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第7話 都市「フローナヴァ」

 師匠に連れてこられたのはずいぶんと広い街だった。

 人の往来が激しく、それこそ人の波に流されそうなぐらいにはにぎわっていた。


「おお、すごいなこりゃ」

 俺が思わず感嘆の声を漏らしてしまうぐらいにはすごかった。

 いや、全然王都よりも近未来的というか。あそこはなんか堅苦しい感じだったけど、ここはそんな感じが全くない。


 なんというか、自由というか、のびのびとしているというか。ともかく俺に衝撃を与えるような何かがそこにはあった。


「おお。わしも久しぶりに来たが、ずいぶんとにぎわっておるのぉ」

 俺と同じような感想を師匠も漏らす。やっぱそうですよね。


「それにしてももう百年ぶりかのぅ」

 百年……。そりゃとてつもないな。


 まだ生まれて二十年もたってない俺はペーペーってことだ。

 ……ペーペーで何が悪い。というか、年の差って卑怯だよな。超えれる気がしねえんだもん。

 これで師匠に老いとかいう概念があればまだどうにかなったかもしれないが、あいにく呪いのせいで若い姿を保ったまま修練を積み続けるという頭のおかしい人間が誕生してしまった。


 ……師匠に呪いをかけたやつ。これ師匠に弟子入りしちゃったら一生壁を目の前にしながら死んでいくことになっちゃうんですが、それはどういったお考えで?


