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第15話 御車の過去、交錯し

 ダンというものすごい衝撃音。あまりの勢いに風すら巻き起こせそうなくらいに衝撃波が俺を襲う。

(やっぱり全然すげえじゃねえか。オレットのやつ)


 それにしても蒼炎か、かっこいいな。ただ赤いだけの炎じゃなくて蒼っていうのがどうにもかっこいいな。やっぱすげーな。俺もやりたいな。蒼炎。


(……そんなことしてる場合じゃないな)

 俺は思い直し、剣を握り直す。オレットの打撃が御車の顔にぶつかっているうちに呪文を唱える。

「紅蓮よ、高ぶり、思いに応えて剣に乗れ!」

 剣は炎を纏い、風に吹かれて御者に向かって炎が火を噴く。


「弱い方から潰すのはセオリー……、デスカ。私はドウニモ、どうにも……」

 そういって、俺は表情に影を落とす御者の顔を眺める。

 そんな間にオレットが打撃を叩き込もうと、一瞬で間合いを詰める。

「速い、デスネ」

 それを軽々とかわし、離れ際に強烈な打撃を叩き込む。


「ガッ―――」

 オレットが、吹き飛ぶ。


 だけど、御者に正義が、大義があるように俺にも正義があって、大義がある。

 だからそれをただ闇雲に実行するためだけに、愚直にやるしかない。


 オレットを吹き飛ばした反動で硬直している御者に向けて、俺は御者の肩に剣を乗せて、袈裟に引き裂く。

 その刹那、鮮血が吹き荒れた。


   ✕   ✕   ✕   ✕


 地面は赤く染まっていた。

「ヤハリ、コウ成るノデスネ。私よりもアナタの方が強い。私がコウナルのは必然だったのデショウ」


 そういって、ポツリと零す。その言葉にはどうしようもないくらい重みが感じられる。それこそ何かを抱えたもの特有の重みが。


「聞いてもらってもイイデスカ? 不躾かもしれませんが」

 そういって、薄く微笑んだ。


「まあ、いいよ。聞いてやる」

 俺がそう返すと、同じくボコボコにされたオレットが「え? ほんとに聞くの?」みたいな顔して、こっちを見てくる。


 聞くだろ。当たり前だろ。普通の人間として気になるわ。

 なんでこんなまともそうな人がここまで狂ってしまったのか。


   ✕   ✕ 御者 ✕   ✕


 私は、幸せ者だったのだろう。

 かつては黒い事業にも手を染めたけど、数十年前に足を洗って、罪を清算してまともな人生を歩こうと決めたんです。


 でも、それが間違いだったのかもしれない。

 私は普通の幸せを望んでしまったんです。

 だからでしょうかね。普通から道を外れたものの線路はガタガタで歪になるんです。


 でも、私は幸せの道を歩こうとしてしまった。

 ……妻が、殺されたんですよ。昔の同業者の連中にです。

 そして、私は同業者におびえながら娘を育てて……というのが、数日前の話です。


 娘が誘拐されました。

 私は同業者に従うしかないんです。だから私はあなたを襲うことになった。

 多分狙いは、獣人のあなたです。


 殺そうとしたのは本当に申し訳ないと思っています。ですが、私には従うしか方法がないんですよ。


 きっと、私の命はここで絶えます。ですが、あなた方を恨む気持ちは全くありません。何よりも私が襲ったのですから、それで恨むという方が逆恨みも甚だしいですよ。


 ―――ですが、一つだけわがままを言わせていただいてもよろしいでしょうか。

 誘拐されている娘を、どうにか救ってやってくれないでしょうか。


 奴隷商会の幹部です。私の娘はそいつらに攫われました。

 どうしようもないぐらいにクズで、昔の私のようにどうしようもないような人間です。


 きっと奴隷商会に踏み込むに一番ふさわしいのは満月の灯る夜。


 もちろん、図々しくて不躾なお願いだということはわかっています。かなえていただけないのも重々承知です。

 ……すみません。こんなお願いするべきじゃありませんね。忘れてください。


 ああ、どうやら私はここまでのようですね。


 一つだけ、言葉を残してもいいですか?


   ✕   ✕   ✕   ✕


「それにしても、『……信ずることを信じ、己が道を突き進め。嘯くものは嘯き、囀る。周囲を伺い、己が芯を曲げる事は有り得ぬ』……か。随分とまあ詩的というか、情緒的だな」

「まあ、そうですね。どうしようもなく人間的です」

「……俺も人間だぞ?」

「知ってますよ。というか、なんでそんな当たり前のことを言ってるんですか」

「いや、なんか言っておかなきゃいけない義務感みたいなのがあってな」

 そんな他愛もない会話を交わす。


「……御者さんにせめてものはなむけだ」

 俺は御車さんの墓を掘ってやることにした。名前も知らないけどな。

 日は落ちていた。いつの間にか空には茜がさしていた。


   ✕   ✕   ✕   ✕


 御者さんの墓を掘り終えたころには、すっかり日も落ちていた。

「それで、ご主人様はあの人の願いをかなえるんですか?」


 ご主人様……。ご主人様……。なんかちょっとむず痒いので、ちょっとやめていただきたいかも。

「まあ、やるしかねえんじゃねえの?」


 俺が平然とそう答えると、オレットは「マジかこいつ、あたまおかしいんじゃねえの」みたいな顔をしてこっちを見てくる。


 ……なんでそんな目をするんですかね。というか、あそこまでお膳立てされてやってやろうという気概がわいてこない方が人としてどうかしていると俺は思う。


 それに、あの御者さんは悪ではなかった。悪だったかもしれないが、それを悔い改めた。まあ、過去なんて一生ちゃんと清算できることはない。


 だからこそ、清算するために前を向いて、向くふりをしながら進むべきなのかもしれにない。


 ―――そうして、一瞬師匠のことを忘れて、事件解決に踏み出そうとする。ユーリだが、話は少し変わり、いまだに拗ねてしょげている剣聖に移る。

 さすがにずっと引きこもっている師匠をおいて、前を向こうとしているのはどうかと思う。


   ✕   ✕ ミルケルカ ✕   ✕


「うぅっ……ユーリのばかぁ!」

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