第33話 デイカーが連れてきた大工
よろしくお願いいたします。
昨日、シサが壁に“粘る大豆あります“とピンでつけてくれた。
店の入り口に入ってすぐに目につく場所とキッチンの壁の二箇所だった。
この二箇所でお客様が気づいてくれるかどうかはわからないけど、何箇所もつけるのは、ちょっとくどいと思ってやめておくことにした。
納豆も600トピーにする。
「誰か気がついて注文してくれるかしら?」
「どうですかね? 案外コロンが気づいて頼んでくれるんじゃないですかね?」
今日初めての試みだったので、私はお客様からどんな反応があるのか楽しみだった。
「私、openにしてきますね」
シサが店の入り口のドアの看板をopenにした。
オープンしてすぐにコロンとデイカーと共に初めて見る男性が一緒に入ってきた。
男性はデイカーよりも随分年上のようで、白髪混じりの黒髪をしていた。
「こんにちは、今日もきたら。今日はデイカーとデイカーの知り合いと一緒ら」
「こんにちは、昨日話していた件で知り合いの大工を連れてきた。店をやっている時間帯にすまない。今日のこの時間しか連れてこれなくてな」
「こんにちは」
「コロン、デイカー、そしてお連れの方、いらっしゃいませ。いつものカウンターが空いてますので、どうぞ」
「今日の日替わりランチは何かな?」
「今日はキャベツと豚肉の醤油麹ソテーです!」
「また新たなメニューだな」
「はい! これもライスが進む味でした。おすすめです」
カウンターに三人を案内しながらシサが日替わりランチを勧めた。
「エル、この前は玉子のありがとら。うまかったら」
コロンがカウンターに座り、私の顔を見て開口一番に言った。
「クードもフェオも喜んで食べていた。これはこの前借りた食器だ。ありがとう」
玉子野菜丼の具を入れていた食器をデイカーは忘れずに持ってきてくれた。
「いえいえ。それは良かったわ」
卵料理はどんな調理法でも美味しいと言われることが多い、外れない料理だと思う。
「今日は何にする? 日替わりランチはシサから聞いたと思うけど、キャベツと豚肉の醤油麹ソテーよ」
「ああ、俺はそれにする。デックはどうする?」
「私も同じものをお願い致します」
「コロンもら」
「みんな日替わりランチね。今から用意するわね」
私は日替わりランチを作り始めた。
「デック、今料理を作っているのが、君に建物を作って欲しいと言ってきている、ここのオーナーのエルだ」
「初めまして、デックと言います。お手隙になりましたらお話させていただきますね」
私は作りながら話を聞いていた。
「気にしてくださって、ありがとうございます。それでは話せるようになったら、お声かけさせていただきますね」
話を聞きながら作ることはできるが、作ってもらう蔵の話なので後にしてもらった。
まだオープンしたばかりで、お客様はコロン達の三人のみだった。
蔵の話をすることを考えると、今のうちにcloseにしておいた方がよさそうだと思った。
私はシサにopenになっている看板をcloseにしてもらった。
「いきなり連れてきてしまったので、店を閉めてもらうことになってすまない」
シサにcloseをお願いするのを見たデイカーが言った。
「いいのよ。まだお客様は他に来てなかったから。話が終わったらopenにするから」
それに私が頼んだのだ。
「キャベツと豚肉の醤油麹ソテーできたわ!」
ライスと味噌スープも盛り付けてシサに運んでもらう。
「はーい、お待たせしました。日替わりランチです」
「ありがとら」
「ありがとう」
「どうもありがとうございます」
早速三人は食べ始めた。
「今日も美味しいら」
「ああ、安定の美味しさだ」
コロンとデイカーはいつものように美味しいと言って食べていた。
「……美味しい。こんな料理は初めてです!! なんですか? この茶色いスープは! 旨みがあってとても深い味がします! そして、このソテー! 豚肉がとても柔らかくて、しっかりと味が染みています。それなのにキャベツは歯応えが残っていて……」
デイカーの連れてきたデック様はとても詳細な感想を伝えてくれた。
「そんな細かく表現してくれてとても嬉しいです。ありがとうございます」
「いやー! こんなところにこんなに美味しい料理を出すお店があるなんて! デイカー殿…様が毎日通い詰める理由がわかりますね!!」
デック様がデイカーの名前を呼んだ時、無言でデイカーがデック様の方を向いた。
(どうしたのかしら?)