「よし! わしも百年ぶりのフローナヴァじゃからのぅ! 少し楽しみじゃわ。まずはさっそくギルドにでも登録しに行こうじゃないか」


 そうして、俺は師匠の案内でギルドに連れていかれることとなった。

 ちなみにもちろんのこと、師匠の地図知識は百年前のものでストップしているので、かなり不安なのだが……。


   ✕   ✕   ✕   ✕


 ―――案の定。とでもいうべきであろうか。

「なぜじゃ! ちょっと前までここにあったであろう! どうなっておるのじゃ!」


 どうやら、ギルドは百年の年月の間に移転してしまったようだ。

 そりゃそうだ。百年もあれば建物の劣化や周囲の建物の変化、周囲の家の状況の変化など、様々な変化が訪れる。


 だから、ギルドが移転してしまうのも仕方のないことだろう。

 というか、百年前の知識に物を言わせて堂々と先陣を切っていた支障がどうかしているのだ。


 ちなみに師匠は意地でも待ちゆく人に道を尋ねない。それはなぜか。簡単な話だ。

 師匠みたいなサイズの人間が町の人に話しかけると、子供の迷子だと思って親を探されるそうだ。


 そのうえで、自分の齢が百を超えていると伝えても適当にあしらわれるだけらしい。


 まあ、師匠の見た目なら仕方ないと思うが。俺がもしこんなことどもみたいな見た目の子が年齢百歳とか言ってきたらかわいい冗談だと思って適当に流すと思う。


 まあ、それはしかたない。師匠の見た目があまりにも幼すぎるから、まあ気持ちはわからないでもないけど甘んじて受け入れるしかないと思う。


「どうもわしのことをバカにされている感じがしてならんのじゃ」

「いや、多分バカにされてますよ。それ」

「じゃよなぁ……。わしだってこのような小娘が百歳なんていっとっても信じられる気がせんわ」

「っすよねー」


「でも嫌なもんは嫌なんじゃよ。生理的に無理とでもいうのかの」

 そんな会話を交わしている。が―――


「とりあえず師匠。迷子を脱しましょうよ。大通りに出たら看板ぐらいあるともいますよ?」

「なるほどのぅ」

 とりあえず、俺たちはやみくもに歩き始めた。

 なんというか、グダグダ過ぎてみてられない。そういう感じが俺と師匠らしいけどね。


   ✕   ✕   ✕   ✕


「なんなんじゃ? Fランクだからドラゴン討伐のクエストは受けられない? 何を言っておるのじゃ。昔はそんなもの関係なかったじゃろう。別に死んでも構わなかろう?」


 ギルドを見つけれてはいって冒険者登録までを済ませたのはよかったのだが、師匠が尋常ないぐらいごねていた。

 正直俺も引き笑いを浮かべてしまうほどに。


「い、いや。ですから、先ほどから何回も説明していますように。規則でして……」

「いーやーじゃー! そんな面倒な手順を踏んでおれば死んでしまうわ!」


 ギルドの職員さんが助けてくれという目線をチラチラこっちに向けてくる。

 すみません。もう少し我慢していただけませんかね? さすがにやばそうだったら引きずって持ち帰るので……。


 もうちょっとだけ耐えてください。

 ほんと、うちの師匠がすみません。でも俺もこうなった師匠にうかつに触れることができないんですよ。


 と、心の中で職員さんに謝っておく。まあ、職員さんはそんなこと知る由もないのだが。


 とりあえず、申し訳ないという気持ちを持つことは大事だ。それによって保たれるものがある……はず。


 それにしても師匠の実年齢が本当に百なのか怪しいぞ? これ。

 要求している内容はドラゴンに挑ませろというものなのだが、師匠は一見ただの少女なのだ。


 そんなこに宮廷魔導士三十人がかりでやっと倒せるというドラゴンに挑ませるわけがないだろう。

 普通に考えたら俺でもわかることなのだが、師匠には冒険者がごみのように扱われていた時期の名残なのかはわからないが、そういう節がある。


 なんでだよ。常識は刻一刻と新しくなり続けてるんですよ。師匠、もっと時代の流れに身を任せて柔軟にならないといけないんです。


 というか、大人相手に駄々こねているのを見ると本当にただの少女がごねているようにしか見えない。


 というか、そろそろひきどころだろうか。師匠はどこで手に入れたかわからないどこでも泣けるという特殊能力を持っている。


 それによって大人が十二歳程度の少女を泣かせているという構図を作り出すことができる。……わが師匠ながら策士だ。


 だが、こういう泣き落としが一番効果があったりする。特にまともな大人には。かくいう俺も師匠の泣き落としには手を焼かされた。


 というか、俺が師匠に成功体験を与えているからこういうことになってしまったのかもしれない。


 やめてくださいを師匠。あんた、普通の人間のままならよぼよぼのおばあちゃんなんだから、そんないっちょ前の少女みたいなみっともない行動をとらないでください。



 それともこれはあれなのだろうか、弟子に恥をかかせて世親を鍛える新手のトレーニングなのだろうか。


「うちの師匠がすみません。ほとぼりが冷めたら自分だけでまた来ます」


 店員さんにそう言って俺は使用を抱きかかえてギルドを後にした。

 店員さんはほっとした様子で安心していた。まるで嵐を耐えきったかのような表情だった。


 まあ、実際問題嵐なのだが。


「むぅ。ユーリ、なぜ止めたのじゃ。あともうすこしであの職員を無理やり納得させることができたというのに」

 師匠は不貞腐れながら俺に文句を垂れてくる。

 ……師匠。文句を言いたいのはこっちですよ。目の前で散々恥をかかされた挙句、尊敬する師範のこんなみっともない姿を見せられたんですから。


「そんなことを許すわけがないでしょう。俺を何だと思ってるんです」


「ふむ。ユーリはかたいのぅ」

「かたいとかかたくないとか、そんなこと関係ないんじゃないでしょうかね? ただ単に迷惑か迷惑じゃないかの二択だと思いますよ。俺は」


「そうじゃな。仕方ないのぅ、じゃがわしはどうしてもドラゴンのやつをボコボコにしてやりたい。そうじゃな……最終奥義を使うしかないのぅ」

 そう凛とした表情でいうが、ロクな結果にならないということは知っているのでもう、なんというか……という感じだった。


「さてユーリ。張り込むぞ」

 そのイヤーな単語を聞いてユーリは自分の直感が間違っていなかったことを実感した。

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