第17話 麹菌を集める魔道具
よろしくお願いします
先日、デイカー様が天才魔道具師と聞いて、私は今度デイカー様が来店したらお願いしてみたいことがあった。
それは雑貨屋の店主から購入した味噌と醤油を使って麹菌を取り出すことができる魔道具を作ることができないかということだ。
味噌と醤油以外にも、前世には他にも発酵食品があったし、塩麹や醤油麹などの調味料の素となる米麹を私は作りたいと思っていたからだ。
「こんにちは、今日は随分遅くなってしまった」
デイカー様が今日も来店された。
「「いらっしゃいませ」」
「いつもの場所に座れるだろうか?」
「はい、どうぞ。空いてますよ」
シサがデイカー様に伝えた。
デイカー様はすっかり常連なので、定位置が決まっていた。
「デイカー様、こんにちは。今日の日替わりランチはスコッチエッグです」
「スコッチエッグ?それはなんだろうか?」
「私は食べてびっくりでした!」
「シサ殿はもうすでに食べられたのか!」
「はい。日替わりランチは提供前に食べています。そうすれば宣伝もできるし、応えられますので」
私達の昼食時間も遅くなってしまうので、最近は宣伝も兼ねて日替わりランチを開店前に先に食べていた。
スコッチエッグとはゆでた卵を挽肉で包んでフライにしたものを言うのだが、知らずに食べてもらった方が面白いと思う。
「すみません、今日は揚げ物なので、いつもより提供までに時間がかかります」
この世界ではフライは馴染みがあったが、天ぷらのような揚げ方は見なかった。
そのうち天ぷらも作ってみよう。
「今日はもうカイヤ町の宿に戻るだけで、急いでいるわけじゃないからゆっくりで構わない」
「ありがとうございます。お待ちくださいね」
私はスコッチエッグを揚げていった。
「スコッチエッグ、できたわ」
スコッチエッグとともに、いつもの味噌スープとライスを盛ってシサに運んでもらう。
「お待たせしました〜日替わりランチです」
「ありがとう。これがスコッチエッグか」
「はい。下味がついているので、そのままでも食べられますが、一緒に盛ったトマトソースをつけるとより一層美味しいですよ」
「じゃあ、まずは付けずに食べて、その後トマトソースを付けて食べてみるとするか」
デイカー様はナイフでスコッチエッグを半分に割った。
「……面白い。卵がそのまま包まれていた」
「周りを挽肉で包んでいるので食べごたえがありますよ」
シサはいつもいい時に答える。
ぱくっ
もぐもぐもぐ
「不思議な組み合わせに感じるが、食べ応えがあっていいな。美味しい。俺は気に入った」
「いつもそう言っていただけて嬉しいです。ありがとうございます」
その後、トマトソースを付けた食べ方も試していた。
「こういう食べ方も合うんだな」
デイカー様は変わった料理に抵抗なく、いつも美味しいと食べてくれていた。
そろそろあの話を切り出してみよう。
「あの……デイカー様、ちょっとご相談があるのですが……」
「ん? どうかしたのだろうか?」
「デイカー様は天才魔道具師とお聞きしました。そのデイカー様にお願いしたいことがあるのです」
「……天才とはクードが勝手に言ってただけだが……俺にできることがあれば力になろう」
「ありがとうございます。あの、できている食品から材料を取り出すことができる魔道具を作ってもらいたいと思っています」
「それは、どう言う意味だろうか?」
「えっと、具体的に説明しますと、例えばこのスコッチエッグは卵、豚挽肉、玉ねぎ、小麦粉、パン粉、塩、胡椒からできています」
「ああ」
「例えば、スコッチエッグを魔道具に入れたら、卵、豚挽肉、玉ねぎ、小麦粉、パン粉、塩、胡椒に戻るということです」
「要するに、完成前の過程に戻る魔道具が欲しいということか?」
「そうです!」
「うーん、一度形の変わったものを魔道具で戻すのは難しいかもしれない」
「そうですか……」
「何故それをしたいのだ?」
「あるものからそれを作っている菌を取り出したいんです」
「菌?菌とはなんだろうか?」
麹菌のことはなんて説明したらいいんだろう?目に見えないし……。
目に見えないものの例えをこの異世界でしようとすると……精霊がわかりやすいだろうか?
