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戦闘狂の新妻

作者: 水谷なっぱ
掲載日:2026/09/18

 ある朝、リリーが目を覚ますと、屋敷の空気が妙に重かった。


 朝の光は明るく屋敷に降り注ぎ、窓辺のカーテンは穏やかな風に揺れている。


 しかし、侍女たちの表情は一様に暗い。



「何かあった?」



 洗面器に湯を入れて運んできた侍女に聞くと、彼女は難しい顔で首を横に振った。



「わたくしからは申し上げられません。旦那様からご説明なさるそうです」


「ふうん、ついにママが出ていった?」


 その瞬間、リリーの後ろでガシャンと何かが落ちる音がした。すぐに「も、申し訳ありません……っ」と侍女たちの慌てふためく声がする。



「いいわよ。時間の問題だもの」



 リリーは華奢な肩をすくめて立ち上がる。侍女たちは俯いたまま、長い銀髪を丁寧に梳き、着替えを手伝った。



***


「おはようございます、お父様」


「……うん。おはよう、リリー」



 リリーが食堂に顔を出すと、この一年で半分ほどにやせ細った父、ヘムロック・ブルグマンシア伯爵が、疲れ切った顔を娘へ向けた。


 父の前の皿はほとんどなにも乗っていない。それも、この一年ほどの話だ。



「ついにお母様が出ていったの?」


「ああ。なんだ、お前わかっていたのか」


「逆になんでわからないと思ったのかしら」



 リリーの母親であるブライア・ブルグマンシア夫人が、夫のヘムロックに愛想をつかし、浮気に明け暮れていることは、社交界では格好の噂の種だった。


 その噂はリリーの耳にもしっかり届いていた。そのせいでリリーまで男好きだと思われ、若い貴族たちからしつこく声をかけられることも多く、心底うんざりしていた。



「それで、だ」



 ヘムロックがパシッと手を叩いた。



「今更ではあるが、これ以上我が家の醜聞が広まるとリリーの将来に差し障る。お前ももう十八になるし、今来ている縁談の中から王都から最も遠い地へ嫁いでおいで」


「今更にもほどがあると思いますが……どなたですか?」


「ドラクル辺境伯だ」


「お父様の人を見る目のなさにはびっくりしますわ」



 笑いながらパンを頬張るリリーに、控えていた執事が見合いの釣書を差し出した。




 ――オーガスト・ドラクル。


 東の海岸沿いを治める辺境伯であり、戦闘狂として名高い人物だ。


 数年前に事故で先代夫妻がなくなり、一人息子であるオーガストが急遽後を継いだ。


 海より来る蛮族を千切っては投げ、千切っては投げ……防衛戦では負け知らずの戦闘狂。先代の死も不慮の事故ということになっているが、本当のところはわかりかねる――と、釣書には記されていた。


 写真の男性は長い黒髪を首の後ろで無造作に束ね、漆黒の瞳で鋭く遠くを見据えていた。



「釣書に悪意が滲み出ておりますわねえ」



 リリーは苦笑した。


 戦闘狂もなにも、辺境伯が外敵から領地を守るのは当然の役目だろうに。どうにも王都の温室育ちは生ぬるくて困る――そう思ったが、リリーは口にしなかった。



「お父様、なぜこの方を私にお勧めに? 遠いから、というだけではないでしょう」


「むろんだ」



 伯爵はにこりと笑い、椅子の背にもたれた。



「王命だよ。それに、わたしは人を見る目はないが、土を見る目はあるんだ」



 差し出された手の爪は、土で真っ黒になっていた。



***


 一週間後、リリーは馬車に揺られ、海辺の街までやってきた。


 城塞都市ペンバートン。ドラクル辺境伯が治める、高い壁に囲まれた堅牢な街だ。


 周囲には潮風に強い大麦畑が広がり、かすかな潮の香りを乗せた風が穏やかに吹き抜けていた。


 遠くでは波が砕ける音が絶え間なく響き、空には白い海鳥が輪を描いている。石造りの城壁は潮風に削られ、ところどころ白く塩を吹いているのが馬車からも見えた。


 王都の磨き上げられた街並みとは違う。荒々しい海と共に生きる街だった。


 リリーが都市の入り口で名乗ると、門番は恭しく頭を下げ、扉を開けた。そのまま城へ向かうと、そこでも同じように中へ通され、薄暗い応接室へ案内された。


 厚い石壁に囲まれた室内はひんやりとしていて、窓の外からは風に乗って潮騒がかすかに聞こえる。調度品は質実剛健で、王都の貴族邸のような華やかさはない。


 出されたお茶に口をつけていると、ほどなくして城主のオーガスト・ドラクルが家令を伴ってやってきた。


 背が高く、引き締まった体つきの男だった。張り詰めた険しい雰囲気と、釣書の写真そのままの鋭い眼差しで、リリーを見下ろしている。


 年齢はリリーより十歳年上の二十七歳だと聞いている。貴族男性がこの年まで独身なのは珍しいが、あの悪意に満ちた釣書を読めば無理もない。そう思いながら、リリーは立ち上がって頭を下げた。



「お初にお目にかかります。ブルグマンシア伯爵の長女、リリーと申します」


「オーガスト・ドラクルだ。楽にしてくれていい。……僕は、君に妻としての役割を求める気はない」



 低く静かな声が頭上から降ってきた。リリーはにこりと微笑み、腰を下ろす。


 そのままオーガストを見上げて口を開いた。



「あら、舐めたことをおっしゃいますのね」



 オーガストは座ろうとした中途半端な体勢のまま、目を丸くした。



「あなた、貴族の成人男性でいらっしゃるのでしょう? わたくしを娶るおつもりで縁談を申し込まれたのではなくて?」


「そうだが……しかし、王都でぬくぬくと育った小娘に、辺境伯夫人など」


「なら、最初からわたくしに縁談など申し込まないでください」



 リリーがぴしゃりと言い切ると、オーガストの後ろに控える家令の肩がぴくりと震えた。



「あなたはわたくしに縁談を申し込んだ。わたくしはそれを受け入れた。ならば、どうであれあなたとわたくしは一蓮托生です。ここへ来てそんな御託を並べるのは卑怯だわ」


「……だが」


「なんですか」


「この街にはドレスも、宝石も、貴族の娘が求めるようなものなど」



 言葉を重ねるごとに声が小さくなっていくオーガストに、リリーは背筋を伸ばしたまま答えた。



「そんなものは不要です。失礼しちゃうわ。いったい、あなた様はどういうおつもりで我がブルグマンシア伯爵家に縁談を申し込まれましたの? わたくしに必要なのは土だけです。あ、あと温室とホースとジョウロと……肥料と種はこちらで用意しますから、それから――」


