第9話 瞬殺されるドラゴン
「駄目だよエル! 私たちがドラゴンに挑むなんて―――」
泣き言を必死に吐くエルナ。
「無理だ! この部屋の性質を忘れたのかよ! 一つに命を失えば部屋の内部から開けれる仕組みのやつだ! どうしよーもねぇ!」
「あー! クッソ! なんでこうなったんだよ!」
愚痴を吐く間もなく、レッドドラゴンのブレスが襲いかかってくる。
どうしろっていうんだよ。こんな圧倒的に不利な状況をどうやって覆せっていうんだよ。
だからと言って、仲間の命切り捨てて配送するわけにもいかねえ。こっちだって仕事で冒険者やってんだよ。
大手企業のスポンサー背負って夢見せる立派な仕事なんだよ。
ヒーローが仲間見殺しにして泣く泣く敗走。そんなことになったら最高にかっこ悪いじゃないか。
こっちだって商売だ。スポンサーだって宣伝という名目でやってる。
結局世の中、金が絡むとロクな方向に転がらない。そういう風にできてるんだよ。
人間てのは利益のためにどこまでも残酷になれる。百年ほど前の戦争がそれを示してくれたじゃねえか。
だから俺らは夢見せて、あんなことになんねえようにするんだろうが。
「ああ、クッソ! トーカ。頼むぜ?」
俺はトーカに向かって不敵に笑いかける。
「うっさい。今考えてんの」
(このドラゴン。さっきから挙動がおかしい私たちがここに入って数分後ぐらいから、妙に私たちの方を気にしている。でも、気にしてるのは私たちじゃない)
何かに怯えているかのようにドラゴンは保守的な姿勢ばかり見せている。
が、それも長くは続きそうにない。
「ガァァァァァァァ!」
終わりだといわんばかりにレッドドラゴンの方向があたりに反響して耳を鳴らす。
「ああ、うるっせーな! 死なねーぞ! 俺ァ!」
アルトがそういってドラゴンを見据えた―――刹那。
轟ッと爆ぜる音。
「最悪手だ! 一番取ってほしくなかった手だよ!」
トーカは叫ぶ。
あまりにも不相応なドラゴンに挑み敗北を喫するだけでなく、パーティ全滅、か。
今日でSランクパーティ吟遊の黄昏は今日、解散する。
(もっと、したいことあったんだけどな……)
未練がましくそんなことを思う。だが、口には出さない。
なぜか、簡単だ。自分がGOを出してせいで、吟遊の黄昏は全滅に至った。
後悔に満ちた最期だった
―――なんてことにもなったかもしれない。
でも、現実は違う。
✕ ✕ ✕ ✕
「よし、行くぞ。ユーリ!」
やっと師匠がGOをだした。俺はずいぶん前からさっさと行こうといっていたのだが、ことごとく師匠に却下された。
どれだけ見た目にこだわりたいんだよと思うが、それが師匠のポリシーらしいのでおとなしく従うことにした。
「静かなる水面よ、薙いで凪ぎ、思いに応えて剣に乗れ!「水纏剣—鉈裂氷」全部水蒸気いかえてやる!」
仮面をかぶってタキシードと黒のハットをかぶった俺がそう叫んで、ドラゴンのブレスをすべて水泡に帰させる。
「おいおい。よいところを取るでない」
師匠は俺に向かってなだめるようなことを言う。
俺に目配せをすると、純白のワンピースを揺らしながらバッと高く飛び上がり、剣をドラゴンの脳天めがけて振り上げる。
師匠がドラゴンの脳天をたたき切ると同時、俺はドラゴンの胴体に向かって強烈な一撃をぶち込む。
「「双舞-垂直凪氷天華!」」
そう事前に打ち合わせをした変にキザったらしい必殺技名になんて口頭に並べながら、ドラゴンの頭は真っ二つに叩き切られ、胴体は見事に切断されている。
「決まった。の」
余韻を残すように師匠はつぶやく。そっすかね? 結構痛々しい二人組じゃないっすかね。
俺ちょっと無理かもしない。このノリ、封印されし記憶がよみがえりそう。
「あ、あの!」
ピンク紙のトーカと呼ばれていた女が俺たちに声をかけ、引き留めてくる。
「あなた方の名前は?」
そう、純粋な瞳で問いかけてくる。
「そうじゃな、名乗るほどの名を持ち合わせてはおらんが……。あえて名乗るというのならば純清なる剣聖達じゃな」
だっせぇー! ちょっと師匠。さっきと話が全然違うじゃないですか。特に名乗らず立ち去る。それが粋ってもんなのじゃよとか言ってたじゃん。
全然名乗る方がかっこいいと思ってんじゃん。時と場合で主張を二転三転しないでください。
てか、その純清なる剣聖達って即興で考えたやつですよね? なんでそんなそれっぽい単語が一瞬で浮かんでんの?
というか、これが世間に見せる仮の姿って言ってましたよね?
俺、これからこうやって大物のドラゴン倒すときとか、純清なる剣聖達ってなのりゃなきゃいけないの?
流石にそれはかんっべんしてほしいんですけど、師匠!
というか、師匠って俺よりもずっと長く生きてるはずなのに小学院の子供たちがやっているようなこと言ってるんですか。
師匠の幼女体型も相まって、男趣味な女の子みたいな感じにしかならないですって。
と、吟遊の黄昏の人たちに鼻で笑われないかと、俺が内心激焦りしていたのだが、それはどうやら杞憂だったらしい。
「純清なる剣聖達……なんて美しい響き」
トーカはそんなことを言った。そりゃそうだパーティーの名前を吟遊の黄昏とかいう名前にするようなところが、こういう名前に否定的なわけがない。
というか、俺の価値観がおかしいのか不安になるぐらいにはこの場にいるみんな(師匠を含める)は純清なる剣聖達という名前を本気でかっこいいと思っているようだ。
✕ ✕ ✕ ✕
もうだめかと思ったその時。まるで神様が狙い図ったような奇跡的なタイミングで、紅の宝石採掘洞窟、最下層の門が開いた。
その人たちは流れるように美しい剣技で、ドラゴンを十字に引き裂いて見せた。あまりの衝撃的な光景に私たちは呆然とするしかなかった。
Sランクパーティがどれだけ頑張ってもなしえなかった芸当をいとも簡単にやってのけた。
「むぅ貴様、弟子の癖に上達が早すぎないかのぅ」
「まあ、俺ですからね。意外とすぐに追いつくかもしんないですよ?」
「たわけ」
なんて余裕のある会話を交わしながら。
彼ら、彼女ら、もしくは混合は(タキシードとワンピースなのでおそらく男女二人組)何も語らずに、超超々希少なドラゴンの核に見向きもせずに門を出ようとする。
「あ、あの!」
私は思わず、声をかけて引き留めた。もう少し二人の姿を拝んでおきたかった。
「あなた方の名前は?」
どうしても覚えておかないといけないと思った。
私たちは結構大きなパーティだって自負してるけど、仮面をつけた純白のワンピースと白い髪を靡かせる(恐らく)少女と、仮面をつけ、タキシード優雅に着こなした金髪の(恐らく)男性のパーティなんて聞いたことがない。
そもそも、中継冒険者なんて有名になってちやほやされたい人間がやるのだ。わざわざ素性を隠すなんてことはしない。
「そうじゃな、名乗るほどの名を持ち合わせてはおらんが……。あえて名乗るというのならば純清なる剣聖達じゃな」
純清なる剣聖達……。なんて素晴らしく神々しい響き、私は恍惚とするしかなかった。




