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木犀の音  作者: 佐依知(さいち)
4/10

僕なりの本気の伝え方


僕と琴ちゃんは、もうすぐ中3になります。

…とその前に。ちょっと僕としては一大イベントがあります。

バレンタインです。


今までは、琴ちゃんから、大体他の子たちと同じものをもらってきました。

僕だけちょっと量が多めかな、とか、ちょっとリボンが違うかな、とか。

でも…少し前に琴ちゃんが誠兄ちゃんと仲直りして元気になってから、

もう…琴ちゃんがさらに可愛く見えて仕方ないという5か月ほどを過ごしてきました。


日本では女の子がチョコレートを渡す日みたいな印象がありますが、僕はこのイベントこそ、琴ちゃんに意識してもらうチャンスだと準備を重ねてきました。


当日−−−


「琴ちゃん!」

「おはよ、じろちゃん」

「おはよ!あの、今日さ」

「…じろちゃん、後ろで女の子が待ってるみたいだけど」

「え?」


振り返ると教室の入口に、下級生の子が立っている。


「あの…黒木先輩、少しいいですか?」

「あ…うん」


ちらっと琴ちゃんを見ると、わくわくした顔をしている…。

まずい、これは勘違いされるやつだ…。


「琴ちゃん、すぐ戻るから。今日、帰り一緒に帰ろ?」

「え?ゆっくりでいいのに。帰りね、はいはーい」


にこにこと手を振る琴ちゃん。

…それすら可愛いと思っている僕です…。

でも、勘違いしてほしくない…。

僕が好きなのは琴ちゃんなのに…。


「あの、黒木先輩に渡したくて作りました!よかったら!!」

目の前に差し出される丁寧にラッピングされたチョコレート。


「…ごめんね、僕好きな人がいて…気持ちは受け取れないけどそれでもいいかな?」

「…!はい。大丈夫です」

「ありがとう。大事に食べるね」


受け取ると、嬉しそうに走っていってしまった。

はあ…、これでよかったのかな。

持って帰ったら、琴ちゃん絶対勘違いするよ…。


教室にとぼとぼ戻る。


「お、黒木朝からもらったの?やるー!」

「僕のために作ってくれたって渡されたら無下に出来ないだろ…」

友達の暖仁(はると)が声をかけてきました。

冷やかさないでほしいんだけどな…。


「え、黒木もうもらったの?早!」

「今年はいくつもらうんだろな」


盛り上がり出すクラスメイト達。

琴ちゃんを見ると、友達と笑って話している。

はぁ…、僕ほんとに意識されてないんだなぁ…。


その後も、なんだかんだ1日かけて色んな人からチョコを受け取ってしまいました…。


放課後−−−


「…琴ちゃん!!」

「じろちゃん、帰ろー」

「うん!」

「…じろちゃん、これ使う?」


琴ちゃんが手渡してくれたのは大きめの紙袋。

「あ…ありがとう」

僕の机には、本当はもらう予定のなかったチョコがたくさんになっていました…。

受け取って、紙袋に入れてかばんを持ちます。


「こんなことだろうと思った笑 毎年モテモテだね!」

「…あんまり、嬉しくない」

「えー?なんで?」

「…好きな子からはまだもらってないもん」

「え、そんなにもらったのに好きな子からまだなの!?」

「うん…くれるか…わかんないけど」

「そっかぁ、くれるといいね、じろちゃん」


…君なんだけど。

1番欲しくて欲しくて仕方ないのは。



「琴ちゃん、ちょっとだけうちに寄っていかない?」

「え、いいの?おじいちゃんに会いたいなって思ってたんだ!」

琴ちゃんはうちのおじいちゃんのことが大好きです。

優しくて、時々ちょっと怖いけど、楽しいおじいちゃんなんです…!


