、別にヤキモチを

妬いてるわけではないんだけどね?

やっぱり寂しいじゃないですか。

おれにはしどろもどろなのに

隼には流暢にしゃべってるみたいだし

疎外感を感じて然るべきじゃないか。


…なにを話しているんだろう?




本日の授業の終わりを告げる鐘が鳴り響く。

そのきれいな電子音はそのまま

権世高校が私立であることを示唆している。


なにもできないくせに

寂しがってるお子ちゃまなおれは

即刻この場から出たほうがいい気がした。

またあの言い知れぬ疎外感を味わうくらいなら

いっそ次の日隼に

「昨日帰り寂しかったんだぞ~」って

つつかれたほうがましだ。


と思ったんだが。


「鷺草くん…あの…いっ…一緒に…ふぇ?」


力なく振り返ってみると

カバンをもち、手を胸の前で堅く握り、

溢れそうになるなにかをこらえるように

おれを呼び止める菊里さんがいた。


「なに?」


やる気なさそーに聞く。

だってしょうがないよ。

おれは仲間外れもいいとこだもん。


「っ!…ごめんなさい。」

「え?あっちょっとまって…。」


行ってしまった。

なんか用事だったのかな?

というか迷うことなく隼の下へ行ったな。

やはり菊里さんは…。


くだらない。もう帰ろう。

こんなダサいところ、だれにも見られたくない。


そう諦め、背中を丸めながら教室を後にする。

涙を浮かべながら走り去る菊里さんを思い出し、

胸にチクリとしたなにかを覚えながら

帰路につく。最悪な帰り道だった。





いてて…ずっと背中を丸めていたからか

背面のどこともつかない位置に鈍く痛みが走る。

いや、痛いのは実は背中だけではないのだが。

…ん?なんか後ろからバタバタと足音が…


「おらっ!」

「いてぇぇぇ!」

「ええ!?す、すまん。」


急に背中に衝撃を感じ、仰け反った拍子に

痛みを感じていた部分が

ピキッとかいう悲鳴を上げる。

いつもなら「なんだよー!」で終わるところだが

今回はそんなセリフも出てこないのである。


声といい行動といい隼以外のなにものでもないな。


「わりーわりー!おあいこってことで!」


なにに対してのだ!


「ほら!レッツリトライ!」


ふりむいてみると隼より一回り小さい影が1つ、

遠慮全開の菊里さんが立っていた。


ようやく覚悟を決めたらしい菊里さんの

セリフを待つ。真っ白で小さい指が胸の前で交差。

大きく息を吸って…


「…きょ、今日、一緒に帰りましぇっ!…。」


噛んだらしい。

はずかしそうに口を抑えてうつむいてしまった。

わかるわかる。すごい恥ずかしいよな。

ま、意図は伝わったし、…すごくかわいいし、

わざわざチクチクすることもないだろう。


ふむ。どうやら帰りのお誘いらしい。

それも隼の茶々から察するに、

先ほどの声かけもこれが目的だったらしい。


…まてよ?

確か菊里さんって…

確認のため、彼女の耳元に口を近づける。

少し避けられてしまったのは予想できたので

比較的傷は浅くて済んだ。

…情けなくなんかない。ないぞ。


「菊里さんは隼が好きなんだよね?」

「…え?」


できる限り小さな声で訪ねてみる。が、

…あれ?思ってた反応と違った。

どうしてだろう?違うってこともないだろうし…


「ううん。違うよ?

…あ、友達としてっていうなら…そうかも。」


その返答はとても平坦な声だ。

嘘をついているようにも思えないしなぁ。

まあ恋愛に関しては全く知識がないので

どうしようもないわけなんだが。


「それより裂園くんは?」

「え?」


あれ?なんでいないんだあいつ!?

キョロキョロしているとメールの着信。


なるほどそう来たか。ふざっけんな。

明日の朝どうなるか見てろよあの野郎。

小型のディスプレイには

親友がニヤニヤしながらうったであろう電子文字。


『ファイトだぜ相棒! byキューピット』




結局気まずい状況だった。

というのも、あの質問をしてから

「…菊里さん?」

「なに?」

「さっきから元気ないよ?どうしたの?」

「ううん。大丈夫だよ。」

この通り菊里さんの声は平坦そのもの。

そして、とてつもなくうわの空になってしまった。

一緒に帰るということになってはいるが、

果たして意味があったのだろうか?


