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第4話 師匠(鬼)との愉快な日常

 帝国歴1876年。9月4日。


 師匠との修行開始から三ヵ月。

 山の上り下り二十回は五時間でこなせるようになった。


 流石にこれだけやってれば師匠に一撃ぐらい食らわせれるんじゃないかと思ったりしているけど、いまだに「師匠可愛い」の硬直を利用しないと一撃も当てれない。


 というか、師匠可愛いのコンボも使い始めて三ヵ月たつのにいまだに引っ掛かり続けている師匠も師匠だと思う。

 もしかしたら、師匠が強いのは腕っぷしだけで、精神面はそんなに強くないのかもしれない。


 そろそろチートなしで師匠に一撃与えてやりたい。

 まあ、でも師匠が剣を振ってきた時間比べれば俺の剣を振ってきた時間なんてしょぼ過ぎるのはわかっているんだけどね。


 それでも、一撃ぐらいはって思ってしまうのは仕方のないことだと思う。

 やっぱり師匠は強いなあ、と。漠然と自分の目指す存在の高さに目がくらみそうになるだけだ。


   ✕   ✕   ✕   ✕


 帝国歴1876年。9月5日。


 今日は珍しく師匠の機嫌が良かった。多分昨日の日記の内容が意図せずとも師匠を持ち上げるようなものだったからだと思う。


 まあでも、満足げな師匠を見るのもほっこりするのでそれはそれでありかなって思う。


   ✕   ✕   ✕   ✕


「おいユーリ。貴様の剣術、初めてであったころとは見違えるほど上達したとは言うものの、なんじゃその剣は! 満身創痍でドラゴンを倒せる程度じゃぞ!」


 全く足りないとでも言いたげに師匠は言うが、そもそもドラゴンという存在は宮廷魔導士が三十人以上集まり、戦闘する場所を念入りに計画して、ことが計画通りに運ばない限り倒せないような存在なのだ。


 それなのにもかかわらず、師匠はそれを強制してくる。

 流石に師匠基準で物事を進められると、たまったもんじゃない。


 それについていかないといけない人の気持ちも考えてほしいものだ。


 あと、俺は褒めて伸びるタイプだ!


 もうね、なんというか。ドラゴンを倒せるレベルになって及第点どころか赤点とみなすのはさすがにいかがなものかと思いますよ?


 というか、これで十分なんじゃないでしょうか? そうだね。師匠はこれで十分だと思ってないからいまだに鬼特訓は苛烈さを増していってるんだよね。


 ただ、はじめのころに思っていた、逃げ出したい。みたいな気持ちはこの三ヵ月できれいさっぱりなくなった。

 なぜなら、ほとんどぺーぺーだった俺がここまで上達しているからだ。


 そして、俺がずっと構想を練っていた「魔術剣」が形になりそうなのだ。

(師匠は魔法を使えなくて、剣士になったらしいのでこっそり練習している。余計な軋轢を生まないように配慮するのも弟子の役目だ)


 あらためて気づいたが、俺は別に魔術というものが嫌いではないらしい。

 というか、むしろ好きな部類に入るのではないだろうか。

 多分、俺が魔術を嫌っていたのは本能的というよりかは環境的な要因が大きいんじゃないかと思う。


 それにしても、俺には意外と魔術の才があるみたいだ。

 火、水、風、雷、地の基本五属性は難なく扱えるし、上級魔法も基本的には扱える。


 これなら宮廷魔導士とかになった方が実入りがいいのでは……? とよこしまな考えがよぎるが、ぶんぶんと首を振る。


 そもそも、俺が剣にあこがれたのは格好いいからだ。後ろからバンバン打ち合ってるだけの無粋な魔術よりも、真正面から正々堂々立ち向かう剣に惚れたのだ。


「何ぼーっと突っ立っておる!」

 俺は師匠に木刀でしばかれ、地に伏した。

 やっぱり、地獄かもしれない。


   ✕   ✕ ミルケルカ ✕   ✕


 最近、わしに弟子ができた。

 こんな幼い体なのにもかかわらず、ドラゴンを一撃で、神さえもこの手で葬ることができるこのわしを見て、逃げ出すもの、おびえて震えて動けなくなるもの、嘘だと笑い飛ばすもの。と、反応は様々であっても向けられる感情はひとえに悪意であった。


