優しさとほんの少しの下心
6月も近づいて、最近雨が多くなってきました。
湿気で髪がぼわぼわになる…と琴ちゃんが嘆く季節です。
琴ちゃんは癖毛さんなんです。
その日は、雨の予報で、午後から強めに降っていました。
部活が終わって、昇降口へ向かうと、琴ちゃんが立ち尽くしていました。
「あれ、琴ちゃん。どうしたの?」
「あ、じろちゃん。お疲れ様!帰ろうと思ったら傘…誰か持って行っちゃったみたいで…」
許すまじ。
誰だよ、琴ちゃんの傘を持って行ったのは…。
「それは困ったね。よかったら僕の傘に入っていく?」
「え、いいの?でも…この雨だと濡れちゃうと思うし…。ひこちゃんにお迎え頼もうかな」
「…大丈夫、僕丈夫だし!」
「でも…」
せっかくの相合傘チャンスです。
あ…僕はいいけど、琴ちゃんが雨に濡れちゃうかな…。
「んじゃお願いしようかな!いい?」
「もちろん!」
「あれ、黒木と尾浜さん。ついに付き合ったの?」
「あ、左吉くん!違うよ、傘誰かが持って行っちゃったから、じろちゃんが入れてくれるの」
「ふーん、よかったな、黒木」
左吉は同じクラスで、廊下側に座っているのでよく窓際の僕が琴ちゃんに手を振ってたり、
何か声をかけると伝えてくれる、いい奴です。
「う、うん」
「気をつけてね、尾浜さん。優しいだけじゃないよ、そいつ」
「え?」
「う、うるさいな」
たまに僕の煩悩との戦いを吐露しているので、たまにこういう意地悪も言ってきます…。
こうして、なんだかんだ人生で初めて、琴ちゃんと相合傘をすることが出来ました。
…が、途中更に雨足が強くなり、少し雨宿りをすることに。
途中の公園の東屋で、弱まるのを待つことになったんですが……。
隣を見ると、横風を受けて制服まで濡れてしまった琴ちゃんの…その…
インナー…というか…その…下着まで透けてしまっていて…。
どうしよう…。
「ごめんね、私のせいでじろちゃんすっかり濡れちゃったね」
いや、それどころじゃないんですけど…。
「こ、ことちゃん、あの、これで拭いて!あとこれ!これ着て!!」
僕は急いで鞄からタオルとジャージの上着を出して渡しました。
後から考えたら、もう少し落ち着いて渡せばかっこよかったのに…。
突然の出来事とはいえ、好きな子の透けた制服は、僕には刺激が強すぎました。
「ええ?じろちゃんが使ったらいいのに」
「いいから!お願い!」
「そう?ありがと」
にこにことして、僕からタオルとジャージを受け取りました。
正直、髪が濡れているだけで琴ちゃんはいつもと全然雰囲気が違って、僕の心臓はバクバクしています。
心臓に悪すぎます…。
「へへ、じろちゃんのジャージ、おっきいね」
言っていることが可愛くて死にそうです。
「じろちゃんの髪も拭いたげる」
今日、僕は死ぬかもしれないです。
「琴ちゃん…好きだよ」
思わず口をついて出たのは、いつも伝えている言葉。
「ふふ、ありがと」
いつもは少し困った顔で言われるその台詞は、
今日はなんだか全然違って見えて、
思わず照れているように見えました。
「こ、琴ちゃん、ごめん、僕もうだめかも…」
「え?」
「傘、使って!!」
あまりにも可愛すぎる琴ちゃんと、それ以上一緒に居られる気がしなくて。
気づいたら僕は雨の中駆け出していました。
一生の不覚です。
女の子を一人置いてけぼりにしてしまうなんて…。
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「ただ…いま」
「わ!!どうしたの宗二郎!?そんなに濡れて…傘持ってたでしょう!?」
ずぶ濡れで帰った僕を見て、いつもは穏やかな母が驚いていました。
「早く拭かないと!ちょっとおじいちゃん、タオル取ってちょうだい!!」
その日は、急いでお風呂に入って温まったものの、すっかり冷え切っていたので
僕は夜、熱を出してしまいました。
高熱にうなされながら見た夢は、何故か左吉が琴ちゃんと相合傘をしていて
物凄く腹立たしかったです。