大誤算だった。もう恋愛の話は永久封印だ。

そのまま電車、バスと乗り継いでお開き。

精神的なヒットポイントは10%をきっていた。




4月12日。

今週最後の平日であるためか

みんなも少しホッとしているように見える。

…おれはみんなより1日早く学校に

来ていたため、身体的にもピークだ。


HRへの突入を告げるチャイム。

と、同時に朽覇先生が

いつものニコニコ顔で教室に侵入。

生徒に着席を喚起する。

そしていくつか連絡事項を

まるで幼稚園児にするかのように

ゆっくりはっきり述べる。


金曜1限は朽覇先生の数学のため、

HRの後そのまま授業に進む。

そして、この人の数学の授業は

昨日体験したのだが…


「はいここ!しっかり抑えてね!

この先はこの内容をしっかり頭に入れないと

全く理解できないから!はいじゃあ演習行くよ!」


人が変わるのである。

いつものおっとりは消え失せ、

教科書の内容を網羅すべく疾走する。


正直な話おれは数学が大好きなので

ついていけないスピードではないが、

改めて高校の授業の過酷さを認識させられる。

『中学で数学ができる人の半分は

高校の数学で挫折する』という言葉を

聞いたことがあるが、なるほどうなずける。


チャイム1分前。朽覇先生は覚醒モードを終え、

「は~い。ちょっと早いけど終わりましょ~。」

いつものほんわかスタイルを見せてくれた。

今までたくさんの先生を見て来たが

…この人はプロだ。間違いない。

クラスのほぼ全員が机に突っ伏し、

絶望と少しの安堵を含む息を漏らす。


「っか~!わかんね!なにこれ!?」


後ろからイケメンの咆哮が聞こえる。

こいつは数学が好きではないから

頭を抱えるのもしょうがない。


「なぁ相棒相棒!これどういう意味~?」


ノートに指先を落としながら情けない声で

聞いてくる。…のだが、


「てめぇ!その前に昨日のメール

どーいうことだよ!?」


まだその話をしていないことを

さっきの授業中にはっと思い出したのだ。

当然授業中に問い詰めるわけにもいかないので

フラストレーションをためにためて放った。


「昨日のメール?なにそれ?」

「とぼけんな!なにがbyキューピットだ!」

「あぁ!そのことか!」


手をぽんとならして思い出したことを表現する。

すると一転、暗黒微笑をこしらえながら囁く。


「でも、あたりだろ?」

「…あ?」

「好きなんじゃないの?」


…は?

いや、へんな事いうなよ。

そんなこと言われたら意識して

ギクシャクしちまうんだよ。


好き?おれが?菊里さんを?

んなわけあるか…。


否定はしつつも、

今までのおれの感情にそういう要素が

ないわけではなくて困る。

例えばそう、昨日の昼。

隼と2人で話す菊里さんを見てヤキモチを妬いた。

あれがただ単に寂しさからの感情

だけではないのだとしたら。


そんなことを考えていると、


「鷺草くん?ちょっといい?」


なんともタイムリーにお声がかかる。

菊里さんが昨日と同じく

真顔平坦に話しかけてくれる。


嫌われている。そう考えると胸が重くなる。

心に乾いた痛みが走る。

やはりこれは…恋なのだろうか。


「なんでしょう?」

「うん。さっきの授業の話なんだけど…。」


数学の質問だったようだ。

技術に拙いおれの説明で理解してくれたらしく、

「ありがとう。」とだけいって席に戻っていった。


「…あれ?菊里さんなんかあった?」


隼が、やはり違和感を感じてそう聞いてくる。

まぁ隠すような間柄でもないし相談がてら

昨日隼が帰った後の話をした。すると、


「…はー。要するにあれだ。おまえはバカだ。」

「うーん…は?」


罵られた。


「おんまえまじか…やれやれだぜまったく。」


どうやらおれはなにか

してはいけないことをしてしまったらしい。

それがなんなのかわからないのは言うまでもない。


「ま、とにかくあれだ。

確か7限のHRで委員会決めだろ?

