第19話 姉、師匠、姉……
いわれのない罪で投獄されるのはさすがに御免被りたい。
というか、姉がいなければ俺はもしかしなくとも死刑でこの生涯を終えていたかもしれない。
さて、ユーリたちが牢獄に閉じ込められているということをミルケルカは知らない―――わけがない。
もちろんだが、ダンジョンRTAは生放送である。
そして、一回家に帰ったものの、やっぱりユーリの姿が気になってわざわざ町まで戻ってきたミルケルカが、ばっちりと追われるユーリの背中を見たのだ。
それを見た瞬間。ミルケルカが思ったことは一つだ。
わしが助けねばならないと。そして助けて、ユーリと仲直りをしてまたちょっと前と同じ日々を取り戻すのだと誓った。
「ユーリ。まっておれ……。必ずわしがユーリを救い出してみせるぞ!」
そういってミルケルカは立ち上がって、クラーノ帝国、監獄域周辺へと足を動かした。
✕ ✕ ユーラティア ✕ ✕
「セラ。周辺のクソ貴族に根回し!」
「了解しました。お嬢様」
ユーラティアは声を張り上げながら、依然としてユーリウスを救うために周辺への根回しを行っていた。
ユーリウスを脱獄させるのは簡単だが、そうすると自分の大切な弟に脱獄者という烙印が押されてしまう。
それだけはさせてはならない。いくら魔術師至上主義が進む世の中でも魔術を扱わないからという理由で子を捨てる親なんていない。
そんな親がいるとしたら、人の心なんて持っていない冷酷無比な鬼だろう。
それこそがユーラティアの父にして、ユーリウスの父。ユラレイト=シュヴァルザーだ。
圧倒的な領地経営手腕と秀でた魔術的才能で、めきめきと頭角を現した新参派の巨大勢力だ。
その武力と、経営センスでの領地化の発展は一代で築いたものなのだ。
たしかに私であっても父のことは一目置いている。だが、それを取っても余りあるほどの実力主義。うまくできない不出来な人間は容赦なく捨てる。
その姿勢が、今の父を創り、今の立場を作ったのだろうが、それを息子までにも適応するのはどうかと思うのだ。
無論。その姿勢は私にも適応されている。私はユーリと違って父親の言うことに忠実だったので、変に失敗したりすると暴力を振るわれたりすることもある。
だから、私はユーリをここから離したかった。
私があの旧時代の思想を持った堅物を説得して、ユーリを追放というところまでとどめたのも私だ。
どうにかユーリは必死に食らいついて何とか頑張っているようで、私は安堵した。心から信用できる師を見つけて、良い人生を歩もうとしているのだから、私はそれを助けてあげたいのだ。
そして今起きたユーリのダンジョンRTA不正疑惑。ユーリがそんなことをするわけないなんてことはわかっているけど、外野がそんなことを理解してくれるわけもない。
まあ、こういうめんどくさいことになるから、ユーリはほどほどにするとかできなかったのかな。とは思わないでもないけど、過ぎたこと追及しても仕方ない。
私は大きく深呼吸して、全部終わった後でユーリに文句を言ってやろうと席を立つ。
「ユーラティアお嬢様。ほかの貴族共はユーラティアお嬢様の言い分を聞き入れるつもりはないようです。『あのような小娘の言うことが信じられるか』と間の抜けたことを抜かしています」
……そうこうしているうちにも事態は変化する。
変なプライドだけいっちょ前に持っている貴族だ。一度自分の言ったことを覆したくないのだろう。
自分の言ったことが間違いだったと認めることになるからだ。
「あー、めんどくさいわね。セラ、あなたって記憶改ざん系の魔術得意だったわよね?」
「……え? 何をするつもりですか? ちょっと、さすがにそれはまずいですって。一歩間違えれば廃人になるんですよ!?」
そういって、セラはそのスカイブルーの瞳が驚愕に染まる。
「いいじゃないの。別にあんな人間いくら廃人になろうが、かわりなんていくらでもいるわ」
「……その考え方はまずいんじゃないでしょうか。いささか倫理が欠けた思考だと思いますよ。私は」
実際、あいつらが廃人になってもかわりはいくらでもいる。なにもしないからだ。
そんなお荷物をも守り抜くのがシュヴァルザーの役目なのだから面倒くさいことこの上ないのだ。……やるほかないのだけどね。
「いいじゃない。セラ。小娘を相手にしたらどんな思いをすることになるのか教えてあげるわよ」
そういってユーラティアは不敵に笑った。
✕ ✕ ✕ ✕
俺は手に亡者を焼く炎剣を乗せることができないかと試行錯誤を繰り返していた。
もし成功すればこんな牢獄からは簡単に出れるのだが。これがなかなかうまくいかない。というよりは熱すぎて、纏わせ続けるなんてとてもとても。
とりあえず、心頭滅却すれば火もまた涼しというやつをやってみようと実践しているのだが、なかなかうまくいかない。
多分心頭滅却がうまいこと言っていないのだろう。
でも、さすがに全部を姉に丸投げ。なんていうのはあまりにも無責任な話だと思ったから、俺は今できるトレーニングとか、魔術の基礎上げとか。そんなことをして時間をつぶしていた。
俺はぎゅっとこぶしを握って、一瞬だけ発生していた亡者を焼く炎剣を握りつぶす。
「今日はさっさと寝るかあ」
なんて独り言ちて、硬い灰色の壁を眺めながら目をつむった。
✕ ✕ ✕ ✕
そんな中、ユーラティアとミルケルカの思いが交錯していた。
「まぁぁってるがよいぞぉぉぉぉぉ! ユーリ!」
「ゆぅぅぅぅりぃぃぃぃ私が絶対助けるからね!」
そう叫びながら、ユーリのいるクラーノ帝国第一地下牢獄、A級犯罪者収納閣に向かっていた。
準備は完了している。後は大本をたたくだけだ。