「うまく説明ができないんですけど、目に見えない精霊みたいなものって言うんでしょうか?それを集めて、調味料を作って料理の幅を広げたいんです」
「目に見えない精霊のようなもの……以前、エル殿と同じようなことをいう依頼者に出会った。その人も、目に見えない精霊のようなものを集められる魔道具を作れないかって」
「私と同じように言われたんですか?」
「ああ、集めたものを使って料理に使う調味料を作って、それを売る商売をしたいと言っていた」
私と同じことを考える人が……。
「その依頼は受けられたのですか?」
「受けた。詳しく話を聞くと、実際には精霊ではなく、空気や水蒸気のように自然界に実際にあるものらしいので、それなら魔道具を使って集めることはできるからな」
それはやっぱり私が考えていたことと同じように、味噌や醤油などの発酵食品を作るための麹菌を作る魔道具だろう。
「それでどうなったんですか?」
「魔道具は完成して、依頼者に渡したらちゃんと目的のものが集まって、調味料ができたと言っていた」
「デイカー様はできた調味料は見られたのですか?」
「ああ、興味深かったので見せてもらった」
「それって……もしかして、これによく似ていませんでしたか?」
私はデイカー様に味噌と醤油を見せた。
「! そうだ!これとよく似ていた」
「やっぱり」
私が雑貨屋で買った味噌と醤油を作った人物がデイカー様に依頼したんだろう。
「これはなんだろうか?」
「これはデイカー様のお好きな味噌スープを作る素です」
「これが……」
デイカー様は興味深々で味噌と醤油を見ていた。
「私もそれと同じものを作ってもらいたいのですが、お願いできますか?」
「ああ、大丈夫だ。本来は最初の依頼者に発明権があって、勝手に作れないのだが、その依頼者は作った調味料が全く売れないので廃業してしまった。面白い魔道具だったから、その時に発明権を俺が買い取っておいた」
デイカー様、さすがだ。
味噌と醤油を作った人物は廃業してしまったのか……知ることができてよかった。
これからは自分で作っていこう。
「作るために少し時間をもらってもいいだろうか?」
「はい、大丈夫です」
私はデイカー様に麹菌を作る為の魔道具を作ってもらえることになったのだが……。
「オーナー、あの、大丈夫でしょうか?弟から聞いたことあるんですが、新しい魔道具を魔道具師に作ってもらうのはすごくお金がかかるって……」
シサが心配そうに私に尋ねた。
「それは大丈夫よ。それも分かった上でデイカー様にお願いしてるから」
侯爵令嬢時代にお父様が魔道具師を呼んで、自分のための便利な魔道具を作ってもらっているのを見て高価なのは知っていた。
「エル殿、シサ殿、この魔道具は初めて作るものではないし、何より今度の大討伐の弁当を引き受けてもらっているから、魔道具の代金のことは気にしないでほしい」
魔道具の代金のことを話していた私達にデイカー様は言った。
「デイカー様って気前がいいわ〜」
「そんな……申し訳ないわ」
「いや、このカフェで俺達みんな世話になっているし、これくらいさせて欲しい」
「……ありがとうございます。ではデイカー様のご厚意に甘えさせていただきますね」
「ああ。そうしてほしい」
「魔道具を使って集めた菌で作った調味料を使って、色々美味しいものを作りますので楽しみにしていてください」
「それはとても楽しみだ」
私は色々な発酵食品を作れることにワクワクしていた。
「では、魔道具ができたら持ってこようと思うが、その時に説明もしたい。他に客がいない時間帯がいいだろう」
「わかりました。その日はランチタイムが終わったら一旦closeにすると案内しておきます」
「ああ、頼む。俺はできたら知らせるので、エル殿が都合の良い日をその時教えて欲しい」
そう言い残して、会計を済ませたデイカー様は帰られた。
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