第32話 納豆が食べたい!
よろしくお願いいたします。
デイカーが帰り、すぐに納品があったので、後片付けもできずにいた。
今は納品も済んで落ち着いて、私とシサはデイカーが持ってきてくれた魔道具や、泡立てで使った容器などをやっと片付けることができた。
「まだこの前のコーヒーの種が残っていますし、デイカーのおかげでいつでもコーヒーが飲めますね」
「ええ、嬉しいわ。でもシサはコーヒーが苦手そうな反応だったわね」
「いや〜あの苦いのはちょっと……」
「ちょっと、テーブルのところで座って待ってて」
「? はい」
私はまたコーヒー豆を粉砕し、お湯を沸かして、カップを二つ用意して順番にコーヒーを淹れていった。
片方は八分目まで、もう片方はカップの半分くらいコーヒーを淹れた。
その両方のカップに牛乳を注ぎ込んでシサのところへ持っていった。
「お待たせ。はい、これを飲んでみてちょうだい。ちょっとコーヒーをアレンジしてみたの」
「そうなんですね。わかりました」
シサは私に言われた通り、一口牛乳を入れたコーヒーを飲んだ。
「!! 苦くなくてなんか飲みやすい」
シサの表情が驚きに変わった。いつもシサはわかりやすい。
「よかったわ。コーヒーに牛乳を入れてみたの。カフェオレって言うんだけど、前世ではコーヒーが苦手な人もこれだったら飲めるっていう人もいたのよ」
「そうなんですね! これはいいですね」
「じゃあ、コーヒーをメニューに出す時にはこのカフェオレも出すわね」
デイカーに頼んでいるコーヒーの実を焙煎までできる魔道具ができたら、またメニューを新しくするつもりだ。
「はい! きっとこれも人気になりますよ」
「そうだといいわ」
「私、コーヒーなら淹れることができそうです。そうしたらコーヒーと紅茶は担当になれますね!」
シサが思いがけず提案してきてくれた。
「頼もしいわ。そうしたらデザートセットの提供はシサにもお願いしようかしら?」
「できているケーキを切って、クリームを添えて、飲み物と一緒に提供するんですよね?」
「ええ、そうよ」
「それならできそうです!」
「配膳もしてもらっているから、いつもじゃないけど、タイミングよく空いている時はお願いするかもしれないわ」
「大丈夫です! お任せください!」
シサは色々と手際がよく、やることも早かったのでカフェの配膳の仕事も安心して任せていた。
さすがオルレアン侯爵家の元侍女だ。
ふと窓の外をみると、そろそろ夕暮れどきに差し掛かろうとする頃だった。
そろそろ夕食を作り出してもいい頃だ。
「実はずっと食べたいものがあったの。今日は今からそれを作るわ」
「えっ、どんなものですか?」
「じゃあ、ちょっと待ってて」
「はい」
私はキッチンへ移動して、作り始めた。
前回の納品で大豆を持ってきてもらっていた。
この大豆は味噌や醤油にするのではなく、納豆にしてみようと思って頼んでいたものだ。
それを昨日のうちに大豆を水に浸けておいた。
そして、昼食の玉子野菜丼を作っている時に、横で茹でておいた。
鍋の水を切って、大豆を器に移していった。
大豆の入った器と、麹菌の魔道具を持って、再びシサの待つテーブルへ行った。
「じゃあ、今から作るわね」
「はい」
器に魔道具となる布を被せた。
「納豆菌」
私は集めたい菌の名前を言った。
魔道具が光り、しばらくすると黒かった布が白に変わった。
「できたみたいね」
被せていた布を外して中を確認した。
大豆が白っぽく変化していた。
「成功してると思うわ」
「どうなったんですか?」
「スプーンをとってくるわ。ちょっと待ってて」
私はキッチンに戻り、スプーンを持ってシサのところへ戻った。
「かき混ぜてみたら何か気づくと思うから、かき混ぜてみるわね」
納豆になった大豆をスプーンでかき混ぜる。ちゃんと粘りが出ていた。
「あっ! なんか大豆に粘りが出ています!」