「我が城を、花畑にでもするつもりか?」



 リリーは顔をしかめた。どうやら彼は、本当にブルグマンシア伯爵家がどういう家なのか知らないらしい。



「どうとでもお思いください。ただし、わたくしが育てる植物に許可なく触れませんよう」


「ふん、草花の棘ごときで傷つくようなやわな鍛え方をしているとでも?」


「手をお出しになって」



 オーガストがいぶかしげに右手を差し出した。



「まあ、素直に利き手を差し出されるなんて、かわいらしいこと」



 リリーは微笑みながらドレスのレースの陰から一枚の尖った葉を取り出し、太く硬い中指の爪の際へすっと刺した。



「なっ、あ……っ!」


「やわですこと」



 オーガストがぎろりと睨みつけるが、手はしびれ、リリーの小さな手から引き抜くことができない。家令が慌ててベルを鳴らす。兵士が五人駆けつけ、リリーを取り囲んで剣を向けた。



「我がブルグマンシア伯爵家は植物の専門家ですの。王命により、ドラクル辺境伯の補佐に参りました。どうぞ、よろしくお願いいたします。旦那様」



 首筋へ五本の剣を突きつけられながらも、リリーはにこりと微笑んだ。



「その毒に効く薬はありませんけれど、小一時間もすればしびれは取れますから、安心なさってね」




***


「……いささか、やり方が乱暴ではなかろうか」



 一時間後、唇を尖らせるオーガストに、リリーは向かいのソファで肩をすくめた。


 リリーを囲んでいた兵は、すでにオーガストが下げていた。


 代わりに、リリー付きとなった侍女に城内を一通り案内させ、今しがた戻ってきたところだった。



「招いておいて失礼なことを言われたので、つい」


「『つい』で毒草で刺されたのか。まあいい。そもそも僕は結婚する気なんてなかったんだ。しかし、そういう姿勢だけでも見せておかないと……うるさいだろう」


「なるほど。そのお気持ちはわかりますが」



 リリーは手を伸ばし、オーガストの指先に触れた。



「痛みやしびれはありますか?」


「問題ない。それと、辺境伯夫人の役割だが」


「やりますよ。まったく、年下だからできないというのは失敬ですわ」


「……すまない」



 実際に痛い目を見たからか、オーガストは先ほどよりも素直にリリーの言葉へ耳を傾けていた。



「とはいえ、今まで代行なさっていた方がいらっしゃるのでしょう? まずはその方と相談させてください。先ほどお伝えした通り、わたくしには別の使命もございますから」


「王命により、僕を補佐すると言ったな。具体的には?」


「松を植えます」


「松……?」



 リリーはにやりと笑ってオーガストを見上げた。


 オーガストは目を丸くしたあと、ふいとそっぽを向いたが、その耳はうっすらと赤く染まっていた。



***


 その日の夜。案内された寝室でリリーが横になろうとすると、寝間着姿のオーガストが入ってきた。



「申し訳なのだが、寝室を共にさせてほしい。申し訳ないのだが」


「二回言わなくても。一応傍から見たら夫婦なのですから当然では? 一応」


「そ、そちらも二回言わなくていいだろう。触れないようにするので」


「触れてもらっていいですけど」



 リリーが不満げに眉をひそめると、オーガストは困ったように目を逸らした。


 生娘かと言ってやりたくなったが、リリーはぐっと飲み込んだ。



「旦那様、生娘じゃないんですから、さっさと寝てください。明日もやることがたくさんあるんですよ」



 結局言ってしまった。オーガストがますます困った顔でリリーを見てから、ベッドに横になった。



「旦那様、そんな隅っこに寝てたら落ちますよ。私、寝相悪いんですから」


「……蹴り落してくれてかまわんよ」


「さすがにドラクル辺境伯を初日に蹴り落とすのは、ちょっと良心が痛みます。もう少しこちらに来てくださいな」



 リリーが掛け布団をめくり、ベッドの真ん中あたりをぽんぽんと叩くと、オーガストが渋々移動してきた。



「おやすみなさいませ、旦那様」


「……おやすみ、リリー」



 しかし、ほどなくしてベッドの脇でどすんと物音がし、オーガストはすぐに飛び起きた。



「曲者か!? いや、これは……」



 オーガストがベッドの下を覗くと、リリーが丸まって寝ていた。


 布団にくるまったままベッドから転げ落ち、そのまま気持ちよさそうに寝ている。



「たしかに、寝相が悪いな」



 オーガストは布団ごとリリーを抱え上げてベッドへ寝かせ直した。しかし、その後も三度転げ落ちたため、ついにあきらめて抱きかかえたまま眠った。


***


 翌朝、リリーは布団にくるまれたまま、オーガストの腕の中に収まっていた。



「あの、旦那様?」


「……おはよう、リリー。あれだけ転げ落ちたのに、目を覚まさないのはどういうわけなんだ」



 あくびをするオーガストに、リリーは顔をしかめた。



「申し訳ございません」


「かまわん。かまわんが、今後は抱えて寝る。何度も起こされてはかなわない」



 リリーはきょとんとしてから、苦笑する。そのまま布団から這い出ると、ほどなくして侍女が湯を持ってやってきた。


 オーガストはあくびをしながら出て行った。



***


 数分後、リリーが着替えを終えると、侍女が悲鳴にも似た声を上げた。



「奥様がそのようなお召し物を……」


「いいのよ。土いじりをするのに、ドレスなんて着ていられませんわ」



 ブルグマンシア家から連れてきた侍女だけは、慣れた様子で淡々とリリーの髪を結い上げている。



「で、ですがせめて旦那様とのお食事の際だけでも!」


「何度も着替えるなんて効率が悪いわ。ペンバートンは資材が豊富な土地ではないのだから、石鹸も水も、それに手間も無駄遣いなんてできません」


「どうしたのだ。廊下まで声が漏れていたが……」



 リリーが侍女の訴えを突っぱねていると、オーガストが顔を出した。黒いズボンに黒いシャツを身につけたリリーは、ドレスを抱えて半泣きになっている侍女から視線を逸らし、オーガストを見上げた。



「旦那様、レディの着替えの場にノックもなしに入るのは失礼ですわ」


「す、すまない。その格好は?」


「作業着です」


「作業着?」



 オーガストは面食らい、おうむ返しに同じ言葉を繰り返すことしかできなかった。



「……それは、昨日言っていた『松』とやらを植えるのに必要な衣装なんだな?」


「そうです」


「ふむ。なら仕方あるまい。王命だというしな」



 オーガストは後半を侍女に向けて言った。



「ただし、夕飯の際はドレスに着替えてくれ。家臣たちへの披露もあるし、侍女たちは久しぶりの女主人に着飾らせるのを楽しみにしていたんだ」



 そう言われて、リリーはようやく周囲の侍女たちを見回した。



「そうですか……仕方ありませんね。夕飯だけですよ?」



 リリーはまだ少し不満だったが、オーガストが侍女たちへ向かって頷くと、ようやく二人は朝食へと向かった。



***


 朝食後、リリーは潮風の吹く海沿いの砂浜へやってきた。


 強い潮風が銀髪をさらい、頬に細かな砂を叩きつける。波は規則正しく浜を打ちながらも、その音にはどこか獰猛さがあった。


 リリーは目を細めて沖を見つめた。海の向こうから敵が来るというのも納得できる景色だった。


 砂浜は城のすぐそばにあり、砂浜と城壁の間には幅十メートルほどの黒土が帯のように伸びていた。



「こちらに松を植えましょうね。松と城の間には土塁を築いて笹を植え、どちらも防壁兼資材として活用します」


「……詳しく」



 ついてきたオーガストは眉間に皺を寄せた。供をしている五人の兵たちも顔を見合わせながら首をかしげていた。


 リリーは侍女から持ってきた松の苗を受け取ると、オーガストへ差し出した。



「この松は東の国から我が家が仕入れた品種でして、潮風にとても強いのです。これを植えることで土壌を強化し、防壁としての役割も果たせます」


「たかが木なんて、切られたらおしまいだろう」


「燃やしちまえば跡形もない」


「何の意味があるのか」



 オーガストの後ろに控える兵士たちは、差し出された苗を覗き込みながら口々に呟いた。



「旦那様、ペンバートンの兵士はお行儀が悪いのね」



 リリーは呆れたように肩をすくめ、オーガストは兵士たちを鋭く睨んだ。



「この松という植物は、幹や枝に油を含んでおりますから、切れば剣がべたつきますし、燃やせば勢いよく燃え上がります。松脂と呼ばれる燃料も採れますので、資材としても有益ですわ」