あれで菊里さんと同じ委員会にしとけ。な?」


そう、先ほどのHRで言われたんだが、

後のHRで委員会決めをするらしい。

しかし、


「いや、おれより隼の方がいいんじゃないのか?」


と思う。菊里さんのことも考えて

やはりこの方向性は間違いが見当たらない。


「い・い・か・ら・言うこと聞け!」


うぉ…怒らせてしまったようだ。




約束の7限。

朽覇先生が予定通り委員会決めを執行する。


「は~い。じゃあまずはクラス委員を決めま~す。

立候補したい人~。」


可愛い声で手を挙げながらみんなに声をかけるが、

やはりみんながみんな打ち解けているわけではない

今のこのクラスは静まりかえってしまう。

まぁ…決まらないだろうな。

こんな状況で踏み出せるやつなんて…


「はいはーい!おれやりまーす!」


そうそう。隼くらいしか…て、えぇ!?


「わーい。じゃあ君にやってもらおうかな?

他にやりたい人っている~?」


心底嬉しそうに胸の前で指を交差させ、

敬語を忘れた極甘ボイスが隼にふりかかる。


「ええ。やりますとも。」


隼も綺麗にそろった歯を先生に見せて対抗する。

基本おれたちが通っていた中学校では

この笑顔に墜落されていく女の子達が

歓喜の声をあげていたのだが、

さすがに高校生ともなると

そういうのもなくなるらしかった。

…もじもじしてるのは何人かいるようだが。


「さて、じゃあ早速委員会決めの司会は

櫻屋くんにやってもらいま~す。

よろしくね~裂園くん。」

「は~い。」


うん。この2人の相性はばっちりなようだ。

隼がクラスのリーダーか…似合うな。




会は予想通り鈍行を極めた。

手を挙げる数が圧倒的に少ないのだ。

もうなんでもいいや主義の人たちが

興味なさそうに話を聞いているだけである。

もう決まってしまった人たちが

退屈するのはわかるが、どうにかならないのかな

このthe・日本人思考。


「次、図書委員やりたい人~。」


隼が、それでも変わらずみんなの意見を聞く。

すると、菊里さんが手を挙げた。

なるほど、あの人は確かに本大好きだもんな。

図書委員か。似合うなぁ。


なんて考えていると隼がこっちを睨んでいる。

おっと、危うく忘れるところだったぜ。


「はい、2人手を挙げてます。

他の人はいいっすか~?決定しますよ~?」


こうして、いとも容易く

おれと菊里さんは同じ委員会に入ることができた。




帰り道。

菊里さんは相変わらず能面を外そうとしない。

ああ言えばこう言う。こう言えばああ言う。

バスを降りる時はさよならすら言わずに

いってしまったのである。

やはり嫌われてしまったのだろうか。

嫌いになったところでどうということは

ないと思っていたが、

嫌われるとこんなにも辛いものだったのか。




その後、土曜、日曜、月曜、火曜と

日はたんたんと過ぎ、桜が散り始める

4月17日水曜日。

今日の放課後どうやら図書委員会があるらしい。

菊里さんと話す機会があるのは嬉しいが、

土日を除く4日もの間、

菊里さんの貫一とした避け具合に

グロッキー状態である。


「図書館は…ここだったかな?」


迷いながら委員会が開かれる図書館まで

たどり着いたのは15:27。

委員会が始まる13分前だった。

遅れるよりはよかったし、

待つのには大分慣れてるのでよかった。

それにしても、


「…大きいね。」

「そうだね。」


率直な感想を述べると菊里さんは返事をくれる。

やはり冷淡ではあるが。


…こんな時、どうすればよいのだ。

女の子の扱いなど学んだことがない。

息苦しくてしょうがない。

この緊張は…嫌だ。




委員会が始まると早速役員決めが始まる。

といっても立候補は各役職1名ずつなので

速攻で決まってしまった。

委員長は3年生の風上夏希(かざかみなつき)さん。

副委員長は同じく3年生の毅坂茉乃(きさかまつの)さん。

そして書記はなんと1年生の雨宮和成(あまみやかずなり)くん。


夏希先輩は髪が長いところでも

耳の下あたりまでしかないベリーショートで

とても活発な女性。先輩の理想像みたいな人だ。

こういう人が部活の先輩とかだったら

絶対について行きたくなるんだろうな。


茉乃先輩は腰まで届くくらいの長髪ストレート。

鬼道さんの髪とはちがい真っ直ぐに伸びている。

170センチはあるだろうか。

背が高く、細身でモデル体系なのだが

大人しく夏希先輩のブレーキ役に徹している。


雨宮くんは眼鏡、短髪で立ち姿からして

いかにも真面目くんといったところだ。

喋り方もハキハキしていて聞き取りやすく、

なにより、さっきから書いている

黒板の字が読みやすくてしょうがない。


図書委員会はこの3人を中心に回っていくようだが

だれも異論を唱える人はいないだろう。


「さって!じゃあ議題にいくよ~!」


可愛い声を響かせながら夏希先輩が机に手を置く。


「この図書館には10000冊くらい本があるの!