「そうなのよ。粘る大豆に変わったのよ。これに醤油をちょっとかけて、ライスに載せて食べると美味しいのよ。これが私は食べたかったの」
「面白いですね〜! ちょっと味見してみてもいいですか?」
「いいわよ。味はついていないけど」
スプーンに納豆を載せてシサの手の平の上に置いた。
「なんかべたつきますね」
「粘る豆だもの」
ぱくっ
もぐもぐもぐ
「……味はないですけど、口の中がべたつきますね。これは何の為に大豆を粘らせたんですか?」
そんなことを考えてもみなかったが、初めて食べるならそう思うかもしれない。
「これは前世からずっとある食べ物で、発酵食品というものに大豆を変化させているの。発酵食品は身体にいいって言われているの」
「そうなんですね、身体にいいものなんですね。でも口がベタつくのが気になりますね」
「そうね。あるのが当たり前の世界を知っているからなんとも思わないけど、初めてだと気になるかもしれないわね」
甘酒といい、納豆といい、ちょっと発酵食品は独特なところがある。
初めての人には好みが分かれるかもしれない。
「これの正式名称は納豆って言うんだけど、シサも夕食にこの納豆を私と一緒に食べる?」
「……ライスに載せて食べるんですよね? 怖いもの見たさで私もエルティアお嬢様と一緒に食べてみます」
「わかったわ。私は移動してこのまま夕食を作るわね」
「ありがとうございます。私はこのまま店の戸締りをした後に、お風呂の準備や家事をして待っています」
「いつも家事ありがとう。お願いね」
私はキッチンの後片付けをした後、納豆を持って、二階の住居に移動した。
シサは店に残って、戸締りや使ったテーブルを拭いてくれた。
そして、二階へ上がってきて、お風呂を入れてくれたり、洗濯物を畳んだりと家事をして夕食を待ってくれた。
私はライスを炊き、味噌スープを作った。
それから納豆に入れるネギを刻んで小皿に載せ、塩麹に漬けておいた人参やキャベツ、大根なども細かく刻んで別の皿に盛った。
「シサ、夕食ができたわ」
シサを呼んで、ライスと味噌スープを盛り付けた。
ライスの器は納豆を載せて食べるので、普段より大きいものにした。
私は盛り付けたものをトレーに載せて食卓のテーブルに運んだ。
「ありがとうございます」
「さぁ、食べましょう」
「はーい!」
「シサ、このネギと野菜は納豆に混ぜても美味しいわよ。ネギだけの場合は醤油をかけてね。野菜は味がついているから醤油はなくていいわ」
「わかりました! ネギだけ粘る大豆に混ぜてみます」
シサが納豆にネギを混ぜて醤油をかけてライスに載せた。
「私もそうしましょう」
二人で納豆ご飯を食べる。
ぱくっ
もぐもぐもぐ
「あ〜懐かしいわ。これよ、これ」
私は特別納豆が好きなわけではなかったが、たまに無性に食べたくなる時があった。
「……うーん。やっぱり私はライスも粘る大豆のせいでベタベタしてしまって、なんか食べにくくてあんまりですね」
納豆は前世でも人によって好き嫌いが激しい食べ物ではあると思っていた。
やっぱり、シサには合わなかったようだ。
「食べにくかったら、無理しなくて残してもらっていいわよ」
「いえ、せっかくなのでこれは食べます」
「シサの口に合ったらお店でも出してみようかと思ったけど、これはやめた方がいいかしら?」
「出してみていいと思いますよ。面白い食べ物なので“粘る大豆あります“とか書いて壁につけていたら興味を持った人が注文してくれると思いますよ」
「ベタベタするけど、大丈夫かしら?」
「粘るって書いてあるし、もし頼まれたら“べたつきます“って伝えれば大丈夫じゃないでしょうか?」
「そうね。それにあんまり売れなかったらやめればいいわね」
「はい。じゃあ、私食べ終わったら壁につけるメニュー作りますね」
シサの口には合わなかったが、カフェのメニューで提供してみることにした。
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