「……申し訳ございませんでした」



 兵士の一人から、呟くような謝罪が聞こえた。



「よろしい。今後はわたくしの話を最後まで聞くようになさってちょうだい。そうしないと痛い目を見るわよ。昨日の旦那様のようにね」



 オーガストと兵士たちがそろって口をつぐんだところで、リリーは侍女に松の苗を返し、代わりに笹の苗を受け取った。



「こちらは笹です。成長が早いのが特徴で、濡れるととても滑りやすくなります。はい、右のあなた。どういうことかわかりますか?」



 突然指名された兵士は、慌てて笹の苗とリリーの顔を見比べた。



「えっ、俺ですか……えっと、濡れると滑りやすい……あ、城壁に上りにくくなる?」


「正解です。蛮族は海からやってきますから、当然濡れています。それに……」



 リリーは作業着のポケットから取り出したナイフで笹の一本を斜めに切った。



「とても鋭く、しなやかで折れにくいんです。矢にも槍にもできますし、成長が早いからすぐに収穫できます。籠城戦にはうってつけですわね」



 リリーは尖らせた笹を差し出した。



「……なるほど」



 オーガストは笹を受け取ると、感心したように頷いた。



「他にも考えているのか。ここで何を育てるか」


「もちろんですわ」


 リリーは得意げににやりと笑った。



「ペンバートンをお花畑にしてさしあげますわよ」



***


 その日の夜。リリーは広いベッドの上で、心地よい疲れに包まれながらうとうとしていた。


 まどろみの中へ沈みかけた頃、扉が静かに開き、足音を忍ばせたオーガストが入ってきた。



「……昨晩もそうだったが、主人を待とうとは思わないのか?」


「わたくしを夫人として扱わないと仰ったのは旦那様ではないですか」



 リリーは小さなあくびをこぼしながら答えた。


 隣に寝転ぶオーガストの腕を勝手に持ち上げて枕代わりにすると、そのまま目を閉じる。



「あなた様がわたくしを夫人として扱わないのであれば、わたくしもあなた様を夫として扱いません。それに、まだ婚儀も挙げておりませんしね。オーガスト様、あったかくていいですね。昨日からこうしておけばよかったですわ。おやすみなさい」


「……おやすみ、リリー」



 リリーは言いたいことだけ言うと、オーガストの胸板へ頬を寄せた。寝入る直前、髪に何かが触れた気がしたが、確かめるために目を開ける元気はなかった。


 オーガストの腕の中は、昨日と同じように心地よく、驚くほどよく眠れる。




***


 翌日以降も、リリーは城内と城下を忙しく駆け回っていた。



 ある日の朝食の後。リリーが侍女とペンバートンの庭師と共に訓練場にやってきた。


 訓練場には汗と砂埃の匂いが満ちていた。


 木剣の打ち合う音が乾いた音を立て、兵士たちの掛け声が城壁に反響する。その中でオーガストは誰よりも多く手合わせしていた。


 リリーがそれを横目に見ながらすぐ側の花壇にしゃがみ込み、苗を植える準備をしていると、訓練中のオーガストが木剣片手に声をかけた。



「リリー、何を植えているんだい?」



 周囲では同じく訓練中だった兵士たちも手を止め、様子をうかがっている。



「これはシーベリーです。東の国ではサジーとも呼ばれるそうです」



 リリーは棘のついた苗をオーガストに見せた。


 その後ろでは庭師が等間隔に穴を掘り、侍女が肥料を撒いていく。いつの間にか集まってきた兵士たちが、興味津々といった様子で覗き込んでいた。


 リリーは前掛けのポケットから、鮮やかな黄色の実を取り出した。



「旦那様、これ食べてみてくださる?」



 オーガストは受け取った実を口に放り込み、次の瞬間、盛大にむせた。



「……酸っぱいな! げほっ、なんだこれは!?」


「はい、あなたも」



 リリーは隣にいた兵士にも実を渡す。渋々食べた兵士は、目を丸くした。



「なんだかまろやかな味です。たしかに酸味はありますが」


「あなたは壊血病になりかけなのね。今すぐ医務室へお行きなさい」


「奥方! 俺にもください!」


「はいはい、並んでちょうだいね。このシーベリーの実は栄養が豊富ですし、火傷や切り傷に効く薬の材料にもなりますから、植えておいて損はありませんわ。あとで薬師やお医者様にもご挨拶に行かないといけませんね」



 シーベリーの実を配るリリーに、兵士たちは苦笑した。



「奥方は、俺の思ってた貴族令嬢とはちょっと違うっすね」


「あなたの思うような貴族令嬢が、こんな僻地に嫁ぐわけないでしょう」



 リリーは淡々と言いながら、庭師が掘った穴へ苗を植えていく。根に土をかぶせ、上から押さえた。


 兵士たちは「それはそうだ」と顔を見合わせながらうなずいた。オーガストがわずかに顔をしかめたが、その変化に気づいた者はいなかった。



「この僻地が、国を蛮族から守る砦なのです。みなさま、胸を張りなさい。あなた方こそが、我が国の防人なのですから」



 リリーが兵士たちを見回すと、彼らは目を見開き、すぐさま背筋を伸ばして敬礼した。



「死ぬまでついていきます」


「死なせないために、わたくしが嫁いできたのです。あ、蛮族は生け捕りにしてちょうだいね。試したい毒草……薬草がありますからね」



 リリーは笑って立ち上がる。


 残された兵士たちは、上機嫌な様子で訓練へ戻っていった。


 オーガストも訓練へ戻ろうとしたが、リリーの銀髪に葉が一枚絡んでいるのに気づき、そっと払い落としてから踵を返した。



***


 また別の日の朝、リリーは都市の防御壁に沿ってハーブの苗を植えていた。

 周囲の見回りをしていた兵士がリリーの手元を覗き込む。



「奥方、今度は何を植えておいでです?」


「シーフェンネルです」


「美味いですか? 少し前は肥料を作っておいででしたけど」


「肥料は有事の際のお披露目にするとして、このハーブはこれから美味しくする予定です」


「食い物なんですね。楽しみです」



 兵士たちは笑顔で見回りに戻っていく。


***


 数週間後、リリーは収穫したシーフェンネルを籠いっぱいに抱え、城の厨房を訪れた。



「お、奥方!? なぜこのような場所に?」



 厨房長がばたばたと飛び出してきた。



「保存食についてご相談にまいりました」



 リリーはシーフェンネルを見せた。



「こちらのハーブと塩で魚や肉を漬け込むと、長期保存が可能になりますの。ですから何か試しに作らせていただこうかと……あ、効果はブルグマンシア伯爵領ですでに確認済みです。ですが、皆さまはご自身の手で確かめたいと思われるでしょうから、こうしてお願いに参りました」