「ふふ、楽しみー」


楽しみにしてる理由がおじいちゃんなのがちょっと悔しいですが、にこにこしていて可愛いです。





黒木家−−−


「ただいまー」「こんにちはー!」

「おかえり、宗二郎。おや、琴ちゃんも一緒かい」

「おじいちゃん、こんにちは!」

「こんにちは、ゆっくりしていきなさい」

「はーい!」


僕の家は二階建てです。

階段を上がって、部屋に入ります。


「久しぶりに来た、じろちゃんのお部屋」

「そうだっけ?」

「そうだよー。なんか中学生になってから、あんまりお家で遊ぶことなくなっちゃったもん」


…確かに。まあ、そこは仕方ないというか…。


「今日、琴ちゃんに渡したいものがあってね!よかったらいつものと一緒にどうかな?」

「嬉しい!なんだろう…?」


いつもの、とは。

まず、琴ちゃんのためにお茶を点てます。

温めたミルクとあわせて、少しだけ砂糖を混ぜて…。

特製の抹茶ミルクです。

琴ちゃんは苦いのが苦手なので、昔からこれが琴ちゃんへのおもてなしになっています。

ほんとははちみつをいれてもまろやかになって美味しいんだけど、琴ちゃんははちみつが苦手なので、お砂糖です。


「はい、どうぞ」

「えへへ、ありがとう」


にこにこと抹茶ミルクを飲む琴ちゃんをみているだけで、僕は幸せ…あ、今日はそれだけではありません!


「はい、琴ちゃん」

「…なあに?これ」

「僕の琴ちゃんへの気持ち」

「気持ち…?」


「…僕、小さい頃から琴ちゃんが好きです。大好きなんだ」


まっすぐ、目を見て伝えました。

大きな琴ちゃんの瞳が、ぐっとさらに大きくなって…。

驚いているようです。


「もう、10年以上好きなんだ。ずっと、ずっと思ってたんだけど…どうしても、伝えたくて」

「じろちゃん、あの…ずっと…?」

「うん。琴ちゃんが浅緋(あさひ)兄ちゃんを好きだったくらいにはずっと」

「………!!」



ますます驚いたようです。

君が浅緋兄ちゃんを好きなら、伝えないままでいようと思ってた。

でも、君の初恋の人には、大事な人がいるみたいだから。

だから、どうしても伝えたくて…。


「琴ちゃんのことを想って、僕が作ったんだ」


琴ちゃんに渡したのは、僕が作ったチョコレート。



「…あ、開けてもいい?」

「もちろん!」



少しよれてしまったけど、ラッピングも自分でやった。

リボンをほどいて、箱を開けた琴ちゃん。


「すごい…」


いつも琴ちゃんが僕にくれるたくさんの幸せを、僕も返したくて。

色んな形のトリュフを作った。


「食べてもいい?」

「どうぞ、美味しいといいな…」


小さい口でチョコを食べる。


「美味しい…!すごーい!じろちゃん!すごいよ!!」


びっくりと、喜びがすぐに分かる。

この顔が見たくて、一生懸命練習したんだ…よかった。


「よかった!!」


「ふふ、先にもらっちゃったから出しづらくなっちゃったなぁ…」


そう言うと、琴ちゃんはかばんから何か取り出しました。


「じろちゃんには負けちゃうけど、琴音も作りました。…その、じろちゃんとおんなじ気持ちかどうか、まだわかんなくて…だから、その…お返事は待っててくれる?」


「…わかった。考えてくれるだけでも嬉しい。でも…」


「なあに?」


「僕、もっと琴ちゃんのことが好きだってわかってもらえるように、毎日好きだって伝えるね!」


「え!?毎日!?」


「うん!!毎日!!」


ちょっと困った顔で、笑ってくれた琴ちゃん。

その日、僕たちは幼馴染だけど、今までとは少しだけ違う幼馴染になりました。

片想いの僕と、それを考える琴ちゃん。

それだけで、僕の10年以上の初恋は動き出したのです。





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