これだけ広いから場所的には問題ないんだけど

やっぱり管理が大変なんだよね~。

そこで!思い切って2000冊くらい

減らしちゃおうかという話になってます!」


続けて茉乃先輩が


「つきましては、本を減らしたスペースを

なにに使うかを話し合おうということです。」


と。


なるほど、余ったスペースをなにに使うか…か。

最初の委員会で

こんなに重要な働きをすることになるとは。

どうしようか…と菊里さんに目を向けてみると、


…なんか顔色がおかしくないか?


「菊里さん?」

「…へ?あっ…なに?」


声をかけてみると一瞬顔が固まり、

またすぐいつもの真顔に戻ってしまった。

頼む隼。助けてくれ。




結局、みんなでくつろげるようにと

ベンチを設置することに決まった。


みんなにいらない本の選定、ベンチ設置の手伝いを

呼びかけた後、夏希先輩の

「ほんじゃお疲れ!」で締め。


さあ、菊里さんに声をかけて帰りますかね。


「帰ろうか菊里さ…ん…?」


声をかけてみると、そこに菊里さんの姿はない。

まさか、先に帰っちゃったのかな?

あんまり考えたくはないな。

とりあえず探してみるか。




いた。

どうやら夏希先輩と話しているようだ。

…夏希先輩は困った様子だ。

菊里さんは泣きそうな顔でなにかを訴えている。


「あなたはあの子と同じクラスの子?」


透き通るような声が横から聞こえてくる。

びっくりして横をみるとおれより少し上から

おれの目を見て質問する茉乃先輩がいた。


「ああっはい!鷺草といいます!」

「鷺草くんね。あの子の話を聞いている?」

「いえ、ぼくはなにも…」


そう、情けないことになにも聞いていないのだ。

せめておれにだけでも言ってくれればいいのに。



「あの子はさっきの議題に反対してるの。」

「というと、ベンチ設置にですか?」

「いいえ、議題自体に。本を減らすことに

反対してるみたいなの。」


冷静におれの見解を否定し、真実を告げる。


菊里さんは本が大好きだと思っていたが

まさかそこまでとは。


「ありがとうございます。

とりあえず加わってきます。」

「あ、私も行くわ。」


そういって2人の下へいく。

…正直に言うと、心強い。




「お願いします!本を捨てないで下さい!」

「いや、だからまだ捨てるわけじゃ…」

「じゃあ2000冊はどうなるんですか!?」

「それは…」


菊里さんがとても熱くなってらっしゃる。

夏希先輩もお手上げのようだ。

うーん…おれもどう入っていいやら。


と、悩んでいると茉乃先輩が前にでて


「菊里さんだったわね?

あなたの本に対する愛情は認めるわ。

でも、10000冊もの本を管理するのは

とても難しいことなのよ。

2000冊だって減らし足りないくらい、ね。」

「そ、そんな…!」

「10000冊を均等に全て愛することができる?

1冊たりとも見逃さずに管理できるというの?」


茉乃先輩の厳しい指摘に菊里さんは

黙る他はなかったようだ。

うつむいてしまった。

しかし、納得は当然いってないようだ。


「まっちゃん厳し~よぅ!

