僕なりの本気の伝え方
僕と琴ちゃんは、もうすぐ中3になります。
…とその前に。ちょっと僕としては一大イベントがあります。
バレンタインです。
今までは、琴ちゃんから、大体他の子たちと同じものをもらってきました。
僕だけちょっと量が多めかな、とか、ちょっとリボンが違うかな、とか。
でも…少し前に琴ちゃんが誠兄ちゃんと仲直りして元気になってから、
もう…琴ちゃんがさらに可愛く見えて仕方ないという5か月ほどを過ごしてきました。
日本では女の子がチョコレートを渡す日みたいな印象がありますが、僕はこのイベントこそ、琴ちゃんに意識してもらうチャンスだと準備を重ねてきました。
当日−−−
「琴ちゃん!」
「おはよ、じろちゃん」
「おはよ!あの、今日さ」
「…じろちゃん、後ろで女の子が待ってるみたいだけど」
「え?」
振り返ると教室の入口に、下級生の子が立っている。
「あの…黒木先輩、少しいいですか?」
「あ…うん」
ちらっと琴ちゃんを見ると、わくわくした顔をしている…。
まずい、これは勘違いされるやつだ…。
「琴ちゃん、すぐ戻るから。今日、帰り一緒に帰ろ?」
「え?ゆっくりでいいのに。帰りね、はいはーい」
にこにこと手を振る琴ちゃん。
…それすら可愛いと思っている僕です…。
でも、勘違いしてほしくない…。
僕が好きなのは琴ちゃんなのに…。
「あの、黒木先輩に渡したくて作りました!よかったら!!」
目の前に差し出される丁寧にラッピングされたチョコレート。
「…ごめんね、僕好きな人がいて…気持ちは受け取れないけどそれでもいいかな?」
「…!はい。大丈夫です」
「ありがとう。大事に食べるね」
受け取ると、嬉しそうに走っていってしまった。
はあ…、これでよかったのかな。
持って帰ったら、琴ちゃん絶対勘違いするよ…。
教室にとぼとぼ戻る。
「お、黒木朝からもらったの?やるー!」
「僕のために作ってくれたって渡されたら無下に出来ないだろ…」
友達の暖仁が声をかけてきました。
冷やかさないでほしいんだけどな…。
「え、黒木もうもらったの?早!」
「今年はいくつもらうんだろな」
盛り上がり出すクラスメイト達。
琴ちゃんを見ると、友達と笑って話している。
はぁ…、僕ほんとに意識されてないんだなぁ…。
その後も、なんだかんだ1日かけて色んな人からチョコを受け取ってしまいました…。
放課後−−−
「…琴ちゃん!!」
「じろちゃん、帰ろー」
「うん!」
「…じろちゃん、これ使う?」
琴ちゃんが手渡してくれたのは大きめの紙袋。
「あ…ありがとう」
僕の机には、本当はもらう予定のなかったチョコがたくさんになっていました…。
受け取って、紙袋に入れてかばんを持ちます。
「こんなことだろうと思った笑 毎年モテモテだね!」
「…あんまり、嬉しくない」
「えー?なんで?」
「…好きな子からはまだもらってないもん」
「え、そんなにもらったのに好きな子からまだなの!?」
「うん…くれるか…わかんないけど」
「そっかぁ、くれるといいね、じろちゃん」
…君なんだけど。
1番欲しくて欲しくて仕方ないのは。
「琴ちゃん、ちょっとだけうちに寄っていかない?」
「え、いいの?おじいちゃんに会いたいなって思ってたんだ!」
琴ちゃんはうちのおじいちゃんのことが大好きです。
優しくて、時々ちょっと怖いけど、楽しいおじいちゃんなんです…!
「ふふ、楽しみー」
楽しみにしてる理由がおじいちゃんなのがちょっと悔しいですが、にこにこしていて可愛いです。
黒木家−−−
「ただいまー」「こんにちはー!」
「おかえり、宗二郎。おや、琴ちゃんも一緒かい」
「おじいちゃん、こんにちは!」
「こんにちは、ゆっくりしていきなさい」
「はーい!」
僕の家は二階建てです。
階段を上がって、部屋に入ります。
「久しぶりに来た、じろちゃんのお部屋」
「そうだっけ?」
「そうだよー。なんか中学生になってから、あんまりお家で遊ぶことなくなっちゃったもん」
…確かに。まあ、そこは仕方ないというか…。
「今日、琴ちゃんに渡したいものがあってね!よかったらいつものと一緒にどうかな?」
「嬉しい!なんだろう…?」
いつもの、とは。
まず、琴ちゃんのためにお茶を点てます。
温めたミルクとあわせて、少しだけ砂糖を混ぜて…。
特製の抹茶ミルクです。
琴ちゃんは苦いのが苦手なので、昔からこれが琴ちゃんへのおもてなしになっています。
ほんとははちみつをいれてもまろやかになって美味しいんだけど、琴ちゃんははちみつが苦手なので、お砂糖です。
「はい、どうぞ」
「えへへ、ありがとう」
にこにこと抹茶ミルクを飲む琴ちゃんをみているだけで、僕は幸せ…あ、今日はそれだけではありません!
「はい、琴ちゃん」
「…なあに?これ」
「僕の琴ちゃんへの気持ち」
「気持ち…?」
「…僕、小さい頃から琴ちゃんが好きです。大好きなんだ」
まっすぐ、目を見て伝えました。
大きな琴ちゃんの瞳が、ぐっとさらに大きくなって…。
驚いているようです。
「もう、10年以上好きなんだ。ずっと、ずっと思ってたんだけど…どうしても、伝えたくて」
「じろちゃん、あの…ずっと…?」
「うん。琴ちゃんが浅緋兄ちゃんを好きだったくらいにはずっと」
「………!!」
ますます驚いたようです。
君が浅緋兄ちゃんを好きなら、伝えないままでいようと思ってた。
でも、君の初恋の人には、大事な人がいるみたいだから。
だから、どうしても伝えたくて…。
「琴ちゃんのことを想って、僕が作ったんだ」
琴ちゃんに渡したのは、僕が作ったチョコレート。
「…あ、開けてもいい?」
「もちろん!」
少しよれてしまったけど、ラッピングも自分でやった。
リボンをほどいて、箱を開けた琴ちゃん。
「すごい…」
いつも琴ちゃんが僕にくれるたくさんの幸せを、僕も返したくて。
色んな形のトリュフを作った。
「食べてもいい?」
「どうぞ、美味しいといいな…」
小さい口でチョコを食べる。
「美味しい…!すごーい!じろちゃん!すごいよ!!」
びっくりと、喜びがすぐに分かる。
この顔が見たくて、一生懸命練習したんだ…よかった。
「よかった!!」
「ふふ、先にもらっちゃったから出しづらくなっちゃったなぁ…」
そう言うと、琴ちゃんはかばんから何か取り出しました。
「じろちゃんには負けちゃうけど、琴音も作りました。…その、じろちゃんとおんなじ気持ちかどうか、まだわかんなくて…だから、その…お返事は待っててくれる?」
「…わかった。考えてくれるだけでも嬉しい。でも…」
「なあに?」
「僕、もっと琴ちゃんのことが好きだってわかってもらえるように、毎日好きだって伝えるね!」
「え!?毎日!?」
「うん!!毎日!!」
ちょっと困った顔で、笑ってくれた琴ちゃん。
その日、僕たちは幼馴染だけど、今までとは少しだけ違う幼馴染になりました。
片想いの僕と、それを考える琴ちゃん。
それだけで、僕の10年以上の初恋は動き出したのです。




