第18話 RTA簡単でした……
RTAがスタートした。カウントタイマーが動く。
「よっしゃあ! オレット! いっくぜぇ! 賞金分捕ってほくほく顔で帰ってやるぜぇ!」
「いきましょう! ご主人様!」
……ご主人様ってやめてくれね? ちょっと恥ずかしいって言わなかったっけ?
―――さて、俺はここで一つ失敗をした。そうだな。失敗というのはこれがかなり大きなものであったということだ。
この帝国全体に放映されるぐらいの大規模なものだったのだ。さーて、この時、ちょーどタイミングよく街に買い物に出かけた哀れな師匠がいたのだ。
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『よっしゃあ! オレット! いっくぜぇ! 賞金分捕ってほくほく顔で帰ってやるぜぇ!』
『いきましょう! ご主人様!』
そんな楽しそうな声が魔術投影機の音声出力機から聞こえてくる。
オレットとユーリウスは目出し帽をかぶっているので、声以外では班別の使用がないのだが、ミルケルカにかかればそんなものは簡単にわかってしまうのだ。
「あ、あぁ……。あああああああああああああああああああああああああ………………………………………………」
そうだ。そうだったんだ。ユーリはわしがいなくてもこんなにも楽しそうに生きれるんだ。
むしろわしのほうが邪魔だったんじゃ……。だからユーリはあんな風にわしのことを罵って、出て行ったんじゃあ……。
「ああああああああああああ……………………」
わしは一瞬で帰宅し咽び泣いた。
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師匠のことに関していえば俺が十ゼロ出悪かった。そう思ってる。
師匠の金であんなことをしてしまったのだから当然だと思ってる。
だからこそなんだ。何もせずに手ぶらで謝るだけなんて反省の意を示すことができない。
だからこそ、何かを得て。師匠への謝罪に説得力を持たせるのだ。
それが一番大事なんだと思う。少なくとも俺はそう思っている。得ないといけないだ。
……やっぱ、遠回りしてるのかな。
なんてことを思いながら、俺は集中しなおす。
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結論から言えば全くダンジョンRTAなんて楽しいもんじゃなかった。なぜかといえば記録はイカサマで塗り替えられ、まっとうに勝負しようと気概が全く感じられないからだ。
俺とオレットはもうそりゃ瞬殺でボスを倒した。
数十体のモンスターを一薙ぎでぶっ飛ばして、ダッシュしてるだけの超イージーなものだった。
俺はもっと手に汗握るようなバトルを想像してたんだけどなぁ……。
『チーム剣戟拳闘。記録一分三十六秒……』
司会は驚愕して、絞り出すように吐き出す。
俺はさすが俺。とニマニマしていると―――
「おい! お前、イカサマしてんじゃねえのか!」
「そうだそうだ! なんだあの走る速度に剣技! そこの女もだ! いかさましてるんだろ! じゃないと二分を切るなんて速度で攻略できるわけない!」
「貴様! 何をした! おとなしく白状しろ!」
……キレ散らかした貴族の人間が文句を言ってくる。
そうだね。やらかしちゃったね。これは俺が悪い。別にイカサマをしたわけじゃないけど、明らかに異様。俺もわかってたはずなんだけどやらかしちゃいました。
「な、なあオレット。これ、どうしたらいいと思う?」
「まあ、薄々そんな気はしてました」
「またオレ何かやっちゃいました?」
なんか言わないといけないような義務感に駆られたので行っておくことにしました。
「やっちゃってるに決まってるじゃないですか。目ぇ見えてます?」
「はーい」
俺は息を整える。
逃げる? いや、でも逃げたら賞金を得れることはないよな。
骨折り損のくたびれ儲けもいいところだよな。というか俺はイカサマなんて使ってないからいたって清廉潔白なんだけど。
なのにもかかわらず、この疑われよう。いったいどんな根拠があってそんなこと言えるんだって話。
……そうだね。貴族だもんね。権力ちらつかせれば大抵の人間は言うこと聞くね。
「この神聖なダンジョン攻略RTAでそのような愚行。許されるとでも思っているのか? 貴様は今から国家裁判にかけられる。その蛮行を我々は許さない」
あ―――! やらかしたぁ! 大人く逃げときゃよかった!
変に金に執着したのがまずかった。
「よーしオレット」
俺はオレットのバイオレットの瞳を見つめて―――
「逃げるぞっ」
俺とオレットは勢いよく走りだした。
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さて、ここはどこでしょう。
正解は「クラーノ帝国第一地下牢獄、A級犯罪者収納閣」でしたー。
かったい壁とアダマンタイトで作られてんじゃないのと思ってしまうようなかったい鉄格子。とてもじゃないけど脱走できる感じじゃない。
……嘘である。頑張ればできないこともない。
まあ、目出し帽は没収され、完全に顔を覚えられているので得策ではないんだけど。
くっそー! 俺に王族の知り合いとかいねえのかな。もしくはそれに準ずるレベルの権力を持った人。
……ちょっとまって、心当たりがあるかもしれねえ。
シュヴァルザーの人間だけど信用できるのは確かだ。俺にも優しくしてくれたし、ちょっと行き過ぎた過保護だったのはご愛嬌ってことで。
それに、あの親父はともかくとして周りの人間は比較的いい人ばかりだ。
まあ、俺の剣の道を応援してくれた人は一人しかいなかったが。
……でもなあ。あんまり召喚したくないんだよな。
絶対に面倒くさいことになるもんなあ。まあ、原因は俺にあるし、関係ないオレットまで巻き込んでしまったから頼るしかないよなぁ。
俺は歯に埋め込められていた金の宝石を取り出して、二言三言念を込める。そして、思いきり振りかぶって俺は光の差す鉄格子に向かって、金色に輝く宝石を投げ捨てた―――
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時を同じくして、シュヴァルザー邸ユーラティア分邸の一室にて
「あああああああああああああああああああああああああああああああああああ!」
そんな叫び声が上がった。
「どうかいたしましたか。お嬢様!」
メイドが取り乱して、ユーラティアのもとへと駆け付ける。
「ねえねえ。セラ。ユーリからね。ユーリから念話がぁぁぁぁ!」
叫び声をあげたのはユーリウス=シュヴァルザーの姉、ユーラティア=シュヴァルザーであった。
その姿は清楚華麗でありながら淑女然としたおしとやかさと、皆をまとめるカリスマ性に、圧倒的なスタイルとプロポーション。それに食わて驚異的な魔術の実力者。
それがユーラティア=シュヴァルザーなのだ。
そう。そんな完全無欠と名高いユーラティアなのだが。一つだけ問題点がある。
別に世間に浮上するようなものでもないし、浮上しようがさほど問題にならないので誰も気にしてはいないが、ユーラティアは重度のブラコンであった。
「いやぁ、ユーリが勘当されたって聞いたときは張り倒すどころかぶっ殺してやろうかと思ったのだけど、よかったぁ♪」
これがユーリウスが頼りたくなかった理由である。
ユーラティアに助けを求めるということはユーラティアに自分の現状を知られるということなのだ。
「ゆぅぅぅぅぅりぃぃぃぃぃぃぃ! まっててねぇぇぇぇぇぇぇぇ!」
ぞわわっと嫌な予感がしたユーリだった。