「なるほど」



 厨房長はハーブをひとつまみ手に取り、鼻先へ寄せた。



「ふむ、変わった香りですな。なるほど……。奥方のご実家ではどういった保存食をお作りで?」


「ブルグマンシア伯爵領では……」



 伯爵夫人と厨房長は、いつの間にか厨房の入り口で熱心な立ち話を始めていた。


 料理人たちと侍女たちは、慌てて厨房の椅子を運び、二人へ勧めた。



***


「リリーはどこに?」



 ある日の昼前。オーガストは執務机に向かったまま、家令に尋ねた。


 彼の妻はいつも領内を飛び回っていたし、オーガスト自身も練兵や領主としての仕事に追われているため、リリーがどこにいるのか把握できていないことがほとんどだった。


 かろうじて午後は、彼女に与えた書斎で辺境伯夫人としての事務仕事をしていることが多い。だが、それもあくまでそういう日が多いというだけで、確実ではなかった。



「奥様は厨房へ向かわれたと聞いております」


「厨房?」


「先日植えたハーブが収穫できたため、料理人たちと保存食の相談をなさるそうです。上手くいけば、年単位で保存できる品ができるとか」


「……そうか」



 オーガストは穏やかに微笑みながら、手元の書類へ署名した。



「僕の妻は、どうやらずいぶん有能らしい」


「そう思われるのでしたら」



 家令は書類を受け取ると、じろりとオーガストを睨んだ。



「奥様に『君に妻としての役割を求める気はない』と仰ったことを撤回なさいませ」


「……リリーは気にしているだろうか」


「そういう問題ではありません」



 家令はぴしゃりと言って、一通の封筒をオーガストに差し出した。


 オーガストは一瞥して顔をしかめる。家令は無視して封を開け、中の招待状を広げた。



「王都のスミス公爵家からのパーティの誘いでございます」


「いかないと駄目なのか……忙しいのだが……」


「行かねばなりません。奥様を正式に旦那様の伴侶としてお披露目する、またとない機会でございます。そもそも奥様が嫁いでこられたのは王命でもあるのです。……我がペンバートンで実験を行うための」


「まあ、それも我らにとって益になることだ。構わんさ」



 オーガストは鷹揚に笑った。



***


 ブルグマンシア伯爵が植物を用いた防衛戦略を王家に提案していることは、松を植えた際にリリーからオーガストへ直接説明されていた。


 説明を受けたオーガストも諜報員を王都へ送り込み、リリーの話が事実であることを確認した。……同時に、ペンバートンが最初の実験地として選ばれていたことも。


 まずはリリーが辺境伯夫人として、辺境の防衛に植物が有用であることを示す。


 それを受けて王家は実例を持って他の辺境伯たちに同様の施策を命ずる。


 その一連の計画について、オーガストはリリーに問いただしてはいなかった。



「我がペンバートンを何だと思っているのか」



 そう一瞬思わなかったわけではない。だが、どうであれ現時点で彼女自身がペンバートンにとって、そしてオーガストにとって有益だったからだ。今さら、その真意を問い質す必要もなかった。


 ……そして、それを問いただした結果、リリーに頭を下げさせることも、この地から身を引かせることも、オーガストは望んでいなかった。


***



 オーガストは招待状を受け取り、目を通した。


 スミス公爵家が主催する社交パーティの招待状で、オーガストとリリーの名が並んで記されていた。



「スミス公爵閣下はブルグマンシア伯爵家とも親交がおありです。奥方とも面識がおありでしょう。比較的友好的に受け入れられる可能性の高い場でございます。奥方を辺境伯夫人としてお披露目なさいませ」


「リリーを戦利品のように見せびらかすつもりはない」



 オーガストは顔をしかめた。


 家令は意に介する様子もなく淡々と続ける。



「社交パーティに参加なさるために、奥様には旦那様と揃いのドレスを仕立てる必要がございます」


「そうだなあ。僕の妻は、きっと面倒くさがるだろうなあ」



 そう言うオーガストの表情がやけに嬉しそうなのを見て、家令は静かに目を細めた。


***


 その日の夜。夕食の席でオーガストからパーティの話を聞いたリリーは顔をしかめた。



「嫌ですけど」


「ダメだ。いいじゃないか。たまには着飾ればいい」


「そういう問題じゃないんですよ」



 事実、そういう問題ではなかった。


 パーティで母親に再会する可能性がある。もし会わずとも、噂好きの貴族の婦女子たちから母のことや戦闘狂と呼ばれるオーガストのことを聞かれるだろうし、女好きの令息たちからも母同様の男好きだと思われて声をかけられるだろう。……王都にいたころのように。


 リリーは深くため息をついた。



「旦那様がわたくしを妻と認めていないのは存じておりますが……そうですね、パーティの間、片時も離れないでいただけるなら、参加しましょう。……それも、務めですものね」



 あまりにリリーがやさぐれた顔をするものだから、オーガストは「そんなことはない」と言い損ねた。


 代わりに侍女を呼び寄せ、リリーのデザートを多めに盛り付けるよう指示した。



「参加するのであれば、意匠を揃えたドレスが必要になる。明日以降、採寸をするからそのつもりでいてくれ」


「はあい」


「ドレスへの要望は?」


「……露出が少なくて、なるべく地味なものがいいです」


「承知した。僕としても派手なものは気が気じゃない」



 リリーは給仕が運んできた山盛りのデザートの皿に目を丸くし、そのまま驚いた顔をオーガストへ向けた。



「そうなんですか?」


「そうだよ」


「そ、そうなんですか……」



 リリーは慌てて目を伏せ、デザートを食べ始めた。

 オーガストはその耳がうっすら赤く染まっているのに気づき、何も言わずに自分の分のデザートの皿をリリーの方へ押し出した。



***


 一月後。リリーは久しぶりに王都へやってきた。


 馬車の向かいに座るオーガストは肩をすくめ、窓の外へ視線を向けている。



「相変わらず人が多いな」


「本当ですよ。みんな苗床になればいいのに」


「相変わらず君は発想が物騒だな……」



 苦笑するオーガストは、全身を漆黒の衣装で包んでいた。


 マントも、スーツの下のシャツも、ネクタイもすべて黒だった。マントとネクタイには、同じ黒糸で百合の刺繍が施されている。


 ただし、胸元のハンカチーフだけはリリーの髪を思わせる銀色で、黒一色の装いの中で美しく輝いていた。


 リリーも同じく漆黒のロングドレスをまとっていた。首元からデコルテにかけては繊細な黒のレースで覆われ、腕には艶やかな黒のグローブをはめている。肩に掛けたショールには、オーガストと揃いの百合の刺繍が施されていた。


