第1話 分かっていた婚約破棄の未来
よろしくお願いいたします。
「私、スピア王国王子アリオンは、オルレアン侯爵令嬢エルティアとの婚約を破棄して、ここにいるブリリア伯爵令嬢ユーディットと婚約する!!」
壇上からよく通るテノールが響き渡り、ざわめいていた舞踏会場は一気に静まり返った。
「エルティア、ごめんなさい。こんなつもりはなかったの」
「ユーディット、君は悪くないんだ。君を守りたいと思い、惹かれてしまった私が悪いんだ」
アリオン王子がユーディットを宥めて、私の方を向いた。
「それから、オルレアン侯爵令嬢! 貴様のような性根の腐った女が今後もユーディットに近づき、何かしたら容赦しない! 覚悟しておくんだな!」
ついにこの時が来た……。
ゲームの中で見た断罪イベントがついに起こった。
私はオルレアン侯爵令嬢のエルティア。
十四歳の頃、家の階段を踏み外して頭を打った衝撃で前世を思い出した。
前世での名前は坂島碧衣。
祖父母の引退後、祖父母の経営していた大好きなカフェを継ぐつもりでいたのに就職先がブラック企業で過労の挙句、継ぐ前に死んでしまった。
そして、自分が息抜きでやっていた乙女ゲーム「星屑のカンパニー」の悪役令嬢、オルレアン侯爵令嬢エルティアに転生してることに気がついた。
この乙女ゲームの中でエルティアは、ヒロインのしたたかなユーディットから、まるで彼女を虐める悪役に仕立てられ、婚約者のアリオン王子から悪役令嬢として断罪され、婚約破棄されてしまう。
その後、父親からオルレアン侯爵家を追い出され、助けもなく、行き場所もないまま、彷徨い歩き、よからぬ輩に襲われて殺される運命を辿る……。
前世だってやりたかったことができずに死んでしまったのに、転生してもそんな悲惨な人生を送るなんて、たまったもんじゃない!!
まだ十四歳で気づいた今なら、違う人生を歩むことができるだろう。
それなら私は前世継ごうと思っていた祖父母のやっていたようなカフェを開いて楽しく自由な人生を送りたい。
この日を境にそう決めたのだった。
まず、ゲームでも出てきていた信頼している侍女のシサに前世を思い出し、ゲームの中に転生していることやカフェを開きたいと思っていることを話した。
ちなみにこの世界でカフェの存在は、ゲーム中ではカフェデートシーンもあったので存在しているのはわかっていたが、一応街に出て確認済みである。
シサは驚きを隠せない表情を一瞬見せたが、さすが私のことをよくわかってくれているだけあって、すぐに受け入れてくれた。
シサには準備を手伝ってもらうつもりだ。
それから具体的な計画を立て始めた。
カフェの資金は毎年誕生日でもらったジュエリーを換金し、カフェとなる物件はシサに手伝ってもらい、今から少しずつ探していこう……。
……こうやって考えてみると、準備に時間がかかることがわかった。
カフェを開くタイミングはゲーム通りの十八歳の婚約破棄で家を追い出される時がいいだろう。
そう気づいた私は、そのままゲーム通りの行動をして、婚約破棄を言い渡されたのだった。
「エルティア侯爵令嬢?聞いているか?」
「聞いています、婚約破棄ですよね?」
「ああ……そうだ」
「承知致しました」
「えっ、あぁ……わかってくれたならそれでいい」
「はい。じゃあ、私はもうここにいる意味ないですよね? 失礼します」
私は一人でさっさと舞踏会場である大広間から出て、辻馬車でシサと一緒にオルレアン侯爵領の自宅へ戻った。
そしてこのあと、お父様から呼び出されて、家を追い出される流れになっていくのだ。
コンコンコン
「お父様、エルティアです」
「入れ」
機嫌の悪いお父様の声が聞こえる。
「失礼致します、お父様、お呼びでしょうか?」
部屋に入ってすぐ、真正面の執務机の椅子にお父様が座っていた。
お父様の顔は金髪碧眼の整った顔だけれど、険しい表情のせいで折角整った顔が台無しだった。
「アリオン王子とは昔から婚約していたのに、お前の日頃の行いが悪いせいで、婚約破棄されてしまった」
「……申し訳ありません」
