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第1話 剣術という時代遅れの技

「ユーリウス。お前は今日限りで破門だ。二度とシュヴァルザーの敷居をまたぐな」

 そういわれて、俺はあっけなく捨てられた。


 シュヴァルザー家。先祖代々有能な魔術師を輩出してきた名家だ。

 もちろん、俺にとっては思い出したくもないようなク家だけどな。


  魔術師の名家が子供に魔術を教える。当たり前のことだろう。だが俺は物心がついたときには剣を振っていた。


 だからだろうか。心なしかシュヴァルザーの人間が俺を見る目は冷たかった。

 まあ、そりゃそうだ。シュヴァルザーは魔術の名家だし、なにより今は剣の時代は完全に終わり、魔術の時代なのだ。


 今は剣の時代は終わり、魔術の時代だ。近距離も遠距離も、すべてを覆せる力が魔術にはある。

 剣は、もう時代遅れの遺物だった。


 そんな時代の中、それでも俺は剣に魅入られた。どうしようもなく盲目に。

 ただ剣を振り続けていた。無我夢中になって。


 たぶんそれは、俺が《《幼少のころに出会ったあの人》》を見たからだと思う。


 いくら剣を振り続けていたといっても、師事してくれる人間がいないためそれはひどい我流だったが。

 それでも剣を振ることを俺はやめなかった。


 きっと、《《あの人》》の背中を無意識に追いかけようとしていたんだと思う。

 だから、あの人の背中を見てしまったから、俺は魔術を選べなくなったんだ。


 シュヴァルザーの人間は俺には魔法の才があるといったが、俺はその一切を無視して剣を振り続けた。

 そんなことを続けて今に至る。


 まあ、薄々そんな気はしていた。

 剣なんてものを振り続けている酔狂なやつ。それまだ六歳とかなら許されたのかもしれないが、俺はもう今年で十七だ。


 将来を見据えて、魔術を覚えなければならない。だが俺は剣を選んだ。


 シュヴァルザーは気に食わなかったんだろう。

 俺だって清々してるさ。いらなかったんだ。こんな家の名前。


 剣を振ってるってだけで笑われる世の中。

 シュヴァルザーなんて名前があると笑われるどころか、頭のおかしいやつだと本気で心配するような目で見られるのだ。


 なにか心因的なプレッシャーで頭がおかしくなってそんなことをしているんじゃないかみたいな。同情、憐れむような目。

 それが嫌だった。だからいいんだ。


「ばいばーい! 兄さーん!」

 あざ笑うような弟の顔が視界に映る。

 うざったいな。お前は生まれた時から魔法の練習ばっかしやがって。

 そりゃ、親父に取っちゃ従順なお前の方がいいわな。俺が家継いだら困るもんな。


 親父の駒犬を嘲笑って別れる。

 誉れ高きシュヴァルザー家の将来に貢献してくれ。


 ……あと、心配なのは姉さんぐらいか。周りのやつは優秀だから、なんとかなるだろう。(多分)確信はないけどね。


 国内でも一番の権力を持つシュヴァルザーの力はすさまじいのか、あっという間に国都壁まで追いやられた。


 ここをでたら、俺は完全に追放される。

 まあ、そりゃあ家から放り出されるだけじゃなく、都心からは追放されるだろうとは思ったよ。


 さっきまでの馬車での厳重警戒は何だったのか、俺は放り投げられるように壁の外へ追い出された。


 まあでも、俺にも一応我流とはいえ剣でどうにかできる術を持っているのだ。

 どうにもならないということはないだろう。


   ✕   ✕   ✕   ✕


 ――――と思っていた時期が俺にもありました。

 結局のところ、全然そんなことはなく強いモンスターにはおびえながら、弱いモンスターの不意を突いて殺して、魔術で火をつけて。


 俺は完全にサバイバルをしていた。虫を食って飢えをしのいで、肉が取れたら喜んで。はじめは小ぎれいだった服も見る見るうちに破けた。


 結局、俺はどうしようもなく剣の才能がなかったのかもしれない。