後輩にはもっと優しくしなきゃ~!」


という夏希先輩の優しさも


「じゃあこの子の言うこと聞いてあげたら?」


茉乃先輩の厳しさの前に空を切る。

心強い撤回。手厳しい。




茉乃先輩たちが帰る時に

図書館の鍵を返すらしいのでおれたちは

退室を余儀なくされた。


夏希先輩の「ごめんね~!」はもちろん、

茉乃先輩の「あなたみたいな子、嫌いじゃないわ」

という言葉を聞いても

菊里さんはただうつむいていた。


「…帰ろう?」

「うん…」


最早無表情を貫く力もないらしい。

うなだれたまま高校の敷地を後にする。




どうにか気持ちを持ち上げようと

必死になって話すも響かず、駅に着く頃には

返事が返ってこないこともしばしば。


電車、バスと着実に帰路は終わりへと進む。

この人の心におれの声は届かないままなのに。


「それじゃあ…。」

「…。」


ついには帰りのあいさつすらもらえなかった。


ムカつくかと言えば、実はそうでもない。

というよりもいつしか隼に言われた

「好きなんじゃないの?」にやられて

そのことばかり考えてしまっている変態ぶり。

…いや、行動に移せるほどの

強靭な心臓は持ち合わせていないから大丈夫。


今日が水曜日。

さっき委員会でもらったプリントによると

本の厳選、廃棄まではまだ少しあるようだ。

よし。明日こそは。





4月18日木曜日。

平常通り朝のHRからスタートする時間。

この時間内では時計は速度を著しく失う。


「そういえば、みんなはもう部活決めた?

部活の入部届けは原則明日までだからね~。」


と言う朽覇先生を見て思い出した。

そうだ、おれまだ部活決めてないんだった。

権世高校は強制的に部活に

入らせるような体制はとっていないため、

別に入らなくてもいいのだが、

高校生活それで良いのかという気持ちがある。

趣味程度にバスケをしているのでバスケ部か…?

いや、バスケはあくまで趣味だ。

入っても中途半端に辞めてしまうだろう。

…どうしようかなぁ。




「私?私は入らないわよ?」

「おれも入る気ねぇなぁ。」

「…。」


2度目の昼食会。

メンバーや配置は以前と同じだが

関係は前回とは明らかに違っていた。

おれが話し、隼と鬼道さんが聞いてくれている。

菊里さんも聞く気はないようだが同席してくれる。


今の話題は今朝言っていた部活について。

みんな入る気ないらしいし

おれもまぁ…いいかなぁ。

こんなに自分の意見がないのもどうかと思うが。


「それより、栞。あんたなんで

さっきから鷺草くんにそんなに冷たいの?」


鬼道さんがまた聞きづらいことを聞いてくださる。

やっぱり鬼道さんは頼りになるな。

一瞬固まった隼の顔が気になったが放置する。


「…なんでもないの。」

「あっ、ちょっとまって菊里さん!」


菊里さんがうつむいたまま少し残した

お弁当をと包み、そそくさと退室する姿勢。

呼びかけた隼をも無視しながら教室へ帰っていく。

後を追う隼を見ながら、

やはり胸にピリッとした痛みを感じる。


「なによ?あの子とまたなんかあったの?」

「あぁ、実はね…。」


説明する自分を客観的に見てみたら

吐き気がしたのでやめた。


***********************


「待ってってば!」

「…ごめん。」


わからない。

自分が、なにを考えているのか。

私は鷺草くんと友達でいたい。

もっと仲良くなりたい。

もっとたくさんお話しして

あの人のことをもっとよく知りたい。


なのに、あの人といるとどうしても

目を見て話すことができない。

素っ気なく話すことしかできない。

ああやって話さないと

恥ずかしくて変な顔になってしまうから。


鷺草くんはきっと

私が鷺草くんのこと嫌いになったと思ってる。

当たり前だよ。

私が鷺草くんでも同じことを考えると思う。

現にこの前はそれで泣いてしまったし。

…どうして普通に話せなくなっちゃったんだろう?


「菊里さんは隼のことが好きなんだよね?」


あの言葉を聞いてからだ。

あの言葉を否定するときに

無理やり自分を抑え込んで話したら

自分を見失ってしまったんだ。

私っていつもどうやって話してたっけ?

鷺草くんと普通に話せてたんだっけ?