「デック様、ありがとうございます。ぜひまた食べにいらしてくださいね」
「私のことはデックとお呼びください。はい、ぜひまたお邪魔させていただきますね」
「デックは味にうるさいんだが、エルの料理は気に入ると思っていたよ」
「ちょっと遠いですけど、私も通い詰めたいくらいです」
「ちょっと遠いってどこから来られたのですか?」
シサが聞いた。
「私はラデュレラ王国から来ました」
デイカーは確か、当分戻れないってこの前フェオと話していたのに、わさわざ自国に戻って知り合いの大工を連れてきてくれたのね……。
「デイカー、わざわざ戻ってまでデックを連れてきてくれてありがとう」
「……気づいたのか?」
「ええ、この前フェオと話してたでしょ?」
「……そうだったな」
「デイカーはエルのために頑張ったんら」
「コロン!」
「だって本当のことら。普段はコロンに移動魔法を頼まないのに、今日はお昼をご馳走するからって言ってラデュレラ王国の往復と、ここまでの移動を頼んだんら」
気恥ずかしそうな顔をしてデイカーがそっぽを向いた。
「まぁ!」
そこまでとは思っていなかった私はデイカーの行動に驚いた。
「デイカー優しいですね〜」
シサがニヤニヤしながら言った。
「みんな食べ終わったので、エルに頼まれた建物の話をしよう」
バレてしまった恥ずかしさを隠すようにデイカーが話を変えた。
「はい。遅ればせながら、改めて自己紹介をさせていただきますね。私はラデュレラ王国で大工をしているデックといいます。デイカー様とはもう何年も前から魔道具を通してお付き合いがありまして、今回お声をかけていただきました。よろしくお願いいたします」
「丁寧にありがとうございます。私はこのカフェのオーナーのエルと言います。よろしくお願いいたします」
デイカーがさっき紹介してくれたが、私は自分でも自己紹介をした。
「私は従業員のシサと言います。よろしくお願いいたします」
「それで、お願いしたい建物のことなんですが」
「はい、デイカー様から少しお聞きしております。なんでも作った食品を保存する場所にするとか」
「そうです。それと今デイカーにお願いしているコーヒーの実を焙煎までできる魔道具も一緒に置いておきたいと思っています」
「そしたら、結構大きな建物を考えていますね?」
「はい、そうですね。この一軒家ほどではありませんが」
「実際に建てたい場所などを一緒に確認させていただきたいのですが……」
「わかりました。ご案内させていただきます」
私達は一軒家の外へ行き、一軒家の入り口から向かって左側に案内した。
「ここですね」
「ここなら、広く空いているので、それなりに大きな建物が建てられますね」
今のところ、建物には味噌樽と醤油樽を置くことと、コーヒーの実を焙煎までできる魔道具を置くことだけど、香りが混ざってしまうのではないかと気になっていた。
「あの、全然違うものを置こうと思っているんですけど、それぞれ置いたものの匂いが混ざって変な匂いがするようになるのではないかって気になっています」
「それに関しては建物の設備のことになるので、デイカー様に相談されるといいでしょう」
「ああ、それは俺が魔道具でなんとかしよう」
「ありがとう」
それからも色々と蔵となる建物の話を詰めていった。
そして、蔵の代金も確認した。色々と設備も整えてもらうため、魔道具も必要になるので思ったより値が張っていた。
「そうですね、総合すると大体、1000万トピーくらいになりますね。代金は建物ができてからで大丈夫です」
「わかりました。用意しておきますね」
「エル……結構な金額になってしまったが、大丈夫だろうか?」
「足りなかったらコロン貸すら」
「二人とも大丈夫よ。心配してくれてありがとう」
代金を聞いてデイカーは心配していたが、オルレアンの家を出る時に持ってきた宝石がまだ残っているので、心配なかった。
(一度ナイト街に行って、宝石をお金に変えてこなくてはいけないわ)
今度、連休を取ってシサと観光も兼ねてナイト街に行ってみることにしよう。
蔵の話もまとまったので、私達は店の中に戻った。
「デイカー様、私はそろそろ……」
「ああ、わかった。エル、会計をお願いする」
「デイカー、コロンのもよろしくら」
「わかっている。そのつもりだ。コロンはシフォンケーキも頼んでいるだろう?」
「そうら。主食ら」
「それも一緒に払う」
「いいのら?」
「ああ。今日のお礼だ」
「デイカー、ありがとら」
「それからデックの分も」
「いいんですか?」
「ああ、大丈夫だ」
「無理を言ってきてもらったら」
「コロン!」
「これは言ってはいけなかったら」
「デイカー、色々ありがとう」
私が申し訳なさそうにお礼をいったので、デイカーがバツが悪そうな顔をした。
「エル、コロンが余計なことを言ったが、気にしないでくれ」
「わかったわ。本当にありがとう」
「じゃあ、また」
「また来るら」
「設計図ができましたらまたお邪魔させていただきますね」
デイカーがコロンのシフォンケーキや日替わりランチ三人分など全ての支払いを済ませた。
そして、コロン、デイカー、デックの三人はコロンの魔法で帰って行った。
「そう言えば、誰も“粘る大豆“に気が付かずに帰ってしまいましたね」
シサが思い出したように言った。
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