 オーガストが苦笑した直後、馬車がひときわ大きく揺れ、静かに止まった。

 御者が扉を開き、オーガストが先に降りた。



「行こうか、マイレディ」


「承知いたしました、マイディア」



 差し出された漆黒の手袋の上に、リリーは同じ色のグローブに包まれた手を重ねた。


 入口で招待状を差し出すと、高らかにラッパが吹き鳴らされる。



「ドラクル辺境伯ご夫妻、入場でございます」



 一斉に視線が集まった。


 入口は二階に設けられており、その下の一階には豪奢なダンスホールが広がっている。


 無数のシャンデリアが天井からダンスホールへと輝きを降らせていた。


 磨き上げられた大理石の床には光が反射し、色とりどりのドレスが花畑のように揺れている。


 香水と料理の香りが混ざり合い、甘く重たい空気が広間を満たしていた。


 リリーは壁際に集まった貴族令嬢たちが、扇で口元を隠しながらひそひそと囁き合っているのに気づいた。だが、その姿はすぐに前を歩くオーガストの大きな背中に遮られて見えなくなった。



「リリー、足元に気をつけなさい。今日は作業着ではないから」


「ふふ、台無しですわ、旦那様」



 リリーはオーガストの腕にそっと掴まり直した。


 二人は寄り添いながら、ゆっくりと階段を下りていく。


 それは仲の睦まじさを周囲に示すためでもあったが、履き慣れないハイヒールに足を震わせるリリーを支えるためでもあった。



「リリー、やはりもう少し低いヒールがよかったのでは?」


「だ、だいじょうぶです……!」


「大丈夫な震えではないが……まあいい。僕に掴まっていてくれ」



 普段は領内を飛び回り、食事と眠る時くらいしかそばにいない妻が自分を頼っているというのは、オーガストにとって悪い気分ではなかった。わずかに口元を緩めながら、リリーの腰を抱き寄せた。


 リリーは息を吸って吐いた。


 普段は土いじりばかりしているリリーだが、れっきとした伯爵令嬢でもある。


 背筋をすっと伸ばして優雅な笑みを浮かべると、オーガストに寄り添いながら挨拶へ向かった。



「よい晩ですね、スミス公爵。この度はお誘いいただきありがとうございます」


「これはこれはドラクル辺境伯。ご無沙汰しております。リリー嬢もずいぶん大きくなって」


「ご無沙汰しております。リリー・ドラクルでございます」



 リリーは以前にも父であるブルグマンシア伯爵と共にスミス公爵主催の社交パーティへ参加したことがあり、公爵邸を訪れたこともあった。微笑んで頭を下げた。


「あのブルグマンシア伯爵の後ろに隠れていたリリー嬢が辺境伯夫人とは……長生きはするものですなあ」


「いやですわスミス公爵、完全に発言がおじいちゃんですよ」


「祝儀は弾むからね。式には必ず呼んでくれたまえ。ああ、あと」



 スミス公爵がリリーとオーガストに顔を寄せてささやいた。



「ブルグマンシア伯爵夫人もいらしている。リリー嬢、喧嘩してはいけないよ」


「し、しませんよ……」



 リリーは頭を下げて、オーガストの腕を引いた。


 その後も二人は次々と声をかけられ、挨拶回りに追われた。


 貼りつけたような笑顔を維持するのも限界になってきたころ、オーガストがさりげなく壁際へと移動した。



「お疲れ様、リリー。一度休憩としよう」


「す、すみません。体力がなくて」


「足りないのは体力ではなくハイヒールへの慣れだろうに。ここで待っているといい。飲み物をもらってこよう」



 リリーはオーガストの背中を見送ってから、ようやく小さく息を吐いた。


 しかし常に会場を見回している。


 自分と同じ銀髪が目に入るたび肩が強張る。


 違う。


 また違う。


 気づけば、グローブ越しにショールの端を握りしめていた。


 ふと若い令息がこちらへ歩み寄ろうとしているのが見えた。


 だが途中でオーガストの背中を見つけると、そのまま踵を返して別の令嬢の方へ向かった。


 リリーは人混みの向こうのオーガストを目で追った。


 給仕から飲み物を受け取り、誰かに呼び止められ、軽く会釈を返している。


 ただそれだけなのに、視線を逸らす理由が見つからなかった。


 オーガストは常にリリーに寄り添い、他の令息たちから向けられる視線を遮ってくれていた。足が痛むだろうと、自然に体も支えてくれていた。


 今も疲れただろうからと、わざわざ飲み物を取りに行ってくれている。


 ペンバートンでもオーガストはリリーに辺境伯夫人としての裁量を与え、彼女が何をしようと無闇に口を挟むことはなかった。


 人混みの向こうで、オーガストが誰かと談笑している。


 リリーは視線を落とした。


 オーガストと揃いのユリの刺繍が目に入る。


 ふと、婚約の日に交わした言葉が脳裏をよぎった。


 リリーはそれを追い払うようにショールを巻き直した。


 不意に甘い香水の匂いがした。


 リリーの指先がぴくりと震える。


 嗅ぎ慣れた香りだった。



「あら、リリーじゃない」



 リリーが顔を上げると、自分とよく似た顔立ちの女性が、にこりと微笑んでこちらを見ていた。



「……ご無沙汰しております。ブルグマンシア伯爵夫人」


「やだわ、リリー。ママに対して他人行儀だこと」



 リリーの母親――ブライア・ブルグマンシア伯爵夫人は、大きく胸元の開いた紫のドレスに身を包み、優雅に裾を揺らしながら近づいてきた。紫の絹は灯りを受けるたび妖しく艶めき、まるで毒花が人の姿を取ったかのようだった。



