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第16話 師匠の独白、弟子の思い

 ミルケルカはユーリウスのいない部屋で、布団にくるまっていた。

 顔だけ出して、ユーリの帰りを確かめるために玄関前に居座るミルケルカの姿は、さながら芋虫のようであった。

 というか、一般的に芋虫と呼ばれる布団のかぶり方であった。


 ユーリは前を向こうとしているのにもかかわらず、ミルケルカはいまだに拗ねていた。

 もうすぐ二週間がたとうとしているが、食事はほとんど喉を通らないし、水もほとんど飲んでいない。

 この二週間の間にミルケルカが玄関前から席を外したのはほんの三十分程度だろう。


 普通にヤンデレが極まり過ぎているのではないだろうかと思う。

 それに、ミルケルカとユーリが同じ時間を過ごしたのは一年ちょっと。さすがに依存し過ぎではないだろうか。というか依存し過ぎだ。


   ✕   ✕ ミルケルカ ✕   ✕


 本当にユーリには馬鹿なことを言った。『———貴様一人でできるもんならやってみるがよいわ!』ユーリに向かって吐いたそんな言葉が脳裏に浮かぶ。


 そんなこと言うべきではなかったなんてわかってはおるけど、あの時は頭に血が上ってまともな状態じゃなかった。

 ユーリがほかの女のことを連れてきたのがショックだったというか、それがどうしようもなく嫌で、みっともない嫉妬心のようなものに駆られた。


 あと、なにがに自分の金で女の子を買ったという事実にもイラっとした。ペットを飼うのとは全くわけが違う。


 一部の思想家は購入できるような状態にある奴隷など、それはペットも同然だと吐き捨てるが、わしはそうだとは考えていない。

 そもそも、人を奴隷として扱うというのは旧時代の遅れた思想で、今そんな考えを抱いているものはごくごく少数なのだ。


 だからこそ、それ相応の責任は付きまとってくるし、人並みの生活をさせてあげなければならないという義務が出てくる。


 それをかなえる、かなえてやる義務がわしにはない。そもそもユーリはわしが拾った子で、その子が拾ってきたやつにまで面倒を見る必要はまったくもってない。


 それでも捨てられている子を見て拾ってくるのはユーリのやさしさなのかもしれないが、それがどうしてかあの時のわしを怒らせるには十分だったのだ。


 というか、ユーリはもしかしてわしのことを忘れているのではないだろうか。自ら買った女の子に対して、あんなことやこんなことをして、ふしだらな関係を築いて、それでもまともな地に足ついた職について幸せに暮らそうとしているのかもしれない。


 もしわしがそれを邪魔するようなら、わしはとんでもない悪役ヒールじゃ。最低にもほどがある。もしそんなことをしてしまえばユーリも完全にわしに愛想をつかしてしまうのではないだろうか。


 そんなことを常に考えてしまう。ユーリがいなくなってから立っている時間は二週間だというが、体感的には十年は立っている。

 わかるだろういか、十年も玄関で男の帰りを待ちながら、すすり泣く女の気持ちを。……そんなことを思っても全く意味がないということはわかってはいるものの、思わずにはいられないのが人情ってもんだと思う。


「わぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁん」

 泣き言をもらそうが、喚こうが、光差す窓が開いて、ユーリの金髪を拝めるわけではない。

「ゆぅりぃぃぃぃぃ。この大馬鹿者がぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ」

 そういって、ミルケルカは弟子の名前を呼んだ。


 扉が開くことはなかった。


   ✕   ✕ ユーリウス ✕   ✕


 ふと、師匠のことを思い出した。

 師匠はいまだに怒っているのだろうか。俺が今謝れば師匠は許してくれるだろうか。

 確かに師匠のお金で女の子を買ったのはさすがにおかしいことだとは思うし、一年とはいえ面倒見てくれた人にそんな口の利き方はないと思う。


 でも、俺はそんなことをしてしまった。だからせめて、この間勝手につかった三千万を返して、師匠に対する貸しとか負い目とかが一切ない状態で、また完全に一からやり直したい。


 ―――それで俺が目を付けたのがダンジョンRTAと呼ばれるものだ。


 ダンジョンRTAとは、ダンジョンリアルタイムアタックの略称でどれだけ早くしていされたダンジョンを攻略するタイムを競う競技だ。

 だからこそ、瞬間的な状況半判断。必要不必要な情報取捨。迫りくる敵をどれだけ手早くいなせるかという単純な戦闘力に、どのアイテムを持つかという選択。

 そのすべてが複雑に絡み合った競技がダンジョンRTAなのである。


 もちろん、今回俺たちが参加するのはアマチュアの大会。だが、これで目まぐるしい活躍を見せれば一瞬でプロ入りというのも夢ではない。

 そもそも、賞金が三百万とかなり大きいのもポイントだ。


 だから俺はオレットとともに冒険者ギルドに登録してダンジョンRTAチャレンジャーとしてやっていくことにする。

 オレットとともにデュオスタイルと呼ばれる方法で、参加することにした。そして俺とオレットの二人で挑んで賞金をかっさらっていこうと思う。


 このダンジョンRTAなるものは意外と知名度が高く、しかもこの大会はダンジョンRTA界でもそれなりに名の通った由緒正しき大会らしい。


 だからこそ、この大会で圧勝をもぎ取れば師匠のお金の全額返済に最短ルートで挑めるのではないかと思う。


 なによりも通常のダンジョン潜って中継しながらスポンサー抱えて金を稼ぐようなやり方よりも、絶対に手っ取り早いからだ。


 ちなみにチーム名は「剣戟拳闘(命名オレット)」である。……まあ、純清なる剣聖達クリスタリオンセインツなんかと比べれば全然マシだ。


 ちなみにだが、俺たちの格好は身バレ防止のため目と鼻だけを出している最先端の流行を抑えたトレンドファッションだ。

 よく強盗常習犯とかがしているあの格好だ。ま、有り体にいえば不審者である。


 俺はギルドの応募受付のところへと向かい、応募用紙を叩きつけた。

(ドラゴンを倒せないような連中がSランクパーティなんて言ってはびこっている世の中なんだ。さすがに余裕だと思いたい。……多少勝手は違うかもしれないけど、物理で殴れば大丈夫たと思うんだけどな)


   ✕   ✕   ✕   ✕


 煌びやかな装飾が、観覧席を照らす。そしてその先には岩に包まれた屈強そうなイメージを受けるダンジョンがある。


 やはりというかなんというか、金持ちの道楽感が否めないのは仕方ないか。そもそも金持ちの道楽だろうし。

 いくらスポンサーがつくとはいっても、そのスポンサーを動かすのもまた金持ちだからな。


 俺のそんな思考を遮るように、視界が生きようと口を開く。

『レディース、&、ジェントルメーン! さてようこそお越しいただきました―――』

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