第10話 師匠に中二病の疑い
―――中二病。それは東の国(主にエイジアリュート)で確認されている精神疾患の一つである。
主に成長盛りの男女。おもに男が患いやすい傾向にあるもの。
まれではあるものの中年でも発症する例も過去にはある。
体に害はないが、完治したときにふと思いだして頭をかきむしるほどの羞恥心と後悔に襲われることがあるという非常に恐ろしい病である。
よく腕に包帯を巻いたり、眼帯をつけたりしているが特に怪我はしていない。
包帯や、眼帯を外そうとすると封印されし力が解き放たれる。と騒ぐが封印されていないので心配しなくてもよい。
また、よくある例として「はやく、離れろッ……。表の人格があるうちに!」などと表と裏、二つの人格があるように醸し出すやつもいる。
――が、深いストレスによる自己防衛反応ではないし、表の人格があるまま裏の人格を演じているので特に心配する必要はない。
血が足りない。とふらふら歩いているやつも患者が多いエイジアリュートでは確認されているが、あまり広域には広がっていない。
実際問題、魔道具による反動でもないし、血は足りているので安心してほしい。
たまに自身(心の中)で構築した世界に酔って、「魔王が滅ぼされたこの世界で、俺は魔王を殺した勇者」だの、「周りの奴は魔族が集まって作るられた秘密結社の存在に気づいていない愚か者」だのと言っているやつも散見されるが妄言なのでそっとしておいてあげてほしい。
この説明を見ただけでも、中二病という精神疾患がどれだけ恐ろしいのかわかるだろう。
さらに恐ろしいのはこの中二病は思春期ならば誰でも発症する可能性があるということだ。
そんな事実を目の当たりにすると恐ろしくて夜も眠れないだろう。
だが、安心してほしい。中二病はある朝急に発症するものではない。
もしかしたら自分は特別な存在なのでは? という気持ちが積もりに積もって中二病を発症するのだ。
だからこそ、常に自分は特別ではなく平凡。ということを思い続ければ中二病にはならないということだ。
だが、発症してしまったらならもうどうしようもない。
時間の経過とともに自然治癒にするしかない。
中二病患者の前ではどんな科学的根拠も意味をなさない。
※(以下、エイジアリュート民主主義国家政府出版「中二病という精神疾患に対しての論理的な説明と、周りの対応。それによる人格の形成」著、フユリナ=キサラギ。翻訳、ヴァルケン=メファリナー翻訳版より抜粋)
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さて、どうして俺がこんな遠い島国のエイジアリュートの本をわざわざ呼んでいるのかというと、うちの師匠がこの精神疾患の初期症状に近いものを発しだしているかだろう。
かっこいい単語と単語をくっつけて、知りもしない異国の言語でわざわざ読む。
鎮魂歌をレクイエムと読んだり、地獄をインフェルノ読んだり、永遠をエターナル読んだり、混沌をカオス読んだりするようなものだ。
そして、この精神疾患は完治後も確実に患者の精神をむしばみ続ける。
この中二病という病に俺は今でもたまに頭を抱えて叫ぶ。
そうなってほしくないのだが、問題なのはそういう発言をする師匠はあまりにもかわいいということだ。
この発言をやめされるということは、師匠から笑顔を奪う行為と等しいのではないかと考えてしまい、どうしても一歩を踏み出せない。
なので、やっぱり温かい目で見守ろうと思う。
というか、あれで百歳なのが驚きだ。多分体格が八歳とかだから、精神年齢も八歳とかになってるのかもしれない。
だって師匠。どこか達観しているように見えて実は全然子供だからな。
俺は考えを振り払うように、師匠がにやにやしながらもて来て、絶対見ろとくぎを刺された新聞を開く。
そもそも、紙なんて貴重だ。大体は魔導通信か、立ち読みだろう。
なのにもかかわらず、師匠がわざわざ購入した。いったい何が書かれているのだろうか、と思いながら新聞を開く。
そこには―――
『緊急号外! 魔導カメラはとらえた、純清なる剣聖達という二人組!』
と書かれており、さらに下には――
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純白のワンピースに白の仮面。優雅な所作でありながら、力強くドラゴンを真っ二つに叩き切った謎の少女。
そして、紺のタキシードに黒の仮面。飄々としながら、華麗にドラゴンの上半身と下半身を真っ二つに引き裂いた謎の男性の二人組。
名乗るは純清なる剣聖達。
私たちはその謎の二人組について号外を組んだ。
今回は、現場に居合わせたSランクパーティ吟遊の黄昏にヒーラー兼リーダーのトーカ氏に話を伺った。
Q;「純清なる剣聖達を初めて目の当たりにした時どう思いましたか?」
「もう、すごかったですね。門があいたと思ったら、ドラゴンの前に立っていて、五度瞬きをしたらいつの間にかドラゴンの死骸がありました」
Q;「もし純清なる剣聖達が―――
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「なんだ、これ……」
以下にも師匠が好きそうな記事だ。
こんなにも世間は純清なる剣聖達を持ち上げているのか。
まあ、そりゃあドラゴンを瞬殺できるパーティ。しかもそれがたったの二人ってなったら気になるのも仕方ないか。
それにしてもだろ。神聖視しすぎじゃないか? 吟遊の黄昏のトーカさんもだ。
モルで俺たちのことを、神様かなんかだと思って話している節がある。そういう思想みたいなのが見て取れる。
いや、師匠の言う通り仮面をつけてよかった。
もしかしてこれを見越して師匠は俺に目元だけが隠れる仮面をつけろといったのだろうか。
……いや、そんなことはないな。理由を聞いたときかっこいいからとか言ってたしな。
そういえば、明日は師匠が何か用事があるらしいので、一日自由行動らしい。
俺は明日という日、師匠という間の手から解放されるというのだろうか。
……いや、師匠の手は魔の手じゃないけどね。言葉の綾みたいな……。
何に対して弁明してるんだろ、俺。
とりあえず、師匠がかえって来るまで待つかなあ。なんて思い、俺は窓からのぞく快晴とは言えない青空を眺めた。
なんか、良くないことが起こりそうな予感がした。