「で、どう?」


「どうとは?」


「ドラクル辺境伯は、籠絡できたかしら」


「……わたくしの目的はすべて伯爵閣下にお伝えしております」


「あらまあ。あたくしの娘なのに、どうしてそうなのかしら。ふふ、パパにそっくりだものね。愚鈍なところが」



 リリーはすぐには答えなかった。


 ショールを握る指先に、わずかに力がこもる。


 ブライアはそんな娘を見て楽しそうに笑った。


 リリーの口がゆっくりと開かれる。



「お戯れはそこまでに、ミセス・アコナイト」



 ブライアの笑みが凍った。



「相変わらず行儀の悪い娘だこと」



 リリーは一度だけ瞬きをした。


 ゆっくりと首をかしげる。


 それから微笑んだ。



「母に似ましたの」


「リリー、そちらは?」



 不意に響いた低い声に、リリーとブライアは同時に口を閉じた。そして揃って、声の主であるオーガストへと顔を向ける。



「旦那様。こちら、母のブライア・ブルグマンシア伯爵夫人です。お母様、こちら、夫のオーガスト・ドラクル辺境伯様でございます」



 リリーがブライアを示すと、オーガストは穏やかな微笑みを浮かべた。



「お初にお目にかかります。ご挨拶が遅れて申し訳ない」


「とんでもございません。ふつつかな娘ではございますが、どうぞよしなに」



 猫なで声のように高く甘いブライアの声に、リリーはわずかに顔をしかめた。


 オーガストは仏頂面のリリーと、笑顔のブライアを見比べて微笑んだ。



「リリーはお母様によく似ていらっしゃるな」



 リリーの手から握りしめていたショールが滑り落ちる。


 ブライアも珍しく言葉を失ったようだった。


 数拍遅れて、



「は?」



 とリリーは声を漏らした。



「まあ……あまり、言われませんわね……」



 リリーとブライアがそろって目を丸くすると、オーガストはわずかに笑みを深めたが、それ以上は何も言わなかった。代わりに手にしていたグラスをリリーに差し出す。



「リリー、飲み物を」


「ありがとうございます、旦那様」


「……リリーは良くしていただいているようですね。母として、安心いたしました」



 ブライアが呟くように言うと、オーガストは苦笑した。



「大事にしたいと思っていますが、なにぶん領地が僻地なもので、苦労ばかりかけてしまい、申し訳なく思っております」



 リリーは視線を落とした。


 グラスの中の液体が小さく揺れる。


 ゆっくり顔を上げると、オーガストは穏やかに目を細め、リリーを見ていた。



「もう少し休んだら、申し訳ないがあと何件か挨拶に向かおう。それが終わったら切り上げるから、付き合ってほしい」


「承知いたしました、旦那様。……失礼いたします、お母様」



 リリーが礼を取ると、ブライアは優雅に微笑み、裾を揺らして踵を返した。たちまち数人の男性に囲まれ、その姿は人波の向こうへ消えていった。



「……わたくしと母、似ていますか」



 リリーはぽつりとつぶやいた。



「似ているとも。さあ、行こう。疲れただろう」



 オーガストがリリーに腕を向けた。


 リリーは黙ってその腕に掴まり、その後の挨拶もそつなくこなした。


 オーガストが何度か声をかけようとしているのはわかった。


 そのたびにリリーは別の貴族へ微笑みかける。


 結局、帰りの馬車に乗るまで二人はその話をしなかった。



***


 挨拶回りが終わり、最後にスミス公爵に再度挨拶をして屋敷を出た。


 公爵には泊まっていくことを勧められたが、領地を長く空けられないのでオーガストが丁重に断った。



「はー……」



 リリーは馬車の座席に沈み込み、深く息を吐いた。


 窓の外では王都の街灯が流れていく。


 賑やかな笑い声も楽団の演奏も遠ざかり、馬車の中には車輪の軋む音だけが残った。



「お疲れ様。そつのない対応に感謝する」



 オーガストのやけにかしこまった労いに、リリーは肩をすくめた。


 しょせん自分は、彼から何の期待もされていない小娘だ。


 母との会話を引きずっている自覚があったので、リリーは短く答えた。



「どういたしまして」


「今日は王都内のタウンハウスで休んでいこうか。僕の妻はお疲れのようだから」


「……子ども扱いしないでください。これくらい大丈夫です」



 つい棘のある言い方をした。


 オーガストはわずかに目を見開いたが、すぐに苦笑まじりの微笑みを浮かべた。その顔を見て、リリーはむっとした。


 自分が年下だから。


 幼いから。


 あの毒花のような母の娘だから。だからオーガストはリリーを子ども扱いし、いつまでも妻として認めてくれないのではないか。


 リリーは眉間に力を入れて、口を開きかけた。


 その瞬間、馬車の扉が外から激しく叩かれた。


 オーガストがすぐに扉を開ける。


 扉の向こうでは、ペンバートンの兵士が馬を駆って並走していた。



「旦那様にご報告申し上げます! ペンバートン東部の浜辺に海賊船が上陸しました!」


「門は」



 オーガストが短く問う。



「すべて閉じました」


「よろしい。僕が戻るまで、持ちこたえられるな?」


「むろんでございます」


 リリーはオーガストの横から顔を出した。



「私の寝室の明かりをつけてちょうだい」



 オーガストが顔をしかめた。



「なぜ?」


「誘蛾灯ですわ。ふふ、わたくしの仕掛けた植物たちの出番ね、早く帰らなくちゃ」



 兵士は一瞬目を丸くしたが、すぐにニヤッと笑った。



「承知いたしました奥方。奥方の計画通りに」



 兵士が馬を蹴り、馬車から離れた。


 オーガストは扉を閉めると、リリーをまじまじと見つめた。



「君は、本当に母上によく似ている」



 リリーは今度こそ舌打ちをした。



「やめてください。わたくし、あの人のこと大嫌いなんです」



 オーガストは心底おかしそうに笑った。



***


 数日馬車を飛ばし、一行は夜明け前のペンバートンへと戻った。薄い朝靄の中を進み街へ近づくと、街は静まり返っていた。


 人の姿はなく、海鳥の鳴き声だけが冷たい朝靄の中を横切る。


 閉ざされた城門は巨大な岩のように沈黙していた。


 オーガストは安心したように頷き、御者へ短く指示を出した。馬車は再び静かに走り出す。


 やがて馬車が辿り着いたのは、街外れに建つ古ぼけた納屋だった。冷たい潮風に長年晒されてきたのだろう。板壁は薄汚れ、建物全体がわずかに傾いている。



「ここは……?」



 移動中に夜会用のドレスからいつもの作業着へ着替えたリリーは、同じく軽装の鎧に身を包んだオーガストの後について納屋へ入る。納屋には地下があり、物置になっていた。


 地下にはワイン樽が幾重にも積み上げられ、まるで迷路のようになっていた。樽の隙間には湿った空気が溜まり、古い木材と酒の香りが鼻をくすぐる。足音だけが地下室に反響していた。



「こっちだよ」



 オーガストはワイン樽の隙間をすいすいと抜けていく。


 リリーが小走りで後を追っても、オーガストはなかなか立ち止まろうとしない。



「……下り坂になってますね」


「気づいたかい?」



 オーガストは楽しそうに答えた。



「城の方へ向かっていますね」


「はは、さすが僕の妻だ」



 ワイン樽の迷路をを三十分ほど歩いたころ、オーガストが立ち止まった。



「……リリーは息切れ一つしてないね」


「わたくしに合わせてゆっくり歩いてくださったのではないのですか?」


「まさか。行進のときと同じように歩いた。もちろん、君を振り払わないように気をつけはしたけどね」



 オーガストは嬉しそうに目を細めたが、すぐに表情を引き締めて頭上を見上げた。



「ここはちょうど厨房の真下だよ」



 オーガストは積み上げられた樽の中から、わずかに色の違うものをいくつか運ぶ。それを壁際に階段のように並べて上り、天井を何度か叩いた。


 するとすぐに天井の一部が静かにずれ、厨房長が顔を出した。



「おかえりなさいませ、旦那様、奥方」


「遅くなった。リリー、登れるかい?」



 オーガストが軽々と登り、リリーに手を差し出した。 



「このくらい、朝飯前ですわ」



 リリーがオーガストに手を引かれて厨房へ上がると、厨房長が笑顔で食卓を指した。



「朝食をご用意しておりますよ。奥方と仕込んだシーフェンネルの葉で漬け込んだ魚を、焼きたてのパンで挟んだものをお出しいたしましょう」


「僕の妻の手作りか。楽しみだ」



 オーガストはリリーの手を引いたまま、並んで食卓へ向かった。



***


 二人がサンドイッチを食べ終えたころ、家令が顔を出した。



「旦那様、奥方。無事のお戻り、何よりでございます。現在の戦況をお伝えいたします」



 家令はペンバートンの地図を厨房のテーブルに広げた。



「門はすべて閉門済み、住民は各自の家へ避難させております。地下通路を使い、城から水と食事を毎朝配布しております」


「海賊と聞いたが」


「はい。帆船が二隻。最近、南国で暴れ回っていると聞く連中のようです。襲撃当初は城への侵入を試みておりましたが、松と笹の防壁に阻まれ失敗に終わっております。その後も松を切り払おうとしては松ヤニで刃物を駄目にし、笹を踏んでは足を滑らせ、ことごとく失敗しております」