もう…遠くて思い出せないや。

あの輝いていた友達との日常は。


「なぁ…言ってやってくれないか?」

「…なにを?」

「菊里さんが大知のこと

嫌いじゃないってことをさ。」

「…。」


ほら、裂園くんにさえこんな話し方。

裂園くんも鷺草くんも優しいから

まだ私のそばにいてくれるけど…


「…………もう無理だよ。」


こうやってワガママを言っていたら

すぐ友達なんていなくなってしまうんだ。

…わかっているはずなのに。


「なんでもう無理なんだ?」

「こんな態度だもん…もう嫌われちゃってるよ。」

「そう言ったのか?」

「え?」

「大知が菊里さんに『嫌いだ』なんて言ったの?」


いや、言ってない。

どころか昨日の帰り道ずっと励ましてくれてた。

少なくとも態度には現れていない。


裂園くんの質問に間を置かず首を振る。


「あんまり大知をバカにしないでやってくれ。

あいつはその程度で人を見限るほど

頭の悪い人間でもないんだから。」


あぁ。

やっぱり。裂園くんは…


「…裂園くんは、私のこと嫌い?」

「うんにゃ。」


私の質問に否定の意を唱えながらも

顔にいつもの笑顔がない。

私のために嘘をついたに違いない。

そうだ、そうに違いない…


「今おれが嘘をついてるとか考えたでしょ?」


言い当てられた。

この人、人の心を読める人なんだ。


いや、読むだけじゃなく、操れるんだ。

私のことを口では厳しく言っているけど

内心励ましてくれる。鼓舞してくれている。

がんばれ。がんばれ。って言ってる。まるで、


…まるで大好きな友達にするかのように。


できることなら今すぐにでも謝りたい。

私の口さえ言うことを聞いてくれれば…。


「今菊里さんに必要なのはしゃべる技術じゃない。

ほんの少し、勇気があればできるだろ。

ありのままの菊里さんを受け入れないやつなんて

おれ含むあの3人の中にはいないよ。」

「っ!…本当に?」

「本当だ。ずっと友達だぜ。」


友達…?ずっと…?

いいなぁ。そんな風になれたらなぁ。

なれるのかな…。私が少しだけ勇気を出すだけで。


それで拒まれたら…私は生きていけるのかな。


☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆


「ふ~んなるほどね…。」


訝しげな表情の鬼道さんは

菊里さんと…多分、おれのために悩んでくれる。

菊里さんが信用しているのも無理ないくらい、

他人事に対して真剣になってくれる。


「…で、あんたは今どうしたいの?」


ある程度ことの顛末を話すと

どうやらおれの意見を促してくれているようだ。

口調は厳しいが決して責めているわけじゃない。


「なんでかはわからないけど…モヤモヤする。

このモヤモヤをなくしたい。」


自分でもわからないこと。

それを鬼道さんに押し付けてしまう。

我ながらバカだなぁ、と思う。

ところが鬼道さんはそれをうけとめ、


「そのモヤモヤは入学式の時の?

それとも…栞に対しての?」


必要な内容だけをピックアップする。

この人はおそらく相談窓口に相応しい。

これからも利用させていただくかもな…。


なるほど。考えたこともなかったな。

これは…どっちの問題なんだろう?


「…わからない。」

「そう。じゃあきっと

その両方に共通する問題なんだと思うわ。」

「え?」


悩んだ末にでたふざけたかのような答えに

鬼道さんはスパッと憶測を突き立てる。

なるほど、両方に共通する…か。


「最近で最も核心に近い疑問に当たってない?

多分それが、モヤモヤの正体よ。」


そうか…核心に近い疑問…か。


それなら考える必要がない。

明らかだからな。核心に近いというより

核心そのものが。


「おれは…『存在意義』が欲しい。」

「あら、なんだ。わかったんじゃない。」


そうか。そうだったんだ。


入学式が終わり、自分の目の前にあった

おれの『存在意義』が終わって戸惑っていた。


そして…菊里さんに対しては…

菊里さんに対する『存在意義』が欲しいんだろう。

つまり、ということは、おれは…





「…え?」


授業が終わり、委員長の呼びかけ通り

1年生の図書委員と図書委員の役員たちが

図書館に大集合した…のだが。


なにやらもめごとになっているらしい。

その中心には委員長と、菊里さん。

泣きながら抗議しているらしい。

内容はおそらく前回と変わらないだろう。

それを多数の委員に囲まれているようだ。

みんな話にこそ加わらないが、

さっさと終わらせて帰りたいのが本心だろう。


救いたい。

あの人があんな顔をしているのは耐え難い。


ところが、思ったよりも焦りがない。

モヤモヤはすっかり消え、晴れ心そのものだった。


おれにできること。おれがおれであること。

さっき鬼道さんに話して気づいたんだ。

やっと見つけた。おれの『存在意義』。


それは、君を救うことだ!