 だが、ほんの数か月前、わしは奇妙な小僧に出会った。

 剣士なのにもかかわらず、不相応な実力でドラゴンにおびえもせずに挑む奇妙な小僧。


 まるで、幼き頃のわしのようだった。

 だが、その小僧はやはりドラゴンに敗れ、殺される寸前だった。


 さすがにこのような未来ある若者を捨ておくことなどできない。このような人間を守ることこそが年長者の仕事だ。

 そう言い聞かせて、あの若者にも恐怖の目を向けられることを覚悟して、わしは助太刀に入った。


 もちろん、わしがあの程度のドラゴンに後れを取るはずもなく、一撃で葬った。

 そして、若者の顔を確認したのだ。

 向けられている表情は、恐怖か、絶望か、まあ悪意であることには変わりないと。そう思っていた。


 だが、あの若造は違った。あの若造がわしに向けてきた視線は、驚愕と、悔恨と、そして何よりも強い憧れと尊敬の目立った。


 生まれてこの方、こんな目を向けられたのは初めてだったのだ。

 そうだ。うれしかったのだ。今の今で再認識したが、あの時わしは確かにうれしかったのだ。


 もしかしたら、無意識に求めていたのかもしれない。

 わしを無条件で慕ってくれるような都合のいい存在を。

 そして、わしはそんな都合のいい存在に出会ってしまった。


 軽口をたたきながらも、鬼のように厳しい修行にも必死に食らいついてきて。それほど剣を使って何かを成し遂げたいことがあるとでも言わんばかりの表情だった。


 そうだ。わしはその表情にも心惹かれたのだ。

 もうかれこれユーリを拾ってから半年もたつ。いやはや時の流れというものは早いもんで、いつの間にか山の往復は力を抜いたわしに追いつける程度には速度も力も体力もすべて向上していた。


 そう、そしてわしは師弟愛を超えた何かを抱きそうになっていた。

 そんななかだ。わしが用を足そうと外に出た時だ。

 剣が空を切る音がして、ユーリだな。と分かった。こんな夜中まで剣を振るとは見上げた根性だ。どれどれ、みてやろうか。

 ―――と思った矢先であった。


「『紅蓮の聖霊よ、炎のように熱き高ぶる魂に乗せ、この思いに応えん!』——《亡者を焼く炎剣バーニングソウルリーバー》」

 なぜかはわからんが、ユーリが火炎系の上級魔術を放っていたのだ。


 まさか、ユーリにあんなことができたなんて、と思う一方。なぜ、そんなことをわざわざ隠すのだろうかという漠然とした不安が付きまとっていた。


(そもそも、宮廷魔導士の合格条件は基本五属性の上級魔法の行使……。ユーリ、まさか!?)


 そう、ユーリがわしの元を離れて宮廷魔導の職に就くという可能性だ。

 たしかにユーリはシュヴァルザーに捨てられたはずじゃ。その理湯も聞いておる。

 ユーリが阿呆みたいに剣を振り続けたから、とはきいておったが、かといって魔法が使えないとも言っておらん。


 まさか、この剣聖であるわしから、盗めるだけ技術を盗んで宮廷魔導士になってぬくぬく暮らすつもりか……?

 どうなんじゃ、ユーリ!


 その夜、ミルケルカは不安で眠れなかったらしい。


   ✕   ✕   ✕   ✕


 そんなことがあった一週間後。

 そんなことを知る由もなく、やはりこれから師弟関係を築いていくうえで、隠し事はよくないなと思ったユーリウスが―――

「師匠、申し訳ないけど。話がある」

「————!?!?!?!?!?!?!?!?!?」


 爆弾を投下した。

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