第6話 強き者の素質と才能
かくかくしかじかあって、師匠との模擬戦に魔術剣を使用してもいいこととなった。
ちなみに俺が初めに危惧していた魔術剣を使うことによる妙な軋轢なんてものは発生しなかった。
理由は多分あれだ。師匠も魔術剣のかっこよさに気づいたんだろう。
剣に乗せる魔術によって千変万化するこの魔術剣。
例えば炎と地から派生した闇。水と風から派生した光など、属性の幅は無限大。
その無限を自分で開拓することができるというのは非常に素晴らしいことなのだ。
そして何よりも格好いい。これに尽きるとしか言いようがない。
炎を纏った剣、水を纏った剣、雷を纏った剣、風を纏った剣、地を纏った剣。ただの基本五属性でも剣にまとわせるだけで格段とかっこよくなるのだ。
それに気づくことのできるは自分は非常に幸運だろう。そしてそれを自分の手で実行に移せる自分はもっと幸運だろう。
師匠とのめぐりあわせもそうだ。こんなにも良い師を持つことなど普通はあり得ない。
一世紀もたたぬうちに伝説と相成った存在。
第一次魔導大戦の英雄が一人ミルケルカ=クラリリカ。その獅子奮迅ぶりといえば一騎当千など彼女を表すには足りないどころか侮辱にあたるほどの超常的存在。
それこそが、ミルケルカ=クラリリカという存在なのだ。
✕ ✕ ✕ ✕
帝国歴1877年。6月5日。
師匠に師事され始めてから早一年。
半分程度本気を出した師匠の速度くらいならついていけるようになったし、魔術剣の練度は申し分ないぐらいに上がっている。
これなら実践で使える程度には仕上がっている。
ブラッドグリズリー程度なら一秒もかからずに瞬殺することができるようになった。
それに、一万回に一回というごくわずかな確率だが、師匠に一撃を与えられるようになった。
目を見張る成長というものだ。
というか、なぜかはわからないが、師匠は魔法を使えないというのにもかかわらず、なぜか妙に魔法に精通している。
もしかしたらもともと師匠の夢は、剣聖として剣をふるうことではなく、第一次魔導大戦の英雄が一人クレネレスト=フィオサーガのように超強力な魔術をバンバン打ち込むような魔術聖になりたかったのかもしれない。
……それはさておき、師匠は俺の魔術剣に対しても的確でピンポイントなアドバイスをしてくれる。
俺の魔術剣の練度が上がってきているのは、俺だけの力ではなく間違いなく師匠の力添えがあったからだと思う。
それにしても、一年しかたっていないというのにずいぶんな充実感だ。
多分十年ぐらい近い濃厚な時間を一年で詰め込まれたような気がする。
多分今自分の顔を水面で見たらかなり老けていると思う。
そういえば師匠が明日話があるとか言っていた。
なんだろうか、俺の周年記念だろうか。
というか、この日記帳も残りだいぶ少なくなったもんだ。
普通にもう数ページぐらいしか残っていない。まあ、毎日欠かさず書いてきたから当たり前、……というかよく持った方だと思う。
思い切っていい日記帳を使っていたのが功を奏したかな。
というか、いまだに支障が日記を除いてくるんですがそれはいかがなお考えで?
✕ ✕ ✕ ✕
「ユーリ、お前に話があるといったな?」
俺の目をじっと見据え、神妙な面持ちで重い口調でゆっくりと師匠は口を開く。
「のう、ユーリ―――」
その話が一体何なのか、妙な間なんて作らないでほしいのだが。
「街に出てみんか?」
「え?」
俺が返せた返事はせいぜいその程度。
というか、街に出るなんて意識したことがなかった、師匠はどういうことがいいたいのだろうか。
「いや、わかってはいたのじゃ。さすがに一年も山にこもりっぱなしでわしと山を走っておりては走っておりては……。それが終わったかと思えばユーリが倒れるまで打ち合い。さすがにユーリと手うっぷんがたまっているのではなかろう?」
??? 何を言っているんだこの師匠は。そもそも俺は今自分が置かれている状況に満足している。
というか、倒れるまでの模擬戦なんて今に始まった話じゃない。
いまさらそんなことを言い出すのか? 師匠はいったいどうしてしまったのだろうか。それとも自分に愛想をつかしてさっさと街に出て働けという合図なのだろうか。
「はあ……。いろいろ困惑しているようじゃが、ユーリ。お前はもう初めにわしが心の中で課していた境地にまでたどり着いておるのじゃよ。それはユーリの努力と才能で成り立っておる」
「でも、俺は全然師匠には及ばない……」
「あたりまえじゃ。何年お前とわしに年齢差があると思っとる。百年差は余裕であるわ。わしがユーリぐらいのころなんて、せいぜいブラッドグリズリーを倒せるかどうかぐらいの力しかなかったわ」
「でも、じゃあ。俺がまだ努力すれば更なる高みに―――」
「馬鹿もん。過ぎたるは猶及ばざるが如しという言葉を知らんのか。ユーリは急激に力を突き過ぎた。そうすることによって慢心や油断なんかが顕著に表れ始める。わしがお前に課している最終目標は神をも殺せる力を得ることだが、今やれと言っとるわけではない」
そんな言葉を師匠は並べ立てる。師匠がそういうのなら、俺は師匠についていくだけだ。
「まあ、よい。ユーリがどれだけ嫌がろうと縄で物理的に引っ張て行くつもりだからな。そうじゃな。持ちに出たら、冒険者ギルドなんかで、ちょっと遊ぼうじゃないか」
「え?」
そうして実際短いのだが、体感にすると尋常じゃないぐらい長かった山にこもっての師匠との修行は、師匠の提案によってあっけなく終了する。
まだもう少しここに残っていたい気持ちはあったが―――
「よし、行こうじゃないかユーリ。わしもユーリだけじゃ遊び相手が足らんかったのじゃ、遊ぶぞー!」
師匠のそんな姿を見ていたら、ついていくしかないじゃないか。