「菊里さん!」

「っ!?」


おれの呼びかけに菊里さんと委員長の視線が

お互いからおれに移る。

同時に集まっていた図書委員たちの視線も受ける。

あー緊張する。お腹痛くなってきた。


「委員長、本の選定を始めてください。」

「え?いいの?」

「菊里さんの説得はおれがしますので。」


ボソボソと会話した後、

図書委員諸君を引き連れて

役員たちが図書館の南京錠を外す。

突破されてしまう牙城を見るに耐えないと

菊里さんは思わず目を覆ってうつむいてしまう。


「…っ…ひどい…こんなの…。」


涙声がおれの肩あたりから聞こえる。

うん。大事なんだよな。

大切なものを守りたかっただけなのに、

そりゃあ嘆くのも無理ないよな。




これは、昼休みに遡る。

おれは担任の朽覇先生にある相談をしていた。


「うん。できなくはないけど…どうして?」

「…ある人を助けたくて。」

「人のためなの?」

「はい。」

「止めはしないけど…それとても大変なことよ?」

「無理は承知です。そしてできれば

朽覇先生にもご協力をいただけると

ありがたいのですが。」

「…あ、この役ね?うふふ。なら任せて!」

「ありがとうございます!お願いします!」





本の狩猟部隊を眺めながら、おれは覚悟を決める。

おそらく、おれの高校3年間を

投げ打つようなプロジェクト。

そして失敗すれば、被害はおれの高校生活だけに

収まらないのだ。

…まぁ、たとえどれだけリスキーな賭けであろうと

辞める気などこれっぽっちもないが。


今のところわかっていることは2つ。

1つは、おれは相当に頭が悪いということ。

別にここまでしなくても本を守ること、

菊里さんの笑顔を取り戻すことは

できるかもしれないというのに。


そして2つ目は。

…おれが菊里さんのことを好きだということ。

どんな態度で接せられようとも、

この人のために全力で行動したいと思う。

さっき鬼道さんと話していてわかったことだ。

おれの『存在意義』はこの人のために…

そう思えるほどに魅せられている。


覚悟はできた。あとは菊里さんが

首を縦に振ってくれるだけだ。


「菊里さん。」

「…な、なに?」

「本気で本を守る気持ち…ある?」

「なんで?」

「…部活を、作ろう。本を、守るための部活を。」

「…へ?」


久しぶりに見たキョトン顔。

驚きで体が硬直しているようだ。

顔を覆っていた手は空中で指を絡めたあと

ゆっくりと下に降ろされている。


「…どういうこと?ふざけてるの?」


いつもの調子を取り戻したらしい菊里さんは

そんな叱責をもたらしてくれる。

が、当然引き下がる気も毛頭ない。


「もう朽覇先生と話をつけてあるんだ。

名前はまぁ…読書部とかなんかそんなの。

顧問もやってくれるらしいから心配ない。」

「そういうことじゃない!」


進捗状況を伝えたのだが、

菊里さんは別のことに憤慨しているらしい。

…少し、見当がつかない。


「どうしてそんなことするの?

それで、鷺草くんはどうするの?

部活を作って途中でやっぱり辞めるなんてこと

簡単にはできないんだよ?」


どうやらおれのことを心配してくれたらしい。


「うん。でもこれで菊里さんの願いは…

本は、守れるよね?ならいいじゃん。」

「良くないよっ!」

「どうして?おれなんてどうでもいいでしょ?」

「よくないの!」

「いや…え?」

「私は…鷺草くんのこと…その…じゃなくて!

と、とにかくそんなのだめぇ!」


却下された。

手を固く結び、鳥のようなポーズで怒られる。

かわいいなぁ…じゃなくて、

おれとしては渾身の策だったんだけどなぁ。


やっぱりおれじゃだめなのか…うん。

重い痛みを堪えたせいでトーンは落ちるが、

伝えるべきことは伝えないとな。


「わかったよ。じゃあおれは…入らないから。」

「へ?」

「おれが邪魔なんだよね?いらないんだよね?

じゃあおれは作らないから菊里さんが…。」

「違う!」

「…菊里さん?」


「さ…鷺草くんがいろいろしてくれるの、

すごく嬉しい。…いっぱい、感謝してるの!

