それぞれの好み
久しぶりの思いつきです。
「いいかげんにしろ!」
リビングにやってきた一馬の第一声は弟たちを叱る怒声だった。
柏餅を間に翼と潤が二人でどっちを食べるかで揉めていた。
「「だって!」」
二人の声が重なるが、一馬は手をかざすことで制し、いつもの1人掛けソファに腰を下ろす。
「高校生にもなって、柏餅一つで何をしている!」
普段は声を荒げて怒ることは少ない一馬の一喝にもめげることなく翼と潤は言い募ろうとする。
広々としたリビングには、口論をしている翼と潤の他には我関せずでソファの上で湯のみと柏餅を手にくつろいでいる慎とキッチンで自分と一馬の分のお茶を入れた玲がいる。
二人分の湯のみをローテーブルの上に置いた玲が一馬寄りのコーナーに座る。
無言で差し出された湯のみを受け取り、一口飲む。
玲は柏餅用に新茶を開けたらしく、ゆったりと湯のみに口を付けている。
ソファに座った一馬のそばのラグに正座している二人に説明を促すように視線を向けると、互いに肘でつつき合いながらしばらく争っていた二人だが一馬が湯のみを置く動作にびくりとすると、潤が慌てて話しだす。
「今朝、俺が朝のうちに雪見屋で人数分柏餅買ってきたのにさっきお茶の準備を始めてしまってあったの出したら一個足りないんだ。
だから、誰かが食べたのかと思って聞いたら翼が!」
「潤が数を間違えて買ってきたんだよ!
で、俺が食べたんだって言うからっ」
おとなしく座り込んでいたが、互いにまた肘で突き合いだした二人にソファに腰を下ろした3人が冷たい視線を送る。
「俺はちゃんと人数分、8個買った!」
「でも、皿に開けたら7個しかなかった!」
二人で水掛け論のように繰り返すが、答えはもちろん出るはずがない。
それまでのんびりお茶を飲んでいた玲がため息まじりにつぶやいた。
「そんなことでけんかしてたのか・・・
それなら、さっき篤史が忘れ物をとりにきて一つつまんでいったぞ?
だから一個足りないのは篤史が食べたからだ。」
あまりのくだらなさに一馬は一つため息をつくと、
「潤、篤史を数え忘れたな。
それより、二人とも子供じゃないんだから柏餅の数なんかでけんかするな!」
一馬の短い説教が終わるのと共に玄関からパタパタと軽い足音が聞こえてきた。
「ただいま〜
パパがきょうはこどもの日だからかしわもちかってくれたよ!」
明るい声とともに渉が両手で抱えるように包みを持っている。
「あきちゃん、パパがみんなでたべようって!」
ニコニコと笑顔を浮かべ玲の前まで走ってきた渉から包みを受け取ると、渉に手を洗ってくるように促すとラグの上で正座をしている二人を置いてキッチンにお茶を入れに向かう。
「二人とも玲を手伝ってきなさい。」
一馬の鶴の一声で翼と潤は動き出し、それと入れ替わるように悠がリビングにただいまと現れた。
心なしか疲れた様子の一馬に悠は何かが起きていたことは察しているようだが、特に何を言うでもなく慎の頭をなでるとキッチンに声をかけ、一度部屋を後にする。
ようやくお茶と柏餅の準備が整い、手を洗った渉と希が仲良く席に着くと玲が手早くお茶を置いて座る。
ラグの上に座り込んだ翼と潤はまだ少し頬を膨らませているが、年齢順に皿の上から餅がとられ最後に二人がそれぞれ手を出すとまだ二つ残っている。
首を傾げる二人に、悠は
「たぶん後で必要になるから。」
と言って全員で行儀よく悠の買ってきた柏餅をいただく。
「おいしいね!」
と喜びニコニコと話す渉と希に皆笑みを浮かべる。
「そういえば、3色あるのにちゃんと分かれたね。」
さっきまでの膨れっ面が嘘のように翼が笑顔を浮かべ言うと。
「草が3つ、こしが4つ、みそが3つでちょうどだろう?」
「そうだね。
僕らいつも同じものしか食べないもんね。」
悠の言葉に慎が返す。
そう、新堂家では海外生活の長い悠と希に加え粒あんが苦手な渉と翼がこしあん。
よもぎの風味を好む、一馬、玲、潤が草の粒あん。
そして最年少なのになぜかみそあんが好きな慎がピンクのみそあんを食べるのがいつものことだ。
そして、よく新堂家に訪れる悠の友人二人がみそあんを好むのも例年のことだ。
今年はイレギュラーに篤史がいたので数が狂ったが、例年通りであれば潤が買ってきた数は合っていたのだ。
ほんの少し前まで懐かしい記憶に少し感傷に浸っていた一馬はこうして今年も、家族に囲まれてすごす端午の節句にまた少しだけセンチメンタルな気分を味わうのだった。
が、穏やかな端午の節句が送れたことは翼と潤が張り合うようになってから無いのだった。
そして、今年も賑やかな端午の節句を新堂家の面々は過ごすのだった。
好みは人それぞれ、ちなみに篤史が食べたのはこしあんで、後日やってきたときに一馬にちくりとつまみ食いは行儀が悪いと注意されるのでした。