「我が兵は」


「城壁からの投石、投槍、弓射にて応戦しております。籠城戦ゆえ大きな被害はなく、怪我人もおりません。襲撃当初に負傷した者はおりましたが、すでに回復済みです」



 オーガストは「ふむ」と頷いた。



「このまま籠城して普段通りの生活に戻ってもいいが……いや、畑仕事ができないな。さて、我が妻はどう思う?」


「試したい火薬があるのですが」


「好きにしなさい。ただし、事前に作戦内容は僕に伝えるように」



 リリーはむっとしてオーガストを見上げた。



「子ども扱いではないですか」


「まさか」



 オーガストが目を細めてリリーを見返した。



「夫として、我が有能なる妻に好きに腕を振るえる箱庭を用意しただけだよ」



 リリーの瞳が輝いた。



「そのお言葉に、二言はございませんわね?」


「……ない」


「ありがとうございます、旦那様。すぐに用意いたします。ふふ、火薬はどのくらい使ってよろしいのかしら。どうやって毒を飲ませてやろうかしら」



 リリーが鼻歌交じりで厨房を出て行く。


 家令と厨房長が、同時にオーガストへ視線を向けた。



「……まあ、リリーにも最低限の分別はあるだろう。たぶん。あ、待て、リリー! 川や海に毒を流してはいけないからな!?」


「善処します!」


「善処!?」



 オーガストが慌ててリリーを追いかける。その背を見送りながら、家令と厨房長は顔を見合わせて笑った。



***


 しばらくして、リリーは小瓶を手に厨房へ戻った。料理人と呼び集めた兵士たちに作戦を説明し、リリーは城の見張り台へ上がった。


 海辺には海賊船が二隻停泊している。その一方で、街の入り口にはドラクル辺境伯家の紋章入りの馬車が姿を現した。


 周囲をうろついていた海賊たちは馬車へ襲いかかり、積み荷のワイン樽を奪って歓声を上げながら走り去った。


 御者に扮していた兵士が見張り台へ向かって手で丸を作る。作戦成功の合図に、リリーも丸を返した。


 兵士が隠し通路に消えるのを確認してから、リリーは城の中庭に向かった。



「よろしくてよ。よろしくてよ」



 リリーは鼻歌交じりに花壇の片隅から石を拾い上げた。いくつかバケツに集めると、そのまま地下へ向かった。


***


「松脂は集めておいてくれた?」


「はい、こちらに」



 呼んでおいた三名の兵士が振り向いた。


 リリーはにこりと微笑み、瓶に詰められた松脂を受け取った。鍋にあけると、先ほど集めてきた石――硝石と、地下に保管してあった硫黄の粉末を加え、丁寧に混ぜ合わせた。



「奥方、何を作っておいでで?」



 兵士が不安そうにリリーの手元を覗き込んだ。



「いいものです」


「それ、絶対よくないやつじゃないですか。旦那様の許可は得てますか?」


「好きに遊んでいいと言われています」



 兵士三人が顔を見合わせた。


 リリーはむっとして兵士たちを見上げた。



「わたくしにも貴族として最低限の常識があります。ノブレス・オブリージュですわ。あなたがたは、わたくしが守るべき民。実験道具になどしませんよ」


「奥方、守るべき民じゃなくても、他人を実験道具にしちゃダメなんすよ……」



 リリーはその言葉を聞かなかったことにして振り向いた。



「空の樽を十ほど持ってきて」


「イエス、マム」



 並べられた樽にできあがった火薬を詰めていく。


 均等に詰め終えて蓋を閉じると、リリーは兵士たちを見上げた。



「よし、じゃあプレゼントに行きましょうね」



 兵士たちはリリーに従い、重い樽を浜辺へと転がしていった。


 外はすっかり夜の帳に包まれ、波音だけが静かに響いていた。


 雲に隠れた月が時折顔を出し、海面に銀色の道を作っては消していく。


 停泊した海賊船が黒い影のように波間へ浮かんでいた。



「奥方、夜とはいえ、あまり不用意に船に近づくのは……」


「それにしちゃあ、なんだか静かじゃねえか?」


「……奥方?」



 リリーは返事をせず、樽を船を囲むように配置させた。


 ふと背後で砂を踏む音がして、リリーは振り返った。


 鋭い剣がリリーの顔の横をなぎ払う。


 同時に、がつんと鈍い金属音が響いた。



「……旦那様」



 オーガストは答えずにリリーの腰を抱き、体を捻る。


 リリーに見えたのは、オーガストの手から放たれた笹の槍と、その先で夜気に散る血しぶきだけだった。


 オーガストの横顔を見て、リリーは息を呑む。


 いつもの穏やかな表情ではない。


 獲物を見つけた猛獣のような目だった。



「奥方!!」



 兵士たちが駆け寄ってくる。


 海賊は一人ではなかった。


 船の陰からさらに二人が飛び出し、兵士へ向かって短剣を投げる。



「伏せろ!」



 オーガストが叫ぶ。


 笹の槍が夜を裂いた。


 一人の喉を貫き、そのままもう一人の肩を抉る。


 海賊が立ち上がろうとした瞬間。


 オーガストは地を蹴った。


 砂が爆ぜる。


 一歩で距離を潰し、剣を振り下ろす。


 ためらいも慈悲もなかった。


 海賊は悲鳴を上げながら砂浜へ転がっていった。



「リリー、怪我は」



 オーガストが平坦な声で尋ねた。


 リリーは呆然としたまま顔を上げる。



「い、いえ、ありません」


「……はー……きみは、本当に……心配をかけてくれる。護衛の一人くらい残してくれ。僕が気づかなかったら、きみは海賊の矢に射たれていたんだぞ」


「……申し訳ありません。全員始末できたものと」



 青ざめたリリーは、無意識にオーガストのマントを指先で掴んだ。


 オーガストはその手をそっと握りしめる。



「海賊が死んでいることを、その目できちんと確認したのかい?」



 リリーは唇を噛んで、首を横に振った。


 自分は賢いと思っていた。


 植物なら誰にも負けないと思っていた。


 けれど今、兵士たちを危険へさらしたのは他でもない自分だった。


 もし旦那様が来なかったら。


 もし兵士が刺されていたら。


 もし死んでいたら。


 その責任は誰が負うのだろう。



「次からは、きちんと検死までしなさい。きみに何かあっては困るし、部下たちを不用意に危険へさらしてもいけない」


「申し訳ありませんでした、旦那様」



 リリーの腰を抱いていたオーガストの腕に一瞬だけ力がこもり、やがて静かに離れた。



「ともかく、無事でよかった。それで? 僕の妻は次は何をするんだい?」


「は、はい。城壁に参ります」


「そうか。僕も一緒に行こう」