 ただ自分はシュヴァルザーじゃないとそう思うためだけに剣を振ったのではないか。


 あれだけ固く誓った信念はこうも簡単に揺らぐものなのか。

 あの人の背中さえ、今は薄れて見える気がする。


 絶望という黒い感情に全身を支配されそうになる。

 なにもかもが黒でぐちゃぐちゃに染め上げられていく。


「ギィィィイィィィィイィイイエェエエェエェェェェェエエエアアァァアアァ!!」

 魔物の声。魔に毒された深い怨嗟の哭き声。

 熊形ゆうけいのモンスター。ブラッドグリズリー。血に塗れた赤い目。


 魔獣の肉なんてうまくねえんだよ。それにしちゃあ、強すぎるんだよ。労働と対価が見合ってない。


 震えて剣がまともに取れない。ガタガタ震えながら、みっともない姿をさらしている。

 ここで死ぬのだろうか。恐怖という色に全身が染め上げれる。


 その刹那——


 だからこそだろうが、ここで踏ん張らなきゃならない。

 俺の心がすんでのところでそれを止める。絶望を塗り変える。

 死ぬのが嫌だからこそ、頑張らなきゃならない。


 俺が今まで誰に指さされようと俺が剣を振り続けたのはなんでだ? どうしてだ? そうだ。簡単だ。俺は自分の信念に従って、剣を振りたいという意思を持って剣を握った。


 あの人に追いつくために剣を握った。


 ならやるしかないだろ! 俺!


 俺は剣を取って、ブラッドグリズリーの膂力を込めた一撃を剣で受け流す。

 カキィン! と金属音が鳴り、あたりに反響する。


 一歩後退して、突くような一撃。

「ガアァァアアァァアァアァァァ!!」

 ブラッドグリズリーの哭く声。それはあまりにも悲痛だ。


 すかさず、俺が剣をブラッドグリズリーの首に向かって叩き込むが、爪によって防がれる。

「かってぇ! バカじゃねえの? いくらなんでも限度ってもんがあるだろ!」

 とういうか、剣を爪に叩き込んで金属音が鳴る方がおかしいのだ。


「ああ、クッソ! やってやるよ! ぶっつけ本番だけどな!」

 それは俺が編み出した我流剣術。

 魔術を剣に乗せて断ち切る大技。

 魔術使えぬは人の恥。剣に頼るは愚民の思考。他を脅かすは狂った愚者。

 


「呼応しやがれ!『紅蓮の聖霊よ、炎のように熱き高ぶる魂に乗せ、この思いに応えん!』——《亡者を焼く炎剣バーニングソウルリーバー》!!」


 剣が紅の炎を灯し、回転をかけながらブラッドグリズラーの腹に横薙ぎの一閃を放つ。紅蓮の剣が触れた箇所からは炎が噴き出し、燃えている。

「ギィィィイィィィィイィイイエェエエェエェェェェェエエエアアァァアア!!!!」

 ブラッドグリズリーは醜く哭きながら、灰燼と化した。

 灰の中には赤く光る紅玉が落ちていた。


 いわゆるドロップアイテムというものだ。こういうのは金になる。

 まあ、絶賛サバイバル中の俺にとってはクソの役にも立たないものだが。

 上々だ。こういうのをためて街に行けばそれなりの金になるだろう。


 そんなことを考えながら、野営地に戻ろうとしたその時。


「グオォォォォォォォォォォォォォォォ!!!!!!」

 けたたましいその声は魔物のような、低く自分を見失ったような哭き声などではなく、強く信を持ったような堂々とした声。


 それは、その強大な翼をひとたび羽ばたかせれば嵐が巻き起こり、口を開けばすべてを焼き尽くす無尽蔵の炎を。地面に足をつけようものなら、大地が大きく揺れ地震が起こる。


 圧倒的な暴力の申し子、森羅万象すべてを圧倒する存在。

 それが―――ドラゴン。


 ブラッドグリズリーなんて比べ物にならないぐらいの強大な存在。もはや立ち向かうことすら憚られるような存在。


 俺は笑ってやった。まあでもその顔はずいぶん引きつっていただろうが、それでも笑ってやった。


 (不運にもほどがあるんじゃねえの?)


 俺は地面を蹴った―――

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