でも…だめだよ。もっと…自分を大切にして。」




結果は、惨敗。

この人のためにと動いてきたものは、

なんの成果もなくただの空論に他ならなかった。

落胆…よりも。

自分の無力さへの怒りに、涙が溢れんとしている。

いや、断固こぼしはしないけど。


「…そっか。ごめんな。力になれなくて。」


今下を向くとこぼれてしまいそうになるため、

空から視線を崩せない。首が痛い。


諦められない。

別の方法を探そう。

おれに向かなくても良い。

おれへじゃなくていいから、頼む。


笑っていてくれ、菊里さん。


「…どうすれば、いいの?」


情けないな。

涙声でそう聞いてしまうほどに。


「どうすれば…菊里さんは笑ってくれるの?」

「…え?」


***********************


「どうすれば…菊里さんは笑ってくれるの?」

「…え?」


なにを、言っているの?

こんなにひどい態度をとってるんだよ?

嫌いになって当たり前だよ?


なのに…なんで?

私が笑っていて、なにになるの?

なんで、私のために泣いているの?


私になにができるんだろう。

私のために自分を犠牲にするこの人に。

やめて欲しい訳じゃない。

ただ、心が苦しくて。

ありがとうが、言えなくて。



口が…動かない。

やっぱり、私はだめだ。ひどい人なんだ。


『少しの勇気さえあれば。』


少しの、勇気。そう。少しでいいの。

お願いだから、動いて…動いてよっ!


☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆


久しぶりに顔を下ろした。

涙が乾いた理由は簡単。

新しい作戦が思いついたわけじゃない。

ただ、半ば諦めかけているからだ。


隼なら…どうしただろうか。

隼がこのポジションにいたら、

隼なら、どうしているのだろうか。

鬼道さんなら…。


不毛な疑問は目頭を冷ますには好都合だった。


ふ、と。菊里さんを見ると。

いつぶりだろうか。この顔を見るのは。

顔を朱く染める緊張しいの女の子。

冷徹など似合う要素を持たない小さな女の子。


「……………………………ごめんなさいっ。」


うつむいて、おれの姿を正面で捉え、

わずかに震える体を必死に抑えながら、

今にも崩壊しそうな涙腺を必死に押し殺しながら

一言、そうつぶやいてくれた。続けて、


「……もし、よければ。

…お友達に…なって、くれますか…?」


こぼれる涙が見える。でも、拭う動作はない。

返事を待っているからだ。

おれの…おそらく、肯定を。


しない理由などない。する理由しかない。


「もちろんだよ。これからよろしくね。」

「…っ!」


返事をした瞬間。

堪えきれなかった涙から

堪えることをやめた涙に代わり、

声を漏らしながら泣く。

つられそうになるが、おれが泣いちゃ意味がない。


この人の涙…うれし涙だからこそ美しい。


「ごめん…ごめんね、鷺草くん…っ!

私…ひどいことして…。」

「大丈夫。それより、

また友達になってくれて嬉しいよ。」

「っ!ふぇ~~ん…ヒック…っ!」


たまらず泣きじゃくる菊里さんの悲鳴は、

おれの心をゆっくり、確実に染め上げていった。




『おお!でかしたぞ我が相棒!その話乗った!』

『へえ!楽しそうじゃない!私も混ぜなさいよ!』


かくして。隼、鬼道さんを交えた4人により

結成された権世高校読書部は。


「うふふ。よかったね~菊里さん!」


女神のような包容力ある顧問を従えて堂々の成立。

図書委員長たちとの交渉のもと、

削減される2000冊の本の行き先を決定できる、

菊里さんの夢を叶えることができた。


まぁ委員長のおかげ9割、

生徒会に幅を効かせている隼1割のおかげで、

というのがなんとも格好つかないところだが。


それでも、成立が決まった直後の

菊里さんの微笑みと「ありがとう。」は、

おれの心から一生離れることはないだろう。







ぼくはちょうど栞さんみたいな人に

恋をしているので、

軽く妄想日記みたいになっちゃいますが、

これからも付き合っていただけると幸いです。


さて、読書部設立という流れになりましたが

…地味ですね~。なんとも。

まあ大知たちにはちょうどいいのかな?


これからこの2人はどんな関係に

なっていくんでしょう?

上記の通り栞さんみたいな人に恋しているので

だんだんウフフな方へ行くかもわかりません。

1人でも多くの人にお楽しみいただけますよう。

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