第5話 【悲報】弟子に話があるといわれた
「は、はっはは、っは……は、話とは???」
わしは極めて冷静にユーリに問い返す。
「もしかしたら、師匠は気づいているかもしれないけど……。俺は魔法が使える」
「あっ、ああっあ、ああ。し、知っていたとも……?」
も、もしかして本当に、本当に行ってしまうのか?
わしの元を離れてしまうのか? 確かに間が半年と短い間柄かもしれんがわしとお前はもう親子みたいなものじゃないのか?
違うのか? ただのわしの思い上がりなのか? それとも何か気づかないうちにユーリに嫌な思いをさせていたのか?
ユーリ、宮廷魔導士なんてなるんじゃないぞ。わしはあやつらに同胞を殺されたといっても過言ではない。
ああ、でも。弟子の判断を師匠の一存で白紙にするのはそれは師匠として言い問えるのか?
そんなことをやってのけてしまったら悪い師匠のお手本じゃないのか? わしが物語で見ていた師弟関係に反するのではないか?
ユーリが口を開く。わしはもう目をつむっていたかった。
ああ、どうすればいいのじゃ……。とりあえずわしにはユーリがなんと言葉を紡ぐかを祈りながら聞くしかないのか……? あ、ああ。いやじゃあ、聞きたくないぃ。
表面上では落ち着いているように見えても(落ち着けていない)心の中では今までにないぐらいの大パニックが起こっていた。
ごねすぎかもしれないが、それほどミルケルカにおいて、ユーリという存在は重要なのだ。
「だから俺は―——」
ユーリっ! この馬鹿もんが! なぜそこで言いよどむんじゃ! これ以上わしを不安にさせんでくれ! 出ていくなら出ていくで構わんのだ。
だからはやく、この心苦しくて仕方ない子の気持ちをどうにかさせとくれ!
「俺は魔術剣を使うために、師匠に教えを乞うたんだ」
「ま、まじゅつけん?」
宮廷魔導士という単語が出なくて、心底安心したのかミルケルカの口からは間抜けな言葉しか出てこなかった。
というか、魔術剣? 初めて聞く単語だ。生まれてこの方、剣を振り続けてはいたものの、そんな奇怪な名前の剣術、聞いたこともない。
「魔術剣? ユーリ、それはいったいどんなものなんじゃ?」
わしのその言葉を聞いて、ユーリは安堵したように息を吐いた。
それのしたいのはわしのほうじゃ。といってやりたかったが、師匠としてあまりにも格好悪いので黙っておくことにした。
「さっきの《亡者を焼く炎剣》とかだと、「紅蓮よ、高ぶり、思いに応えて剣に乗れ」という風に変更でき、こうすることによって、《亡者を焼く炎剣》の発動詠唱と、剣に魔術を移動させる詠唱を大幅に短縮できる」
「詠唱式の省略? わしは魔術に明るくはないが、それは不可能と立証されていたはずじゃぞ?」
「口で式を構成するから、詠唱式なんです。言葉にすると長い部分を脳内で補完すると、詠唱が短くなるんだ」
「それだと脳の負荷がバグり散らかすと思うんじゃが」
「奇跡的になんとかなってる」
「……」
魔術詠唱式の変更? 今まで聞いたことのないような芸当だ。
そもそも、魔術詠唱式は完全に完成され、洗練されているものなのだ。わざわざ変更する意味がない。というか、変更したら魔術回路がぐちゃぐちゃになって発動できない……はずだ。
というか、それが一般論だ。
火炎系上級魔術と移動系高位魔術の複合魔術。
ユーリはそんな芸当ができたのか。宮廷魔導士でもできる人間などほとんどいないような上位魔術の複合詠唱だなんて。
「さっきほどの改変がなければものすごく長くなる」
そもそもだが、普通は上位魔術の複合詠唱なんてものでなく、上位魔術の同時発動自体が極めて難しいのだ。
それをユーリは軽々とやってのける。
(……これはもしや、とんでもない逸材を拾ってきてしまったのかもしれぬな)
「そして、短縮した詠唱を唱えると、炎の魔術を纏った剣「火炎剣」……もっと格好良く言うと「炎纏剣」が出来上がるんだ。これは基本五属性全てで可能で―――」
ミルケルカはユーリの才能の片鱗にただ震えるしかなかった。
だが、その震えは恐怖などではなく、武者震い。
ミルケルカがユーリのその姿を見て、武士として心から歓喜しているのだ。
ユーリは、磨けばもしや自分をも超える存在ではないのだろうかと。
そんなこと思った。
「それをどうにか実践で使えるまでもっていくために、師匠に剣を習う傍ら、こんなことをしていたわけなんだ」
わしはなるほどな。と納得した。
ユーリがあんなにも厳しい修行についてくるのは、この魔術剣とやらを形にするためだった。それをしっただけで、わしは安堵できるのじゃよ。
やみくもに努力だけを積み重ねるのが一番危ないからの。
「師匠のここ最近の顔色がずいぶん悪かったので、もしかしたらこれかなと。嫌味になってしまっていたかもしれないけど、師匠さえよければご指導、よろしくお願いします」
「ふん。バカ言いおって、ここまで面倒を見て魔法が使えるからなんて理由でお前を捨てるぐらい薄情じゃないわい」
わしのその言葉にユーリは笑みを浮かべる。
まだまだ、わしとユーリの師弟関係は終わりそうにない。




