第21話 姉の思い、昂り
✕ ✕ ユーラティア ✕ ✕
私はいとおしい弟のために権力を振りかざして、情報網を敷いていた。
それに、初めてのことだったんだ。ユーリが私に頼ってきてくれたのは。
もう嬉しくて嬉しくてたまらなかった。いつもユーリに守られてばかりだった。ユーリに慰められてばっかりだった。
だから私は、ユーリに恩返し。じゃなくてもユーリの願いはできるだけかなえたいのだ。
ユーリはとてもいい子だった。それもどんなときにも私の望んだ言葉を吐いてくれるような、そんな子だった。
とても不思議な。弟だった。
(なーんて昔話は今している場合じゃないわね)
ヴー、ヴーと通信が入る。
『ユーラティアお嬢様! 報告いたします! 情報包囲網が敷かれている特急犯罪者集合地区で暴れている女性がいます!』
「排除して!」
『それが、かなりの手練れでして、もうこちらはほとんど全滅です!』
そんな通信が通信機から入ってくる。まったく。なさけないわね。
『その女性の特徴は、小柄な少女とも呼べるような女性で、そこまで大きくない剣を所持しているとのこと、さらに金の髪と緑の目を持った少女らしいです!』
「了解。切っていいわよ」
『はい! ―――ん? なんだ。君のような小さい子が来るべき場所では―――ガッ……!』
セラが通信機を落としたのか、ひどいノイズと衝撃音のようなものが、コチラにまで伝わってくる。
……まあ、最終的には私が出ようと思ってたし。と、靴を履いて特急犯罪者集合地区へと向かう。
相当な剣の手練れの幼女? どんなフィクションだ。そんな設定の少女はお呼びではない。きっと報告のどこかでミスが発生しているのだろう。
剣なんてとっくに廃れた過去のものだ。そんなものを極める人間なんて……。
そこまで考えてユーリの頭がちらついた。
(そういえばあの子も尋常じゃないくらい剣にこだわっていたわね。魔術師の素質が十分にあったのにもかかわらず。意地でも魔術を行使しないから、クソ親父がキレて、追放したんだっけ)
とにかく、その問題の女を始末しない限りは始まらない。私は万が一に備えて愛用の杖を持ち出すことにした。
✕ ✕ ✕ ✕
その問題の幼女はすぐにわかった。
その空間には血一つ舞っていないのにもかかわらず、鍛えられた衛兵たちがそこら中に転がっていた。
(まさか、本当に報告通りとはね。現実は小説よりも奇なりとはよく言ったものね。感心するわ。こんなフィクションの世界の住人のような子がいるのね)
そんなことを思いながら、私は杖を手に取る。
「ごめんなさいね幼女ちゃん。あなたは邪魔なの《稲妻の衝撃》——《穿て》——《導け》——《搔き鳴らせ》」
電雷系高度魔術の四連続攻撃。
剣士に捌くことは不可能な技だ。肉体が追い付かない。
はず。———だったのだが、いとも簡単に幼女は跳ね返し、避ける。
あきらかに人の可動域の限界を超えている。
まるで人をやめる覚悟で剣を握った者の威圧感。
そのようなものがこの幼女にはある。見た目はただの幼女なのにもかかわらず、歴戦の老剣士。いや、それ以上の力を持っている。
(さすがに、衛兵を剣を抜かずにここまで圧倒しただけはあるか……。それにしてもでたらめが過ぎるわよ)
私は考え直し、戦術を構築しなおす。
「《飛翔》」
(まったく、面倒なことになったわね。なんでこんなこと相手しなくちゃいけないのよ。私はユーリの救出で手一杯なのに、こんな手練れの曲者とやりあうつもりなんてなかったのに)
と文句を心の中で吐く。
このまま普通に戦っていると、拮抗して時間を取られてしまう。
なら、めったに見せない大技を使うしかない。他ならないユーリのためだ。これがほかの連中だったら使っていなかったけど、こういう時には使うしかない。
(詠唱が長々しいから嫌いなのよね。古臭いし)
「『それは昂り燃ゆる炎の如く・それは佇み凪ぐ水の如く・激しく荒ぶる雷の如く・大らかに飛び回る風の如く・すべてを支える血の如く・五属は一つに収束し・一つの塊を生み出し・この世界を象った原型を・我が魔術と相成し・高まる思いを宛がわん!』《五素-五属》ッッッッ―――!!!!!!!!!!」
渾身の必殺魔術を幼女に向けて放つ。
「甘いな。残像じゃ」
そういって、いつの間にか鞘に入った剣で、首筋を叩かれ―――るまえに間一髪で防御障壁を展開する。
しかし、幼女の怪力に押し切られ、防御障壁が割れる。そして防御障壁が割れた時の反動によって、一瞬気を失った。
時間にして五秒程度だろうか。気が付けば幼女の姿は見えなくなっていた。
そこにはただ呆然と立ちすくすユーラティアの夕日に照らされている影しかなかったのだ。
「何なのよあの子!」
ユーラティア。人生初の大敗である。
あんなバカ長い詠唱に、超大量の魔力消費、ダサいワードセンス。どれをとっても使いたくなかった。
そして、万が一にでもユーラティアが五素-五属を使うときは必ず五素-五属が当たると確信した状況で使うのだ。
なのにもかかわらず避けられた。躱された。自分はあの幼女の残像を見抜けなかった。
その敗北はひどく重く胸に残るだろう。
圧倒的な魔術的センスと戦闘適正で、学生の中でも群を抜いて強かったユーラティアは、帝国では過去の遺物となった剣士にだ。
「なんなのよぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉ!」
そうユーラティアは空に向かって吠えて、自分のすることはこんなことじゃないと思い直し、使用人に通信魔導器具で連絡を入れる。
「セラ? 作戦変更よ。私の大切なユーリに近づく野蛮な子猫が入ったわ。でも相当な手練れ、私でも負けちゃった。セラは早くユーリを攫って―――保護してきて!」
そういって、ユーラティアは魔導器具を切った。
「私は強いつもりだったんだけどな」
空には月が上り始めていた。茜色に端で空を照らし続ける太陽とは対照的に、静かにたたずむ三ケ月が心に留まった。