ここもゲーム通りの行動をする。
「格下のブリリア伯爵の娘なんかにアリオン王子を取られるなんて、オルレアン侯爵家の恥だと思わないのか?」
「申し訳ありません」
「お前はいつも謝っているだけだな……。もういい!! 俺の顔に泥を塗ったお前がこの家に居られると思うな! 今すぐ荷物をまとめて出ていけ! 恥晒しのお前の顔はもうみたくない!」
お父様は手で思いっきり机を叩き、私に言い放った。
「…承知致しました。今までお世話になりました」
お父様の言動全てがゲーム通りだった。私も同じように全てそのまま返していった。
私は静かに執務室を後にして、自分の部屋に戻っていったのだった。
「エルティアお嬢様、お帰りなさい。旦那様はどうでしたか?」
「ゲームの通り、お父様には出ていけって言われたから、計画通りに進められるわ」
カフェとなる物件はシサと一緒に探し回り、オルレアン侯爵領と反対に位置する
リード辺境伯領に、カフェ兼住まいとなる一軒家を見つけて購入した。
その時、すぐにカフェができるように改装も頼み、道具も揃えていた。
最近、改装が終わったと手紙で連絡が来ていた。
とてもいいタイミングだった。
「そうでしたか、良かったです。もうほとんど準備できていますよ」
事前に話しておいたので、シサが部屋で先にほとんどの荷物をまとめてくれていた。
あとはジュエリーを鞄に詰めるだけだ。
急いで身なりも変えていく。
以前、シサに頼んで買ってきてもらった町娘のような花柄のワンピースに着替える。
それからストレートロングの黒髪をおさげにした。
オルレアン侯爵家の特徴である薄紫の瞳を隠したかったが、難しかったので顔をなるべく隠せるようにスカーフを巻いた。
準備ができたので、人目につかないように部屋から出たら裏口に回って出ていこうと思う。
とても信頼しているシサだけど、オルレアン侯爵家に雇われている以上、連れていけない。
「えっと、リード辺境伯領までの地図はあるかしら?」
「はい、私が持っていますよ。どうされました?」
「もらえるかしら?」
「? …はい」
不思議そうな顔をしたシサから地図をもらった。
「ありがとう、私はもう行くから。シサ、今まで本当にありがとう。もう会うことはないかもしれないけど、元気でね」
シサの手を取って最後の挨拶をしたら、手を引き抜いて再び手を掴まれた。
「えっ!! エルティアお嬢様、何を言ってるんですか? 私も一緒に行きますよ。エルティアお嬢様の行くところは、どこへでもついて行くんです。地図を返してください」
一人で出て行こうとしたら止められ、地図は没収された。
「シサ……でもオルレアン侯爵家はどうするの?」
「エルティアお嬢様に前世の話を聞いた時からいつ辞めてもいいように、私は辞表を用意しておいたんです。テーブルの上に置いていきます。さぁ行きましょう!」
シサは辞表とともに自分の荷物も一緒にすでに用意して、私の部屋に持ってきていたのだった。
「シサ……ありがとう」
シサが私と一緒にきてくれる。とてもありがたい。
部屋のドアを開けて辺りを確認する。
幸い、私の部屋の近くには誰もいなかった。
二人で示し合わせて荷物を持ってそそくさと部屋から出た。
そして、急いで私たちは屋敷の隅にある裏口へ回って家から出ていったのだった。
それから辻馬車に乗る前に手持ちの宝石を少しお金に換えた。
これで当分お金には困らなくなった。
早速辻馬車に乗って私達はリード辺境伯領に向かった。
リード辺境伯領までは遠かったが、森を通り抜け、草原を走ったりと馬車の中から見える景色の変化を飽きることなく楽しめた。
そして、一週間の旅の末、やっとリード辺境伯領に入ったのだった。
(私はこの土地でカフェを始めるんだ)
ここまでくるともう、ゲームの中とは違う道のりを歩み始めることができていると実感できた。
そして、これからは楽しく自由にカフェができると思うと、なんだかとても胸がワクワクしてくるのだった。
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