第20話 ミルケルカは人殺し
「ユーリ! わしが必ず助け出してやるからの! 待っておるんじゃぞ! 寂しくて泣いちゃったりしてもわしが慰めてあげるからの!」
「ゆぅぅぅぅりぃぃぃぃ私が絶対助けるからね! まっててねぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇ! そして私の姿に惚れたユーリと結婚して悠々自適な生活を送るの!」
……なぜかはわからないが、ユーリの背中に強烈な悪寒が走った。
✕ ✕ ✕ ✕
牢獄の環境はひどいものだった。藁一枚とうっすい布切れ一枚。これでどうやって寒さをしのげというのだろうか。
しかも、それに加えて換気性を気にしているのか牢獄に小さな穴みたいなのが開いている(もちろん、鉄格子がかかっている)のだが、明らかに換気性がよすぎて寒さを助長している。
暖房魔導器具とか用意してくれてもいいのにと思う。
まあ、俺の今の立場的には大罪人だからこの粗雑な扱いも仕方ないといえるかもしれないけどね。
それにしてもじゃないかなあ? とはおもうよ。そんなことを考えてしまうのはひとえに俺の罪が冤罪だからにほかならないのだが。
というか、実証も何も済ませていないのにも関わらず。いきなり犯罪者扱いはどうかと思うんだけど。
まあ、貴族の力は絶対だもんな。
俺も元々貴族だったけど、シュヴァルザーの名が外れた俺はただのユーリウスなので、権力? なにそれおいしいの? みたいな状況です。うーんこの。
「おい! なにガン飛ばしてんだ! ぶっ殺されてえのかてめえ!」
「あぁ? てめえこそなんだよ! クソが! 粋がって喧嘩ってきてんじゃねえぞ!」
「調子乗んなよクソが! お前みたいなやつが、通路の邪魔になってんだよ! どけうやオラ!」
となりの牢獄で囚人がギャーギャーが騒いでる。動物園ですかここは。
なんなの? 静かにできないの? 周りに喧嘩売って生きてるの? そういう感じなの? いくらなんでも治安悪すぎない?
やっぱ所詮は刑務所ですよ。でもなんか思ってた感じで安心したわ。
これで奇妙なぐらい治安が良かったら、逆に怖いかもしれない。
なんかこういうところって、ならずものとかまともな考え方をしてない人たちがいるような場所だと思っていたから。
「おい! 囚人番号3739番、6838番、5915番! 静かにしろ! まともに考えられないクズでカスでサルなお前らは一生黙って死ね!」
あ、あー。囚人が治安悪いと、看守の口調も悪くなるのね。
「うっせー! 指図すんなや!」
「クソ野郎が! 関係ねえお前が口挟んでくんな!」
看守の言葉にプッツン来てしまった瞬間、湯沸かし器くん達はキレて看守に突っかかる。
「クソ犯罪者共が! いっちょ前に人間面してんじゃねえよ!」
囚人だけが瞬間湯沸かし器かと思ったら、看守も瞬間湯沸かし器だった。あー、もうだめだこりゃ。
俺は耳をふさいで、見てみぬふりをした。
✕ ✕ ミルケルカ ✕ ✕
わしは全速力で、特急犯罪者集合地区へと向かっていた。
それもこれもすべて、ユーリを助けるためだ。ミルケルカ史上で最も全力で走っていた。
もう尋常じゃないぐらいに全力だった。視界も狭まって、ユーリしか見れない。
「あっ、ちょっと! なにがあったんですか! 止まってください!」
そのミルケルカの異常さに気が付いた衛兵が止めようと、声をかけてくるが視界どころか耳にもほとんど何も聞こえてきていないので、止まるわけがない。
「止まりなさーい! 君! おーい!」
そういって追いかけてくる衛兵をミルケルカは鞘に包まれた剣で払いのける。
「手を出したな貴様! ただで済むと思うなよ!」
ミルケルカの見た目はそこらの少女とほとんど変わらない。変な輩になめられて、からまれることもままある。
とりあえず、適当に足蹴にするのだが、相手が悪かったような気がするが、当の本人はまったく気にしてないので問題ないのだろう。
「あれ? どこいったあのちびっこ」
衛兵はいつの間にかミルケルカの姿を見失っていた。
(ユーリはどこだろうか。ユーリはまだ入れられて間もなくて、罪がしっかりと確定していないから、表層。一階か二階、もしくは地下一階だろうな)
わしが前線で戦っていた時はこんなバカでかいような刑務所はなかったが、大体の造りと雰囲気。どこにいるのかも何となく。
(まさかこんなところで過去の経験が役に立つことがあるとはな。珍しいこともあるもんじゃ)
何度も悔やんだ、後悔に苛まれ続けた魔導大戦。
わしは魔導大戦で何人もの人を殺した。そしてわしはクラーノ帝国に多大な貢献をした。
だが、それはクラーノ帝国から見ての話なのだ。
他の敵対国でついたわしの異名は「血濡れの幼女」その名はクラーノ帝国での「剣聖」なんて仰々しい呼び名とは真逆の呼ばれ方だ。
そうだ。わしはどれだけ取り繕うと、人殺しのどうしようもない殺人鬼なのかもしれないと。そう思うことが最近多々あるのだ。
そう、ユーリと一緒に過ごし始めてから。そんなことを思うことが増えた。
そうだ。「剣」は人殺しの道具だ。
人を殺すための道具、命を振り払うために作られたのが剣だ。
洞窟を掘るために作られた、魔導爆発器具とはちがって、はじめから殺意だけで作られた、悪意の塊なのだ。
その極意を純粋なユーリに教えてもいいのかと、思うことがあるのだ。
そんな思考を振り払うように、ぶんぶんと首を振って、わしは特急犯罪者集合地区へと向けてさらに動かす足の速度を速めた。