 オーガストはどこか楽しそうに燃える海賊船へ目を向けた。



「久々に胸が躍る」



 オーガストは穏やかに微笑んで、腕を軽く曲げる。


 リリーは迷わずその腕に手を添え、城へと向かった。



***


 リリーはオーガストと三人の兵を伴って城壁に上がり、夜風に吹かれながら見張りの兵たちへ矢を渡した。



「この矢に火を付けて、あの樽を狙って射っていただける? 先端に松脂を塗ってありますから」


「アイアイ、マム。またなんか面白いことしてるんですか?」


「ええ、面白いことになるわ。あなた、キャンプファイヤーってご存じ? 南の国の儀式だそうだけど」


「学がないもので存じ上げませんが、それを見られるってことですかね。ちょいと下がっててください……よっ」



 火のついた矢が夜空を裂いて放たれた。樽に直撃はしなかったが、燃える矢羽根が樽の側面をかすめた。その瞬間、樽は轟と音を立てて激しく燃え上がった。



「ひえっ」


「ほう」



 兵たちが小さく悲鳴を上げ、オーガストもわずかに息を吐いた。



「残りも全部お願いします」


「えっ、はい」



 リリーに促され、見張りの兵たちは次々と残りの樽にも火矢を放った。


 樽の作成を手伝った三人の兵士たちは肩を寄せ合い、海上で燃え盛る樽と、次々に海賊船へ火が燃え移っていく様子を見つめている。


 オーガストもリリーの隣に立ち、炎に染まる海原を見渡した。真っ黒な瞳にちらちらと炎の影が踊っている。



「海賊が一人も飛び出してこないな。ふむ、残念だ」


「起きていらしたお一人以外は、ずいぶん寝汚いみたいですね。このまま永眠なさるのではないでしょうか」



 さらりと言ってのけるリリーを、兵士の一人が恐る恐る覗き込んだ。



「ちなみに、あのワイン樽に混ぜた薬液はなんだったんですか?」


「アコナイトです。トリカブトとも呼ばれる即効性の毒ですわね」


「……どこに植えました?」


「中庭の、立ち入り禁止地区に。今後とも立ち入り禁止ですよ」



 リリーはにこりと微笑んで、兵士は真顔で敬礼した。



***


 翌朝、リリーはオーガストの腕の中で目を覚ました。



「おはようございます、旦那様」


「……おはよう。もう少し寝かせてくれ」


「あら、お寝坊ですのね。わたくし昨晩の火薬の威力の確認に行きたいのですが」



 オーガストはうっすらと目を開き、腕の中のリリーを抱え直した。



「なんだ、僕の妻は夫よりも火薬かい」


「そもそも、あなた様はわたくしに『妻として扱うつもりはない』と仰せではないですか。それを『僕の妻』『僕の妻』と。順番が違いましてよ」



 リリーが唇を尖らせると、オーガストは目を見開き、次の瞬間には堪えきれないように笑い出した。



「まったくだ。申し訳ない、リリー・ブルグマンシア伯爵令嬢。僕の妻になってくれないか」


「よろこんで、オーガスト・ドラクル伯爵様」



 オーガストはリリーを抱きしめ、リリーもその背に腕を回して強く握りしめた。


***


 着替えと朝食を済ませた後、リリーはオーガストと五人の護衛兵を伴って浜辺へやって来た。


 すでに大勢の兵士と住民たちが、波打ち際に散らばった海賊船の燃えかすの片付けに精を出している。



「……リリーに温室を用意しようか」


「まあ、嬉しいですわ。では、精力増強や体力強化の薬の材料になるハーブを植えたいですわね」


「精力増強……リリー、それは誰に飲ませるつもりだい?」


「もちろん旦那様ですわ」



 リリーは満面の笑みでオーガストを見上げた。



「子孫繁栄は貴族の最重要課題ではありませんか」



 オーガストは手のひらで顔を覆ったが、耳が赤いのは隠せていなかった。



***


 海賊を撃退してから数週間後、リリーの父、ヘムロック・ブルグマンシア伯爵がペンバートンを訪れていた。



「やあ、久しいね、リリー。ドラクル辺境伯もご無沙汰しております」



 明るい陽射しが窓から降り注ぐ城の応接室で、ヘムロックはソファに腰掛け、背筋を伸ばした。



「お父様、ずいぶんとふっくらされましたね」



 久しぶりに顔を合わせたヘムロックは、以前のふくよかさをすっかり取り戻していた。



「ああ、辺境回りが終わったからな。まったく、過酷な王命だった。辺境伯全員を訪ねて、防衛状況を確認しろだなんて」


「珍しい植物はありまして?」


「もちろん。やはり地域による植生の差は大きい。ペンバートンもあとでゆっくり見学させてもらおう」



 オーガストは苦笑して茶を勧める。



「ありがとう、オーガスト卿。義息子(むすこ)殿と呼んだ方がいいかね」


「そ、それは……いえ、義息子(むすこ)とお呼びください」


「はは、仲睦まじくて何よりだ。わたしのアコナイトも来たがっていたがね。任務明けだから家で休ませているよ」


「そのまま休んでいていただいて結構です」



 リリーが冷ややかに言うと、ヘムロックは苦笑し、オーガストは首を傾げた。



「アコナイト? きみが先日使っていた毒草かい?」


「いえ、母の愛称です」



 リリーは顔をしかめて答えた。



「母は諜報の家系の出なのです。今でも王家より任務を賜って諜報員として役目を続けております」



 オーガストは目を丸くした。



「きみの母君が社交界で男と遊び歩いているという噂は」


「その噂は、わたしが流したのさ」



 ヘムロックがティーカップを傾けながら言った。



「よからぬ動きをしている家にも、すんなり入り込めるようにね。素晴らしい手腕だろう、わたしのアコナイトは」


「その恥ずかしい呼び方は家の中だけにしてくださいませ……」



 リリーがため息交じりで言ったが、ヘムロックは薄く微笑むだけだった。


 その後、オーガストとリリーの挙式について軽く打ち合わせを行い、ヘムロックは「浜辺の海藻を採取してくる」と言い残して城を出て行った。



「やはりきみは母君によく似ている」


「どこがですか」



 リリーは頬を膨らませてオーガストを見上げた。



「素直じゃないところと、やりたい放題に見せかけて、恐ろしく冷静に計算しているところ、あとは」



 オーガストはそこで言葉を切り、じっとリリーを見つめた。


 その顔が、母を見つめる父と同じものだと気づき、リリーは慌ててオーガストの口を手で塞いだ。



「それ以上はおっしゃらなくて結構です!」


「はは、僕の妻は本当にかわいらしい毒花だ」



 笑うオーガストを、リリーは真っ赤になって睨んだ。

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